第49話 アトランティスを停止せよ!!

 私達は、アトランティスの制御室のある最上階まで走って行く。アトランティスの中央に建っているこの建物は全部で十階まである。でも、ここにはエレベーターがないから、階段を駆け上がるしかない。


「ミリアは、アトランティスの停止の仕方は知らないの?」

「一応、知ってはいますが、本当にそれで止まるかは……」

「やってみるしかないって事だね。ルナは、場所をちゃんと分かってるんだよね?」

「うん。ちゃんと、覚えてるよ」


 私の後ろからついてくるシエルが、少し不安そうにしていたけど、私がしっかり覚えているから大丈夫だ。多分。


「ガーディ! そこ、左!」


 私がそう言うと、ガーディが左に曲がる。そして、しばらく走ってから、立ち止まった。


「ここが、制御室のはず……」


 私はミリアを地面に降ろしてから、扉に手を掛ける。


「ルナ?」


 いつまで経っても扉を開けない私にシエルが声を掛ける。


「開かない……」


 扉は押しても引いてもびくともしない。鍵が掛かっている感じはしないんだけど。


「ふん!!」


 いっそのこと思い切って扉を壊すつもりで扉を引くと、少しだけ扉が開いた……横に。


「…………」

「ルナ?」


 さっきと同じ言葉なのに、そこに込められている想いが全く違う。気まずい空気の中。すぅ~~っと引き戸を開けた。


「さっ! 中に入ろう」


 私はそう言って、中に入った。念のため、片手は黒闇天に添えておく。中は、色々なコンソールがついているけど、私達には扱えそうになかった。未知の技術過ぎる。


「ミリア、どのコンソールを使うの?」

「えっと……」


 ミリアは、制御室を歩き回って目当てのコンソールを見つける。


「これです!」

「これって、電源入ってるの? 全部真っ暗だけど」


 シエルは、そう言いながらコンソールの裏側とかを見ていく。電源を探しているのかもしれない。


「多分、触ったら起動するかと」


 そう言って、ミリアがコンソールに触れると、全てのコンソールが光り出した。そして、海洋言語で様々な事が書かれ始める。


「アトランティス起動……ってなってるけど?」

「睡眠状態から解けたみたいですね。では、アトランティスを停止させます。ただ、かなり時間が掛かるので」

「うん。待ってるよ」

「ありがとうございます」


 ミリアは、制御室にある台座に登った。そして膝を付き、手を組んで祈りを始める。コンソールが青く光り始めて、様々な文字列が流れ出す。流れる文字が速すぎて、私にもあまり読むことが出来ない。何とか読めたのは、アトランティス停止の文字だった。


「ちゃんと停止に向かって進んでるみたい。後の問題は、ソルかな」

「ソルなら大丈夫だと思うけど。加勢に向かう?」

「ううん。そこはソルに任せて良いと思う。私達は、ミリアの祈りを妨害させない事に集中しないと」


 私はそう言いながら、周りを見回す。すると、一つのコンソールの上に、本が置かれていた。それは、革装丁された手記みたいだった。それを手に取って中身を読んでいく。


『アトランティスの機能は、海面操作、海流操作、空気循環、防護フィールドと多岐に渡る。これらは、起動状態にあれば、いつでも操作可能なものだ。

 また、アトランティスの起動、停止には、巫女の祈りを必要とする。祈りの台座にて、祈りを捧げることでアトランティスに干渉することが出来るのだ。巫女は、アトランティスの鍵としての役割を担う。

 アトランティスの開発には、異国のディストピアから技術提供があった。そのため、アトランティスの守衛として、『機械騎士』を一体贈与された。これらの起動には、巫女の祈りを必要としない。自動的に、中央塔を守るようにプログラムされているらしい。

 これで、この戦争において、我らの勝利は約束されたようなものだ。アトランティスの真の能力を知ったとき、奴等はどんな顔をするのだろうか。今から楽しみで仕方がない』


 手記には、それしか書かれていない。その後は全部白紙だった。その場で思い立って書いたのかもしれない。


「何かめぼしい情報はあった?」

「ううん、あまり、何か真の能力があるらしいけど。それについては書かれてなかった」

「そうなんだ」


 そう話していると、外の方で大きな音が鳴り始めた。


「何の音!?」


 私とシエルは、窓に音がした方の窓に張り付く。


「ソルが苦戦しているとか?」

「ううん。それにしては、音が離れすぎてた。あそこだ。光が飛び交ってる。多分、他のプレイヤーだ……」

「そういえば、マイルズさんが言ってたね。他にも潜水艇を作っている人達がいるって」


 私達は、光が飛び交うアトランティスの端の方を見る。私達が、潜水艇を留めた場所とは違うから、私達の潜水艇は無事だと思うけど、少し心配だ。


「ねぇ、あの人達って、多分中心に向かってくるよね?」


 シエルが真面目な顔でそう言う。


「確かに、多分だけど、アトランティスの財宝か何かを探しているんだろうし。中央塔は目立つからね」


 私とシエルは、互いに顔を見合わせる。あの人達がくれば、ここでも戦闘になるはず。そうしたら、ミリアの祈りが邪魔されるかもしれない。


「私が行く」


 そう言ってシエルが部屋から出ようとする。


「待って!」


 私は、今にも飛び出しそうなシエルを呼び止める。


「集団戦になってるなら、私の方が適任だと思う。シエルは、ミリアを守っておいて」

「でも、私にはプティとガーディがいるよ?」

「シエル自身を狙われたら困るでしょ? ああいう場所だったら、身を隠せるし、私の方が得意だと思う」


 私はシエルの方に歩いて行く。


「だから、ミリアをお願いね」


 シエルの肩を掴んで、眼をまっすぐ見る。シエルは、少し迷ってから私の眼を見返す。


「うん、分かった。気を付けてね」


 私はシエルに手を振り、一度だけミリアを見て、飛び降りた。


「え!? ルナ!?」


 シエルの悲鳴交じりの声が響く。私は、上を向いてハープーンガンを撃つ。中央塔の壁にハープーンが刺さる。ハープーンを軽く巻き戻して、落下速度を減少させる。三階くらいまで降りたら、ハープーンを外して、壁を蹴りつける。そして、ハープーンを一気に巻き戻し、近くの家の壁にハープーンガンを撃つ。それを巻き戻した勢いを使って屋根の上に着地した。


「ふぅ……怖かった……」


 軽く息を吐いてから、屋根の上を走って、戦場へと向かう。


 ────────────────────────


 戦場では、魔法が飛び交い、沢山の剣戟が起こっていた。陣営は二つに分かれていて、互いに二十人程いる。


「適当に数を減らしていこうかな」


 私は黒羽織のフードを目深に被って、サプレッサーを付けた黒闇天と黒影を抜いて、屋根から路地に降りる。そして後衛で、魔法を使っている一人の頸椎に向けて、逆手に持った黒影を突き立てる。


「あがっ!」


 それを引き抜いてから別の人の頭を黒闇天で撃ち抜く。これで、二人を倒した。不意打ちの効果を持った黒影はかなり強い。弱点を正確に狙えば、一撃で倒す事も出来た。

 消音と潜伏を使って、私自身を常に隠しておく。少し移動したところにいる魔法使いの一人を黒闇天で撃ち抜き、近くにいたもう一人に取り付いて、口を塞ぎ、喉を斬り裂いた。その人は、声を出そうとしているけど、喉をやられたため、空気の抜ける音しかしない。その人の頭に黒闇天を突きつけて、引き金を引く。そして、すぐに別の場所に移動した。


 こうした暗殺を繰り返して、片方の戦力を削ぐ。音と気配を絶っているので、気付かれるということは少なかった。気付かれたら、すぐに黒闇天で撃ち抜いていたから、他の人にバレるという事もない。ある程度倒したところで、一度、近くの建物に入った。


「ふぅ……そろそろバレるかもしれないかな」


 窓から少し覗くと、片側の陣営が後衛の数が減った事に気付いたばかりだった。


「おい! 後衛がいなくなってるぞ!?」

「なっ!? 何でだ!?」


 片方の陣営が混乱している間に、私は、もう片方の陣営の後ろまで移動する。


「私のやってることって、暗殺者みたいだよね……」


 なんとなくだけど、私の強みが分かってきた気がする。正面きった正々堂々とした戦いよりも、こうして暗躍している方が良いと思う。


「よし! 取りあえず、全滅させよう! あの勇者みたいなのがいなければ、多分大丈夫だよね」


 私は、再び背後から襲い掛かる。黒影による不意打ちの弱点攻撃や、黒闇天で頭に風穴を開けて、数を減らしていく。


「おい! こっちに敵がいるぞ!」


 ある程度減らしたところで、前衛にいた人にバレた。


「やばっ! なら、こそこそしないでやるだけ!」


 私は、乱戦となっている戦場に入っていく。私目掛けて振われる剣を当たる直前に真横に避けて、相手の脇腹に膝をめり込ませる。


「うぐっ!」


 そのままの回転して、逆手に持った黒影を首に突き立てる。その黒影を抜かずに引っ張り、差した相手を自分の前に持ってきてから、槍を持って突撃してくる人に向けて蹴り飛ばす。

 その人は、仲間同士だったらしく、槍を引いて受け止める。そこに、黒闇天の引き金を二回引いて両方の頭を撃ち抜く。兜を被っていたら厄介だったけど、何の防具も着けていなかったから、一撃で倒せた。


「この野郎!!」


 仲間を倒された事で激高した人が剣を構えて突っ込んでくる。私は、無慈悲に黒闇天の引き金を引いて頭を撃ち抜いた。


「銃を持ってるって知ってるんだから、無策で突撃をしたらダメでしょ……」


 さすがに呆れてしまう。すると、今度は、二人掛かりで私を囲ってきた。二人とも持っているのは剣だ。


「はああああああ!!」

「やああああああ!!」


 二人は、私を挟んで突っ込んできた。二人ともフルフェイスの兜を被っているので、頭を撃ち抜けない。私は、黒影を仕舞って、吉祥天を取り出す。


「『夜烏』!」


 夜烏のスキルを、使う。吉祥天の能力は『薬効上昇』で、さらに幸運を意味している。だから、麻酔弾の効果がかなり上がるんだと思う。

 私の予想は当たった。吉祥天から放たれた夜烏は、敵の一人に命中した。命中した相手は、一瞬で眠りにつき、頭から倒れていった。

 もう一人の方の剣が、背後から振られる。それが、私に届く直前にバックステップをして、自分から相手に近づく。間合いを詰めたから、剣の殺傷範囲から抜け出せた。そして、相手の鎧に手のひらを当てる。


「体術『衝波』!!」

「うえっ……!」


 相手の身体に衝撃が突き抜ける。相手は膝を付く。うずくまっている間に、吉祥天と黒影を入れ替えて、相手の首を斬り裂く。麻酔で眠っている方も、同じく首を斬り裂いた。

 乱戦は、より酷くなっていく。両陣営が入り乱れて、私が暗躍した結果、混乱が広がっていった。つまり、私のつけいる隙が多くなっているということだ。程なく、両陣営を全滅させることに成功した。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 さすがに、敵の量も多かったので、かなり疲れた。さっさと、ミリア達のところに戻ろうと思っていると、いきなり地面が揺れ始めた。


「わわわ!!」


 何とか倒れないように踏み留まった。でも、揺れはまだまだ続いている。


 (今度は何が起ころうとしているの!?)

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