第47話 アトランティスへ!!
私は、ミリアを抱えながら坂道を駆け下りていた。その間、ミリアは私にしっかりとしがみついている。目の端には、少し涙が浮かんでいる。
まぁ、ジェットコースターみたいに猛スピードで駆け下りていたら、怖いよね。
向かう先は港。予定通りなら、もうソル達がお金の受け渡しを終えて、潜水艇の出港準備が出来ているはずだ。
「あっ!」
そこで、私は重大なことに気が付いた。
「ど、どうしたのですか?」
私の様子が少し変わった事に気が付いたミリアが、涙目に訊いてくる。
「いや、そういえば、潜水艇の操縦の仕方知らないなぁって。まぁ、ソルとシエルが教えて貰うだろうし大丈夫だと信じたいけど」
私達は、潜水艇の操縦の仕方を教えて貰っていないので、港まで着いても、すぐに出発出来るか分からない。ミリアを助けなきゃという思いが先行したため、そこまで思考が回らなかった。
そんな事を話したからか、ミリアは不安そうな顔になった。
「大丈夫だよ。ソル達が操縦の仕方を覚えるまで時間稼ぎはするし、ミリアを、またあんな場所に閉じ込めさせるなんて事はしないから」
私が微笑みながらそう言うと、ミリアは少し顔を赤くして私の肩に顔を押しつけた。顔を見られたくないみたい。そこまでおかしな事を言ってはないはずなんだけどなぁ。
(そんなに恥ずかしかったのかな? でも、何がだろう?)
そんな事を考えつつ走っていると、背後から嫌な予感がした。
「ごめん、ミリア。少し激しく動くよ!」
「えっ! これ以上ですか!?」
ミリアは、さっきまで赤くなってた顔を、今度は真っ青にしていた。私は、ミリアに悪いと思いつつも、斜め前に移動をして、道の端っこに向かった。背後から追い掛けてくる敵も同じようについてくる。
「しっかり捕まっててね!」
「は、はい!」
私は、ミリアを抱えたまま、近くにある壁を走って行く。壁を登るのではなく走る。自分の走力とスキルを頼りに、斜め上に駆け上がっていった。
「ええええええええ!!?」
突然の壁走りに、ミリアは驚きを隠せないようだった。後ろから追ってきていた敵からも、同じような気配を感じる。
そして、壁の頂点まで行くと、屋上に移動せずに壁を思いっきり蹴って、大きくジャンプする。坂道ということも相まって、意外な程に距離を伸ばすことが出来た。
「さて、ここからどうするか……」
「えっ!? 何も考えてないんですか!?」
空中に飛び出した私は、ミリアを抱えたままどうしようか悩んだ。正直、このまま着地すると、足の骨を折りそう。私はミリアが私にきちんと捕まっていることを確認して、片腕を外しハープーンガンを手に取る。そして、一定間隔で生えている街路樹に向かって射出する。うまく街路樹に突き刺さったので、すぐに巻き戻す。
「きゃああああああああああ!!」
ミリアの悲鳴が耳元で響く。街路樹に引っ張られた私は、身体を半回転させて足で街路樹に着地する。そのまま、街路樹を蹴って地面に移動すると、港に向かって走った。後ろから追ってくる敵は、距離が離れたおかげで、私達を見失ったみたいだね。
「ミリア、大丈夫?」
「は、はい……」
ミリアは、顔を強張らせていた。まぁ、あんな三次元的な動きをされたら、そんなになってもおかしくないか。
「もう少しで、港だよ」
「行かせると思うのか?」
私の真横で声が聞こえた直後、私は横に吹き飛ばされた……ミリア毎。
「うぐっ! ミリア、大丈夫!?」
「は、はい!」
私達を吹き飛ばしたのは、この前私を脅した男だった。ミリアをしっかりと抱えていたからミリアを落とさずに済んだけど、もしかしたらミリアが叩きつけられたかもしれない。何を考えているのやら。
「あなた、ミリアが一緒にいるっていうのに」
「はっ! 関係ないんだよ。そいつが外に出れば、殺して良いってお達しだ!」
「……」
ミリアは、私にぎゅっとしがみついた。そして、少し震えている。
「あっそ!!」
私は、男に対しての返事としてハープーンガンを撃ち出した。男は、身体を傾けることでハープーンを避けた。
「はっ! そんなおもちゃで倒せると思ってい……!?」
私は、すぐにハープーンを巻き戻す。戻ってくるハープーンには、大きな何かがくっついており、それが男の頭を強打する。
「な……ん……だ……」
私が引っ張ってきたのは、スイカのような作物だった。男の後ろには、八百屋さんの屋台があった。そこの店主さんは少し怯えていた。
「て……め……え……に……が……す……か……!!」
男がまだ動こうとするので、ハープーンガンを仕舞い、吉祥天を取り出し、麻酔弾を撃ち込む。
「ぐっ…………」
男は眠りについた。ハープーンガンも吉祥天もかなり便利だ。アーニャさんに感謝しないと。
「おじさん! これスイカの料金!」
私は、スイカの料金を店主さんに投げてから、ミリアを抱えて港に向かった。
「おい! 嬢ちゃん! これ、多過ぎ!」
「迷惑料ってことで受け取っておいて!」
私は、走りながらそう言って、どんどんと離れていった。
「いいんですか? お金……」
「うん、さすがに、商品をダメにしたから申し訳ないし。それよりも、さっさと港に行こう!」
私は、港まで走り続けた。結局、あれ以来追っ手は来ないで、港まで来ることが出来た。
「えっと、二人はどこだろう?」
港に着いたのは良いけど、ソルとシエルの姿が見当たらない。
「あっちじゃないでしょうか?」
抱えたままのミリアが、指さす方向に見覚えのない船が停泊していた。その船は、見た感じ普通の船には見えなかった。
「行ってみよう」
そっちに向かって走ると、船のハッチが開いてマイルズさんが出てきた。
「おう! 来たか、嬢ちゃん。二人に操縦の方法は教えておいたぜ。これから行くんだろ?」
「はい。色々とありがとうございます!」
「こっちも、良い仕事をさせて貰った。潜水艇をもう一度造ることになるとは思わなかったぞ」
マイルズさんは大笑いをしながらそう言う。
「そういえば、一応伝えておくぞ。お前達の他に、潜水艇の製造を依頼している奴らがいるらしい。うちでは請け負ってないがな」
「ってことは、アトランティスで鉢合わせする可能性もあるってことですね」
「ああ、気を付けろよ」
「はい!」
私はマイルズさんに一礼して、潜水艇の中に入る。中は意外と狭い。もうミリアを抱える必要がないので、床に降ろす。
「あっ、ルナ、ミリア。やっと、来たんだね」
私達が入った事に、シエルがいち早く気が付いた。
「うん。すぐに出せそう?」
「ルナちゃん! 大丈夫だよ。ハッチを閉めてくれる?」
私達がやって来たことに気が付き笑顔になったソルは、私の上の方を指さしてそう言った。
「分かった」
私はハッチを少し登って顔を外に出す。少しだけ、港の方を見ると、黒い服を着た人達が坂を下っているのが見えた。
「やばっ、早く出発しないと」
ハッチの蓋を閉める。
「閉めたよ!」
「よし! じゃあ、行くよ! 出発!」
ソルの操縦する潜水艇は、驚く程スムーズに発進した。潜水艇を操縦しているソルを除いた私、シエル、ミリアは、操縦席の後ろにあるテーブルに着いていた。
「何か進んでる感じしないけど大丈夫なの?」
「大丈夫。きちんと進んでるよ。そこに映し出されてるでしょ?」
シエルは、ソルがいる操縦席の前にあるモニターを指さす。そこには、潜水艇が進んでいるであろう方向の映像が映されている。
「う~ん、あまり景色が変わらないね」
「海の中なので仕方がないと思いますよ」
まぁ、ミリアの言うことは正しいので、何も言えない。
「まぁ、そんな話は置いておいて、これからの航路について話すよ」
シエルは、テーブルの上に地図を広げた。それは、私が持っているような地図ではなく、海流が書かれた海中心の地図だった。
「アトランティスに行くには、いくつかの道があるんだけど、私達が使う道はこのルートだよ。マイルズさんが言うには、安全なルートなんだけど、情報自体が古いものだから、あまり信用はしないようにだって」
「なるほどね。モンスターに出会った場合の対処法は?」
「撃退用の装備が備え付けられてるからそれを使うようにって。でも、大型のモンスターとかの数は、かなり減っているから、まず出会う事はないとも言ってた」
「それがフラグにならないことを願おうかな。それじゃあ、ミリアの方に少し話を訊きたいな」
私は、ミリアを見る。ミリアは、少し緊張しているようだった。目線を少し彷徨わせてから、覚悟を決めたように、私の目を見た。
「はい。お話します」
私達の事情を知らないシエルは、きょとんとしながら、私達を交互に見ている。何か訊きたそうにしていたけど、今はそういうときじゃないなと判断したのかプティを抱えて大人しくしていた。
「ルナさんが、あの時見たのは、私の兄です」
「!?」
最初から告げられた衝撃の事実に驚きを隠せない。
(あの時、牢屋にいれられていた半漁人がミリアの兄!?)
