第68話 歌姫の技!!
歌姫は、私の顔を確認すると、何かを喋り出そうとして、大きく咳き込んだ。
「げほっ! ごほっ!」
「えっと、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です!」
歌姫は、涙目になってたけど、そう言った。
「ところで、何か用ですか?」
私の腕を歌姫が掴んで放さないので、動くことも出来ない。いや、実際には、思いっきり振り払えば、逃げ出す事くらいは出来るけど、そもそも、そんな事をする意味がない。
「えっと……あの……」
歌姫は、口ごもっている。打ち上げをしたいから、早くして欲しいんだけどなぁ。私がそう思っていると、歌姫は、私の眼をじっと見た。
「私と! 付き合って下さい!!」
「…………は?」
頭が真っ白になった。隣にいるソルは、口をパクパクと動かしている。その隣のシエルは、眼を剥いて驚いていた。
「あっ! 間違えた……友達になって下さい!!」
その二つは、普通間違えない……そう思ったけど、取りあえず、それは流すことにした。
「良いですけど、どうしてですか? 私は、あなたを倒したんですよ?」
私だったら、今日の今日で、自分を倒した相手にフレンドになってくれとは言わない。普通に気まずい感じがするからだ。
「その……綺麗だなぁって思って……」
「はぁ……?」
よく分からない理由だった。まぁ、フレンド登録しても不利益はないだろうし大丈夫かな。
「取りあえず、登録しちゃいましょうか」
「は、はい。お願いします。それと、敬語はいりません。さっきみたいに、ため口でいいですよ」
「じゃあ、私にもため口で良いよ。えっと……メレ」
歌姫の名前は、メレというらしい。
「いえ、私は、これが普通なので、このままで」
「そう? 後、こっちがソルで、こっちがシエル」
隣にいる二人も紹介する。
「ソルだよ」
「シエルだよ」
二人も簡単な挨拶をする。
「よろしくお願いします! それで、あの……」
「?」
まだ、何かあるみたい。何だろう……
「今度! 私と一緒に冒険してくれませんか!?」
「え? いいけど。いつ行く?」
「え、えっと……じゃあ、明日はどうでしょうか?」
「私は大丈夫だよ」
「ごめん、私は、予定あるから無理だ」
「私も」
シエルとソルは無理みたい。というか、私が暇人過ぎるだけな気がしてきた。
「じゃあ、明日は二人だね。何時くらいにする?」
「じゃあ、お昼頃で……」
「うん、いいよ」
「では、失礼します」
メレは、そう言うと、一礼してから手を振って去って行った。腕を掴まれた時は嫌な予感がしたけど、杞憂に終わって良かった。始めたばかりぐらいに、何度もトラブったのが尾を引いていたみたい。そう何度もトラブルに巻き込まれてたまるかって話だよね。
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「それにしても、よくルナちゃんがトラウマにならなかったよね」
ヘルメスの館に向かっている途中で、ソルがそう言い出した。誰がどう考えてもメレの事だろう。
「私がどういう戦い方したか、分かってないでしょ?」
「分かるよ。取りあえず、ナイフでの脅しをして、聞きたかったこと訊いたら喉を斬ったんでしょ?」
ソルは、その場で見てきたかのようにそう言った。
「…………」
「ほら、黙ってるって事は合ってるんだ」
私は、スッと視線を逸らした。その先には、ニヤニヤとしたシエルの顔があった。ムカッときたので、シエルの頬を摘まんでやる。
「なにふんの~!?」
「何かニヤニヤしてたから」
「理不尽!」
そんな風に少し巫山戯ながら、ヘルメスの館に向かって、皆で打ち上げをした。アーニャさんもアイナちゃんも自分の事のように喜んでくれた。今回も、空に映し出されていたみたいだ。
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そして、翌日になり、メレと冒険をするためにユートリアの噴水広場にいた。いつも通り、ベンチの上に座る。
「そういえば、メレのパーティーメンバーはどうするんだろ? 聞いておけばよかった」
確か、パーティーの上限人数は六人だから、昨日のイベントで組んでいたパーティーメンバーもいるなら、誰かしら抜けないといけないんじゃなかったっけ?
そんな風に考えていると、噴水広場にメレが走ってきた。別に、約束の時間まで時間があるんだから、急がなくても大丈夫なのに。
「おはよ……う?」
メレは、走ってきた勢いで私の後ろに回ってきた。何かから隠れるように。
「どうしたの?」
「ちょっと、追い掛けられていまして……」
メレがそう言った直後、メレが走ってきた方から、昨日の全身鎧が走ってきた。
「メレさん! 勝手をされたら困ります!」
「勝手じゃないです! 昨日、きちんと許可を取りました!」
「我々は、聞いていません!」
「ログアウトして聞いてくれば良いじゃないですか!」
「そうなったら、ここからいなくなるでしょう!」
「当たりまえです!」
私を挟んですごい揉めている。昨日の嫌な予感はこっちだったか……
(結局、私は、トラブルに巻き込まれる運命って事!?)
