第39話 王立図書館!!
次の日、私はいつもより早く起きて、一通りの家事を終わらせてから、ユートピア・ワールドにログインした。
「朝早いから、人が少ないなぁ。まぁ、そんな事は関係なんだけど」
ユートリアの噴水広場に降り立った私は、直ぐさまポータルでシャングリラに転移した。
「よし、覚悟を決めよう……」
私は広場の南側を見る。ここでも、長い……とても長い階段が見える。私は、その階段を目指して走り始める。ソルとシエルとの集合時間までに、お昼ご飯も食べたいからね。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
あれからスキルレベルも上がったし、駆け上がるくらい難なく出来るんじゃないかと思ったんだけど、その考えは甘かった。プリンに練乳と砂糖をこれでもかと掛けたくらいに甘かった。
「この階段……疲労上昇みたいな……付与効果でも……あるん……じゃないの……」
私は、登り切った所で五分くらい息を整えていた。ようやく呼吸が整ったので、図書館の入り口の中にあるカウンターに向かう。
「すみません。図書館を利用したいのですが」
「許可証を拝見させて頂けますか?」
「えっと、この指輪を預かってるんですけど。これで大丈夫ですか?」
私はシャルから貰った指輪をカウンターにいるお姉さんに見せる。
「こ、これは! 王家の紋章!?」
お姉さんは、眼を剥いて驚く。さらには、顔を青ざめさせていた。
「も、申し訳ありません! 王家に連なるお方だとは思わず!」
お姉さんは、上半身が取れんばかりに、頭を下げている。
「いえ、シャルから預かっているだけなので」
「どうぞ! ご自由にご覧ください!」
シャルから貰った指輪は効果覿面だった。正直、貰ったと言うと怪しまれると思って預かったって言ってるけど、その必要もなさそうだ。
「えっと、ここは禁書庫も担っていると聞いているのですが、どこまで入って大丈夫ですか?」
「王家の紋章をお持ちの方に立ち入り制限はございません。どの書物でもご自由にお読み下さい」
少し冷静になったのか、さっきよりも緊張がほぐれていた。それでも、顔色は悪かったけど。
「分かりました。ありがとうございます」
私は、お姉さんにお礼を言ってから、図書館内に入っていく。中は外観からも分かるとおり、かなり広かった。でも、私は図書館から圧迫感のようなものを感じる。
「……すごい」
中には、無数の本棚が所狭しと並んでいた。本棚のほとんどは天井に達していた。天井までは大体五メートル位だから、所々にはしごが掛けられている。
「でも、あの外観ならもっと天井が高いはずだよね」
「あなた、ここは初めて?」
本棚と天井を見ていると、本棚の影から白いブラウスと黒いロングスカートを履いたお姉さんが出てきた。ストレートの金髪を背中まで伸ばして、その瞳は綺麗な碧色をしている。シャルと同じ色の組み合わせだ。もしかしたら、個の世界では、金髪碧眼の人が多いのかもしれない。
「はい、初めてです」
「じゃあ、驚くよね。あの外観でこの天井の低さだもの。この図書館はね、一階が一般図書、二階が禁書庫になっているの。禁書庫の方が貯蔵数が多いから、一階より二階が広くなってるの」
「へぇ~、そうなんですね」
お姉さんが言うには、一階よりも二階の方が本が多いみたい。私が求めている本があるのは、二階の可能性が高いかな。
「それにしても、ここにいるということは、陛下から許可証を頂いているのね」
お姉さんはそう言って私の顔をジッと見つめてくる。私の顔に何か付いているのかな。
「えっと、第二王女殿下から指輪を頂いてて、それを見せて入らせてもらったんです」
「え!?」
お姉さんは手で口を押さえながら驚く。俗に言うあらまぁみたいな感じだ。
「そう……それなら、禁書庫まで入れるわね。私の名前は……メアリーよ」
「あっ、私はルナです。よろしくお願いします」
「よろしく、ルナちゃん。じゃあ、私が案内してあげる」
メアリーさんは、図書館を案内してくれるらしい。一体何物なんだろう。もしかしたら、この図書館の職員の方なのかもしれない。王立図書館だし、こんな綺麗な人が働いていても不思議ではないかな。
「それで、どんな本を探してるの?」
「えっと、アトランティスについての本とスキルについての本です」
「アトランティス? それは禁書庫の方ね。スキルに関しては、ユートリアにある図書館でも見られるはずだけど?」
「ユートリアにあるスキルに関する本は読みました。それよりも詳しいものを見たいんです」
私は、少しでも時間を見つけたら、図書館に行くようにしていた。ほんの一時間でも、有意義な情報を得られるかもしれないからだ。まぁ、そんな本は全然見当たらなかったんだけど……
「そうね。それなら、禁書庫にある本の方がいいかもしれないね。それじゃあ、禁書庫に向かおうか」
「はい。お願いします」
私はメアリーさんの案内で禁書庫に向かった。その途中で、少し気になったことを訊いてみる。
「あの、案内してもらってて言うのもあれなんですけど。そんな簡単に禁書庫に入って閲覧しても良いんでしょうか?」
禁書というくらいだから、見てしまうとまずいものが多いのだと思うけど、メアリーさんはすんなり案内してくれると言ってくれた。そんな簡単に入っていいものなのか。
「う~ん、確かに読むと精神に異常をきたすものや、禁術が記されたものもあるけど、気を付けていれば大丈夫よ。それに、そういうものを読ませないために許可証を発行しているの。ルナちゃんは例外みたいだけどね」
メアリーさんは微笑みながらそう言う。責められているのかと思ったけど、どうやらそうじゃないみたい。
「ルナちゃんは運が良かったね。私がいなかったら、そういった危ない書物を読んでいたかもしれないもの」
「うっ……」
確かにメアリーさんの言うとおりだ。下手したら、禁書庫で死んでいる可能性もあった。まぁ、私は一階にあるものから、順番に探そうとしていたから、今日は死ななかったはずだけどね。
「ここから入るのよ」
メアリーさんは、一枚の扉の前で立ち止まる。
「本当は、ここに許可証をかざすと開くんだけど」
メアリーさんは扉の横にある台座に自身の手をかざす。すると、扉が自動で開いていく。
「ルナちゃんは、その指輪をかざせば開くわ。さっ、行きましょう」
メアリーさんは、扉から中に入っていく。私も指輪をかざしてから中に入った。メアリーさんが開けたから、そのまま入っても大丈夫だったかもしれないけど、念のためだ。
禁書庫の中は、一階よりもかなり広く感じた。その理由は、天井の高さが三倍近くあるからだと思う。
「すごい……」
「天井まで本棚が続いているから、一番上の本を取り出すのには苦労するの。それに、はしごで登って取るのだけど、下を見たらすごく怖いの」
メアリーはニコニコとしながらそう言う。それだけ見ると、全く怖そうには見えないんだけどなぁ。
「えっと、取りあえず、ここからここまでがスキルについての本よ」
「えっ?」
メアリーさんは、本棚を二つ触ってそう言った。
「もしかしてですけど、その二つの本棚に入っているもの全てですか?」
「ええ、似たようなものが多いけどね。えっと、わかりやすいのは……」
メアリーさんは、はしごを持ってきてするすると上に登っていく。
「これと、これね」
メアリーさんは二つの本を手渡してくれる。
「ありがとうございます」
「結構重要な事が書かれているから、禁書庫に入っているの。まぁ、私は、下の一般書庫でも良いと思うんだけどね」
「へぇ~、そうなんですね」
私は受け取ったほんの題名を見てみる。『スキルの真実』『スキルの影響』と書かれていた。
「後は、アトランティスについてね。これは、向こうにあるの。でも、ルナちゃんに読めるかしら?」
メアリーさんは歩きながらそう言った。
「どういうことですか?」
「アトランティスについての本は古代言語で書かれているの。今のそのエリアに入ったわ。背表紙にある文字、読める?」
私は本棚に並んでいる本の題名を流し見ていく。しかし、どれ一つとして読める題名はなかった。
「えっと、全部読めません」
「やっぱり……言語学のスキルだけじゃ、古代言語は読めないのよね。古代言語学のスキルが必要なの」
「そうなんですね。じゃあ、古代言語を見ていれば……」
「ふふふ、それじゃあ、ダメだよ。古代言語は、少しずつ翻訳していかないと、スキル修得する事は出来ないわ」
「え!?」
古代言語学のスキルは、体術と同じように特別な工程が必要らしい。
「だから、地道にやるか、古代言語を読める人に教わるしかないの」
「そうなんですね。じゃあ、今のままだと、アトランティスの本は読めないんですね」
「そうね。私が教えてあげても良いけど」
「良いんですか!?」
突然の提案に即座に食らいついた。
「でも、一日じゃあ読めるようにはなれないわ。少しずつ勉強していかないと」
「あっ、そうなんですね……」
「それでも良いなら、習ってみる?」
「はい! お願いします!」
「今は、もう行かなきゃだから。そうね……今日の夜、九時くらいからここでどう?」
「分かりました」
「決まりね。じゃあ、私は失礼するね。一階と同じように中央にテーブルがあるから、そこでゆっくり読むと良いよ。それと、あっちの方には、さっき言った危険な書物が多くあるからあまり近付かない方がいいから」
メアリーさんは、そう言って、禁書庫の奥の方を指さした。
「はい。分かりました。何から何までありがとうございます」
「どういたしまして。じゃあ、また夜にね」
「はい!」
私は、手を振ってメアリーさんと別れた。
「よし、取りあえず、この本を読んじゃおう」
私はメアリーさんから受け取った本を読むために、テーブルに歩いて行った。
「禁書庫だから人が少ないなぁ。集中して読めそう」
私はまず、『スキルの影響』から読んでみた。書いてあったことをまとめるとこうだ。
『スキルには、人の身体能力、五感、武器の取扱など、所持者に影響を与えるものが多くある。しかし、そのスキルが与える影響は人によって度合いが異なることが判明した。
これは基礎ステータスの違いが原因かと思われていたが、実際には違う。今まで、同じ速さで走っていた二人が『速度上昇』スキルを手に入れた後では、同レベルでも大きく差がついたのだ。
このことから、スキルの所有者によって、スキルから得られる影響に違いが生まれるという事が判明したのだ』
とのことだ。
「ソルが私よりも速く走れるのは、このことも関係あるのかも。次の本も読んでおこう」
私はもう一つの本『スキルの真実』を開く。
『スキルには、多くの種類がある。それら全てが、誰でも得ることが出来ると思われがちなのだが、実際には違うことが分かった。
カナヅチになっている人に泳ぎのスキルを覚えさせることで、克服させようという計画があった。しかし、いくら水の中にいさせて泳ぎの真似をさせても一向にスキルを得ることが出来なかったのだ。
このことから、スキルを得るには、そもそもそのスキルに関する才能が必要になると考えられる。才能のないものは、スキルを得られても使いこなせないか、そもそもスキルを得ることすら出来ないのだろう』
私はゆっくりと本を閉じた。
「はぁ~~~~」
そして、ゆっくりと長く息を吐いた。
「じゃあ、スキルの書で覚えても、才能がないと宝の持ち腐れってこと? それに、才能がないとスキルが覚えられないなら、同じ事をしても覚えられるとは限らないんだ」
シエルが言語学のスキルを取れていないのは、これが関係あるのかもしれない。
「これって、この世界の法則みたいなものだろうし、私達プレイヤーにも当てはまるよね。自分が、どんな才能を持っているのかを把握しておく方が良いかも」
何気なく時間を確認すると、もうすぐお昼になる所だった。
「ご飯食べるために、ログアウトしよう」
私は、図書館から出て、シャングリラの噴水広場でログアウトした。
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