第3章 王都ユートピア

第56話 次の街へ!!

 ユートピア・ワールドからログアウトした私は、夜ご飯を食べた後、パソコンでユートピア・ワールドの情報板を見ていた。


「何か、良い情報はあるかなって、これ……」


 私が、情報板を見ていると、そこには、『黒衣の暗殺者 アトランティス探索を妨害』と書かれていた。


「完全に私だなぁ。すごい罵倒が書かれてる。う~ん、この人達に見付かったら、面倒くさそう」


 ちょっと嫌な記事を見てしまったけど、その他には何も良い情報はなかった。それと、記事にはアトランティスが崩壊したことに触れているものはなかった。


「アトランティスがなくなったことは、誰も気が付いてないんだ。まぁ、海に沈んでいるし確認を取る術はないもんね。情報集めは、このくらいにして、今日はもう寝よ。明日も早いし」


 その日は早めに就寝した。


 ────────────────────────


 翌日、ユートピア・ワールドにログインした私は、リリさんと約束した時間に、アトランティス港の駐在所にやって来た。


「ルナさんですね? 中で団長がお待ちです」

「はい。ありがとうございます」


 入り口に立っていた騎士団の団員さんが、中に入れてくれた。


(よく私だって分かったなぁ。今の格好は、夜烏と黒羽織じゃないのに)


 昨日あんな騒ぎを起こしたばかりなので、目立ってしまう夜烏達は着てきていない。白いワンピースに青い薄手の上着を羽織っている。


(もしかして、戦乙女騎士団の中で、私の顔が有名になっているのかもしれない!?)


 そんな事を考えながら、駐在所の中を進んで行く。


「時間通りですね、ルナさん」

「リリさん、おはようございます」

「おはようございます」


 中に入って少ししたところにリリさんが立っていた。その傍には、一台の馬車と何頭もの馬が並んでいる。


「私は見送りに呼ばれた感じでしょうか?」


 まだ、私がここに呼ばれた理由が分かっていないので、リリさんに尋ねた。ここに来るまで、ミリアとリリさんの見送りに呼んで貰えたんだと思っていた。


「いえ、ルナさんにも王都に来てもらうためです」

「へ?」


 予想外の答えに驚きを隠せない。


「何で私も王都に行くことに?」

「本当は、来て頂く必要はなかったのですが、ミリアさんが、王都に行くので、ついでにアトランティスについての報告をして頂こうかと」

「あぁ、アトランティスが崩壊したからですか?」

「はい。巫女であるミリアさんと連れて行ったルナさんがいれば、正確な報告が出来ると思いますので」


 多分、ミリアが駐在所に来たから、こういうことになったんだと思う。ミリアが来る前は、お別れになると言っていたから。その私の考えを裏付けるように、


『EXクエスト『王都までの道のり』を受注しました』


 とウィンドウが現れた。それにしても、EXクエストってどういうことなんだろう。後で調べて見よう。


「分かりました。王都まで一緒に行かせて貰います。ここから、どのくらい掛かるんですか?」

「徒歩で十二時間。馬車や馬で、五から六時間程ですね」


 これは、お昼抜きパターンだね。お母さん達がいなくて良かった。絶対に怒られるもんね。


「結構遠いんですね」

「そうですね。全力で走って貰えれば、もっと早く着くことも出来ますが、馬にも体力がありますから」

「早速、出発ですか?」

「はい。ルナさんは、馬車にお乗り下さい。私はミリアさんをお連れします」

「分かりました」


 私は、リリさんに案内されて、馬車の中に入る。その後、リリさんはミリアを呼びに向かった。今の内に夜烏とかに着替えて、クエスト内容を見てみよう。


『『団長との繋がり』『アトランティスの巫女との繋がり』を所有しており、一定の親密度を得た者のみ受けられるクエスト。王都までの道のりを楽しめ』


 と書いてあった。どうやら、二人の親密度が高いから、受けられるクエストみたい。そういえば、プレイヤーの中で王都に行った人ってどのくらいいるんだろう? ふと気になったけど、確かめる術がないので、気にしないことにした。


 そんな風に考えていると、馬車の入り口が開いて、ミリアとリリさんが入ってきた。


「ルナさん、おはようございます」

「おはよう、ミリア」


 馬車の中は、対面に座席が並んでいる。私は進行方向に背を向けるように座っている。その向かい側にミリア、私の隣にリリさんが座った。


「いつの間にか着替えてしまったのですね」

「ここを離れるのなら、服装を変えなくても良いと思ったので。それに、街を移動するって事は、戦闘になるかもしれませんし」

「それは心配しなくても大丈夫ですよ」

「そうなんですか?」

「はい。進んで行けば分かります。では、出発しましょう」


 リリさんが背後の壁をコンコンと手の甲で叩くと、馬車が動き出す。馬車は、アトランティス港を出て、王都へと走っていった。


 ────────────────────────


 馬車での移動は順調だった。ただ、問題が一つ……


「お尻が痛い……」

「そうですね。馬車の問題点の一つにされてます。高級な馬車ですと、クッションが敷かれていることがあるのですが、これは、安物ですので」

「高級な馬車って、王族が使うものですよね? シャルが使っているような」

「そうです。一応、位の高い貴族も使っているところはありますが、基本的には似たような馬車が多いですね」


 やっぱりシャルはお姫様なんだなって改めて実感する。そういえば、メアリーさんに海洋言語を教わった帰りにも豪華な馬車を見た気がする。あれも、王族のものだったのかな?


「そういえば、アトランティスについての報告って、誰にするんですか?」


 ちょっと気になって、リリさんに訊いてみた。ミリアも興味津々なのか、リリさんの方に顔を向ける。


「まずは、大臣の方々に報告します。その後は、必要があれば陛下の御前でもお話しして貰う事になりますが、滅多にないことですね」

「どのみち、国の偉い人達の前で報告しないといけないんですね」


 ミリアは、見るからに緊張し始めた。


「ミリア、今から緊張してたら、身体が保たないよ?」

「何で、ルナさんは平気そうなんですか?」


 ミリアにそう言われたけど、理由が思いつかない。


「何でだろう? まだ、その場に立ってないからじゃないかな?」

「すごいです」

「へ? 別に、そこまですごくは無いと思うけど」

「ルナさんって、謙遜をする事がありますけど、時折、自信満々に約束をしたりしますよね」


 ミリアにそう言われると、何かそんな感じがしてきた。そういえば、ミリアをアトランティスに連れて行くって、すぐに約束した気がする。クエストだと思ったからって理由もあるけど、連れて行かなきゃって思いが強かったって感じもする。


「う~ん、自分に出来そうなことはするけど、そうじゃなきゃ約束はしないと思うよ」

「アトランティスに連れて行くって、結構難しいはずですが……?」


 リリさんが苦笑いでそう言った。


「え? でも、マイルズさんが潜水艇を作ってくれましたし、材料集めも……一度死にかけたくらいで、順調に集める事が出来ましたよ」


 レイク・クラーケンとの戦いで、溺れかけたくらいで、他の材料は、蟹以外苦戦しないで採取出来た。その点を見ても、アトランティスに行くこと自体は、そこまで苦戦しなかった。


「ルナさんは運が良かったようですね。通常は、レイク・クラーケンなどに苦戦するはずですが」

「ソルとシエルに助けてもらったからですよ」


 そんな風に、私とリリさんとミリアで他愛のない話をしていた。その最中、何か嫌な気配を感じた。アトランティス港で、黒い服の男に追い掛けられた際に感じたのと似ている。


『『気配感知Lv1』を修得。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』


 スキルを獲得したと同時に、気配の位置が少し鮮明に分かるようになる。私は、馬車に付いている窓から外を覗く。


「ルナさん?」


 突然私が窓の外を見たのでミリアが怪訝な顔をする。


「リリさん」

「大丈夫です。すぐに、アザレア達が対応をしますから」


 リリさんがそう言った直後、馬に乗った団員の一部が気配がある方向に向かっていった。


「この気配は、モンスターのものです。ルナさんも気配を感じることが出来たのですね」

「つい最近からですけど……」

「気配感知は、生涯獲得出来ない人の方が多いと言われています。それを出来る時点ですごいですよ」

「そうなんですか?」


 そんな事を話している内に、気配が消え去った。団員の人達が倒したみたい。


「昨日も思いましたけど、戦乙女騎士団の方々って、ものすごく強いですよね?」

「そうですね。数ある騎士団の中でも上位に位置しますから。そもそも、この騎士団を元々率いていたのは、師匠ですよ」

「確かに、シルヴィアさんが率いていたと言われたら、強いのも納得してしまいますね」

「ルナさん、シルヴィア様を知っているんですか!?」


 シルヴィアさんの名前が出た途端、ミリアが興奮したように顔を近づけてきた。


「う、うん。シルヴィアさんとは友達だけど」

「と、友達!? 羨ましいです!」


 ミリアは、眼を輝かせてそう言った。どうして急に豹変したんだろう。


「師匠は、その強さから熱狂的なファンがいると聞いた事があります」

「あぁ~、なるほど……」


 リリさんが耳打ちで説明してくれたことに納得した。ミリアは、シルヴィアさんファンの一人なんだと思う。それから、ミリアに質問攻めに遭いながら、王都までの道のりを消化していった。時折現れるモンスターは、騎士団の人達が、速攻倒していってくれた。フィールドを移動するからボスと戦うはずだったけど、それすらも倒してくれたようだ。

 結果、私が戦闘を行うことは一切なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る