第45話 準備完了!!

 ユートピア・ワールドにログインした私は、ミリアと会ったときに聞いていたミリアの家の場所がある方に向かった。アトランティス港の北方面に向かうと、段々大きな屋敷が見えてきた。


「アーニャさんの言うとおり、アトランティス港で一番偉いんだろうなぁ」


 私でもそう思える程大きい。周りの家を比較すれば、一目瞭然だ。そもそも、こんな豪邸に私は入る事が出来るのだろうか。一抹の不安を覚えながらもミリアの家の門までやって来た。


「どうやって中に入るんだろう? インターホン……なんて、あるわけないよね。えっと……」


 少し周りを見てみると、門の端の方に守衛室のようなものが見えた。多分あそこで、掛け合ってみるのかな。


「すみません」


 私は、守衛室の前まで行って、声を掛けた。


「ん? 誰だ?」

「えっと、ミリアの友達なんですが、今、家にいますか?」

「ミリアリア様のご友人? 貴方は見た事がないが?」


 守衛さんは、私の顔を覗き込みながらそう言った。


「いや、ミリアの友人の顔を全員知っているんですか? 家に来たことある人だけなのでは?」

「む……そう言われればそうだな。少し待っていてくれ。ミリアリア様に確認してくる」

「分かりました」


 守衛さんは、守衛室の奥に行って、内線のようなものに手を掛ける。見た目は船の伝声管みたいだけど。この世界にも、そういう技術が一応あるみたい。


「確認が取れた。中に入っていいぞ」


 守衛さんが、スイッチを押すと勝手に門が開いた。魔法による技術なのか、科学技術なのか、そこが気になる……


「ありがとうございます」


 訊きたいという欲を抑えて、私はミリアの家に入っていった。まぁ、前庭が長いから、まだ家に入った感はないんだけどね。


「ルナさん!」


 長い前庭を屋敷に向かって歩いていると、屋敷側からミリアが走ってきた。


「ごめんね、ミリア。突然、押しかけちゃって」

「いえ、それは構いませんが、どうされたのですか?」

「少し、ミリアに訊きたいことがあってね」


 ミリアは、私の顔を見て何かを察したようだった。そんな顔に出てないはずなんだけど。


「家ではなく、ガゼボで話しましょう」


 ミリアの案内でガゼボ(日本の東屋みたいなもの)に向かった。そこには、テーブルと二脚の椅子が置いてあった。


「お掛けください」


 ミリアに勧められて椅子に座る。


「それで、お話とは?」

「アトランティスの事、一通り調べたんだ」

「やっぱり……では、全てを知ってしまったのですね」


 ミリアは、目線を落とした。私達に黙ってたことで、少しだけ負い目があるって感じかな。


「約束は守るよ。ミリアをアトランティスに連れて行く」

「それは……」

「もちろん、アトランティスを止めるためにね」

「!!」


 ミリアは、目を見張って驚く。もしかして、私がミリアを利用して、アトランティスを悪用するように思ったのかな。


「本当ですか?」

「うん。アトランティスを悪用なんてしないよ」

「はぁ……良かったです。今まで、お会いした方々は、アトランティスについて知ると、悪用を考える人ばっかでしたから」


 本当に悪用を考えている人がいたみたいだった。確かに、アトランティスの力が魅力的というのは分かる。やろうと思えば、国相手に脅しを掛けることも出来るし、世界を支配することも可能かもしれない。


「それで、アトランティスについて、きちんと教えて欲しいんだけど」

「分かりました。まず、ルナさんがどこまでアトランティスを知っているか教えて頂いても良いですか?」

「えっと、アトランティスが古代兵器の一種で、海面を上昇させていくものって感じかな。後は、本で読んだ限りだけど、古代海洋人が作り出したものだっけ?」


 私は、あれから自分で調べたことの一つを挙げた。


「なるほど、では、ほとんどのことは理解しているようですね。正確に言うなら、アトランティスの機能は、太陽と月の位置を変える事にあると言われています」

「え!?」


 予想外の答えに戸惑いを隠せない。


「とは言いましても、月の位置を変える事がほとんどみたいですが」

「でも、なんで月の位置を……あれだ! 潮の満ち引き!」

「はい。月を近づけることによって、海面を上昇させるのです」


 それで本当に海面が上昇するのかは分からないけど、アトランティスがやばい兵器だって事は分かった。天体を操るなんて、異常な機能過ぎる。


「でも、なんでアトランティスは、また起動するんだろう?」


 海の底にあるアトランティスが、また動き始めるということは、今は大人しくなっているということだ。それが、また起動するという事は、何か理由があるはず。私が調べた中だと、動力についての記載はなかったから、よく分かっていないんだよね。


「アトランティスのエネルギー源は、月の光なんです」

「月の光?」

「はい。月の光がアトランティスに当たると、エネルギーが充填されます。新月の時以外、常にエネルギーが充填されていくはずですが、海に沈んだことで、満月の光でしか充填出来なくなり、充填の速度も遅くなりました」

「それで、数百年の時が必要になったんだ」


 アトランティスについて、さらによく分かった。どうしようもない兵器だということが。


「ミリアは、アトランティスの鍵の役割ってこと?」

「はい」

「じゃあ、ミリアが行かなかったら、アトランティスは起動しないって事?」

「いえ、アトランティスは、海の中に沈んだときから起動状態にあります。海の海流が何よりの証拠です。あれは、アトランティスの自己防衛機構ですから」


 つまり、今のアトランティスは、スリープモードだってことかな。そして、エネルギーが一定以上溜まれば、自動で能力を発動するみたい。


「ミリアは、アトランティスの構造を知ってるの?」

「すみません、アトランティスの地図は、我が家でも失われているので、アトランティスの正確な構造までは分かりません」

「う~ん、そうなると、アトランティスに入ってからは、その場で考えるしかないかぁ」

「はい。アトランティスの制御室に行けば、私がどうにか出来るはずです」


 アトランティスの中で行くべき場所は、分かった。後は、私達がそこを見つけ出せれば良い。まぁ、これが一番難しいかもだけど。


「なるほどね。もう少しで潜水艇も完成するし、これで約束は守れそうだね」

「はい。お願いします!」


 一応の確認は出来たので、私はミリアと別れることにした。ミリアと門で、手を振って別れたのは良いんだけど、そこから何か視線みたいなものを感じる。私は、もしもの時のために、黒闇天にサプレッサーを付けてホルスターに仕舞う。


「後ろかな」


 私は、振り返らずにそのまま走り出す。すると、後ろの視線の持ち主もついてきていた。どうにか振り切るために、狭い路地裏に入る。そして、路地の壁を三角蹴りの要領で蹴っていき、屋上まで上がっていく。下を覗けば、私を追ってきた人を見ることが出来ると思うけど、それで見付かったら本末転倒なので、そのまま屋上の上を駆けて、少し離れた場所に降りる。


「はぁ……何なんだ……!?」


 バレないように地面に降りたはずなのに、背後から口を押さえられて捕まった。


「大人しくしろ。さもないと……」


 男の声がしたと思ったら、首元にナイフを突きつけられる。私は、言うとおりに大人しくする。私の抵抗がなくなったので、男がナイフを下げる。


「今から言うことを理解したら頷け。いいな?」


 取りあえず、頷く。


「二度とミリア様の前に現れるな。次に、ミリア様に会えば、貴様を殺すことになる」


 どうやら、ミリアに関係している人みたい。私は、理解した事を伝えるために頷いた。すると、私の口を押さえつけていた男がいなくなった。すぐに背後を振り返るけど、影も形もない。


「何だったんだろう?」


 取りあえず、殺されなかっただけマシだったと思って、いつも通り金策に励んだ。


 ────────────────────────


「……って事があったんだよね」


 あれから四日が経った日、ソルとシエルと合流した私は、ヘルメスの館で互いの近況報告をしていた。その過程で、ミリアと会った日のことを話したら、ソルとシエルの顔が強張っていた。


「怪我は無かったの?」


 アイナちゃんは心配そうにそう言った。


「うん。大丈夫だよ。下手な受け答えしてたら、殺されてたかもだけど」

「ルナちゃんも災難だったわね」


 同じテーブルで私の黒闇天とリボルバーの整備をしていたアーニャさんが呑気に言った。


「ミリアちゃんとの約束はどうするの?」


 ソルが真剣な顔で私を見る。多分だけど、私の意思を尊重するつもりなんだと思う。シエルも同様の顔をしているので、同じ事を考えているんだと思う。


「もちろん、守るよ」


 私が即答すると、ソルとシエルは互いに互いの顔を見てから、私を見て笑った。


「ルナちゃんならそう言うと思った」

「そんな奴のいう事なんて聞く必要ないもんね」


 二人には、私の考えが筒抜けだったみたい。


「まぁ、どうするかは、ルナちゃん達次第だけど、最低限準備をしておいた方が良いわよ。今、こういうことになっているみたいだから」


 アーニャさんが、アイナちゃんに手振りで合図を出すと、アイナちゃんが席から立って、一枚の紙を取って戻ってきた。


「はい」

「ありがとう、アイナちゃん」


 アイナちゃんから受け取った紙には、ある情報が書いてあった。


「嘘……」

「どうしたの、ルナちゃん?」


 私の反応にソルとシエルが不安そうになる。でも、その反応は正しいと思う。


「ミリアが監禁された。多分、私と喋ったからだ。私のせいで……」


 紙には、ミリアが屋敷の中に監禁されたということが書かれていた。その監禁位置も一緒に書かれている。


「こんな情報、どこで手に入れたんですか?」


 私はアーニャさんに、ダメ元で尋ねるけど、アーニャさんは口の前に指を当てて秘密というジェスチャーをするだけだった。まぁ、アーニャさんに言えないことがあるのは知ってるから良いけど。


「どうしよう……」


 変えようのない現実に、少し打ちのめされる。


「やれることをやるだけでしょ」


 うなだれていた私に、シエルがそう言った。


「そうだよ。私達に出来る事を最大限やろう」


 ソルもそう言ってくれる。


「うん。そうだね……ソル、シエル」


 二人に呼びかけて、目の前に私が貯めたお金を置く。


「潜水艇は任せた! 私は、ミリアを助けてくる!」

「……分かった。どうせ、後はお金を渡して、潜水艇を受け取るだけだし。ミリアちゃんを助けたら、港に急いで来てね。すぐにアトランティスに向かおう」

「最悪の場合、迎えに行くから」

「うん。ありがとう」


 私の意思を尊重してくれた二人にお礼を言う。


「そうと決まれば、すぐに行動しなさい」


 アーニャさんは、整備を終えた黒闇天とリボルバーを渡してくれた。


「はい! 行ってきます!」


 私はミリアを救出しに屋敷に向かう。

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