私が内心絶叫している間にも、状況は変わっていく。
「私は、この方と冒険に行くんです! あなた達は、必要ありません!」
「我々は、あなたを守るためにここにいるのです! どこの馬の骨かも分からない人に任せられるわけないでしょう!」
私、昨日のイベントであなた達からメレを誘拐したんだけどな……認識阻害と夜隠れのおかげ(?)で私だってバレてないみたい。ああいうときには便利だけど、こういうときには、少しだけ困るよね。
「私は、あなた達に護衛を頼んだ覚えはありません!」
「マネージャーから言われているんです!」
メレは、全身鎧を睨んでいる。そのマネージャーっていう人の決まりに逆らうのが難しいのかな。てか、これリアルの話なら、私が聞いていいものじゃないんじゃない?
(多分、この話ってずっと平行線を辿っていくよね……)
段々と面倒くさくなってきた。
「ねぇ、この人達から逃げても大丈夫なの?」
「な!? 何を言っている!?」
「大丈夫!!」
「じゃあ」
私は、片手にハープーンガンを持って、もう片手でメレを抱えた。そして、家の外壁にハープーンを飛ばして、身体を引っ張る。私とメレの身体が、家の方に引っ張られていった。
「舌噛むよ?」
「ひゃああああああああ!!!」
ものすごい驚くメレにそう言いながら、家の屋根に着地して駆け出す。
「はぁ……最近、誘拐しかしてないなぁ」
「す、すみません……」
「後で、話せる分だけで良いから、事情を教えてよ?」
「は、はい」
取りあえず、街の外に出て、普通に冒険すれば良いよね。デタラメな移動方法だから、向こうの騎士達は特定できないだろうし。
「どこに行きたい?」
「えっと、海の見える街まで行きたいです。まだ、そこまで行けていないので……」
「アトランティス港に行けてないんだ? じゃあ、そこのボスからだね……ジャイアント・トードかぁ」
「強いんですか?」
「キモい」
私の一言で何かを察したのか、メレは少し嫌な顔をした。でも、アトランティス港に行くには、避けていけないから、我慢して貰うしか無い。
「追いつかれない内に、外に出るよ」
「は、はい! ~~~♪」
外に出ると、突然、メレが歌を歌い出した。あまり気にせずに走っていると、ある事に気が付いた。
「モンスターが襲ってこない?」
ちらっとメレを見ると、歌いながら頷いていた。どうやら、メレの歌の効果みたい。普段襲ってくるモンスターが、大人しくしているので、そのまま無視して一直線に走っていった。
そして、湿地帯に入ったところで、メレを地面に降ろした。
「ここからは、歩きで行くよ。地面が泥濘んでるから気を付けて」
メレは、歌いながら頷く。一応、メレが転ばないように手を繋いでおこうかな。そう思って、手を差し伸べると少し戸惑いながらも手を取ってくれた。メレの歌のおかげで、モンスターに襲われず、ボスの場所まで来れた。
「すごいね。メレのおかげで楽にここまで来れたよ」
「えへへへ、歌だけしか自慢出来るものがありませんから。今使っていたのは、『沈静の歌』です」
名前の通り、モンスター達の状態を沈静化させる歌みたい。凄く強力な技だ。ただ、戦闘経験は積めないけどね。
「へぇ~、これからボスと戦うけど、普通の攻撃バフとか出来る?」
「はい。『増強の歌』を歌いますね」
メレは、さっきと違い、少し激しめの歌を歌い始める。その歌を聞くと、身体の力が湧き上がるような感覚が訪れる。
「じゃあ、そこにいてね」
私は、ジャイアント・トードの前に立ち、黒闇天のマガジンを入れ替える。こちらに気が付いたジャイアント・トードが、飛びかかろうと後ろ足に力を溜める。
私は、ジャイアント・トードが飛びかかる前に引き金を引く。この前は、粘液によって止められたけど、今回はそれだけじゃない。粘液によって止められた銃弾が爆発を起こした。それは、いつも使うエクスプローラー弾と威力が桁違いだった。
ジャイアント・トードは黒焦げになって息絶えていた。
「おぉ……予想外の威力……」
私が放ったのは、魔法弾の一つ爆破弾。撃ち出されてから当たった場所で爆発を引き起こすものだ。一度だけ試しに撃ったときは、今みたいな事にならなかった。爆発の威力が、一・五倍になっている感じだ。これが、メレの歌の効力ってことかな。
「すごい……」
メレは、爆発に驚いたのか歌を歌うのをやめて、そう呟いた。私は、メレの方を振り返ってニコッと微笑む。
「さぁ、これで、アトランティス港に行けるよ。海が見える街に行きたいんでしょ?」
「はい!」
私は、メレと一緒にアトランティス港に向かった。
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