更なる謎に少し混乱し始める。
「私がアトランティスの巫女だということは、ご存じだと思います。私が行かないと、アトランティスを停止させることは出来ません。では、なんで私がアトランティスの巫女になったと思いますか?」
「え? ミリアが、アトランティスを管理する家系だから?」
「当たりです。でも、その管理する家系が普通の人だと思いますか?」
「!!」
ミリアの言葉に、私はハッとして立ち上がった。テーブル挟んだ向こうで訊いているシエルは、何を言っているのか分からないのか首を傾げている。
「つまり、ミリアは、古代海洋人の血を引いているって事……?」
私の答えに、ミリアは頷いた。そして、着ている白いワンピースを脱いだ。同じく白い下着姿になったミリアは少し恥ずかしそうにしている。
だけど、私の目は、可愛い下着ではなく、ミリアの脇腹に注がれていた。
「透明な……鱗……?」
そう、ミリアの脇腹にあったのは、透明で光を反射している鱗だった。光の反射がなかったら、見えなかったと思う。それほどまでに、色がない。
「はい。海洋人である証拠とでもいうでしょうか。今は、大分海洋人の血が薄まっているので、これが出てくる人は少ないのですが、時折、先祖返りで鱗を持って生まれてくる事があるのです」
「それじゃあ、あの半漁人が、古代海洋人の姿だっていうの?」
「いいえ」
私の質問に、ミリアは首を振って答える。
「古代海洋人は、私のように鱗を持つだけの人間だったらしいです。あの姿は、いってしまえば、海洋人の血の呪いです」
「呪い……?」
「はい。人間と海洋人。両方の血がせめぎ合った結果、海洋人の血が勝つと、身体が鱗に覆われていくのです。それが、身体全体に達すると、あのような状態になります。本来であれば、交じり合うことのなかった血が合わさることで起きる副作用。その重症例が、私の兄です」
「…………」
喋り終えたミリアは、ワンピースを着直す。
「ミリアは、ああならないんだよね?」
ミリアも、ミリアの兄同様、先祖返りしているのは明確だ。ということは、ミリアも血の呪いによって半漁人に成り果てる可能性がある。だけど、ミリアは、アトランティスの巫女だ。特別な存在なんだから、呪いの影響なんて起きない。
私はそう信じたかった。
「分かりません。鱗自体は、増えていませんが、いきなり症状がでる可能性もありますから」
「……!!」
私は思わず、歯を食いしばった。ミリアが、半漁人になる。そんなの、絶対に嫌だ。でも、今の私には、どうしようもない。私は、無力だ……
「あの~~?」
私のせいで流れ出したお通夜ムードを振り払うように、ソルが声を出す。私達は、一斉にソルの方を見た。
「何を話しているのかよく分からないけど、アトランティスの姿が見えてきたよ」
「嘘!? 早くない!?」
私は思わず、そう言った。私達が少し話していただけなのに、いつの間にかアトランティスが近くにあるなんて。
「いや、もう三十分くらい経ってるからね。それに、見えてきたのは姿だけで、まだまだ遠いよ」
話に夢中になって三十分も経ってたらしい。私は、アトランティスの姿を確認するために、モニターを見る。そこには、私の予想を遙かに超える大きさの都市が映し出されていた。高い建築物が乱立しているのだろう。シルエットでも、そのくらいは分かる。でも、最大の特徴は、都市を覆うドームの存在だ。空気の確保のために街を覆っているけど、それは水面まで届いていない。つまり、いつの間にか、結構深いところまで来ていたのだ。
「あれが、アトランティス……」
私達のアトランティス攻略が始まろうとしていた。
そして、私達はこの時、気付いていなかった。マイルズさんの言葉の重要さに……
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