第51話 アトランティス脱出!!
激しい水飛沫を上げて、私とミリアが水の中に落ちる。
(ミリアは……大丈夫そうかな。思ったよりも衝撃が来なかったから助かった……)
そんな事を考えていたら、耳に何かが動く音が聞こえ始めた。
(やばっ!)
私の目には、朧気ながらにデビル・モーレイが泳いできているのが見えた。
(泳ぎでは勝てないし……どうしよう……)
私は取りあえず、水面に上がる。
「ミリア! 大丈夫!?」
「は、はい! ごめんなさい。落ちてしまって」
「それは大丈夫。それより、ミリアは泳げる? さっきの奴が追ってきてる。私が足止めをするから、逃げて欲しいんだけど……」
「いえ、それなら、大丈夫です。息を吸ってください」
「えっ!? う、うん」
私はミリアの言うとおり、息を吸い込む。
「では、行きます!」
ミリアが私を抱きしめて水中に潜った。さらに、ものすごい速度で泳ぎ始める。
(???)
突然の出来事に目を白黒させてしまう。ミリアの泳ぐ速度は、デビル・モーレイをも上回っていた。ここで、私の頭にある事が過ぎる。
(そういえば、ミリアは海洋人の血を引いているんだっけ。アトランティスをつくるあたり、海に生きる種族なんだと思うけど、ここまで泳ぎが得意だとは思わなかったや)
ミリアは、一目散に潜水艇に向かっていった。デビル・モーレイは、距離を離されながらも追うのをやめない。そうこうしているうちに、潜水艇まで辿りついた。
「ルナちゃん! ミリアちゃん!」
「ミリアを引き上げて!」
「分かった!」
ソルにミリアを引き上げて貰う。私は、自力で潜水艇の上に上る。
「早く中に入って!」
ミリア、ソルの順で中に入っていく。私は、ありったけの爆弾を取り出してデビル・モーレイに向けて投げつける。そして、すぐに潜水艇の中に入る。私が入り口を閉めると同時に、爆発が起きた。
「閉めた!!」
「行くよ!!」
潜水艇が勢いよく発進する。
「デビル・モーレイは!?」
「そっちのモニター!」
ソルが正面を向きながら、別の方向を指さす。そちらには、煙……というより気泡で一杯になっていた。それが晴れると、身体のあちらこちらを傷らだけにしたデビル・モーレイが映し出された。
「ソル! どうにか出来ないの!?」
シエルの声が響く。
「少し待って!」
ソルは、レーダーを見ながら様々なボタン、レバーを操作していく。その間にも、デビル・モーレイが動き始める。私達が乗る潜水艇を睨み、追い掛けてきた。
「ミリア、こっちに来て」
「は、はい!」
私はミリアを自分の傍に呼んで近くの席に座らせる。
「しっかり捕まってて」
「分かりました!」
「ルナちゃん! そっちの席に座って!」
「分かった!」
私はソルに言われた席に座る。
「どうすればいい!?」
「目の前のレバーがトリガー! 隣のレバーで前後を入れ替えるから! 今は、前!」
ソルに任されているのは、潜水艇の攻撃だ。照準を定めて引き金を引く。私がいつもやっていることだ。レバーを後ろに倒して攻撃方向を後ろに設定。照準が付いたモニターが出てくる。デビル・モーレイは、まだ遠い。モニターに書いてある残弾数は四発。外してしまえば、倒しきれるか分からない。
引きつける。確実に当たる距離まで。否応なしに心臓の鼓動が早くなる。呼吸も荒くなってくる。私がミスをしたら、皆が死んでしまう……
(集中しろ! 集中しろ!! 集中しろ!!! 集中しろ!!!!)
デビル・モーレイが迫ってくる。すぐそこまで。私は、引き金を引く。撃ち出された魚雷が、デビル・モーレイに命中する。デビル・モーレイとの距離が離れた。まだ、倒せない。
そして、照準が大きく揺れる。
「ソル!」
「ごめん! アトランティスの崩壊のせいか、海流が変わってるの! 揺れを抑えられない!」
歯を食いしばる。こんなに揺れていると、当てられるかが分からなくなる。
焦りが止まらない。当てなきゃ……
私は追ってくるデビル・モーレイに向けて引き金を引く。まだ、遠いにも関わらず……
「…………!?」
やらかした。焦ったあまりに、当たらない位置で引き金を引いてしまった。
(ダメだ。集中を解いちゃダメ! よく見て! いつもやってることでしょ!)
集中しているのに、手が震えてくる。指先から感覚が消える。冷え切ってしまっているみたいに何も感じない。
(怖い……? 何が……? 死ぬのが……? 違う……死ぬのが怖いんじゃない……死なせるのが怖いんだ……)
私達プレイヤーは死んでも復活が出来る。でも、ミリアは、死んだらそれまでなんだ。
(しっかりしなくちゃ……しっかり……)
その時、私の手が温もりに包まれた。
「……っ!?」
温もりの正体は、離れた場所に座っていたはずのミリアだった。
「私は大丈夫です。ルナさんを信じていますから」
そう言って、ミリアは私に微笑んだ。
「でも……」
「大丈夫です。私は死にません。だって、ルナさんが守ってくれるのでしょう?」
ミリアの言葉は、聞く人が聞いたら、プレッシャーを与えているようにしか見えないと思う。でも、私には、それが勇気に変わった。
「そうだね。約束したもんね」
手の震えは止まった。ソルが何とか機体を安定させてくれている。デビル・モーレイが潜水艇を壊そうと口を大きく開けた。
(ミリアを守れないなんて……そんなの私の理想からは程遠いんだから!!)
心の中で叫びながら、照準を合わせて、引き金を二回引く。二連で発射された魚雷がデビル・モーレイの口の中で炸裂し、頭を吹き飛ばした。
「やりました!」
私が何かを言う前にミリアがそう叫び、抱きついてきた。後ろでシエルも小さく手を握っていた。そんな最中、ソルから申し訳なさそうな声がし始める。
「悪いんだけど、完全に海流に捕まっちゃった。水上に上がるのは、時間が掛かるかも……」
「その海流の行く先は分かるの?」
すかさずシエルが問いかける。
「分からない。完全に地図とは違う海流だから」
「まぁ、仕方ないよ。海流から抜け出せるまでは待つしかない」
私は、席を立って中央のテーブルに着く。
「疲れたぁ……」
「お疲れ様。何も役に立てなくてごめんね」
シエルが申し訳なさそうにしている。
「シエルはシエルの役割をきちんとこなしてくれたでしょ? それだけで何も文句は無いよ」
「ありがとう。そう言って貰えると少し気が楽になったよ」
「なら、良かった。そういえば、なんでアトランティスは崩壊し始めたの?」
ミリア達と合流してから気になっていた事を訊いてみる。
「アトランティスを起動させられた際に、別の操作もさせられていたみたいなんです。その結果、アトランティスを停止させる命令をさせたら、アトランティスの崩壊に繋がってしまったというわけです」
「起動させられたって何?」
「えっと……」
その後の話は、聞いた事を完全に後悔した。多分だけど、私の顔は真っ白になっていると思う。
「ルナ、大丈夫?」
「だ、大丈夫! ぜ、全然、平気だよ!」
「……涙目だけど」
「うるさいな! 大丈夫ったら大丈夫なの!」
正直、かなり怖い。さっきより怖いかもしれない。
「えっと、身体を乗っ取られている間に分かった事なんですが、あの巫女は、洗脳を受けていたみたいなんです」
「洗脳?」
不穏な言葉に、少し眉を寄せる。
「はい。私を乗っ取った巫女もアトランティスの起動には反対していたらしいんです」
「海洋人の悲願じゃないの?」
「いえ、どうやら、反対している人は、多かったみたいです。アトランティスは、海面を上昇させて世界を沈没させる兵器だと言われていますが、実際には、違ったみたいなんです」
「どういうこと?」
ミリアは、身体を乗っ取られていた間に、巫女の亡霊の記憶を見ることが出来たみたい。ミリアは、少しずつその内容を話していった。
「海洋人は、地上に住んでいた人達と戦争をしていたらしいんです。そこで、別の大陸にあるディストピアと協力して、古代兵器であるアトランティスを開発しました。ですが、アトランティスには、兵器としての側面以外にも秘密が存在するんです」
ここまでは、アトランティスに置いてあった手記と同じような内容だ。
「アトランティスは、もしもの時に使われるシェルターの役割を持っているんです」
「シェルター……?」
そういえば、アトランティスの中に入ったとき、ミリアが栽培が出来るとか空気の循環とかって言ってた。それが、シェルターとしての機能って事なんだろう。
「何故、そんな機能がついているかというと、大陸が沈んでしまっても、生活が出来るようにするためです。ここまでは、誰でも気が付くことが出来ます。ここからが本題です」
「アトランティスの兵器としての側面。その真実ってやつだね」
「はい。実は、アトランティスの水面上昇は本来の能力の副産物なんです」
「そういえば、太陽と月の位置を変えるって言ってたっけ?」
私は、ミリアと話したときの事を思い出した。
「それも正確には違うらしいんです。動かすのは、月のみとの事でした。そして、アトランティスの本来の用途は……」
「月を落下させる事……?」
シエルが恐る恐る訊く。それに、ミリアが頷いた。
「そうです。アトランティスの能力は、月を引き寄せて地球に落下させることです。そして、能力によって移動させた位置に固定させることが出来ます。なので、アトランティスが崩壊しても、今の位置から変わることはありません」
「じゃあ、海面が今の位置から変わるって事はないんだね」
「はい」
仮に、月が元々の位置に戻るとしたら、今、海に沈んでいる場所が干上がっていくことになる。そうしたら、今のアトランティス港みたいな港町は、船を出せなくなってしまうだろう。
「それと、巫女についても分かりました」
「巫女って、アトランティスの巫女のこと?」
「はい。アトランティスの巫女は、アトランティス起動の鍵ということはご存じだと思います。ですが、何故、私達巫女が鍵になるかは、分からない状態でした」
「そういえば……」
確かに、人が鍵になる理由が分からない。それも、特定の人物がというのは、どういうことなんだろう。
「私達、巫女には、海洋人の中でも王族の血が流れているようなんです。そして、アトランティスの起動には、王族の命を削らないといけないらしいのです」
「「「!?」」」
ミリアと同じテーブルで話を聞いていた私とシエルだけでなく、操縦席にいたソルも私達の方を振り返った。
「ミリアは、大丈夫なの!? 亡霊のせいで、起動状態にされたんでしょ!?」
私はミリアの肩を掴んで顔を近づけた。
「多少、削られたかもしれませんが、大丈夫ですよ。私自身にその実感がありませんし」
「今はないだけで、後から来るかもしれないじゃん!」
「大丈夫です。大半を失えば、不味いですが、先程も言ったとおり、ほとんど削られていませんから」
「本当に……?」
「はい」
ミリアの眼は嘘を言っているように見えない。
「そう……」
私は、ミリアから離れて席に座る。
「これが、私が見たことです」
ミリアがそう言い終わると、潜水艇の中が静寂に支配された。
「そういえば、ミリアちゃんの話の間に、海流から抜け出すことが出来たよ」
そんな中、ソルがそう言った。
「そうなんだ。今の位置は、どこら辺?」
「わからないけど、一応、方角的にはアトランティス港を目指しているよ」
「じゃあ、大丈夫かな」
「それと、これ渡しておくね」
ソルは、アイテム欄から何冊もの本を取り出した。
「これ……どうしたの?」
「あのロボットを倒した後、ルナちゃん達を探すために中央塔を探し回った時に見つけたんだ。すっかり忘れてたよ」
ソルから受け取った本の一冊を開くと、中は海洋言語で書かれていた。つまり、ソルには読めないから私に渡したって事だろう。
「なるほどね。分かった。アトランティス港に着くまでに読んでおくよ」
私達を乗せた潜水艇は、アトランティス港に向けて進んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます