第63話 王都観光!!
王都観光の日がやって来た。ユートピア・ワールドにログインした私は、シルヴィアさんとの待ち合わせ場所である城門に急ぐ。時間的には、まだ余裕はあるけど、シルヴィアさんなら、もう待っている可能性もあるから。
城門に着くと、私の思っていた通り、シルヴィアさんが城門の前で待っていた。いつものメイド服ではなく、フリルの付いたブラウスとズボンというラフな格好をしている。私は、急いで、シルヴィアさんの元に向かった。
「すみません! お待たせしました!」
「いえ、私が早く来てしまっただけですので、お気になさらず。では、行きましょうか」
「は、はい」
シルヴィアさんが、歩き始めるので、横について行く。少し歩いていると、シルヴィアさんから話し始めた。
「今日のルナ様は、いつもと違い、可愛らしい服装ですね」
「そうですか? ありがとうございます。せっかくのシルヴィアさんとの観光なので、おしゃれしてみました!」
今日の服装は、シャルと一緒に買った白いワンピースに空色の上着だ。靴も革のサンダルにしている。指には、王族の指輪をとシャルとのペアリングしているし、首からは戦乙女騎士団の紋章を提げている。
「シルヴィアさんもメイド服じゃないのは、何か珍しいですね」
「そうですね。ルナ様と会う際は、基本的に姫様の傍にいるときですから、修行以外は、ずっとメイド服でしたね。姫様の護衛になってからは、ずっとメイド服を着ていて、私服を着る事も減っていますし、珍しいと言われたらそうなりますね」
「そうなんですか? お側付きの仕事も大変なんですね」
「というより、常に仕事中ってだけなんですけどね」
確かに、お側付きということはほとんどの時間、シャルの側にいないといけない。自分の時間が少なくなってもおかしくない。その結果、私服を着る機会も失われるよね。
「なら、久しぶりの休みですし、満喫しないとですね! どこか行きたいところは無いんですか?」
「今日は、街案内に来たわけですし、ルナ様の行きたいところで良いですよ」
「う~ん、じゃあ、シルヴィアさんの行きたいところに行きましょう! シルヴィアさんがどんなところが好きなのか、気になりますから!」
シルヴァさんは面食らっていたが、その後優しく微笑むと、私の頭を優しく撫でた。
「分かりました。では、色々と回ってみましょう。気になるところがあれば言って下さいね。そちらを優先しますから」
「はい! 分かりました!」
私達は、王都の大通りを歩いている。馬車から見てたときも思ったけど、人通りがすごく多い。
「ユートリアとは、人の多さが違いますね」
「そうですね。王都では、いつもこのくらいの人通りですよ。はぐれてしまいわないか、少し心配ですね。手を繋ぎましょうか?」
「えっ!? ええっと……お願いします……」
「はい」
差し出された手に、自分の手を重ねる。ニコッと笑うシルヴィアさんに、少し顔が赤くなってしまう。
「もう少し行ったところに、装飾屋がありますので、そこに行きましょう」
「装飾屋ですか?」
「はい。少し小さなお店ですが、綺麗なものが取りそろえられていますよ」
そう答えるシルヴィアさんの顔が、心なしか少しだけ緩んでいるように見えた。
「装飾品が好きなんですか?」
「そうですね。綺麗なものは好きです。それと、可愛いものも好きです。たまの休みには、装飾屋をひやかしていますね。気に入ったものは、買っていますが」
シルヴィアさんの意外な一面を知れた。多分、家具店で、ただ家具を見るのが好きなのと似ているのかもしれない。それなら、私にも心当たりがある。
「その気持ち、ちょっと分かるかもしれません。私も向こうの世界で似たような事をする時があります」
「ルナ様が気に入るものがあれば良いですね」
「シルヴィアさんの気に入るものもですね」
「ふふふ、そうですね」
シルヴィアさんの言うとおり、少し歩いた場所にその装飾屋があった。左右に、大きめの店があるので、余計小さく見える。シルヴィアさんに連れられて、中に入っていく。
「いらっしゃい。あら、丁度良かった。さっき、時計の修理が終わったわよ」
店内に入ると、奥のカウンターにいたおばあさんが、いきなりそう言った。真っ先に案内する辺り、シルヴィアさんのいきつけのお店なんだろう。シルヴィアさんは、カウンターの方に歩いて行く。
「一昨日、お願いしたばかりですが……」
「今回は、他に依頼がなくてね。すぐに取りかかってくれたんだよ」
「ありがとうございます」
「あいよ」
カウンターのおばあさんが、銀色の懐中時計を持ってきた。細かい装飾がなされていて、とても綺麗だった。シルヴィアさんはそれを受け取ると、ポケットの中に入れた。
「綺麗な時計ですね」
「はい。妹がプレゼントしてくれたものなんです」
「そうなんですか。大事になさっているんですね」
「はい。もちろんです」
シルヴィアさんは、寂しそうに笑いながらそう言った。亡くなった妹さんを思い出してしまったのかも。でも、すぐにいつも通りになった。
「中を見て回りましょう」
「はい」
中は、装飾屋というだけあって、沢山の装飾品が置いてあった。
「すごい。細かい装飾がされていますね」
「そうですね。こっちは、大きめの物が多いですが、向こうには、小物が多いですよ」
「私は、小物の方が、良さそうかもです」
「ルナ様は、家を持っていませんからね。購入する予定はございますか?」
「えっ!? う~ん……」
シルヴィアさんがそう言うということは、家を購入することが出来るんだろう。でも、その予定があるかと訊かれたら、どうだろうって感じだ。
「まだ、分かりません」
「そうですか。王都周辺の相場は、かなり高いので、購入するのであれば、ユートリアの方が良いと思いますよ」
「やっぱり、土地によって変わるんですね」
「そうですね。王都が異常という感じですが」
そんな事を話しながら、小物のエリアに来た。そこには、小さなストラップみたいな物が沢山あった。
「これは……」
シルヴィアさんが、一つのストラップを手に取った。覗きこむと、そこには、細かい装飾がされた月のストラップがあった。
「綺麗ですね」
「そうですね。確か、ルナ様の名前の意味も月でしたね」
「そうですよ」
返事をしつつ、陳列されているストラップを見る。黒闇天とかに付けると邪魔になりそうだけど、腰のベルトに付けるくらいなら、大丈夫かな?
