第48話 アトランティスを攻略!!

 私達は、アトランティスの入り口まで何の問題も無く到着することが出来た。小型のモンスターが海の中を泳いでいる所は見えたけど、大型のモンスターがこちらを襲う事はなかった。というか、そもそも存在を見つけることも出来なかった。


「水棲モンスターに、大型のものはいないのかな?」

「いえ、そのような事はありません。この近くにも存在はするはずですよ」


 シエルの疑問に、ミリアが答える。


「じゃあ、ただ単に運が良かっただけだね」


 シエルは、そう結論づける。まぁ、私も同じ考えだけどね。


「というか、ソルの運転うまくない? 少し教えて貰っただけで、こんなに操縦出来るもの?」

「意外と簡単だよ。でも、ルナちゃんは、きちんと習ってないからダメだよ」


 ソルは、ハンドルを握って正面のモニターを見ながら、色々なレバーやボタンを使って何かを調整している。そして、さりげなく私に釘を刺してきた。ちょっと操縦してみたいと思っていたのに……


「本当に、ソルは昔から天才肌だよね」

「そう? ルナちゃんも変わらないと思うけど?」

「それはない」


 ソルは、昔から、何でもそつなくこなす。すごいときには、今の様に簡単に教えてもらっただけでも、一般人以上に上達することもある。才能の塊みたいな子だ。


「アトランティスから帰る時に、少し教えてあげるよ」

「ありがとう」


 ソルから操縦の仕方を教えて貰えることになった。でも、帰りにだから、今はお預けだ。


「じゃあ、あの入り口から中に入るよ。中がどんな感じになってるか分からないから、きちんと席に着いていて」

「分かった」


 私とシエル、ミリアは、近くにある席に着いた。それを確認したソルは、潜水艇を浮上させていき、アトランティスの下部に開いている穴を通って行く。すると、何かに引っかかったのか、ガタガタと揺れ始めた。


「ソル、大丈夫なの!?」

「う~ん、大丈夫。海流に乗っかったみたい。こっちで微調整すれば、そのまま上まで運んでくれそうだよ」


 ソルは色々な計器を見てから、そうやって返事をした。実際に動かしているソルが言うから、大丈夫だと思うけど、少し不安だ。


「もうすぐ、水上に着くよ」


 海流に乗れたからか、考えてた以上に速く移動出来ているみたい。


「少し揺れるよ!」


 ソルの言葉の二秒後に、本当に少し揺れた。


「ふぅ……もう大丈夫だよ。少し移動するけど、潜航することはないから」


 ソルの言葉で、今度は安堵感が押し寄せてきた。まだ、アトランティスに着いただけだけど、一つの難関を越えたと言ってもいいと思う。


「移動って?」

「まだ、岸が近くないんだよね。少し行ったところに波止場があるから、そこに向かってる」

「本当だ。波止場がある。元々、水上都市だったのは、本当みたいだね」

「そうですね……」


 モニターに映るアトランティスは、一見ただの都市そのものだ。


「波止場に着いたよ。もう、外に出ても大丈夫」

「分かった。じゃあ、私が先に出て辺りを確認するから、ソルとシエルは、ここでミリアを守ってて」

「了解」


 私は、三人を置いて潜水艇から出て行く。勿論、片手に黒闇天を握った状態でだ。身を低くしつつ周りを見て、潜水艇の上から降りる。


「地面はしっかりしてる。浸水してるとかはないみたい」


 私は地面をしっかり踏みしめて確認した。地面は石畳で出来ていた。所々、劣化のせいかひび割れてはいるけど、水が染みこんでいるということはなかった。ぐらつくこともない。


「雑草? この下はただの土なのかな?」


 ひび割れた石畳から雑草が生えてきていた。アトランティスが沈んだ街だとしたら、この下が土だというのも納得だけど、こんな環境下でも生えるものなんだ。


「物音は全くしない。人はいない感じかな」


 取りあえず、港の周りは安全みたい。私は、潜水艇まで戻って、入り口から声を掛ける。


「大丈夫そう」

「分かった」


 ソルの返事が聞こえると、まず、ソルから出てきて、シエル、ミリアと続いてきた。


「ここがアトランティス……思ってたよりも普通の都市だね」

「そうだね。それで、まずはどこに向かえばいいの?」


 シエルは、周りをキョロキョロしながら、そう訊いた。


「えっと、制御室に向かえば、私がどうにか出来るのですが……」

「肝心の制御室が何処にあるかが分からないんだよね?」

「はい」


 アトランティスは、外から見たときに分かっている通り、かなり大きい。それこそ、地上の都市よりも大きいかもしれない。そんな中から、制御室を見つけ出さないといけない。


「う~ん、重要な機関なら、街の中央とかにあるんじゃない?」

「その可能性は高いよね。まずは、中央を目指してみよう」


 ソルの一言で、取りあえず、アトランティスの中央を目指すことになった。先頭からソル、ガーディ、ミリア、私、シエル、プティの順で歩いていく。戦闘経験のないミリアを守るために、中心にいてもらう。


「ミリア、大丈夫? 何かあったら言ってね?」

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


 ミリアの体力とかを心配したけど、今のところ大丈夫そう。後ろには、プティがいるし、前にはソルとガーディがいる。万が一のことがあっても、対応は出来るはずだ。

 アトランティスの地形は平坦なもので、中央に続く道の先が見えるようになっている。私達が歩いているのは、恐らくだけどメインストリートみたいなものだと思う。そう思えるくらい、道幅が広い。


「物音が一切しないね。ルナちゃんは何か聞こえる?」

「ううん、私も聞こえないよ。誰もいないみたい。いや……!」


 私達の足音以外何も聞こえなかったけど、急に遠くの方で音が聞こえた。私の様子が急に変わったので、皆の動きが止まった。


「どうしたの?」


 シエルが険しい顔で訊いてくる。


「遠くで音が聞こえた。場所は、ここから斜め前の方に向かった辺りかな」

「距離は分かる?」

「ううん。遠いってことしか分からない」

「じゃあ、進むしかないね。ガーディ、私達以外の匂いがしたら知らせて」


 シエルがガーディにそう命ずると、ガーディは無言で頷いた。ガーディには特殊な能力があり、狼らしく鼻が利くらしい。人形なのに……


「私が先行してもいいけど?」

「今は、団体行動をしておこう。ルナは、一人でも行けるかもしれないけど、抜けた穴は大きくなっちゃうから」

「分かった」


 私が先行することを提案したけどシエルに却下された。理由も当然のものだったから、納得した。


「取りあえず、警戒はしとかないとね。ここの空気もどのくらい保つか分からないし」


 ソルは、アトランティス内の空気を心配していた。


「大丈夫だよ。この中でも風が吹いてるでしょ? アトランティス内では、魔法による空気の循環がされているらしいんだ。それは、アトランティスが起動状態にあるなら、常にされているはずだから、空気は大丈夫なはず」


 私は、禁書庫にあった本に書いてあった事を伝える。アトランティスは、元々海面を上昇させる能力を持っているので、沈んだときのことを考えれば、当然の処置だと言える。


「へぇ~、そこは意外としっかりしているんだ」

「まぁ、暮らすことを想定したらそうなるのかもね」


 私の説明に、ソルもシエルも納得したみたい。


「後は、太陽光を模した明かりを使って、暗闇の中でも作物の栽培も出来たらしいです。今のエネルギーが低い状態では、動いているのか分かりませんが」


 ミリアが、追加の情報をくれた。そういえば、そんな事も書いてあった気がする。


「そんな便利な都市がどうして、滅んでいるんだろう?」


 シエルが出した疑問に、私とソルも少し首を傾げる。それについては、禁書庫の本にも書いていなかった。私は、勝手に沈んだから滅んだと思っていたんだけど、こんな便利な施設が揃った都市に住んでいたら、そう簡単に滅ばない気もする。


「ミリアは何か知らないの?」


 私はミリアなら知っているのではと思い訊いてみた。


「いいえ、私も知りません。我が家に伝わっているのは、アトランティス港に逃れることが出来たという事くらいです」

「何から?」

「ごめんなさい。それも分からないんです」


 古代海洋人は、一体何から逃げたのだろう。天敵でもいたのかな。いや、多分違う。


「戦争……?」

「「「!!」」」


 頭の中で考えていた事が、口に出ていたみたい。私がそう呟くと、ソル達がハッとした顔になった。


「その可能性は、高いかもしれません。当時、古代海洋人は、危険な兵器を持っていましたから」


 ミリアの言う危険な兵器とは、アトランティスの事だと思う。アトランティスが沈んで使えなくなったのも、その戦争が原因かもしれない。


「今は、考えても仕方ないし、先に行こう」


 私達が話し合っても答えが出るわけではないので、皆を促して先を急ぐ。それから、十分くらい歩くと、中央にそびえ立つ巨大な建築物に辿り着いた。


「でかいね……」

「うん。それに、ここまでの家もだけど、全然風化してない。地面は、割れたりしているけど、家は崩れ落ちているものは一つもなかった」


 私達がここまで来る中で、崩れている家は一つもなかった。だから、多分、私達が中に入っても崩れ落ちるなんて事はないと思うんだけど。


「私が先行するから、ついて……」


 ソルが先行して中に入ろうとすると、横から大きな塊が入り口の前に現れた。私達は、後ろに飛び退いたので全員無事で済んだ。ミリアは、私がお姫様抱っこして避けたので、大丈夫だった。


「ありがとうございます……」

「ううん、ミリアは絶対に守るから、安心して」

「は、はい」


 ミリアは、顔を赤くして両手で覆っている。また、変な事言ったかな。それに、ソルとシエルからジト眼で見られている。なんだか居心地が悪いような気もするけど、とにかく、目の前の敵に集中しなくちゃ。


「あの敵ってミリアは知ってる?」

「遠くの異国であるディストピアで作られている機械人形に似ています」


 私達の目の前にいるのは、高さ十メートル以上のロボットだった。あの機械の身体だと、私の銃じゃ勝ち目が薄いかもしれない。


「ルナちゃん、シエルちゃん。ここは私に任せて、先に行って」


 ソルが前に出てそう言った。


「でも、あの巨体を一人で相手にするのは危険だよ!」

「大丈夫。私なら、どうにでも出来るはず。だから、先に行って!」


 ソルの眼に覚悟が満ちていた。でも、それは、負けるかもと覚悟しているわけじゃなく、絶対に勝つという覚悟だった。


「分かった!! 絶対に勝ってよ!!」


 私はそう言い残すと、ミリアを抱いたままロボットの横を抜けていく。ロボットはそれを防ごうと腕を伸ばしてくる。その攻撃は、私の前に現れたソルが真上に斬り払う。その隙を突いて、シエルも一緒に建物の中に入った。


「えっと、近くに地図はない!?」

「あそこ!!」


 建物の見取り図を探していると、シエルが見つけ出してくれた。


「あんな奴が守ってるんだから、ここは重要な施設のはず!」

「うわっ! 何この文字!?」

「古代文字だよ。海洋言語。私は読めるから大丈夫」


 地図に書かれていたのは、海洋言語だった。メアリーさんから教わっておいてよかった。


「えっと……ここじゃない……ここでもない……あった! ここだ!」


 私は地図に『アトランティス制御室』と書かれているのを見つける。


「屋上近くだね。急ごう。ミリア、しばらくこのままだけど我慢してね」

「はい!」

「ガーディ、先行して! プティは、最後尾からついてきて!!」


 ガーディを先頭にして、私達は制御室に向かう。

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