第53話 アトランシア卿との揉め事!!

 リリさんに捕まえられた私は、アトランティス港にある取調室に来た。取調室があるのは、街の外に近い場所にある騎士団の駐在所みたいな場所だった。

 私は、リリさんと机を挟んで対面に座っていた。


「では、お話を聞かせて貰えますね」


 今度こそ、これまでの事を聞かせて欲しいと言っているはず。


「はい。私は、ミリアを誘拐しました。ですが、それは、ミリアを助けるためだったんです」

「助けるため?」


 リリさんは、首を傾げる。


「はい。私は、ミリアにアトランティスに連れて行って欲しいと言われました。その約束を守るために、監禁されていたミリアを助け出して、アトランティスまで行ってきたんです」

「アトランティスにですか?」

「はい。一応、お伝えしておくと、アトランティスはもう崩壊しました」


 私がそう言うと、リリさんは眼を見開いた。


「崩壊!?」

「はい。ミリアが言うには、停止と同時に崩壊するようにされていたらしいです。まぁ、そういうことですから、私は、ミリアを誘拐したけど、助けるためだったんです」

「そうですか……」


 簡単にだけどミリアを誘拐した理由を伝えた。リリさんは、少し難しい顔をしていた。そんな理由があっても誘拐は許されるような事じゃないってことだよね。


「アトランシア卿の屋敷を調べる必要がありそうですね」

「……信じてくれるんですか?」


 リリさんの言葉に少し驚いた。私の話を全部信じてくれているということだからだ。


「当たり前です。ルナさんは、私に嘘をつくようなことはしないと信じてますから」


 リリさんはそう言ってニコッと笑った。


「ありがとうございます!」

「取りあえず、色々と調べる必要が出てきましたね。ルナさんは、ユートリアに戻っておいてください。騎士団から何名か護衛に出しますので、スムーズに移動出来るはずです。すみません、私達も騎士団なので、見逃すということが出来ずに、こんなところまでお付き合い頂いて」

「いえ、それは仕方ないことですから」

「そう言って貰えると助かります」


 そこに、騎士団の人が入ってきた。そして、リリさんに耳打ちをする。


「それは、本当ですか?」

「はい」

「厄介な……」


 リリさんの様子がおかしいので首を傾げると同時に、取調室の扉が勢いよく開かれた。


「貴様が娘を誘拐したのか!? こんな奴は、即刻死刑だ!!」


 入ってきたのは、ミリアの父だと思われる男だった。でっぷりと太った太鼓腹を揺らしながら詰め寄ってくる。


「アトランシア卿、それは早計かと……」

「うるさいわ! 黙れ!」


 リリさんが話そうとすると、アトランシア卿がすごい剣幕で叫ぶ。


「貴様ごとき小娘が出しゃばるな!!」


 リリさんに向かってそんな事を言い出した。さすがに、私もイラッとする。でも、こんなに激高しているところに何を言っても、きっと無駄に終わる。何か、良い方法ないかな……


「貴様!! 何か言ったらどうだ!?」


 アトランシア卿が私の胸倉を掴もうとするので、身体を退いて避ける。


「き、貴様……!!」


 アトランシア卿の頭が真っ赤に染まっていく。やばそう。何か方法を考えないと……

 そんな私の目に自分の手が映る。


「あっ……」


 私は、アイテム欄から、シャルにもらった指輪を取り出して指に付ける。


「何だ、何をして……!?」


 アトランシア卿が私の手に填まっている指輪を見て狼狽える。


「貴様……いや、貴方様は、王家に連なる……」

「いえ、第二王女殿下に頂いただけです」

「何だと……!?」


 アトランシア卿は、最初の勢いが嘘のように失速した。王族の威厳が強い証拠かな。さすがに、王家に連なっているわけではないから、そこは否定したけどね。


「王家の紋章を持っているということは、王家の代理人と言っても過言ではないんですよ。今までのルナさんに対する無礼の数々が、不敬罪になる可能性もあるんです。最悪の場合は、処刑です」


 あまり状況を飲み込めていないように見られたのか、リリさんがこそこそと教えてくれた。いつの間にか、王家の代理人になっていたみたい。シャルはなんてものを私に渡しているの!?

 だけど、今は、これを使うしかない。


「それじゃあ、少し聞きますけど、なんでミリアを監禁していたんですか?」

「ち、違う! あれは……そう! あいつを守っていただけだ!」


 アトランシア卿は、焦ったようにそう言った。


「守る? ふざけないで! 檻に入れておく事が守るって事なの!?」


 アトランシア卿の主張に、声を荒げてしまう。


「言うことを聞かない娘を守るために仕方なくやったんだ!」

「言うことを聞かない?」

「あいつは、いつまで経ってもアトランティスに行くと言って聞かない! なら、閉じ込めるしかないだろう!」


 アトランシア卿が脂汗を流している。焦っている……いや、緊張している? 


「何で、そこまでして、ミリアをアトランティスに行かせたくないの?」

「それは……」


 アトランシア卿は口ごもる。


「そ、そう! アトランティスは危険だからだ!」

「…………どういう風に?」

「な、何……!?」


 アトランシア卿は、見るからに狼狽えている。アトランシア卿は、ミリアの父……ということは、アトランティスが古代兵器だということは知っているはず、そして、それを止めることが出来るのは、ミリアだけだということも。


「だから、アトランティスのどこが危険なんですか?」

「貴様もアトランティスに行ったのだから分かっているだろう! アトランティスの危険性に!」

「それは、アトランティス内の危険性? それとも、アトランティス自体の危険性?」

「うぐっ……!」


 ここまでの言動なら、ただ娘の身を案じていた親馬鹿と取れなくもないが、色々と疑問点がある。ミリアを閉じ込めるのなら、地下の牢でなくても外から鍵を掛けられる部屋でも良かったはず。それに、アトランティスの危険性? それが分かっているなら、ミリアをアトランティスに向かわせて沈静化させるのが一番だったはずだ。


(いや、待って……何か重要な事に気が付いていない気がする……何が……)


 そんな事を思いつつも、口はアトランシア卿を責めるために動き続ける。


「そもそも、本当にミリアを守るためだったの? それで閉じ込めるなら、鍵の掛かる部屋でも良かったんじゃないの? 何のために檻に閉じ込めるのさ! それに、ミリアのお兄さんも檻に閉じ込めたでしょ!」

「……黙れ! 貴様に何が分かる! あんな化け物が生まれる私達の家系の何が分かるというんだ!? それに! ミリアは、貴重なアトランティスの巫女だぞ! おいそれと外に出すわけにはいかんのだ! アトランシアの悲願を達成するためにもな!」


 アトランシア卿を責め続けた結果、少しずつ真実を言い始めた。


(この調子で引き出せれば、ミリアを閉じ込めた理由が浮き彫りになってくるはず……後は、引っかかっている事を思い出せれば……)


 リリさんは、私とアトランシア卿の口論を静観をしている。しばらくは、私の自由にさせてくれるみたいだ。


「アトランシアの悲願? そんなもののためにミリアを檻に入れたっていうの!?」

「貴様に、我が一族の何が分かる!? のうのうと生きている貴様等平民と違い、私達には、代々伝わる言い伝えがあるのだよ!!」

「言い伝え?」

「ふん、聞いて驚くがいい」


 何かすんなりと喋ってくれるみたい。それに、もう周りが見えていない。ここがどこなのかも、近くにいるのが誰なのかも。


「アトランティスは、私の祖、海洋人が作り出した古代兵器なのだ! 現在は海に沈んでしまい、能力を発揮出来ずにいるが、日に日に月の光を吸収している。近い未来、アトランティスが起動し、世界が沈没する! そして、アトランティスに居を移して、私が世界を統べるのだ!!」


 聞いた事ある事だし、最後に至ってはアトランシア卿の願望だった。


「そのために、ミリアにアトランティスを止められるわけにはいかないと?」

「その通りだ! あいつは、私の言葉に耳を傾けることなく、アトランティスを止めると言い出した! そして、その伝手を手に入れたというではないか! なら、もう外に出す事なんぞ出来ん! もう二度と、そんな事を言い出すことがないように教育してやるつもりだった! それなのに!! 貴様が!!」


 アトランシア卿が、いきなり私目掛けて殴りかかってこようとしてくる。とは言っても、その体型からか動きは鈍い。十分に対応出来る範囲だ。


「ふっ……!!」


 私が対応する前に、間にリリさんが割り込んでアトランシア卿の腕を捻り上げる。


「ぐがっ!」

「アトランシア卿。暴行未遂の罪で捕縛させて頂きます。それと、家宅捜索も行わせて頂きます」

「くそが……」


 リリさんの部下がアトランシア卿の手を縛り上げて、部屋から出す。


「さて、ルナさんも一緒に家宅捜索に来て頂けますか? ルナさんの証言の裏を取らないといけませんから」

「分かりました」

「一応、服装を元に戻しておいてください。場合によっては、争い事が起こる可能性もありますから」

「はい」


 私は、服装を夜烏と黒羽織に戻す。


「それと、戦乙女騎士団の紋章は、見える所に出しておいてください。それだけで、私達の関係者だということになりますから。それと、指輪の方は隠しておいてくださいね。住人の皆さんに見られてしまえば、敬われてしまいますよ」

「それは面倒ですね。分かりました」


 私は、いつも服の下にしまっていた戦乙女騎士団の紋章を服の外に出して、手に革手袋を付けて、指輪を隠す。アイテム欄に戻すことも考えたけど、もしもの時のためにすぐに出せるようにしておいた方が良さそうだからやめた。


「準備完了です」

「では、行きましょう」


 私とリリさん、そして戦乙女騎士団の面々は、ミリアの家に向けて進んでいった。

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