第58話 アップデート!!
私がアップデートの知らせを見た直後、タイミング良く日向が電話をしてきた。今は、自室のベットで横になったまま話している。
『もしもし、さくちゃん、ユートピア・ワールドのホームページ見た?』
「見たよ。アップデートの話でしょ?」
『そうそう、どんなものが追加されるか分からないけど、楽しみだね』
「そうだね。リアル感が強いから、ゲームだって事を忘れそうになるよ」
『確かに、得にNPCの人達がすごいよね。本物の人間みたいだもん』
日向のいうとおり、NPCの人達は、本物の人間みたいな思考をしている。私達の周りにいるアーニャさん達も本来はNPCのはずなのに、普通の人みたいに感じることが多々ある。
「本当に人だったりしてね」
『それだったら、このゲームすごいよね。別の世界と繋がってるってことでしょ?』
「夢が広がるね。それは、そうと何のアップデートなんだろう?」
『う~ん、ワールド拡張とか?』
「ディストピアに行けるとか?」
『王都かもよ。今まで、王都に行けた人いないって話だし』
意外な話を聞けた。未だに王都に行けた人はいないらしい。
「私、今王都にいるよ」
『えっ!? 嘘!?』
これには、日向も驚いた。
「本当、本当。アトランティスについての報告をするために、リリさんに連れて行ってもらったんだ」
『昨日言ってた用事って、それのことだったんだ!』
「まぁ、私も今日知ったんだけどね」
『良いなぁ。どんな感じ?』
「まだ、街を回ってはないんだけど、馬車から見た感じ、すごくでかい街だったよ。ユートリアの何倍も大きい感じ」
王都を馬車で通っただけだけど、本当に大きな街だった。街中の把握は大変そうだ。
『お城はどうだった?』
「あっ、全く見てなかった……」
『王都のランドマークでしょ? さくちゃんって、そういうところあるよね』
「失礼な。五時間の移動で疲れちゃっただけだよ。明日は、報告もあるから城に行くと思うし、問題なし!」
『じゃあ、また今度会ったら、どんなだったか教えてね』
「おっけー。じゃあ、また今度ね」
『うん。ばいばい』
日向との電話を終えて、携帯をデッキに置いた。
「ふぅ、やっぱ、王都に行ったのは、私だけなんだ。あのクエストは、特別だったんだね」
私の場合、運が良かっただけだね。リリさんと出会えたのも、ミリアのクエストを受けられたのも、偶々だったって感じがするし。
「明日は、アトランティスについての報告かぁ。アップデートもあるし、色々目白押しだなぁ」
明日に備えて、早く寝ておこう。
────────────────────────
次の日、お昼前にログインして王都まで転移した。
「さてと、取りあえず、リリさんの家に向かおう」
リリさんの家に向けて足を踏み出そうとすると、いきなり、目の前にウィンドウが現れた。
『アップデートのお知らせ
フレンド機能実装。フレンド同士であれば、遠距離で通信が可能になります。加えて、ある程度フレンドの位置を確認することも可能になります。
次に、クエストの追加をしました。NPCとの親密度によって、クエストが開始されます。逆に、NPCに危害を加えすぎれば、クエストフラグが立たなくなります。
そして、一部スキルを細分化+スキル追加をしました。取得方法は、従来のものと同じです。
その他、不具合などを修正しました。
今後もユートピア・ワールドをよろしくお願いします』
アップデートした内容についてだった。フレンド機能の実装か。便利だけど、一度会いに行かないといけないかな。今日は無理だから、別の日にソルとシエルに会いに行こう。
「スキルかぁ。新しいスキルはどんなのがあるんだろう。気になるけど、調べる方法がないし、気にせずリリさんの家に向かおう」
噴水広場からリリさんの家の方に向かう。王都なだけあって、人通りが多い。人に当たらないように注意して歩いていく。しかし、道の端っこを歩いていると、十字路から現れた人にぶつかってしまった。一応、足音とか気配を確認しながら歩いていたんだけど、全く気が付かなかった。
「あたっ!」
「すみません。大丈夫ですか?」
ぶつかって尻餅を付くかと思ったら、腰に手を回されて、しっかりと支えられた。
「はい。大丈夫で……」
感謝の言葉が最後まで続かなかった。そのタイミングで、ぶつかった人の顔を見たからだ。そして、向こうも私の方を見て、眼が合う。
「シルヴィアさん!?」
「ルナ様?」
ぶつかった相手は、なんとシルヴィアさんだった。なら、納得だよ。シルヴィアさん相手に、気配を探るなんて通用するわけないもんね。
「すみません。気が付かずに……」
「いえ、こちらこそ、ぶつかってしまってすみません」
よく見ると、シルヴィアさんは、片手に果物が入った紙袋を持っていた。そして、もう片手で私の事を支えている。私は慌てて、自分の足で身体を支える。
「驚きました。こんなに早く、王都にいらっしゃるとは」
「リリさんに連れてきてもらったんです」
「リリウムに? なにやら、事情がありそうですね。これから、どちらへ?」
「リリさんの家に」
「では、お送りします」
そう言って、シルヴィアさんは先に歩き出してしまう。さすがに悪いと思って、断ろうとしたけど、口に出すことすら出来なかった。
「シャルは一緒じゃないんですね?」
「姫様は、今伏せっていられますから」
「え!? 大丈夫なんですか!?」
「はい、大丈夫ですよ。仕事のしすぎで、ストレスが溜まっているだけなので」
そういえば、ユートリアにいたときも、仕事に集中して睡眠不足になってた気がする。書類仕事は嫌いと言っていても、投げ出さずに頑張る当たり、シャルらしいと言えばシャルらしいね。
「そろそろ外回りをしないと、勝手に抜け出すかもしれません。そうならないように、同僚に監視してもらっています」
「あははは……相変わらずですね」
ここら辺もシャルらしい。まぁ、シャルも言ってたけど、抜け出してもシルヴィアさんにすぐ見付かると思う。だから、無闇に抜け出しはしないと思うけど、念には念を入れてって事かな。
「その間に機嫌を直して貰うべく、こうして果物を用意しているのです」
「そうなんですか。でも、お城の中だったら、果物くらいあるんじゃないですか?」
「城下に出回っている方が、新鮮で美味しいものが多いんです。城内で用意される食物は、色々と検査されていますから、その分時間が経っているので」
毒物が入ってないか、確認するってことかな。確かに、時間が掛かってそう。
「丁度いいですね。あそこに建っているのが、王城です」
少し広めの道路に出ると、シルヴィアさんが指である方向を指した。そちらを見てみると、その先に大きな城があった。
「周りの家も大きいので、あまり近くになると、よく見えないんです。もっと近づけば、よく見えますよ」
「どうにで、この街に来てからお城を見ないと思ったら、こういうことだったんですね」
「リリウムの家は、城から少し離れていますからね。見えなくても不思議ではないです」
初めて見た城は、思っていたよりも心に刻まれた。映画の世界観が、まんまそこにあるような感じだ。小さい頃に憧れた城そのものでもある。
「さて、もうそろそろリリウムの家ですね」
「はい。ここまでで大丈夫です。送っていただき、ありがとうございました」
「いえ、またルナ様に会えて嬉しかったです」
「私もです。じゃあ、また今度会いに行きますね」
「はい。お待ちしてます」
私はシルヴィアさんと別れて、リリさんの家の門前に立った。
「……どうすればいいんだろう?」
門は固く閉ざされている。門番らしき人も見当たらない。いっそのこと、乗り越えるかと考え始めた頃、家の方からリリさんが走ってきた。
「すみません。丁度門番の交代の時間で、一瞬だけ誰もいないんです」
「そうだったんですか。危うく、無理矢理登って入るところでした」
「それは衛兵に捕まるのでやめましょう」
「あ、はい」
やんわりと叱られた。そして、リリさんは、私の頭のてっぺんから下の方に視線をずらしていく。
「う~ん、ルナさんは……そのままの服で行きましょうか。冒険者としてなら、問題ないはずですし。派手な感じも……」
リリさんの眼が私の足で止まった。そこには、蜘蛛の巣柄のタイツがある。
「いや、大丈夫でしょう。馬車を用意していますので、お乗り下さい。ミリアさんを呼んできます」
「はい、分かりました」
馬車に乗って待っていると、綺麗なドレスに身を包んだミリアがやって来た。
「すごい……綺麗……」
「ちょっと、恥ずかしいです」
「ミリアさんの普段着では、王城には入れない可能性がありますから、私の昔のドレスを貸しているんです」
ミリアは少し恥ずかしそうにしている。ミリアの格好を見ていると、自分の格好でも良いのかと不安になったけど、リリさんが大丈夫って言っていたから平気だよね。
全員が乗り込んだので、馬車が動き出した。
「今の内に慣れておかないと、今よりも多い人数に見られるんだよ?」
「分かってますけど……」
「大丈夫だよ。似合ってるし」
「うぅ……」
ミリアは、照れているからか顔を真っ赤にしている。そうしている間にも、城に近づいていく。
「緊張するかと思いますが、冷静に聞かれた事にだけ答えて下さい」
「「はい!」」
馬車の速度が落ちてきた。
「そろそろ着きますよ。覚悟は良いですね?」
「大丈夫です」
「わ、私も大丈夫です!」
馬車が完全に止まる。リリさんは、やさしく微笑むと、馬車の扉を開けて降りる。その後に、私達も続いた。降りた先で見えたのは、さっき見た城よりも、遙かに大きく見える城だった。
「……」
「……」
少し圧倒されてしまった。巨大な建築物は、現実でも見た事があるけど、それ以上に威圧感のようなものが強い。それに、魅入ってしまうなにかがある。
「さて、行きましょう」
リリさんは、先に歩いていく。私達も後に続く。僅かばかりの緊張を胸に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます