第57話 王都に到着!!

 約五時間の道のりを経て、私達は王都へと辿り着いた。馬車の窓から見える景色は、今までの街とは大きく違う。

 まず、道の幅が今までの街の二倍以上はある。それに、建物の高さも大きいものがずらっと並んでいた。

 街の賑わいも、王都というだけあって、今まで以上だった。それに、周りを馬で歩いている戦乙女騎士団の人達に歓声が上がっている。王都で、戦乙女騎士団がどれだけ人気なのかが分かった。


「すごい……」

「この国一番の街ですから。今日は、このまま私の家まで向かいます。長い旅路でお疲れでしょうから、ゆっくり休んで下さい」

「わ、分かりました」


 ミリアは街の雰囲気に圧倒されていた。


「私も、一度元の世界に戻ることにします」

「分かりました。報告は、明日にしましょう。お昼頃に、家に来てください」

「分かりました」


 そう言っている内に、馬車が道を曲がる。その時に、窓の外を見てみると、街に必ずある噴水広場が見えた。そこにポータルがあるのも見える。戻ろうと思えば、ユートリアに戻ることも出来そう。アーニャさんに、銃のお礼とかをしないといけないから、戻れなかったらどうしようと思ってたところだったからよかった。


「さて、着きましたよ」


 リリさんがそう言って、馬車の扉を開ける。馬車から降りてみると、そこには、ミリアの家を凌ぐ程の大きな屋敷があった。


「…………」


 あまりの大きさに少し唖然としてしまう。


「ルナさん? 大丈夫ですか?」

「あ、はい。大丈夫です」


 呆けてしまったため、リリさんが心配そうに覗きこんだ。


「リリさんって、お嬢様だったんですね」


 こんなでかい屋敷を見てしまったら、そう思わずにいられない。騎士団の団長をしているのに、お嬢様だとは思わないもん。


「そうですね。まぁ、その上流階級の世界が嫌で、騎士団に入っていますけど」

「そういう理由だったんですか!? でも、それなら結婚相手もすぐ見付かるんじゃ……」

「自分よりも強い人を奥さんにしたいと考える人は少ないようですので……」

「ああ……」


 リリさんが結婚出来ないのは、戦乙女騎士団という環境とそこで手に入れた強さにもありそう。


「そういえば、ルナさんは、ここで向こうの世界にお戻りになりますか?」

「あ、いえ、噴水広場の方で戻ろうと思います」

「では、ここで別れますか?」

「はい。そうさせてもらいます。では、また明日」

「また明日」


 私は、リリさんとミリアに手を振って別れ、噴水広場の方に向かう。


「先に、ヘルメスの館に……いや、現実に戻ってご飯を食べよう」


 そう思い、噴水広場に足を踏み入れると、


『王都ユートピアに着きました。都市間ポータルを起動します。飛びたい都市を思い浮かべながらポータルに入ってください』


 いつも通りのメッセージが流れた。これで、ユートリアに戻ることが出来る。さらに、


『EXクエスト『王都までの道のり』をクリアしました。報酬として、三〇万ゴールドを取得』


 クエストクリアの表示が出てきた。本当に、移動するだけで良かったみたい。


 ここでログアウトして、遅めの軽いお昼ご飯を頂く。その後に、溜まっていた家事をこなすと、夕飯に近い時間になっていた。家事で動き回ったからか、お腹が空いたため、夕飯を食べてからログインすることにした。


