第46話 ミリアを助け出せ!!

「あっ! ちょっと待って!」


 意気揚々とミリア救出をしに行こうとした矢先、アーニャさんに呼び止められてしまった。


「えっと、どうしたんですか?」

「一応、これを渡しておこうと思って」


 アーニャさんは、足下からアタッシュケースみたいな箱を拾い上げ、テーブルに置いた。そして、留め具を外して中身を私に見せる。


「これって……」

「そう。ルナちゃんの新しい武器よ。とはいっても、黒闇天よりは弱いけどね」


 アーニャさんが見せてくれたのは、黒闇天と対になるような真っ白い銃だった。


「名前は、『吉祥天』。黒闇天の対となるもので幸運などを意味するわ。黒闇天と違って、麻酔弾を撃つ事とかに特化してるの。敵を殺すではなく、無効化しないといけないときに使って」

「??」


 私は言われている事がよく分からずに首を傾げる。何故いきなり、武器を作ってくれたんだろうか。そんな事を思っているうちにも、アーニャさんの説明が続く。


「吉祥天は、『薬効上昇』の付加能力を付けているわ。ついでに、さっきの整備の間に、黒闇天にも『加速度上昇』を付加しておいたわ。今までよりも、威力が上がっているでしょうね」


 いつの間にか、黒闇天の強化までしてくれていた。


「こっちはサービスでいいわよ」


 アーニャさんは、笑顔でそう言った。こっちというのは、黒闇天のことだろう。じゃあ……


「えっと、いくらですか?」

「五〇万よ。多分、持ち合わせはないと思うから、出世払いでいいわよ」

「はい。稼いできます」


 潜水艇のお金で、貯金は底を付いているで、また稼がないといけない。


「後、この前相談された水中専用の弾だけど、銃そのものを作らないといけないから、少し難しいわね。黒闇天でも撃てるようにしたかったけど、ごめんなさいね」

「いえ、無理を言って済みません」


 黒闇天が水中で銃弾を撃てるようになれば、かなり便利なのではと思いお願いしたけど、アーニャさんでも難しいようだ。


「だから、代わりに水中爆弾を作ったわ。一応、渡しておくわね。市販品よりも強くしたから、使い心地を教えてね。後、吉祥天用のサプレッサーも渡しておくわね」


 アーニャさんは、次々にものを渡してくれる。


「それと、これも渡しておくわね。ちょっと、思いつきで作ったから、使い心地を教えてね」


 アーニャさんが、最後に渡してくれたのは、先端に尖った銛のようなものが付いた銃だった。


「ハープーンガンっていうんだけど。物を引き寄せたり、やろうと思えば、振り子のように使う事が出来るわ。一五〇キロまでは耐えられるから、ルナちゃんなら余裕じゃないかしら引き金の上が射出、下が巻き戻しよ」

「ありがとうございます」


 私は、アーニャさんからハープーンガンを受け取った。


「ついでに、専用のベルトも用意したわ。吉祥天の方はこっちね」


 アーニャさんから、受け取った装備を装着していく。腰には、黒闇天と吉祥天を、太腿には、ナイフとハープーンガンを装備した。リボルバーは、今のところ付ける場所が無いのでアイテム欄に入れておく。


「色々とありがとうございます! じゃあ、今度こそ行ってきます!」


 私は、アーニャさんにお礼を言って、今度こそミリアを助けに向かった。


 ────────────────────────


 ルナが、ヘルメスの館を出た後──


「二人にも雑貨になるけど、色々渡しておくわね」


 アーニャは、ソルとシエルに色々なアイテムを渡していく。


「ありがとうございます。でも、どうしてこんなにしてくれるんですか?」


 ソルは、アーニャの厚意にお礼を言いつつも、その理由が気になった。


「一番の理由は、皆が心配だからね。まぁ、私もアイナもルナちゃんやソルちゃん、シエルちゃんを気に入っちゃったから。なるべくなら死んで欲しくないのよ」


 アーニャは、笑いながらそう言った。


「そうですか。私達、アーニャさんに知り合えて本当に良かったです! それじゃあ、私達も行きますね」

「色々なアイテム。ありがとうございました!」


 ソルとシエルは、ルナの後を追うように外に出た。マイルズの元に向かって、潜水艇を受け取りに行くのだ。


「皆、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫よ。そのために、色々と手は尽くしたわ。ここから先の事は私達にはどうしようもないわ。ルナちゃん達が、どうにかするしかない」

「ルナちゃん……」


 アイナは、ルナ達が消えていった扉を見つめた。


 ────────────────────────


 ユートリアからアトランティス港に移動した私は、歩きながら吉祥天の麻酔弾をマガジン単位で生成していく。


「ミリアを助けるなら、中にいる人と交戦する事になるかもしれない。だから、アーニャさんは、吉祥天を作ってくれたんだ。ミリアの家族とかもいるかもしれないし、殺しちゃまずいかもだしね」


 私は、吉祥天と黒闇天にサプレッサーを付けた。


「よし、後は忍んでいこう」


 私は、意識して潜伏していく。人混みの中に溶け込んでミリアの家まで向かった。周りを観察しながら歩いていくと、ミリアの家から出たときに出会った男のような人達が見えた。


「監視はしているみたいだね。バレないようにしないと」


 ミリアの家は、周りの家々から隔離されている。その周囲には、道しか無い。いや、実際には街路樹があった。


「いつも通りに……いや、少し違う方法を取ろう」


 ミリアの家の近くに来た私は、その周りを見回す。その中で、一番高さのある建造物を見つけて、その屋上に上がっていく。前と同じく壁を蹴って上がっていった。


「さて、ここからどうするかな」


 ミリアは、あの家の地下に監禁されている。正面から行ければ楽だと思うけど、そこには、多くの警備隊がいる。


「……これを使ってみるしかないかな」


 私は、アーニャさんから貰ったハープーンガンを取りだした。今いるのは、ミリアの家の真後ろ。警戒が一番薄い場所だ。私は屋上から、ミリアの家の屋根に向けてハープーンガンを射出する。ハープーンガンは、屋根に突き刺さって固定された。それを巻き戻す。


「うわっ!」


 巻き戻るスピードが予想以上に速く、さらに勢いも強いので、私はミリアの家の屋根に勢いよく引き寄せられていった。


「やばっ……!」


 このままだと、ミリアの屋根に激突してしまう。そうなれば、大きな音を立てることになる。そこで、私は一か八か消音のスキルに賭けてみることにした。


「……!!」


 衝撃を少しでも殺せるように、身体を半回転させて、足から着地する。消音の効果は意外と高く、大きな音を立てることなく、屋根に着地することが出来た。


「危ない……」


 私が着地した部分は、少し壊れてしまったけど、音が鳴ってないので、警備隊の人が集まる様子はない。


「よし! 中に侵入しよう」


 私は屋根のすぐ下にある窓を開けて中に侵入する。


「不用心だなぁ……」


 周囲の音に耳を傾けて、警備隊の人達が近寄ってこないかを確認しつつ、前に進む。


「場所は分かってるけど、どうやって行くんだろう?」


 ミリアが捕まっているのは、地下室らしい。でも、中の構造を完全に把握している訳では無いから、どう進んで行けば地下に降りられるのかが分からない。私は、音を殺して、影に潜伏するように家の中を歩いていく。しばらく歩いていると、目の前のT字路の左側から人の足音が聞こえた。


「この音だと、一人だけだね」


 家の中に一定間隔で飾られている置物の影に身を潜めて、人が通り過ぎるのを待つ。そして、T字路から一人の警備員が歩いてきた。警備員は、そのまま右折してきて私のいる方に来た。やるしかない。

 警備員が私の前を通る。そのタイミングで、吉祥天を使って首に麻酔弾を撃った。


「うっ……!!」


 麻酔弾が刺さった警備員は、すぐに眠りについた。私はすぐに警備員の背後に回って身体を支える。そして、置物の傍に持っていき、そっと寝かせた。


「これって、死なないよね?」


 一応脈を確認すると、問題なく打っていたので、大丈夫だと思う。


「麻酔は通用するけど、この人が見付かったら意味ないよね。早く、ミリアのところに向かわないと……」


 私は、ミリアの元に行くために、先を急いだ。その過程で、他にも五人程眠りについて貰う事になったけど。


「ようやく地下への入り口を見つけたよ……」


 家の中を三十分近く探し回ってようやく見つけた。地下への入り口は、一階にある部屋じゃなくて、二階にある部屋に存在した。一階の怪しいところを探し回った時点で色々おかしいと思ったよ。二階の間取りと少し違う部分が運良く見つけられたから。

