第50話 揺れの正体!!
ルナがプレイヤー達を全滅させる少し前、アトランティスの制御室にソルが駆け込んできた。
「やっと、見つけた!!」
「えっ!? ソル!? 無事だったの!?」
いきなり現れたソルにシエルが驚く。
「うん。ちょっと手こずったけど、ちゃんとトドメを刺しておいたよ」
ソルは、何とも無しにそう言った。実際、ルナ達と別れてから約五分でけりを付けていた。どのような技を使ったのかは、ソルにしか分からない。
「それより、ルナちゃんは? 一緒に来てないの?」
「それが……他のプレイヤーが来たから、対処しに行ったんだ。窓から飛び降りて」
「えっ!?」
シエルの言葉に、さすがのソルも驚きを隠せなかった。
「無事なの!?」
「うん。アーニャさんから貰った、あのハープーンガンだっけ? それを使って普通に降りていったよ」
「う~ん、ルナちゃんらしいといえば、ルナちゃんらしいのかな」
「あれで、なんでロッククライミングに苦戦するのか分からないよね」
ソルもシエルも呆れ顔だった。
「そういえば、ミリアちゃんの調子は良いの?」
ソルは、台座の上で祈りを捧げているミリアを見ながら訊いた。
「私達の言葉は届いてないみたい。すごい集中力……なのかな?」
「これでアトランティスが止まるんだよね?」
「ルナは、ちゃんと止まるって言ってたよ」
「それなら、良いけど……」
ソルがそう言った直後、いきなりアトランティスが揺れ始めた。
「な、何!?」
「分からない! でも、これってヤバいんじゃ……!」
ソルとシエルは、近くにあるコンソールの縁を掴んでなんとか耐えようとしている。
「ちょっ! ソル! あれ!」
シエルがミリアのいる台座の上を指さす。
「!?」
それを見た瞬間、ソルの顔も少し凍り付く。
ソル達の見ている先にいたのは、半透明の幽霊だった。その姿は、ミリアに似ている。つまり、ミリアと血の繋がりがある者……海洋人だということだ。幽霊は、ミリアと同じように祈りを捧げている。半目に開かれた目は赤く輝いていた。
「コンソールが……」
シエルは、いきなりコンソールが赤く染まっていったので、驚いた。
「もしかして、これって起動の方になったんじゃ……」
「じゃあ、あの幽霊のせいだって事だね」
シエルは、少し焦っているが、ソルの方は少し冷静だった。幽霊が姿を現している事で、これがミリアの仕業だということがなくなったからだ。
「はっ! まずい!!」
幽霊を睨んでたソルが不意に大声を上げた。
「ど、どうしたの!?」
突然の大声にシエルも驚く。
「ルナちゃんが戻ってくる前にどうにかしないと……」
「しないと?」
「ルナちゃんが発狂するかもしれない……」
「ああ……ルナって基本的に怖い話とか平気なのに、幽霊だけは苦手だもんね……」
ソルとシエルの心配の矛先はルナへと向かっていた。
「そんなこと言ってる場合じゃなかった! あの幽霊をどうにかしないと! でも、幽霊に攻撃なんてどうやって与えれば……」
シエルのプティ、ガーディは実体を持つ相手にしか攻撃出来ない。そもそも、通常のプレイヤーは、実体を持たない相手にたいする攻撃手段を持ち合わせていないのだ。
「私ならいける」
ソルは、アイテム欄からアーニャに貰った脇差しを取り出す。
「そうか。ソルは、アーニャさんから特別な脇差しを貰ってたんだっけ」
「うん。確か、実体のない相手にも有効だって言ってたから、幽霊にも有効なはず!」
「でも、こんな揺れの中で、まとも攻撃することなんて出来るの!?」
「出来る。空中なら関係ない」
ソルは、そう言うと、揺れる地面の中、クラウチングスタートの姿勢になり、一気に跳び上がった。
「抜刀術『朏』!!」
いつもよりも遅いタイミングで放った抜刀術は、寸分の狂いなく、幽霊を斬り裂いた。幽霊は、自分が斬られた事に驚いたのか、目を見開いたが、すぐ後に優しげに微笑み、消え去った。
それと同時に、アトランティスに揺れが収まっていく。
「コンソールが青くなっていく。意外と呆気なく終わったね」
「うん……」
「どうしたの?」
ソルが浮かない顔をしている事に気が付いたシエルが訊く。
「うん。私が斬った幽霊が最後に微笑んだんだ。アトランティスを起動させたかったんなら、普通は怒った顔をするはずでしょ?」
「って事は、その人も望んで巫女になったわけじゃないのかな?」
「でも、幽霊になってまで起動させようとする?」
「う~ん、どうなんだろう」
ソルとシエルは答えの出ない問題に悩まされていると、再びアトランティスが揺れ始めた。先程よりも弱い揺れだが、二人はすぐに警戒をする。
「また!?」
二人は、一斉にコンソールの方を向くが、赤く変色はしていない。
「どういうこと?」
「分からないけど、用心をしておいた方が良さそう。プティ! ガーディ! こっちに来て!」
シエルは自分の傍にプティとガーディを呼びつつ、ミリアの傍に移動する。ソルは、窓際に駆け寄って外を確認した。その瞬間、ソルの顔が強張る。
「嘘……」
「どうかした、ソル?」
ミリアの傍にいるシエルが、ソルに問いかける。
「まずい! アトランティスのドームが崩れた! 水が入り込んでる!」
「えっ!? ど、どうしよう!?」
ソルが見た光景をシエルに伝えると、シエルは慌てだした。アトランティスは、海の底にある。ここから海面まで頑張って泳いでも十分以上掛かるだろう。シエルが焦るのも無理は無い。
「ミリアちゃんは!?」
「まだ祈ってる!」
ミリアの祈りが終わらない限り、ソル達は動くことが出来ない。どうしようもない現状、ソル達の焦りばかりが募っていく。
────────────────────────
突然起きた揺れが、止まったかと思ったら、さっきよりは弱い揺れがまた始まった。
「どういうこと?」
私は疑問に思い、辺りを見回す。すると、少し遠くで轟音が鳴り始めた。
「なに!?」
そちらを向くと、天井から水が滝のように落ちてきていた。
「…………」
その光景に少しだけ頭が白くなった。でも、すぐにそんな事言っていられなくなった。天井からの滝は、その一本だけでなく何本も落ちてきていたからだ。
「やばっ! 避難しないと!」
私は、近くの建物の屋根に登って、屋根伝いに中央塔に向かっていく。下の通路を見てみると薄く水が張っているのが分かる。
「この勢いだと、沈没するまでそう時間は掛からないよね……」
そう呟いたと同時に、下の通路に張った水に何かが流れているのが見えた。
「何あれ?」
走りながら目で追っていくと、それは流れに逆らっているのが分かる。そして、水の中から飛び出すと私に向かって体当たりをしようとしてきた。
「……っ!」
私は、反射的に黒影を引き抜いて、斬り裂く。体当たりをしてきたのは、赤い魚だった。名前はレッド・フィッシュと見たまんまの名前だった。レッド・フィッシュは、しばらく悶えてから絶命した。
「モンスターも入り込んでる。アトランティスを停止させるって事は、アトランティスを崩壊させるのと同じだったって事?」
レッド・フィッシュの体当たりを皮切りに様々なモンスターが同じように体当たりをしようとしてきた。私は黒闇天を引き抜き、銃弾とナイフで対応をする。
「数が段々増えてる。強さはそれほどじゃないから、簡単に対応出来るけど……」
中央塔に近づくにつれというよりも、水の量が増えるにつれてという感じがする。
「ソルは大丈夫かな? ミリアの祈りが終わってくれていると助かるんだけどなぁ」
ミリアがアトランティスを停止させるまでは、逃げることは出来ない。
「う~ん、もしかして、アトランティスの停止=崩壊なのかな?」
そんな考えが頭を過ぎったけど、すぐに考えていることが難しくなった。モンスターの量がいきなり増えたからだ。
「邪魔だよ!」
飛びかかってくるモンスターを片っ端から倒していく。でも、数が多すぎて全く前に進めない。銃、ナイフ、脚を使って、倒していると、中央塔の三階辺りからガラスが割れる音がした。
横目にそちらを見ると、シエル、ソル、ミリアが乗ったプティとガーディが飛び出してきた。
「さっきの考えが当たりなのかな」
ミリアは祈りを終えても、アトランティスの崩壊が止まらない。ということは、停止=崩壊という意味になる。取りあえず、不味い状況になってきたと言えるかな。
ソル達は、私と同じように屋根伝いに、こちらに向かって走ってきた。
「ガーディ! 狼人形術『ウルフ・バイト』!!」
プティはガーディを先行させた。そして、ガーディの口が三倍くらいに大きくなると、私の周りにいるモンスターを一気に噛み砕いた。
「ルナちゃん!」
ソルが走るプティの上から手を伸ばす。私が、ソルの手を掴むと、一気に引き上げてくれた。
「ありがとう。これってどうなってるの?」
「実は色々あって、アトランティスを停止させたら、崩壊してしまったんです」
「色々が滅茶苦茶気になる……」
「それは、生き残った後にしよう。取りあえず、今すぐ潜水艇に戻らないと!」
確かに、シエルの言うとおりかもしれない。
「でも、潜水艇の場所は分かるの? この水のせいで流されているかもしれないでしょ?」
「大丈夫。ガーディが潜水艇の匂いを覚えているから」
シエルがそう言うと、ガーディがその通りだとばかりにちらっと振り返った。
「そういえば、ソルも無事だったんだね」
「うん。手こずったけど、結構早く倒せたよ。それで、あの中央塔で色々見つけたん……」
ソルの話の途中で、ドンッと重たいものが落ちてきたような音が聞こえた。
「何の音!?」
私達が音のした方、私達の後ろを見ると、そこには、大きな……とても大きなウツボの姿があった。大体、二十メートルくらいあるかも。
「デビル・モーレイ……見た感じウツボだね」
「何か、こっち見てない?」
私とソルは互いの顔を見てからすぐにシエルの方を向いた。
「スピード上げて!」
「プティ! ガーディ!」
私の声にシエルが反応して、プティとガーディに呼び掛けた。二体のスピードが少し上がる。それと同時にデビル・モーレイが、私達に向かってきた。
「そのまま潜水艇まで急いで!」
私は黒闇天を引き抜いて、デビル・モーレイに向けて引き金を引いていく。ただの銃弾じゃ、あまり効果がないみたいだった。
「とにかく倒すしかないかな」
私は、黒闇天のマガジンを入れ替える。
「『夜烏』」
私の撃った弾丸が夜烏の姿になり、デビル・モーレイに飛んでいく。夜烏のホーミング機能でデビル・モーレイの頭に命中する。すると、デビル・モーレイの頭が段々と凍っていった。その結果、動きが若干鈍くなる。
「今のうち!」
「分かってる!」
デビル・モーレイの動きが鈍いうちに距離を稼いでいく。そして、その間にも氷結弾を撃っていった。
「大分凍り付くけど、全体に広がらない。レイク・クラーケンよりも強いのかもしれない」
「雷の弾とかはないの?」
シエルが前を向きながらそう言った。
「無理。私の銃弾精製は見た事がある弾か、この世界で情報を見た事ある弾しか精製出来ないんだ。氷結弾は、図書館で見つけた本に書いてあったから精製出来るけど、雷のはない」
「便利だけど、不便なスキルだね」
「まぁね。取りあえず、このまま攻撃を続ける」
私は、マガジンをエクスプローラー弾に入れ替えて、デビル・モーレイに撃っていく。そんな最中……
「ガーディが、潜水艇を見つけたみたい!」
シエルから、そんな声が飛んできた。
「分かった!」
それと同時に、デビル・モーレイが氷を砕いてものすごい速度で泳いでくる。口を大きく開けて、私達を食べようとしているみたいだ。
「そんなに食べたいんなら、これでも食べておきな!!」
私はアイテム欄から、アーニャさんに貰った爆弾を取り出して、デビル・モーレイの口に向けて投げる。口を大きく開けていたデビル・モーレイは、それを避けることなく、飲み込んだ。
その一瞬後、デビル・モーレイの口の奥の方で光が発生する。
ガアアアアアアアアアアアアア!!
デビル・モーレイは、身体をうねらせ悶え苦しむ。
「飛ぶよ!」
シエルの声が聞こえると同時に浮遊感を感じた。プティが、潜水艇に向けて飛んだらしい。
「きゃっ!?」
戦闘の邪魔にならないようにしていたミリアが、プティが飛んだことでバランスを崩して、プティの上から落ちかけている。
「ミリア!」
私は、ミリアの手を取って引き上げようとするのだけど、片手に黒闇天を持っていたせいで、プティの上に身体を固定することが出来なかった。
「やばっ!」
「ルナちゃん!?」
結果、私もミリアと一緒に落ちていった。下は、大量の水が張ってあるけど、中がどうなっているのか分からない。せめて、ミリアに衝撃が来ないように抱きしめて落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます