第41話 古代言語!!

 夜ご飯を詰め込んだ私は、急いでログインしてシャングリラの図書館に向かった。


「ギリギリになっちゃった。メアリーさん、待ってるよね」


 私は急いで階段を駆け上がる。


「はぁ……はぁ……はぁ……本当に……なんで……こんなに……長いの……」


 相変わらず長い階段だったから、すごく呼吸が乱れる。さすがに、この状態のままメアリーさんに会うわけにもいかないので、深呼吸をして呼吸を整える。


「よし、中に入ろう」


 私が中に入ると、カウンターの前にメアリーさんが立っていた。


「すみません、遅れてしまいました」

「時間ぴったりだから大丈夫よ。じゃあ、早速上に行こうか」

「はい」

「最後は私が施錠するから、先に帰っていいわ」

「分かりました!」


 受付のお姉さんは緊張しながら、返事をしていた。メアリーさんは、王立図書館の中でも結構偉い人なのかもしれない。


「まずは、アトランティスの海洋言語からかな」

「???」


 メアリーさんが何を言っているのかが分からずに首を傾げる。


「それよりも先に古代言語について説明した方が良さそうね」

「すみません」

「大丈夫、古代言語について詳しく知っている人の方が少ないから」


 何だか、メアリーさんは楽しそうだった。


「古代言語には、色々種類があるの。例えば、一番有名なのは地底言語になるわ。これは、世界各国の遺跡で見ることが出来るの。もしかしたら、ルナちゃんも見たことあるかもね」

「確かに、遺跡の中に読めない文字がありました。それに、そこで見つけた本も読めない文字でした」


 私は、遺跡で拾った本をメアリーさんに見せる。


「これは……天界言語かしら?」

「私の友人も同じ事を言ってました。恐らく天界言語だろうって。メアリーさんは読めますか?」


 私は、少し期待しつつメアリーさんに問いかけた。でも、メアリーさんは首を横に振う。


「ごめんね。私にも読めないの。多分聞いていると思うけど、天界言語は、読める人がほんの一握りの完全に失われた言語になってしまっているの。この国にも読める人はいないわ。そもそも、天界言語で書かれた書物自体、国ごとに一冊あるかどうかなの。この国の中には、王城の書庫の奥にある一冊しかないし、それを読むことが出来るのは、選ばれたものだけと言われてるの」


 私が、この書物を読めるようになるのは、かなり先の事になりそうだ。いや、王都に行けば、シャルにお願いして少し見して貰えるかも? でも、あまり、期待しないでおこう……


「まぁ、天界言語は、置いておいて、海洋言語の話だけど。これは、沿岸沿いにある遺跡に多く見られるわ。後は、アトランティスについて書かれた本にも使われている感じだね」

「海洋言語の方は分かるんですが、地底言語の方は何でなんですか?」


 私は今までの話の中で気になった部分を聞いてみた。


「この言語がみられる遺跡が、大体地下にあったからね。古代言語の区別の仕方は、大体が見つけた場所から取られているわ」

「じゃあ、天界は?」

「それがね。そこだけは、よく分かってないの。いつの間にか、ルナちゃんが持っている本に書かれている文字を天界言語と呼ぶようになったのよ。いつからか分からないけど、誰も気にしていないわね。というか、見た事ある人自体少ないから、私みたいに古代言語を勉強している人しか知らないというのもあるかもだけどね」


 天界言語は、人々にとって本当に失われた言語ということになる。


(そんな言語のものが何で、あんなところにあったんだろう?)


 また別の疑問が生まれてしまった。でも、これをすぐに解明することは出来なさそだ。


「じゃあ、そこに座ってて。必要な本を取りに行ってくるから」

「はい」


 メアリーさんと話している内に、禁書庫のテーブルまで辿り着いていた。私はテーブルの一席に着いてメアリーさんを待つ。メアリーさんは約五分で帰ってきた。


「お待たせ」


 メアリーさんは、本を何冊かとノートと鉛筆を持ってきた。本はともかく、ノートと鉛筆はどこから……


「じゃあ、取りあえず、単語の読み方から勉強しようか」

「はい!」


 海洋言語の勉強は、英語の勉強に近かった。まずは、単語の読み方と意味を知る。その後、文章を読んで、文章の作り方を知る。そうして、海洋言語の法則を学んでいく。その繰り返しだ。


「すごい。初めての言語なのに、もうここまで理解出来るなんて」


 メアリーさんが驚いているけど、正直なところ現実での勉強で少し慣れているってだけだ。


「結構難しいですよ。ややこしい文字が多いので」


 海洋言語は、英語なんかよりもかなり覚えることが多かった。英語はアルファベットの二十六文字から成り立つけど、海洋言語は百二十文字と数が多かった。その中には、かなり似ている文字が多数ある。

 日本語のひらがな、カタカナ、漢字に比べたら楽なのかもしれないけど、知らない言語を一から習うから、結構苦労した。


「確かにそうね。ルナちゃん、そこの訳違うよ」

「えっ!? 本当だ」

「言われて理解出来ているから、基礎は出来てるね。その調子で、こっちの訳をしてみよう」


 私は、メアリーさんから出される文章をひたすら訳していく。それを二時間繰り返しているうちに、


『EXスキル『古代言語学(海洋言語)Lv1』を修得しました。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』


 念願の海洋言語のスキルを得ることが出来た。


「スキルを手に入れました」

「……本当に? 早すぎる気がするけど」

「はい。『古代言語学(海洋言語)』のスキルを手に入れましたよ? あってますよね?」

「うん。合っているけど……」


 メアリーさんは顎に指を当てて少し考えていく。


「もしかして、言語学のスキルのボーナスを貰ってる?」

「えっと……そういえば、ボーナスを付与するって言われた気がします」

「なら、それが要因の一つね」


 メアリーさんは納得がいったという風な顔をした。でも、私は少し疑問があった。


「スキルのボーナスって何なんですか?」

「えっと、昨日とは別の本に書いてあることなんだけど、ボーナスって言うのは、そのスキルの上位スキルを獲得しやすくなるということよ」


 かなり重要な事を言われた。


「上位スキルって、獲得しにくいんですか?」

「種類にもよるけど、基本的に人の一生の中で上位スキルを得られる可能性はかなり低いと言われているの。何かに特化した人の中でほんの一握りが得られるそういう風に伝わっているわ」

「そうなんですね」


 メアリーさんの話は、この世界の人のみの話なんだと思う。私達、異界人は、この限りじゃないはずだ。私がそう思っていると。


「ルナちゃん達、異界人は、上位スキルを得やすいって聞くわ」


 メアリーさんが心を読んだかのように答えを言ってくれた。


「なるほど、上位スキルってどうやったら得られるようになるんですか?」

「そのスキルによるかな。全てのスキルに共通する条件とかはないよ。でも、レベルは高い方がなりやすいって聞いたかな」


 私の今のスキルの中じゃ、言語学しか上位スキルを獲得出来ていない。せめて、戦闘スキルで上位スキルが欲しいな。


「どうすれば、上位スキルだって分かるんですか?」

「う~ん、スキルの一覧がある本が王都にあったと思うから、そこで確認するしかないかな」

「なるほど……王都ですか……」


 今の私からしたら、王都はまだまだ先の街だ。スキルの確認も先の方になりそうだ。


「さて、そろそろ終わりにしようか」


 メアリーさんはそう言うと、テーブルから立ち上がった。私もテーブルを片付けて立ち上がる。


「本を返しに行こうか」


 メアリーさんが取り出した本の場所まで案内してくれる。


「ルナちゃんには悪いんだけど」

「はい」

「私、明日には家に帰らないといけなくて、勉強見て上げられなくなっちゃったんだ」

「えっ!? メアリーさんってここの職員じゃないんですか!?」


 私は、今日最大の衝撃を受けた。ずっと、メアリーさんの事をここの職員だと考えていた。それが否定されたのだ。


「え? そうだけど。私は、ここに詳しいだけで、ここの職員じゃないよ。」

「でも、受付の人に鍵を閉めるって言ってたじゃないですか!?」

「鍵も持ってるからね」


 メアリーさんは服のポケットから、鍵を取り出して見せてくれた。


「メアリーさんって何者?」

「う~ん、な・い・しょ」


 メアリーさんは笑顔でそう言った。私の周りにいる大人は秘密主義の人が多いみたい。アーニャさん然り、メアリーさん然り。


「私の正体は近い内に分かると思うよ。それまでは、お預け」


 メアリーさんは私の頭を撫でる。


「じゃあ、私は点検してから帰るから、ルナちゃんは先に帰ってね」

「はい、分かりました」

「またね」


 私はメアリーさんと手を振って別れる。


 ────────────────────────


 ルナと別れたメアリーは、図書館内を見回っていた。


「ふふふ、ルナちゃん、驚いてたわね。まぁ、普通は図書館の職員と思うよね。それにしても、かなり可愛い子だったなぁ。また、会える日が楽しみ!」


 メアリーはニコニコと笑いながら、図書館の鍵を閉めて帰路につく。その足取りの先には、煌びやかな馬車が止まっていた。


 ────────────────────────


 メアリーさんと別れた私は、噴水広場ですぐにログアウトした。


「途中に止まってた馬車は何だったんだろう? あんな綺麗な馬車あったかな? シャルが乗ってたのみたいだったけど。まぁ、いいや。明日は、洞窟行って蟹を倒して、シャングリラで鉱石を掘るから、もう寝よ」


 私は、明日に備えて眠りについた。

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