並べられているストラップは、本当に綺麗な物が多く、目移りしてしまう。
「買いたい物は見付かりましたか?」
「いえ、目移りしてしまって。う~ん、これにします!」
私が手に取ったのは、光を吸収しているのではと思うくらい、真っ黒な花形のストラップだ。自分の普段の服装が黒ということもあって、目立たないような物の中から、好きだと思ったものを選んだ。
「では、私が、プレゼント致しますね」
そう言って、私が手に持っていたストラップを持って行ってしまった。
「私からも何かプレゼントしたいけど……」
厚意に甘えるだけでは、友人とは言えないはず。こういうのは、きちんとお返しを用意しないと。そんな、私の眼に、先程の月のストラップが映った。
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シルヴィアさんに続いて外に出る。
「少し遅かったですね。他にも欲しいものを見つけましたか?」
「はい。ちょっと欲しいものを見つけたので、買っていました」
「そうでしたか。では、どうぞ」
シルヴィアさんは、綺麗な紙袋に包まれたストラップを手渡してくれる。
「ありがとうございます。じゃあ、私からもお返しのプレゼントです」
「えっ!?」
これには、シルヴィアさんも少し驚いていた。
「開けてもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
中身を見たシルヴィアさんは、さっきよりも驚いていた。私が、プレゼントしたのは、さっき見ていた月のストラップだ。
「気になっていたみたいでしたから」
「ありがとうございます。大切にさせていただきます」
「はい!」
それから、他の小物があるお店やカフェなどに行って、王都を練り歩いていった。そろそろ夕方に差し掛かろうとする時間まで観光していたけど、これで四分の一ほどしか回れていないみたい。
「シャルのおすすめの場所にも行きましたけど、これで四分の一って、どれだけでかいんですか……」
「そうですね。私も初めて来た時、同じ事を思いました。全てを回るのに、四日間掛かりましたね」
「えぐい……」
今はシルヴィアさんに連れられて、階段を上っている。王都の中にある高台みたい。少し長めの階段を上り終えると、シルヴィアさんが、手で私の眼を覆った。
「ふぇ!?」
「このまま眼を瞑って歩いてきて下さい」
「わ、分かりました」
シルヴィアさんの手が私の眼から離れるので、自分で眼を瞑る。すぐにシルヴィアさんが私の手を握って誘導してくれる。
「さぁ、良いですよ」
シルヴィアさんにそう言われて、眼を開ける。
「うわぁぁぁ……」
私が見たのは、地平線に沈む夕陽とそれに照らされる街並みと城だった。現実でもあるような、夕方の綺麗な景色。でも、現実では見た事がないような幻想的な風景だった。
「すごいです!」
「私が、この街で一番好きな場所です」
私は、少しの間、目の前の景色に目を奪われた。
(ここが、シルヴィアさんの好きな場所……見ようによっては、ただの夕焼けの景色だけど、何だか心に来るものがあるなぁ……本当に綺麗なものを見た時ってこんな感じなのかな?)
私は、シルヴィアさんの方を振り返る。
「私もここの景色が好きになりました!」
「それは、良かったです」
シルヴィアさんが朗らかに笑う。夕陽に照らされたシルヴィアさんの笑顔は、さっき見た景色よりも綺麗だった。思わず、見惚れてしまう。
「どうしましたか?」
ぼーっとしてしまった私に、シルヴィアさんが声を掛ける。
「いや、何でもないです。それより、今日は、ありがとうございました。おかげで、迷わずに王都の一部を回ることが出来ました」
「いえ、お役に立てたなら幸いです」
「すごく楽しかったです。プレゼントしてくれたストラップも大切にしますね」
「はい」
私がそう言うと、頭を撫でてくれた。こうしていると、やっぱりシルヴィアさんにとって、私は、妹のような存在なんだろうなぁ。
(いつか、そういう面を除いて、私を見てくれるといいな……)
そんな事を思っていると、シルヴィアさんが私の手を取る。
「では、王城前まで戻りましょうか」
「はい!」
私とシルヴィアさんは、王城前で別れた。この日は、これでログアウトした。
明日は、次のイベントのパーティーで顔合わせだ。
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