 ────────────────────────


 ログインしてすぐに、ユートリアへと転移した。


「さてと、ヘルメスの館に向かおう」


 アーニャさんにお礼をするために、ヘルメスの館に急ぐ。


「こんばんは」

「あっ! ルナちゃん! いらっしゃい!」


 アイナちゃんがすぐに出迎えてくれた。


「久しぶりって言っても、昨日ぶりだからそうでもないか。濃い一日を過ごしたから、何か久しぶりかと思っちゃった」

「アトランティスに行ってたんだもんね。確かに、濃い一日だね。紅茶飲む?」

「うん。お願い」

「は~い」


 アイナちゃんがカウンターに行っている間に、いつもの席に座る。


「いらっしゃい、ルナちゃん」

「わっ! いつの間に!?」


 席に座った瞬間、向かいの席にアーニャさんが座っていた。声を掛けられるまで気が付かなかった。


「今し方よ」

「はぁ……びっくりした。そうだ」


 私は、ホルスターから、ハープーンガンを取りだしてアーニャさんに渡す。


「すごく役に立ちました。私とミリアを一緒に引っ張っても壊れませんでしたし、高いところから降りるときも使う事が出来ましたよ」

「へ? これを使って飛び降りたの!? どのくらいの高さから?」

「確か、二、三十メートルですね。もう少し、戻るスピードを調整出来るようになると、使い勝手がよくなると思います」


 私はそう言うと、アーニャさんは顎に手を当てて考え込み始めた。そのタイミングで、アイナちゃんが紅茶を持ってくる。


「どうしたの?」

「ハープーンガンの事話してたんだ」

「じゃあ、改良案が出そうなのかもね」


 アーニャさんが考え込んでいる間、私とアイナちゃんは世間話に花を咲かせる。


「えっ? じゃあ、ルナちゃんは、今王都に行ってるの?」

「うん。アトランティスについての報告をするためにね」

「じゃあ、シャルロッテ様にも会えるね」

「そうだった。シャルにも会いに行かなきゃ。確か、指輪見せれば、取り次いで貰えるんだっけ」


 せっかく、王都に来れたんだから、シャルやシルヴィアさんに会いに行かないと。約束したし、そうで無くても私が会いたいからね。

 そんな事を話していると、アーニャさんが顔を上げて私を見た。


「ルナちゃん、一時間くらい待つ事出来るかしら?」

「全然大丈夫ですけど」

「じゃあ、一時間後にまた来て」


 アーニャさんは、そう言って、ハープーンガンを持って店の裏に行ってしまった。


「じゃあ、私はお金稼ぎをしてくるね。吉祥天のローンもあるし」

「じゃあ、またね」

「うん、またね」


 ヘルメスの館を後にした私は、ギルドで討伐系のクエストを受けて、モンスターを倒していった。三十分くらい討伐をしてから、アキラさんの店で解体をした。ただ、アキラさんの店にお客さんがたくさん来ていて、解体を手伝うことになり、約束の一時間を超えることになってしまった。


「すいません! 遅れました!」

「構わないわよ。はい、これ」


 アーニャさんは、私にハープーンガンを手渡す。見た感じ変わったようには見えないけど。


「引き金の押し加減で、ハープーンを引き寄せる勢いを調整しやすくしたわ。それと、ボタン一つでハープーンを簡単に外せるようにもしておいたから」

「ありがとうございます」


 アーニャさんは、ハープーンガンを改良してくれたみたい。


「それと、耐えられる重量も増やしておいたわ。飛び降りみたいに無茶な使い方をしても大丈夫なようにね」

「やっぱり、ハープーンガンで勢いを殺すのって無茶な使い方だったんですか?」

「そうよ。さすがに、そんな使い方は想定してないわ。移動をしやすいようにって思って渡したけど、飛び降りをするなんて普通は思わないでしょ?」

「あはは……」


 軽く怒られてしまった。アトランティスの中央塔から飛び降りたときに使ったのは、結構無茶だったみたい。


「黒闇天と吉祥天も見せてくれる? メンテナンスしてあげるわ」

「ありがとうございます」


 黒闇天と吉祥天を渡すと、アーニャさんは手早く分解して、メンテナンスを始める。


「これで、よし。基本的には大丈夫だと思うけど、銃身で受けとめるとかの無茶はダメよ。頑丈に作っているけど、銃身が曲がったら、銃弾をまともに撃てなくなるからね」

「分かりました。でも、接近戦はそこまでしないと……いや、意外とやってるかも……」


 よくよく考えると、接近してどうにかすることが多々ある気がする。


「まぁ、黒影があるし、体術も使えるから接近戦も有りだと思うけど、せっかく銃があるんだから、中距離からの攻撃が良いと思うわよ」

「そうですよね。この前の乱戦の時は、黒影と黒闇天で暗殺してました」

「ルナちゃんも立派な暗殺者ね」

「まぁ、結局バレましたけど」


 あの時も、バレたから接近戦になったし、もう少しバレないように攻撃する必要がありそう。


「ルナちゃんは、暗殺のスタイルが合っているように思うわ。少しずつ出来る様になれば良いわね。そうだ、黒羽織も改良しましょうか」

「見付かりにくくするって事ですか? でも、これには認識阻害が付いてませんでしたっけ?」

「少し効力を強めるのよ。代金は、このくらい掛かるけどね」


 アーニャさんは、両方の手を開いてそう言う。つまりは、十万ゴールド掛かるって事だと思う。


「分かりました。吉祥天のローンと一緒に払いますね」

「じゃあ、改良をしちゃいましょう。明日の夜にまた来てくれる?」

「はい」


 私は、さっき稼いできた二十万ゴールドと報酬でもらった内の四十万ゴールドを渡す。

 黒羽織を脱いだ私は、夜烏だけを纏ってヘルメスの館から出た。今日のところは、これでログアウトして、明日のアトランティスについての報告に備えよう。

 ログアウトして、少しユートピア・ワールドのホームページを覗き込むと、気になる文面があった。


『アップデート決定!! メンテナンスのため深夜のログインは出来ません。明日の朝七時に終了予定!』


 ユートピア・ワールドのアップデートがあるみたいだ。どんな要素が追加されるのか、今から楽しみだ。

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