第42話 蟹って大きすぎると怖いよね!!
次の日、私達はアトランティス港の噴水広場に集合した後、ヘルメスの館に向かった。そして、アーニャさんとアイナちゃんにシエルを紹介する。
「私達の友達のシエルです」
「シエルって言います。よろしくお願いします」
「よろしく。私はアーニャよ」
「私はアイナです」
自己紹介を終えた私達は、いつもの席に座ってお茶を飲んでいた。
「そうだ。ルナちゃん、ナイフの鑑定と収納用のベルト作ったから、付けてみてくれる?」
「はい、分かりました」
私はアーニャさんから受け取ったベルトをリボルバー用のホルスターとは逆の方の太腿に付ける。
「ぴったりです」
「良かったわ。それで、このナイフの鑑定結果だけど」
アーニャさんがそう言った瞬間、私よりもソルとシエルが食いついた。
「名称は『
「なんかすごそう……」
付属効果の名前を聞いたシエルがそう呟いた。
「そうね。影縫いの方は、相手の影にこのナイフを突き立ててれば、相手の動きを封じることが出来る効果で、不意打ちは、相手が気付いていないときの攻撃力が上がるという効果よ」
アーニャさんはそう言いながら、黒影を手渡してくれた。私はそれを、鞘に納める。
「なんか、服も相まって本当の軍人みたいだね」
「確かに、ソルの言う通りかも。なんとなく、暗殺を生業にしてそう」
二人の言うとおり、私の服装は黒い軍服ワンピースに黒い外套、蜘蛛の巣柄のタイツ、黒い革手袋と、アニメに出てきそうな軍人みたいだった。
「シエルちゃんは、人形遣いなんだね?」
アイナちゃんが、シエルの背中に背負われているプティを見てそう言った。やっぱり、プティを背負っている時点で、シエルの武器が丸わかりだよね。
「うん。この子の名前はプティだよ」
「へぇ~、可愛い」
背負っていたプティを膝に移すと、アイナちゃんが頭を撫でて和んでいた。
「人形遣いかぁ。それだと、私の出る幕はなさそうね」
「アーニャさんは、人形を作れないんですか?」
意外だったので、思わず聞いてみた。
「そうね。服とかある程度の武器なんかは作れるけど、人形に関してはダメだったわ。あれは、裁縫屋にしか作る事が出来ないわ」
「そういうものなんですね」
「ええ、そういえば、昔、人形を貰った事があった気がするわね。少し待っていて」
アーニャさんは、そういうと店の奥に行ってしまった。
「今日は、ルナちゃん達どこか行くの?」
「アトランティス港の北東にある洞窟だよ」
アイナちゃんの問いにソルが答えた。すると、アイナちゃんの顔が少し強張った。
「あそこに行くんだ……」
「何かあるの?」
「あそこって蟹が出るんだよね」
「うん、その蟹に用があるんだ」
「そうなんだ。気を付けてね。あの蟹かなり凶悪だから」
アイナちゃんはかなり不穏なことを言い出した。
「どういうこと?」
「あの蟹の大きさは異常だし、はさみの切れ味は岩を斬り裂くくらいあるし、何故か横歩きしないし、とにかく凶悪なんだから」
聞いた感じなんだかやばそうだね。
「それだと、基本的に私が戦う事になるかな?」
アイナちゃんから聞いた蟹の特徴だと、私が遠距離から仕留めていく方法が最善のように思える。
「そうだね。プティだと斬り裂かれる可能性があるし」
「甲羅の硬さによるけど、私も何とか役に立てると思うよ。まぁ、何はともあれ、まずは戦ってみて考えるのがいいかもね」
私達が話し合っていると、店の奥からアーニャさんが帰ってきた。
「ようやく見つけたわ。はい、シエルちゃん。これ、あげる」
アーニャさんは、手に持っていた狼のような人形をシエルに手渡した。
「えっ!? でも、アーニャさんの大切なものなのでは?」
「確かにもらい物だけど。別にそこまで大切なものではないわよ。そもそも、私が持っていても宝の持ち腐れだもの。シエルちゃんに持って貰った方が良いわ」
「えっと、じゃあ頂きます」
シエルがそう言った瞬間、シエルが一瞬ビクッと震えた。シエルの目の前にウィンドウが出ているので、何かしらのスキルを得たんだと思う。
「後、ソルちゃんには、これを渡しておくわね」
「え!? これって!?」
アーニャさんがソルに渡したのは、脇差しだった。
「今使ってる刀が使えないときや、狭いところで使ってね。今の刀とは少し違って、魔法が込められてるから、実体のない敵とか、物理が無効になっている敵とかに有効よ」
「あ、ありがとうございます。でも、なんでこれを?」
ソルやシエルは、アーニャさんが何故ここまでしてくれるのか不思議に思っているようだ。
「この前、ルナちゃんからアトランティスに行くって聞いてたからね。かなり早いけど餞別よ」
「なるほど……」
「本当にありがとうございます」
二人は、アーニャさんに頭を下げる。
「皆には、あまり死んで欲しくないからね」
私達プレイヤーは、死んでも生き返るといえ、アーニャさん達は良い思いをしないみたいだ。シャルやシルヴィアさんも同じ気持ちだったみたいだし、この世界には、私達プレイヤーを普通の人と同列に扱ってくれる人がいるみたいだ。
「じゃあ、私達はそろそろ行きますね」
そう言って、私達は立ち上がる。
「気を付けてね」
「行ってらっしゃい」
「「「行ってきます!!」」」
私達はヘルメスの館を離れて、アトランティス港の北東にある洞窟に向かった。
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アトランティス港の北東からビーチを素通りして、そのまま進んで行くと、想像以上に大きな洞窟が見えてきた。
「でかっ!」
シエルは大きな声で驚いていた。
「確かにね。これってどこまで続いてるんだろう?」
ソルは大きさというより奥行きの方が気になるらしい。
「まぁ、入ってみれば分かるよ。早く行こう!」
私達は洞窟の中に入っていった。
「中は意外と明るいね」
洞窟に入った私は、洞窟内が少し明るいことに驚いた。
「本当だ。この苔が光っているみたいだね」
「まぁ、それでも薄暗いけどね」
私達は全員暗視のスキルを持っているから、一応周りも見えなくない。
「じゃあ、蟹退治開始だね。先頭はソルに頼んでもいい?」
「うん。その方が安全だろうしね」
私達は、ソル、私、シエルの順番で洞窟を進んで行く。
「そういえば、さっきアーニャさんから貰った狼の人形って、すぐに使えるの?」
「うん。さっき、スキルが拡張されたって、通知が来たから」
「へぇ~、スキルが拡張されたっていうのは、人形術の幅が広がったって事?」
「そうだよ。今までは熊しか操れなかったけど、これからは狼も操れるようになったんだ」
ちなみに私達の今のスキルはこんな感じだ。
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ルナ[狩人]:『銃術Lv35』『銃弾精製Lv39』『リロード術LV32』『体術Lv28』『暗視Lv21』『潜伏Lv33』『消音Lv12』『聞き耳Lv28』『速度上昇Lv29』『防御上昇Lv16』『器用さ上昇Lv27』『防御術Lv31』『回避術Lv32』『軽業Lv30』『急所攻撃Lv29』『防御貫通Lv11』『集中Lv40』『弱点察知Lv11』『泳ぎLv10』『潜水Lv10』『登山Lv13』『痛覚耐性Lv30』『気絶耐性Lv15』『言語学LV30』
EXスキル:『解体術Lv20』『採掘Lv8』『古代言語学(海洋言語)Lv9』
職業控え:[冒険者]
ソル[剣士]:『刀術LV38』『抜刀術Lv31』『暗視Lv25』『聞き耳Lv29』『防御術Lv30』『回避術Lv28』『軽業Lv28』『速度上昇Lv37』『器用さ上昇Lv30』『集中Lv32』『見切りLv20』『弱点察知Lv27』『登山Lv11』『言語学Lv17』
職業控え:[冒険者]
シエル[冒険者]:『人形術(熊 )(狼)Lv42』『従者強化Lv40』『暗視Lv19』『潜伏Lv38』『集中Lv27』『騎乗Lv15』『登山Lv9』
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シエルは私達よりもスキルの数が少ない。自分で直接戦うわけではないので、ステータス強化系のスキルを獲得出来ていないのと、防御や回避に関するスキルも取れていないらしい。ただ、基本的に隠れて見ている事が多かったらしく。潜伏だけは、結構早くに取れていたらしい。
まぁ、サービス開始直後にこそこそとしていた私の方が早くに取れてしまったんだけど……
「ルナちゃん! シエルちゃん!」
ソルが私達を止める。何かを見つけたんだと思い、ソルの背後から前の方を見る。
「何あれ?」
「タカアシガニの数倍でかいね」
「水族館で見た事あるやつだね。確かに、あのタカアシガニが通常サイズなんじゃないかと思うくらいにでかい」
私達の目の前にいるのは、私達よりも一回り高い蟹だった。
「化け蟹……名前も合ってる。あれがターゲットだね」
「じゃあ、まず私が突っ込んでどんな感じの戦い方か確かめるから、ルナちゃんは援護をお願い」
「分かった。シエルはここにいて」
私とソルは、シエルを近くの岩陰に置いて、化け蟹と相対する。
「抜刀術『朏』!」
大きく弧を描いたソルの刀が、化け蟹を襲う。完全な不意打ちのはずなんだけど、化け蟹は瞬時に反応してはさみで防いだ。でも、ソルの刀は、化け蟹のはさみを斬り裂くことに成功した。
「そこまで硬くない! これならいけるよ!」
「油断しない!」
化け蟹は、隙が生じたソルをはさみで斬ろうとしていた。そうはさせまいと、私はエクスプローラー弾をはさみの付け根に放った。化け蟹のはさみは、根元から千切れて宙に舞った。武器のなくなった化け蟹は、大きな泡をいくつも放ってきた。近くにいたソルは、それらの小さな隙間を抜けて、化け蟹に接近する。
「刀術『一角』!」
常人では考えられないスピードで射出されたソルの突きが化け蟹の身体を貫いた。その一撃で化け蟹は絶命した。私とソルは、すぐに素材を回収した。
「ふぅ……」
「あまり苦戦しなかったね」
「アイナちゃんがただ苦手だっただけかもね」
アイナちゃんが化け蟹を苦手だっただけと判断した私達は、次の瞬間、奥の方から走ってくる影に身体が硬直した。
「あれって……」
「やばいかも……」
向こうから迫ってきているのは、化け蟹の大群だった。なんとなくだけど、激怒しているように見える。
「仲間をやられれば、そりゃ怒りますよね~!!」
私とソルは反転して駆け出す。
「シエル! 撤退! 撤退!」
私達の必死さを見て少し首傾げたシエルだったけど、後ろにいる大群を見たら、一瞬で顔が真っ青になった。
「プティ! 『起きて』!」
大きくさせたプティに跨がって私達の前を走り出す。
「二人とも乗って!」
私とソルは、走りながら跳躍してプティの上に乗る。
「プティ! 全力疾走!!」
私達を乗せたプティは、洞窟の外までノンストップで駆け抜けていった。
「はぁ、さすがに外までは追ってこないみたいだね」
「良かったぁ」
私とソルはホッと一息ついた。
「あれって、なんで追い掛けてきたの?」
事情を知らないシエルが首を捻る。
「分からないよ。もしかしたら、倒したら何かしらのフェロモンで分かるようになっているのかもしれない」
「確かに、そんな感じがするね」
「ふ~ん、これからどうする? 一匹倒してあんな大群で来られたら、かなり辛いよ?」
私達は、蟹退治をどうするか考え込んだ。その結果、導き出した答えは……
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