 私は、地下への階段を下っていく。もちろん、先の通路に誰かがいる可能性もあるので、細心の注意を払いながらだ。


「ここまでは、順調……過ぎる気もするけど……」


 家の外に比べて、家の中の警備が薄い気がする。少しの胸騒ぎを覚えながらも地下を進んで行く。やがて、檻が張られている部屋に辿り着いた。その檻の中でベットが不自然に膨らんでいる。


「ミリア……」


 檻の中に小声で呼び掛ける。その膨らみがミリアで眠っているからだと思ったからだ。すると、ベットの膨らみはいきなりこっちに飛びかかってきた。


「きゃっ!!」


 幸い檻に阻まれて、私に怪我は無かったけど、驚いて尻餅を付いてしまった。


「…………!!」


 私は、目の前の何かに眼が吸い寄せられて言葉が出ない。そこにいたのは、身体が鱗に覆われ、顔が魚のようになっている人だった。


「み……り……あ……?」


 その半漁人は、私に向かって水掻きが張った手を伸ばしていた。それは手を差し伸べているようにも見えるが、私には獲物を捕まえようとしているようにしか見えなかった。


「違う……ミリアじゃない……?」

「ルナさん!」


 半漁人がいる檻から数メートル離れた場所にある檻からミリアの声がした。声のした方に、ゆっくり顔を向ける。そこには、この前会ったときと全く変わりないミリアの姿があった。


「ミリア!」


 私は、すぐにミリアのいる檻まで駆け寄った。


「ルナさん、どうしてここに?」

「潜水艇を買うお金が集まったら、ミリアが監禁されたって聞いたから助けに来たんだよ。早く、ここから抜け出して、行くよ」

「ですが、鍵が……」


 私は、サプレッサーの付いた黒闇天を構える。


「下がってて」


 私の指示でミリアが離れたのを確認してから、錠を吹き飛ばす。すかさず扉を開く。


「行くよ」

「はい」


 私はミリアの手を取って、駆けだした。さっきの半漁人は、まだこちらに手を伸ばしていた。それを無視して先を急ぐ。地下室から二階へと続く階段を駆け上がり、扉を蹴破る。


「いたぞ!!」


 通路の向こうから声が聞こえたのでそっちを見ると、私達を見つけた警備員達が走ってきていた。


「これでは……」


 ミリアは諦めかけている。


「ミリア」

「何でしょう?」


 ミリアは不安そうにこっちを見る。


「アトランティスに行くのなら、この家がどうなってもいい?」


 私は、ミリアの眼を見てそう訊いた。


「……はい。構いません。お父様達には、後で説明します」

「よし!」


 ミリアから了承の返事を貰った私は、ミリアの手を引いて警備員達とは逆の方向に走り出す。


「ルナさん! そっちは行き止まりです!」

「なら、道を作るだけだよ!」


 私は一旦ミリアの手を離して、黒闇天のサプレッサーを外し、弾を通常弾からエクスプローラー弾に変更する。そして、行き止まりになっている壁に向けて発砲した。

 最悪の場合、破壊不可能のオブジェクトで無駄に終わる。でも、そんな心配は杞憂だった。私の放った弾は、次々に着弾すると、壁を破壊して外と繋がった。


「行くよ!」


 私は黒闇天を仕舞って、ハープーンガンを手に持ち、反対の手でミリアの手を掴んで、自分の方に引き寄せた。


「へ?」


 ミリアの身体を片手で抱きしめて、吹き抜けになった壁から見える街路樹にハープーンガンを引っかける。そして、そのまま巻き戻して大きくジャンプした。吹き抜けから飛び上がった私達をハープーンガンで敷地外まで移動させる。そして、ミリアをお姫様抱っこしながら、地面に着地する。


「ほんと、アーニャさん様々だね」


 そのままの勢いをあまり殺さないようにして、すぐに駆け出した。もちろん、ミリアは抱えたままだ。ちょっと心配なったのでミリアの方をちらっと見たけど、目を白黒させて混乱していた。でも、すぐに我に返って状況を認識した。


「えっと、ありがとうございます」

「いいえ、どういたしまして」


 ミリアが、お礼を言ったので、私はそう返した。


「……何もお訊きにならないのですね」

「……今は、そんな余裕ないし、後で訊くよ。ちゃんと、答えてくれるんでしょ?」

「はい」


 私は、全力疾走で港まで走る。今すぐにでも、ミリアに問い詰めたい。その思いを抑えながら……

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