第65話 パーティー戦!!

 とうとうイベント当日になった。荒れ地での戦いで、大体の連携が分かった。ただ、これが本番で通用するかどうかが問題だけどね。

 私達は、ユートリアの噴水広場で、パーティーメンバー全員で集合して、イベントの開始を待っていた。


「どういうステージなんだろうね?」

「この前と同じ複合型かな? 平原だけとかだとつまらないし」

「後は、天候と時間帯だよね。もしかしたら、大雨とかあるかもよ?」

「ユートピア・ワールドをやってから、雨になったことがないな」

「そういえば、そうかも。これから天候の追加とかもあるのかな?」


 私達が、そんな事を話していると、目の前にウィンドウが出て来る。


『後十分で、イベントエリアに転移します。参加者は、準備をお願いします』


 そのメッセージが来てから十分間で、沢山の人達が集まってきた。そして、転移が始まる。


 ────────────────────────


 パーティー単位での転移だから、この前と違って周りにソル達がいる。転移された場所は森の中だ。周囲が暗い。それは、森の中というだけでなくて、空に太陽がない。つまり、今回のフィールドは、夜の時間帯になっているということだ。


『さて、イベントへの参加、感謝する』


 いつも通り、空に映し出された熊の着ぐるみ……近衛洸陽が喋り始めた。


『今回のイベントは、パーティー毎の戦いとなる。前回とは違った戦いになるだろう。楽しんでくれたまえ。

 今回も前回同様、君達以外のmobは存在しない。それと、勝利条件も前回同様最後の一組になるまで戦ってもらう。そして、これも前回同様にログアウトだけが禁止事項だ。では、始める』


 熊の着ぐるみが消えて、カウントダウンが始まる。


「どう行動する?」

「取りあえず、固まって行動するか。全員視界は保たれているよな?」

「全員、暗視持ってるから、ちゃんと見えているはずだよ」


 先頭から、ジーク、ソル、シエル(プティ、ガーディ)、エラ、私の順番で歩いている。この暗闇の中で、無闇に走るのは危険だ。暗視で見えているけど、昼間よりも視界が悪いのは変わりない。


「ルナの不審者感すごいよ?」


 少し前を歩いているエラにそんな事を言われてしまった。まぁ、フードを目深に被っている状態なら言われても仕方ないかもしれない。


「フードを被っていた方が、バレにくいんだ。私は、存在がバレていない方が強いからね」

「何かしらに突出した人はすごい強くなるよね。ジークも同じだし」

「ジークの場合、この暗闇でも目立つよね」


 私達の先頭を歩いているジークは、すごい金ぴかの鎧を着ているから、夜でも少し目立つ。


「!!」


 私達は、一斉に脚を止めて臨戦態勢に入った。全員が共通して持っている気配感知に引っかかるものがあったからだ。皆、私が取れた次の日ら辺に入手したみたい。


「先制攻撃を仕掛ける。臨機応変に行動するぞ」


 ジークの指示に皆で頷く。


「聖剣技『光刃ルークス・ラーミナ』!!」


 ジークの放った光の刃が木々の間を抜けて、こちらを見ていた敵パーティーの一人に命中し、片腕を斬り飛ばした。装備から見て、敵のアタッカーだと思う。そして、光の刃に照らされて、五人のメンバーが見える。


「銃技『精密射撃』」


 相手パーティーの回復役と思われる装備をしている人の頭を撃ち抜く。頭を撃ち抜かれた相手は、そのまま倒れた。やっぱり今のところだと、頭を狙えば一撃で倒せるみたい。まぁ、弾の種類が人体とかに大ダメージを与えられるホローポイント弾だったって事もありそうだけど。


「『夜烏』」


 今度は、自分の真横に向かって夜烏を放つ。黒闇天から放たれた夜烏は、大きく弧を描くように木々の間を飛んでいく。


「『氷槍よ、彼の者達を乱れ撃て』!」


 エラがそう詠唱するや否や、何本もの氷の槍が生まれ、敵パーティーに襲い掛かった。


「プティ! ガーディ!」


 プティが敵パーティーに向かって突っ込む。その後ろをガーディがついて行く。


「んな!? 熊が来たぞ!?」

「な、なんで!?」


 敵パーティーは、プティに驚き狼狽えている。けど、敵も馬鹿では無いので、大きな盾を持った戦士がプティの進路を阻む。その戦士に、大きく迂回してきた夜烏が命中した。


「ぐっ! ぐあっ!」


 夜烏によって、長所である防御力を奪われた戦士は、プティの突撃に耐えきれず吹き飛び木を何本か倒して止まった。そして、その影から現れたガーディが、魔法使いの一人の喉元に噛み付き倒す。


 エラの魔法、私の夜烏、プティの突撃、ガーディの噛み付きを受けた敵パーティーは、その数を半分以下まで減らされていた。最後に残った軽戦士と魔法使いは、唖然としてしまっている。その懐に、いつの間にかソルが接近していた。


「抜刀術『双葉』」


 敵の内、軽装備の戦士を二度の攻撃が襲う。正確に首を狙ったその二撃は、首を飛ばすのに十分な威力だった。そして、その姿を青い顔で見ていた魔法使いの心臓に、光輝く剣が突き立てられる。こうして、最初に会敵したパーティーを全滅させることに成功した。


「他の気配はないか……」

「取りあえず、盾に出来そうな木が沢山ある、森の中を中心に立ち回る?」

「そうだな。ルナの言うとおり、このまま森の中にいよう」


 私達は、無闇に移動しないように森の中で立ち止まった。私達には、気配感知があるので、敵が接近したら分かる。その敵を倒せば良いだけだ。


「今回は、待ちの方向で行くんだね」

「前の時、ソルはガンガン行っていたもんね。木を降りたら現れて、本当にびっくりしたんだから」

「ルナの場合、待ちの方がやりやすそうだしね」

「でも、アトランティスで話題になった『黒衣の暗殺者』ってルナのことでしょ?」

「ぶふっ!」


 いきなりエラがぶっ込んできた。思わず、噴き出してしまう。


「な、何のことかな……?」

「アトランティスで、戦闘中に仲間が消えていって、いきなり黒ずくめで顔の見えない暗殺者がいたって話だよ。ただ、暗殺だけじゃなくて正面対決でもすごい実力だったんだって。そして、極めつけは、銃を使ってたって事だよ!」

「あははは……」


 誤魔化しきれなかった。まぁ、そこまで誤魔化す必要もないんだけど、あまり有名にもなりたくないしね。


「後、十階から飛び降りてたしね」

「十階から飛び降りて、どうやって落下ダメージを軽減させたんだ?」


 何故か、ジークも興味津々になっていた。


「え? このハープーンガンを壁に引っかけて、速度を殺しただけだよ」

「それ、本当は引っ張るためのものなのに、ルナの発想力ってすごいよね」

「そんなことより、きちんと警戒しないと。安全エリアってわけじゃないんだよ?」


 このままの話の流れだと、ただ単に恥ずかしい話になりそうだったから、すぐに話題を変える。その後も他愛もない会話が続いた。そして、そのまま三十分程の時間が経った。


 この時、私の耳におかしなものが聞こえてくる。


「何これ……?」

「どうしたの、ルナちゃん?」

「何か、歌みたいなのが聞こえてくるんだけど……」

「歌……まさか!?」


 ジークとエラの顔が強張る。


「何か知ってるの?」

「ああ、通称歌姫。歌を使った技を繰り出してくるんだが、内容に似合わず、かなり凶悪なんだ。どういうわけか、遠距離攻撃を無効化してくる。さらには、パーティーメンバーのバフもしている。ただ、本人から攻撃はしたことがないという話だ。支援専門なんだろうな」

「どうする? 避ける?」


 エラがジークに問いかける。厄介な相手なら逃げるのも有りということだろう。


「そうだな……ルナ、歌姫を拘束、あるいは誘拐出来るか?」

「また、誘拐しないといけないの……?」

「また?」

「いや、何でもない。多分出来ると思うよ」


 私は、この世界で二度目の誘拐をしないといけないみたい。まぁ、この暗闇なら出来なくはないだろうけど……


「なら、戦うか。全員戦闘準備だ」


 私達は、歌姫と呼ばれるプレイヤーと戦う準備を整える。

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