第66話 響き渡る歌!!

 暗闇の中に隠れて待っていると、歌声が段々と近づいて来た。さらに、気配感知にも、その存在がそのおかげで、どこにいるのかがすぐに分かる。そもそも、なんで歌いながら歩いているんだろう?


「姿が見えてきたな」


 ジークが、そう囁く。歌のする方をじっと見てみると、全身鎧を着た人達がいた。


「……鎧着ながら、歌ってるの?」

「違う、違う。その奥」


 私が戸惑っていると、ソルが教えてくれた。私の角度だと鎧の人達しか見えなかったけど、その奥からフリルが沢山付いた服を着たアイドルみたいな女の子が現れた。


「……すごいピンク色」

「確かに……」


 そのアイドルみたいな女の子は、髪の毛も服装もピンク色だった。ピンクの髪の毛はツインテールにされている。どこをどう見てもアイドルだね。多分……


「あの騎士達、フルフェイスだけど、見えてんのかな?」

「視界は悪いらしい。だが、あいつらは、防御力のために着けているみたいだな」


 歌姫のパーティーは、六人。その内五人が全身鎧の騎士達だ。見ようによっては、アイドルの親衛隊に見えなくもない。アイドルを殿にして、騎士達が前面を守っている。


「背後がお留守だけど、いいのかな?」

「歌の効果で、不意打ち無効みたいなものがあるのかもしれないな。現に遠距離攻撃が無効化されるからな」

「じゃあ、誘拐しに行ってくるね」


 私、近くの木にササッと登る。そして、木の枝から枝へと移動していく。この時に潜伏と消音のスキルを併用することで、移動の気配と音を消す。さらに、夜烏と黒羽織の効果である夜隠れや認識阻害によって私の姿は完全に認識されなくなっている。


「さて……どうやって誘拐しようかな……」


 歌姫の近くまで来た。ここまで接近すると、歌っている歌も良く聞こえる。すごく綺麗な歌声で、少し聞き入ってしまいそうになる。戦意喪失を狙った歌……いや、この部分は、この子自身の才能かな。この歌は、ジークの言うとおり、遠距離からの不意打ちを防ぐものだと思う。


 なら、接近してみるしかない。


「普通にハープーンガンでの移動をしようかな」


 私の目の前を歌姫のパーティーが横切る。最後尾にいる歌姫が通過した瞬間、木から飛び降り、歌姫の腰に手を回す。


「きゃっ!?」


 可愛らしい悲鳴を上げる歌姫。それに、騎士達が気が付くが、時既に遅しだ。ハープーンガンを別の木に向かって放ち、その場から去って行く。後ろから、騎士達が叫んでいるが、そんなものは無視してどんどん移動していく。あいつらの相手は、ソル達がやってくれるはずだからだ。私の役目は、


「ちょっ! 放して下さい! セクハラで訴えますよ!」


 今も騒がしくしているこの歌姫の始末だ。さっきから、暴れているけど、シエルと同じくステータスが低いのか、全然抜けられそうにない。こういうところを見ると、あの歌は、完全にサポート専門みたいだ。攻撃が出来るなら、歌で攻撃をしてくるはず。少しだけ移動の速度を上げる。


「ひゃああああああああ!!」


 移動の速さで、歌姫が悲鳴を上げている。大分離れたので、少し大きめの枝の上に着地して、木の幹に歌姫の背中を押しつける。所謂、壁ドン状態だ。


「痛っ! 何するんですか!? ひっ!」


 すぐに黒影を抜き、首に押しつける。でも、いきなり刺すようなことはしない。少しでも、他のパーティーの情報が仕入れられれば、これからの戦いが有利になる可能性がある。


「静かにして」


 顔を近づけてそう言った。歌姫は、何回も頷く。そこまで、怖く言った覚えはないんだけど。やっぱ、黒影はやり過ぎたかな。でも、分かりやすい脅しにはなっているはず。


「ここら辺に、他のパーティーはいる?」

「い、いません……少なくとも、私達は見ていません……」

「どのくらいのパーティーを倒した?」

「い、一パーティーも倒してません……なるべく、消耗しないようにしていたので……」


 私達にとって有益な情報をと思って、質問してみているけど、あまり良い情報を引き出せなさそう。

 そうして話を聞いていると、歌姫は、涙目になっていた。まぁ、首に黒影を押しつけているから仕方ないか。


「何か敵の情報はないの?」

「ご、ごめんなさい! 私は、歌を歌うしか出来ないので……索敵も他の人に頼りっぱなしで……攻撃も出来ないですし……」


 これじゃあ、この子の情報だなぁ。本当に何も知らないみたいだ。それにしても、この子、今のパーティーいたら、成長出来ないんじゃないかな。いくら何でも過保護すぎる気がする。


「貴方は……」

「黙って。質問して良いのは、私だけ」


 何かを言おうとしていた歌姫を、黒影を握る力を増やして、黙らせる。


「本当に何も知らないんだね?」

「は、はい……」

「そう。じゃあ、ごめんね」


 歌姫の首に黒影を刺し、斬り裂く。首の半分を斬り裂かれたことで、歌姫の体力がなくなる。


 歌姫は、死ぬ直前に腕を動かして、私のフードを払ってきた。最後に、私の顔に攻撃をしようとしていたのかな。私の顔を見た歌姫は、何かに驚いたように、目を見開いた。

 その後、崩れ落ちた歌姫は跡形もなく消え去った。


「トラウマになってないといいけど……」


 少し悪い事をしたかなって思ったけど、ジークから遠距離攻撃が通用しないって聞いていたから、黒影か体術しか攻撃方法がなかったんだよね。


「ごめんね」


 一応、もう一度謝ってから、皆の元に戻った。


「ただいま」

「おかえり、ルナちゃん」


 私が、歌姫を誘拐してから、五分くらいしか経っていないのに、既に全滅させている。


「一応、尋問してみたんだけど、何も分からなかったよ。取りあえず、このパーティーは、他のパーティーに一切接触してないみたい」

「ここのフィールドは意外と広いのか。あるいは他のパーティー敬遠しているのかだな」

「やっぱり、自分達から接触していく方が良いかもしれないね」


 そんな事を話していると、また気配感知に反応があった。


「積極的に倒しに行くか」

「その結果、負けても仕方なしって事で」


 シエルの言った言葉に、皆が頷く。そして、私達は気配のする方へと向かった。しばらく進むと、剣戟の音が聞こえてくる。


「戦闘中だよ」

「正直、このまま乱闘でもいいが、どうする?」


 ジークが皆に確認を取る。


「エラの魔法で、一網打尽にすれば?」

「それなら、ジークの奥義を使えばいいんじゃない?」

「俺の奥義は、かなり目立つからな。敵パーティーが集まってくることになるぞ」

「むしろ、その方が手っ取り早いかもよ?」


 私は、エラの魔法を提案したが、そのエラから、ジークの奥義級の技の方がいいと提案が来た。あの光の柱なら、他のパーティーも気が付くはず。それを逆手にとって、敵を集める事が出来るみたいだ。


「その方が、良いかもね。乱戦になれば、敵の数も大分減ると思うよ」

「……そうだな。だが、考えている以上に集まってくる可能性もある。その時は、今までどおりの戦いでいけるとは限らない。臨機応変に行動をしろ」

「わかった。じゃあ、一旦下がろう」


 私達は、ジークの後ろに退く。


「聖剣技『天罰カエルム・ポエナ』!!」


 ジークが掲げた聖剣が光輝き、空に金色の魔法陣が描かれる。そして、魔法陣から光が降りていき、巨大な光の柱が現れた。


「相変わらず、すごい技だよね」

「これで、何もデメリットがないの?」

「いや、聖剣に纏わせる光の量が減る。この前は、ルナの技で、光が使えなくなったから、実質あまり変わらなかったがな」

「なるほど」


 この前使った時に、デメリットがあるように見えなかったのは、デメリット以上のものを私が与えていたからみたいだ。


 ジークの技で、乱闘をしていた敵パーティーが全滅した。でも、これで、多くの敵が集まってくるだろう。

 そして、このイベント、最大の戦闘が起ころうとしていた。

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