第60話 国王からのお願い!!

 二人きりになると、国王様が先に口を開く。


「残ってもらってすまぬのう」

「いえ」

「お主には、少し頼みたいことがあってのう」

「頼みたいことですか?」


 国王様からの頼みとなると少し緊張してしまう。無理難題じゃないといいけど。


「うむ。他でもないシャルロッテの事じゃ」

「シャルですか?」

「うむ。あの子は、姫という立場で有りながら、あの性格じゃ。友人を作ろうしても相手から遠慮してしまう。お主は、あの子に出来た数少ない友人じゃ。だから、あの子も、お主に会いたくて仕方ないのじゃ」

「それで、さっき突撃してきたんですね……」


 先程のシャルのお部屋突撃は、久しぶりに会えると思ったかららしい。シャルらしい行動に、思わず苦笑いしてしまう。


「一応、側付きのシルヴィアやメイド達が見守っていたはずなのじゃが、シルヴィアが席を外した時を狙って抜け出してきたようじゃな」

「すぐ捕まるってわかりきってるのに……」

「それだけお主に会いたかったというわけじゃ。だからこそ、あの子との繋がりを切らないで欲しい。それが、儂からの頼みじゃ」

「繋がりを切らない?」


 どういうことなんだろう。


「そうじゃ。あの子を捨てないで欲しい。ずっと、友人でいて欲しいのじゃ」

「当たり前じゃないですか。お互いが死ぬまで友達ですよ」


 私がそう言うと、国王様は、安心した様に息を吐いた。そんなに心配することなのかな。もしかしたらだけど、シャルの姫という立場を利用しようとするために、友人になる人が多いってことなのかも。

 でも、そう考えると、何で国王様は、私の事をこんなに信用してくれているのだろう。私もそう言う人達と同じかもしれないのに。


「うむ。よろしく頼むぞ」


 国王様がそう言ったと同時に、扉がノックされた。執務を終えたシャルが帰ってきたのかな。


『メアリーゼです。父上に報告したいことがあり、参りました』


 扉の向こうから声が聞こえる。


(あれ? この声、どこかで聞いたことがあるような……)


 私がそんな事を思っていると、国王様が返事をする。


「入って良いぞ」

『失礼します』


 扉を開けて中に入ってきたのは、私も知っている人だった。


「メアリーさん!?」

「あら? ルナちゃん、いらっしゃい。父上が、誰かと面談しているとは聞いていましたが、ルナちゃんだったのですね」

「うむ。アトランティスについての報告を受けていたのじゃ」

「そうでしたか。では、私の用も終わりましたね。アトランティスが消失したという報告ですから」


 メアリーさんは、アトランティスが消失したという報告をしに、ここまで来たみたい。それにしても、国王様を父上と呼ぶって事は……


「メアリーさんって、シャルのお姉さん?」

「そうよ。だから、言ったでしょ? 近い内に分かるって。まぁ、ここまで早いのは予想外だけど」


 メアリーさんは、そう言ってウィンクをした。


「シャルロッテから話を聞いておったが、メアリーゼからも話を聞いておったのじゃよ。だからこそ、お主は信用できると思ったのじゃ」


 国王様はそう言って、ホッホッホッと笑っていた。娘二人からのお墨付きって事なのかな。そんな中、メアリーさんが、私の頬に手を伸ばす。


「相変わらず、可愛いわね」


 そう言って、両手で私の頬を覆って感触を楽しんでいた。


「あの……?」

「もう報告は終わったの?」

「はい。今は、国王様とお話をしていました」

「そう。もう、話は終わったのですか?」

「うむ」


 国王様はそう言って頷く。メアリーさんは、その返事を聞きながら、私の隣に腰を降ろして、横から抱きしめてくる。


「あの~~?」

「はぁ、やっぱり、可愛い……」


 さっきから可愛い、可愛いと連呼している。王立図書館で会ったときは、すごいクールな感じがしたけど、もしかして、こっちが素なのかな。


「すまぬのう。どうにも娘達は、女性の方が好きみたいでのう。好みの女性を見つけると、こうなってしまうのじゃ」


 つまり、私はメアリーさんの好みらしい。国王様からすごいカミングアウトをされているのに、メアリーさんは、気にせずに私を愛で続ける。


「だから、息子達の方は、結婚しているのじゃが、娘達は縁談すら成立せんのじゃ」


 国王様は、困ったようにそう言った。


「いっそのこと、女性と縁談してもらえば良いのでは?」

「王族の娘が、子供を産まないことに、憤慨する者もおってのう」

「女性は、子供を産むための道具ではありませんよ」

「それは、儂も分かっておる。じゃが、そう考える者も多いのじゃ。特に、自分達の血を残すことに執着している貴族に多いのじゃ」


 漫画とかでも書いてある通り、貴族は自分の血を後世に継がせることに拘っているみたい。それを、貴族の頂点たる王族にも押しつけているみたい。王族が一番偉いんだから、自由に出来るかもだけど、逆に貴族達の見本になっておかないと、うるさいのかもしれない。


「う~ん、何か、貴族って嫌な人が多そうですね」

「ズバリと言いおるな」

「あっ、ごめんなさい」

「よいよい。儂とて否定出来んよ」


 国王様もぶっちゃけてる。でも、それが事実なのかもしれない。貴族は、自分達が大衆よりも上位に位置していると考えている人達なのかも。まぁ、そんな人達に会った覚えはないけど。


「儂としては、娘達には自由に生きていて欲しいと思っておる。まぁ、シャルロッテは、自由すぎる気もしておるがのう」

「シャルは、この城の外が好きで仕方ないのよ。昔から、ジッとしている事が嫌いな子だったからね。誰かの報告よりも自分の眼で確かめたいのね」


 二人の言っている事は、ユートリアでの出来事からも正しい事だと分かる。


「そうだ。ルナちゃんは、シャルからもらった指輪は、ちゃんと持ってる?」

「はい。持ってますけど、返した方が良いですか?」


 元々私が持っていてもいいものかも怪しかったし、国王様から返して欲しいって言われたら返した方が良いよね。そう思って、国王様の方を見る。


「そういえば、そのような話もあったのう。それは、持っていて構わんぞ。シャルロッテが、お主を信頼して渡したものじゃ。悪用はせんじゃろう」


 そういえば、一昨日、指輪を使ってアトランシア卿を脅した気もするけど、まぁ、大丈夫なはず……そういえば、あの時から何か引っかかっていた事があった気がする。なんだっけ?


「アトランティスの時みたいな使い方をしても大丈夫だよ。話を聞かない人には、一度見せておけば、ちゃんと話を聞いてくれるようになる可能性が高いからね」


 黙っていればバレないと思ったけど、ちゃんとバレてた。でも、きちんと許可を得られたから、良しとしよう。そして、このタイミングで、引っかかっていた事を完全に思い出した。


「そうだ!!」


 いきなり大きな声を出したから、メアリーさんも国王様も眼を点にしていた。


「あっ、すみません……いきなり、大声を上げてしまって……」

「いや、構わんよ」

「それよりも、何かあったの?」


 メアリーさんと国王様は、少し心配そうに私を見る。急に頭がおかしくなったわけでは無いので、そこまで心配しなくてもいいんだけど……


「あの、アトランシア卿が言っていたことで気になった事があって……」

「ふむ。聞かせてくれるかのう?」

「はい」


 私は、一度頭の中を整理して、話し始める。


「ミリアがアトランティスの巫女として、アトランティスを停止させたじゃないですか」

「うむ、そうじゃのう」

「その結果、アトランティスは崩壊しましたけど、私の友人の話では一度起動状態に移行したらしいんです」

「む? その話は聞いておらぬのう?」


 国王様が首を傾げる。私も、今思い出したから、国王様が聞いていないのも仕方ない。ミリアに至っては、自分が起動状態にしたという認識がないから、記憶に留まっていないと考えられる。それよりも巫女の亡霊の記憶に引っ張られていたんだと思うし。


「私も今思い出しました。それで、アトランシア卿が色々と言っていた中で、アトランティスを起動させて、世界を沈めることが悲願だというのがあったんです。それで、色々とおかしいと思ったんですが、アトランティスの巫女って、ミリアが最初ではありませんよね?」


 私の問いに、国王様は顎に手を当てて悩んだ。これに答えてくれたのは、メアリーさんだ。


「記録上は、何度かアトランティスの起動を止めたということになっているはずだけど……」

「でも、ミリアが停止させた時は亡霊によって、起動状態にされたと言っています。じゃあ、今までの巫女が停止させようとしたときには、亡霊は現れなかったということなんでしょうか?」

「!! そういうこと……」


 メアリーさんは、私の言わんとすることに気が付いたみたいだ。国王様も納得した顔をしている。


「仮にアトランシアの悲願を達成させるために、アトランティスを起動させれば、この世界は滅ぶし、停止させに向かえば強制的に起動させられる。それが起こっていない今、巫女は一度もアトランティスに行っていないことになるね」

「つまり、アトランティスが起動する前に生まれるという巫女の存在も色々と変わってきそうじゃのう」

「そもそもアトランティスが勝手に起動するということがないと考えられますよね? じゃあ、今までのアトランティスの停止の記録は、どういうことなんでしょうか?」


 どうあってもアトランティスが起動されるということは、今までのアトランティス停止の報告が嘘ということになる。そして、ミリアが知っていたことも嘘の情報だった可能性が高くなる。アトランシア卿が嘘の情報を教えていたのかもしれない。


「確実に嘘の報告ね。そうなってくると、今までの巫女は……」

「殺されている可能性も高いのう……アトランシア家に根付く闇は、どのくらい深いのか……」


 アトランシア卿から聞き出さないといけない情報が増えたみたいだ。


「さて、そろそろお開きにするかのう。ルナ、貴重な情報を教えてくれて助かった。メアリーゼ、ルナをシャルロッテの執務室に送ってもらえるかのう?」

「分かりました。じゃあ、行こうか」

「はい。では、失礼します」


 ようやく、メアリーさんの抱きしめながらの頭撫でから解放された。


「うむ。いつでも来てくれて構わんぞ。門番に指輪を見せれば中には入れるからのう」


 国王様がとんでもないこと言い出した。


「えっと、部外者がお城をうろつく事になりますけど……」

「お主なら大丈夫じゃろう。一応、城にいる間は、指輪を見えるように付けておけば、問題も起こらないはずじゃ」


 謎の信頼が生まれている。ここまで信用されてしまえば、私も迂闊な真似を出来ないし、良いのかな。


「分かりました。ありがとうございます」

「では、またのう」


 私とメアリーさんは、部屋から出ていく。


「こっちよ」


 メアリーさんは、私の手を握って、引っ張って行ってくれる。これで迷子になることはないね。ただ、この世界に来てからこういうことが多い気がする。

(私……子供扱いをされてる……?)


 若干ショックを受けつつ、歩くこと五分、シャルの執務室の前に着いた。メアリーさんが、扉をノックする。すると、すぐに扉が開いた。


「メアリーゼ様でしたか。それと、ルナ様も」


 扉を開けて顔を覗かせたのは、シルヴィアさんだった。


「えっ!? ルナ!?」

「姫様は、その仕事を終わらせてください」


 シルヴィアさんが後ろを向いてそう言った。顔は見えないけど、多分怖い笑顔をしているんだと思う。シャルはすぐに仕事に戻った。


「どうぞ、お入りください」


 シルヴィアさんが扉を開いて中に入れてくれる。


「こちらにどうぞ」


 シルヴィアさんは、執務室に備え付けられている応対用のソファに案内した。そこは、ついたてで囲われていて、シャルの姿は見えない。


「姫様のお仕事が終わるまでお待ちください。お茶をお淹れ致します」


 シルヴィアさんは、そう言って、離れていく。


「少し時間が掛かりそうだね。シャルは、書類仕事が苦手だから」

「書類仕事ってどんな事をしているんですか?」

「大体は、自分が関係している研究や周辺地域や他の街での税収などの確認かな。私の場合は、研究関係が多いけど、シャルの場合は、後者が多いね。外に出ているか出ていないかの関係だけどね」


 確かに、メアリーさんは、シャルよりも書類仕事が上手そうだ。王立図書館にもいたしね。


「お姫様も大変ですね」

「そうだね。私達が特別大変なだけだと思うけど。結婚した人は、そんな事とほぼ無縁になるしね」

「だから、結婚しないっていうのもあるんですか?」

「ううん。私が結婚しないのは、いい人がいないからだし、結婚したとしても研究は続けるよ」


 なんとなくだけど、メアリーさんっぽいと思った。


「女性と結婚するって事はないんですか?」

「う~ん、微妙だね。さっきの父上との話にもあったでしょ? 貴族がうるさいの。結婚出来るならしているよ……多分」


 最後の方でメアリーさんが目を逸らした。そこは置いておいて、こういう結婚の問題や結婚相手の問題は、どこにでもあるものだね。正直、同性だろうがなんだろうが、一緒にいたい人といればいいと思うけどね。立場上、そうもいかないんだろうけど。


「どうぞ」


 そこにシルヴィアさんがお茶を運んできてくれた。


「後、どのくらい残ってるの?」

「二束ほどですね。三十分もしない内に終わると思いますよ」

「じゃあ、その間はお話しして待ってようか」

「そうですね」


 シルヴィアさんは、シャルの見張りに戻った。そして、シャルが仕事を終えるまで、メアリーさんと話をして時間を潰していった。

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