第69話 歌姫の正体!!
私とメレは、アトランティス港を歩いていた。今の格好は、一応、白いワイシャツと青いジーンズだ。首にはループタイをしている。何度も着替えている内に、この世界の中でだけだけど、早着替えが出来る様になった。嬉しいけど、どんだけ着替えているんだって話だよ。
「何で、服装を変えたんですか?」
「えっと……前に、ここで問題を起こした事があって、あの服だと目立つかなって」
解決はしているけど、正直、まだ警戒を解けない。私のあの格好は、この街の中でかなり有名になったので、絡まれる可能性もなきにしもあらずなんだ。
「ルナさんって、意外とやんちゃなんですか?」
「そんな事ないと思うけど……」
ここでやらかした事を思えば、やんちゃと言えなくもないけど、自分自身ではそこまででもないと考えている。街の人達に迷惑は掛けて……いや、八百屋みたいな人に迷惑掛けてた。取りあえず、話を変えよう。
「それよりも、念願の海の見える街だよ」
「ゲームの中でも、潮の香りがするんですね。海に近い場所はありますか?」
「じゃあ、港の方に行こうか」
メレを連れて、港に向かう。段々と見えてくる壮大な海の景色に、メレの眼が段々と輝いていった。
「わぁぁぁ……」
「すごい?」
「はい! 本当に海なんですね!?」
「そりゃあね。一応、砂浜もあるけど、街の外なんだ。行く?」
「お願いします!」
メレは、私の手を掴んでそう言った。その眼は、さっきよりもキラキラと輝いていた。余程、海に飢えているのだろうか。もしかしたら、海のない地域に住んでいるのかもしれない。
メレを連れて、ソル達と海水浴をした砂浜に来た。相変わらず、平和な砂浜だけど、その近くには蟹の洞窟がある。一応、警戒は続けないと。
「はわぁぁぁ……」
メレは、靴を脱いで海に足を浸けた。ガラスは紛れていないと思うけど、心配になったので、サンダルを貸してあげた。私もサンダルに履き替える。メレは、海に足を浸けて、子供のようにはしゃいでいる。
「どう? 満足した?」
「はい! すごく気持ちいいです! 連れてきていただいてありがとうございます!」
メレは、満面の笑顔でそう言った。
「良かった。連れてきたかいがあったよ」
それから、しばらくの間、メレと一緒に海を楽しんでいた。今は、砂浜に布を敷いて、その上に並んで座っている。
「それで、なんで、あの人達に追い掛けられていたの?」
気になっていた事を訊いてみた。
「えっと……私、リアルではアイドルをしているんです」
いきなり、リアルをぶちまけてきた。私は、慌ててメレを止める。
「ちょ、ちょっと待って! リアルの事を、そんな簡単に話して良いの!?」
「はい。ルナさんは、信用出来ますから」
メレは、にこやかに微笑んでそう言った。
(どこから、その信頼がやって来たの!?)
そんな心の声が、口から漏れそうになった。
「それに、色々と迷惑をお掛けしているので……」
「別に、そんな事ないから、気にしなくて良いよ?」
「いえ、お話しすると決めたので!」
メレの決心は、一切揺らがなかった。
「それで、さっきの人達は、マネージャーが用意した親衛隊の方々で、事務所の人達なんです」
「そんな人達を撒いてきちゃったら、後で気まずくない?」
「多分、マネージャーが伝え忘れただけだと思いますので、大丈夫です。私は、きちんと予定を伝えましたから」
「良かった。でも、アイドルなのに、よくゲームする時間があったね?」
私のアイドルのイメージだと、そんなに暇がなさそうな感じがしている。まぁ、そもそもアイドルに興味ないから、よく知らないんだけど……
「そうですね。先月までは、そんな時間がなかったのですが、今は休止中なので、多少の時間があるんです」
「休止中?」
何か、ずっと前のニュースで、そんな話題があったようななかったような気がする。ものすごくうろ覚えだけど。
「もしかして、あまりアイドルに興味ないですか?」
メレの言葉に、ギクッと肩を揺らす。ここで誤魔化すことも出来たけど、正直に言う事にした。
「あっ、うん。ずっとゲーム三昧だったから……」
「そこそこ有名だと思ってたんですけど……」
若干気まずい空気が流れ出す。
「まぁ、興味のない分野じゃ、仕方ないですよね。私も、あまりゲームは詳しくないですし」
「そうだよね。ごめんね。戻ったら、調べて見る」
「いえ、お気になさらず」
「でも、アイドルだから歌のスキルを手に入れたんだね」
「そういうのも関係あるんでしょうか? でも、私の自慢の一つがスキルになったのは、嬉しかったです」
メレの職業がアイドルだったと聞いて、あの歌の上手さに納得がいった。アイドルの中でも歌の上手い部類なんだね。
「歌のスキルって、ユニーク?」
「ゆにーく……?」
本当にゲームに疎いみたい。専門用語って訳でも無いと思うけど、ゲームをしているから、当たり前のように知っていると思っちゃった。
「えっと、メレ専用かどうかって感じかな。スキルのメニューから見れるよ」
「そうなんですね。少し待って下さい」
メレは、おぼつかない手つきでメニューを操作して、スキル欄を確認した。
「えっと……ユニーク? では、ないですね。あっ、でも、『歌姫』ってスキルはユニークみたいです」
「歌のスキルって、何個くらいあるの?」
何か言っている事がよく分からなくて質問してみた。
「えっと、今は二つですね。『歌姫』と『歌唱』のスキルです」
「じゃあ、歌唱が普通のスキルで、歌姫がユニークなんだ。面白いね。なら、私も歌唱のスキルを得ることは出来るんだ」
「取りますか!?」
メレがすごく食いついてきた。
「ううん。私のスキル構成に合わないから、取らないけど」
私がそう言ったら、メレは絶望したような顔になった。
「歌はいいものですよ!?」
「うん。それは分かるけど、ほら、メレを誘拐したように、隠れて倒すのが基本だから、歌を歌っているとバレちゃうんだよね」
「なるほど……そういう構成も重要なんですね」
「一緒の騎士さん達は教えてくれなかったの?」
「はい。戦闘は自分達に任せて欲しいと言われたので……」
過保護すぎるでしょ。少し呆れてしまう。
「歌には、攻撃系のものはないの?」
「ないです」
改めて訊いてもないと言われてしまった。でも、何かしらの攻撃手段はあると思うんだけど。
「試しに、思いっきり叫んでみてくれる?」
「え? は、はい。分かりました」
メレは、スーッと息を吸う。そして、
『わあーーーーーっ!!!!』
思いっきり叫んだ。その声は、周りに撒き散らされた。普通なら、それで終わるのだけど、気が付いたら、私の頬に切り傷が付いていた。それに、砂浜にも浅い溝が出来ている。
「はぁ……はぁ……どうですか……!?」
メレは、私の顔を見て驚いた。叫んだ後に私を見たら、頬に傷が出来ているンだから、驚くのも無理は無いよね。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫だよ。でも、これで、攻撃方法が出来たね。無差別だけど……」
「攻撃が出来た……」
メレは、段々と口角が上がっていき、自分が攻撃を出来た事を自覚すると、眩いばかりの笑顔になった。
「どうにかして、指向性を持たせるとか、何かしないとパーティー戦でも使えないね。メガホンでも持つ?」
「め、メガホンですか?」
「うん。指向性を持たせるなら、それが一番だと思うよ。下手にマイクを持ってたら、効果範囲が広がって、もっと無差別になるかもだし」
「な、なるほど」
メレは、私が言ったことを一生懸命聞いていた。今後に活かそうと考えているのかな。そんな話をしていると、メレがメニュー画面を開いて、少し気まずそうな顔をした。
「あっ、すみません。もうそろそろ落ちないといけないので……」
「そう? 分かった。じゃあ、今日はここまでにしておこうか。ユートリアへの戻り方は分かるよね?」
「はい。大丈夫です」
「じゃあ、また今度ね」
「はい。今日はありがとうございました」
メレは一礼してから、街の方に向かっていった。
「意外と面白い子だったなぁ。私も、ログアウトしようかな」
私は、アトランティス港から王都に戻ってログアウトをした。
────────────────────────
ログアウトした私は、夜ご飯を食べつつ、テレビを見ていた。
「そういえば、メレはアイドルなんだよね。誰なんだろう?」
マナー違反かなと思いつつ、先月に活動を休止したアイドルを調べてみる。
「えっと……
得に、アイドルに興味がないからか、超人気アイドルと一緒にゲームをしたという事実を知っても、あまり何とも思わなかった。メレはメレだし、普通に友達として接するのが一番だもんね。そう考えつつ、眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます