第43話 全滅するまで倒せばいい!!

 大量に現れる蟹に対応すべく、ある作戦を立てた。


「よし! この作戦で行こう!!」


 私は気合いを入れてそう言った。


「作戦って……」

「ただ我武者羅に戦うだけじゃん」


 そう。私の立てた作戦は、ただ自分に出来る事を最大限にこなして蟹を倒し続けるというものだった。かなりあほみたいな作戦だけど、皆で一匹ずつ倒すよりはマシなはず。


「プティは大丈夫そう?」

「あのはさみを千切ればいけると思う。さっきの戦闘でどのくらいの強度かは分かったし」

「じゃあ、それぞれで倒せそうだね。あのはさみには気を付けて」

「オッケー」

「分かってる」


 私達は、再び洞窟内に向かう。戦闘方法は、基本的にそれぞれ別の蟹を相手取り、苦戦しているところに援護に行くというもの。自分達の戦闘能力なら問題ないから大丈夫。


「よし! 行くよ!!」


 私は黒闇天を使って、ソルは刀で、シエルはプティを用いて、次々に化け蟹を倒していった。はさみがついた手の付け根をエクスプローラー弾で撃てば、簡単に引きちぎれるので、積極的にはさみを千切っていく。はさみを千切っておけば、ソルヤシエルのところに行っても大丈夫なはずだから。


「さすがに、数が多すぎるかも。リロード術『クイック・リロード』!」


 化け蟹は、相変わらずの多さで押し寄せてくる。私は高速でリロードを終えて、化け蟹の頭を狙って引き金を引く。はさみを無くした化け蟹には防ぐ術はないし、避けようにも後ろ左右を同じ化け蟹に塞がれている。私の弾は、狙い違わず化け蟹の頭を吹き飛ばす。


 私の斜め前ではソルが化け蟹に斬り込んでいる。はさみを受け流して返す刀で両断。蟹を斬るコツを得たらしく、スパスパと斬り倒していた。シエルが操るプティもはさみの攻撃を巧みに避けつつ胴体をパンチで貫いていた。いつの間にあんなに強くなったんだろう?


 何だかんだで、化け蟹の大群を蹴散らし続けていた私達だったけど、倒しても倒してもキリが無かった。


「どんだけいるの!?」

「子沢山だね」

「え? こいつらって子供なの?」


 私は、自分の胸中を叫んだんだけど、ソルとシエルは、呑気にそんな事を言い出した。


「てっきり、頑張れば倒せると思ってたけど、無理そう」

「……任せて」


 私は、一時撤退をしようかと思っていたんだけど、ソルは刀を鞘にしまって前に出た。


「ソル!?」


 私はソルの袖を引っ張ろうとしたけど、スッと差し出されたシエルの手に止められた。こうしている間にも、ソルに向かって化け蟹が押し寄せようとしていた。ソルは、それらを見ずに目を閉じ、呼吸を整えている。


「抜刀術『皓月千里こうげつせんり』!!」


 目を見開いたソルは、化け蟹が間合いに入る前に抜刀した。タイミングが早すぎたんじゃと思った。でも、実際に、周囲にいた化け蟹が全員動きを止めた。その数瞬後、化け蟹の大群は上下に真っ二つになっていた。それも、ここから見える範囲だけじゃない。その奥の方まで斬られている。


「すごい……」

「これが、抜刀術の奥義級の技……」


 私もシエルも呆気にとられてしまった。シエルの方はなんとなくソルがやろうとしていることに気が付いていたみたいだけど、ここまでの威力だとは思ってなかったみたい。


「ふぅ……」


 ソルは、息を吐いて崩れた。


「ソル!」


 私は急いで駆けよってソルの身体を支える。


「大丈夫?」

「うん。あの技を放つと、身体の力が抜けちゃうんだ。隙が大きいから、あまり使う事が機会がなかったんだけど、役に立てて良かったよ」


 ソルは力なく笑う。本当に疲れているみたいだ。顔色も少し悪くなっている。


「シエル、敵は?」

「見える範囲で生きているのはいないかな」

「じゃあ、蟹を回収して帰ろう。向こうに着く頃には、ソルも回復するだろうし」

「私なら、大丈夫だよ」

「ソルは黙る! こういうとき、ソルは絶対に無理をするんだから」


 ソルは何も言えずに目を逸らす。


「分かった? 取りあえず、ソルはここで大人しくしておいて」


 私はソルを洞窟の壁に寄りかからせて、蟹の素材を回収していく。


「これ、回収も一苦労だなぁ」

「ほら、無駄口叩いてないで回収して」


 私とシエルで、回収していって三十分近く掛かってしまった。


「ようやく終わった! 敵の残りもいなかったし、これで終わりだね!」


 私がそう言った瞬間、ズンッ! ズンッ! と洞窟の奥から音がし始めた。


「……ルナのせいでフラグが立ったじゃん」

「ルナちゃん、なんてことを……」

「私のせい!? 絶対違うでしょ!?」


 何故か、私のせいになってるけど、絶対に違う! 違うはず……


「取りあえず、三十六計逃げるにしかず!!」

「敵も何も見てないのに!?」

「ソルが戦えない時点で私達に勝ち目は薄い!! なら、逃げるのみ!」

「分かったよ! プティ! ソルを背中に乗せて!」

「きゃあっ!」


 シエルの命令で、プティはソルを掴み上げて背中に乗せる。私とシエルも上に乗って、プティは走り出す。


「敵は!?」

「今のところ姿は無し! だけど、音は確実に近づいてる!」


 プティもかなりの速度で走っているんだけど、音の発生源との距離は、あまり離す事が出来ずにいた。


「これ以上速く走ることは!?」

「無理! これが最高速度!」


 音の発生源は、段々と私達に近づいていた。


「ソル、調子は?」

「もう動けるよ。戦闘も出来るはず」

「あまり無理は出来ないって事だね。このまま逃げ切れれば……」


 私がそう言った直後、音の主が姿を現した。それは、今まで以上にでかい化け蟹だった。その大きさは、洞窟の大きさとほぼ同じだった。あっちこっちに身体をぶつけながら、私達を追ってきた。


「もしかしてだけど、アイナちゃんが言ってたのってあっちのこと?」

「……そうかも。ルナ、足止め出来る?」

「やってみる」


 私は、レイク・クラーケンを倒した氷結弾を巨大化け蟹に向かって撃つ。氷結弾は、化け蟹の身体に当たる前に、はさみで弾き飛ばされた。


「嘘! 弾かれた!?」

「効果は発揮されてないの!?」

「少しだけ凍ってる。なら、もっと撃ち込んでやる!」


 私は、リボルバーを取り出して化け蟹に対して全弾撃ち尽くす。私が放ったのは、全部で三発。化け蟹は、最初の一発を弾き飛ばしたけど、残り二発は、弾くことが出来ずに、身体で受け止めていた。


「身体が凍った!」

「動きが鈍ってる。いまなら、プティ!!」


 少しずつ距離が離れていく。これで追撃を回避出来るかと思ったけど、そうもいかなかった。化け蟹は口元で大量の泡を作り出し、私達目掛けて飛ばしてきた。


「蛇行して!」

「プティ!」


 私は、リボルバーをホルスターに収めて、黒闇天に通常弾を込め、泡に向かって撃っていく。すると、破裂した泡から、衝撃波が撒き散らされる。こっちに届く前に全部割りたいところだけど、泡の小ささもあって全て割ることは出来ない。だから、私は泡の数を減らし、プティが避けやすくする。


「ダメ! 蛇行しているせいで、化け蟹との距離が離せなくなってる!」

「どうする?」

「戦うしかない」


 私がそう言うと、シエルはプティの足を止めさせる。まだ、洞窟の半分しか来ていないので、このまま逃げ切ることは出来ない。


「やるよ!」

「分かった!」


 動けないソルを置いて、私とシエルは巨大化け蟹と対峙する。


「銃技『精密射撃』!」


 私はエクスプローラー弾で化け蟹のはさみの付け根を狙う。正確に同じ箇所を何度も狙って撃つ。一発だけでほとんど千切ることが出来た今までの化け蟹とは違い、巨大化け蟹は十発程度では、切り離すことは出来ない。


「なら、何回でも撃ち込んでやる! リロード術『クイック・リロード』!」


 即座にリロードをして、弾を装填する。


「銃技『一斉射撃』!」


 十発のエクスプローラー弾は、半分だけはさみに防がれたけど、もう半分は狙ったとおりの場所に当てる事が出来た。はさみの付け根に。


「落とした!」


 ようやく化け蟹のはさみを一つだけ落とせた。


「熊人形術『ベア・タックル』!」


 はさみを失った方から、プティが突進をする。はさみを抜いても脚が八本もあるので、プティの突撃でも体勢を崩すことは出来ない。それでも、攻撃を受けずに壁際に追い込むことは出来ていた。


「『起きて』!」


 そうやって、追い込んだ隙にシエルが、アーニャさんから貰った狼を巨大化させた。大きさ的にはプティより小さいけど、私達に比べれば大きい。


「あなたの名前は……ガーディ!!」


 ガーディは、遠吠えをして化け蟹に向かっていく。


「狼人形術『ウルフ・ファング』!」


 ガーディが口を大きく開ける。それこそ、ガーディの本来の口の大きさよりも大きくだ。ガーディは、はさみを失った方の足のうち二本を食いちぎった。


「ナイス! 銃技『一斉射撃』!」


 私は大きくよろめいた化け蟹の頭に十発のエクスプローラー弾を撃ち込む。連続した小規模の爆発によって、よろめいていた化け蟹は仰向けに倒れ込んだ。


「体術『衝波』!!」


 化け蟹の身体に、私の掌底を打ち込む。衝撃が内部に響き渡っていく感じが手のひらに伝わってくる。


「やっぱり身体の内側はかなり柔らかい!」


 外の甲羅は見た目と一緒でかなり硬いけど、内側はそうでも無い感じだ。内側の方がいろんなパーツが組み合わさっているからだと思う。

 私の攻撃で倒れた化け蟹は、身体を起こすと同時に、はさみを私に向けて叩きつけてきた。私は、その場から大きく飛び退いて避けた。空いたスペースにプティが入り込む。


「熊人形術『ベア・ナックル』!」


 起き上がった化け蟹に、プティがアッパーカットをする。化け蟹の胸に大きな穴が開いた。


「あの傷でも動くの!?」


 化け蟹はかなりの大ダメージを負っているはずなのだけど、今までと変わらずに動き出す。しかも、唯一動く事が出来ないソルに向かって進もうとした化け蟹はその場で止まった。


「あれ? 急に何で?」


 シエルが首を傾げていた。その謎に、地面に座っていたソルが気が付いた。


「あれって、ルナちゃんのナイフ?」


 化け蟹の足下には、黒影が突き刺さっていた。化け蟹が動き出したときに投げておいたものだ。黒影の能力影縫いによって、化け蟹は動くことが出来なくなっている。でも、この足止めも一時的なものなので、あと少ししたら、動き出してしまう。だからこそ、今の内に倒しきる必要がある。私は、化け蟹の傍にある壁に向かって走り出す。

 そして、壁に近づくと、そのまま駆け上がった。この時、私は二人の表情は見えないんだけど、後から聞いた話によると口をあんぐりと開けていたらしい。


 ある程度の高さまで駆け上がったら、思いっきり壁を蹴って化け蟹の頭の上に着地する。そして、黒闇天の銃口を化け蟹の頭にくっつける。


「銃技『零距離射撃』」


 私が撃ち込んだ弾は、化け蟹の頭を完全に吹き飛ばした。


 零距離射撃は、対象に完全に接した状態でしか使用出来ない奥義級の技で、威力が異常なまでに上がる。ただ、文字通りかなり接近しないといけないので、リスクが高いし、銃への負担も大きい。


「わわわわわ!!」


 頭を失った化け蟹は立っていることが出来ずに倒れる。つまり、私の足場がかなり不安定になっているということだ。私は、うまく立っていることが出来ずに化け蟹から落っこちてしまう。


「ガーディ!!」


 シエルの命令で動き出したガーディが、地面を強く蹴って飛び上がり、私を背中に乗せて地面に着地する。


「助かったぁ……ありがとう」


 私はガーディの頭を撫でてお礼を言う。何はともあれ、強敵と思われる巨大化け蟹を倒す事が出来た。

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