第38話 アトランティスについて!!

 レイク・クラーケンを倒して、アトランティス港に戻ってきた私達は、素材の確認のために船大工であるマイルズさんの元に来ていた。


「おお……まさか、昨日の今日でレイク・クラーケンを持ってくるとはな……何故か凍っているが」

「あっ、凍ってたらダメでしたか?」

「いや、大丈夫だ。こっちで解凍すれば使えるだろう。全て貰えるか?」

「どうぞ」


 ソルとシエルがアイテム欄からレイク・クラーケンの身体を次々に取り出していく。


「凍っているからか、鮮度が良いな。よし、他の材料も集めてくれ! これなら最高の潜水艇が作れるぞ!」


 マイルズさんは興奮してそう言った。船大工の血が騒いでいるのかもしれない。興奮しているマイルズさんと別れて、私達は街に繰り出していた。


「材料もそうだけど、一番の問題はお金だよね?」


 私は少し俯きながら言う。気分が悪いとか気乗りがしないとかではなく、ただ少し考え事をしているだけだ。


「そうだよね。クエストを受けるにしても、今のランク帯じゃ最大でも一〇万単位しか稼げないし」


 シエルが腕を組みながらそう言う。私達のランクは、私がEランク、ソルがDランク、シエルがEランクだ。意外なことに一人でコツコツとクエストを達成していたソルが一番高いランク帯だ。


「夕方になってきているし、今日は解散しておく?」


 お金に関しては、考えるよりも行動した方が良いと判断して、二人にそう訊いた。


「そうだね。明日も同じ時間で大丈夫?」

「オッケー。じゃあ、解散!」


 夕方になったこともあって今日のところは解散することにした。ソルとシエルがログアウトした後、私はログアウトせずにユートリアに転移した。二人は夜ご飯を親が作るので遅れるわけにもいかないけど、私は自分で好きなときに作れるので、すぐにログアウトする必要がない。


「お金稼ぎによさそうなクエストがあると良いなぁ」


 私はギルドの中に入ると、真っ直ぐシズクさんの元に向かった。


「こんばんは、ルナさん。今日はどうなされましたか?」

「こんばんは。何か、お金稼ぎが出来るクエストってありますか?」

「そうですね……ルナさんのランクですと、シャングリラの鉱石集めでしょうか」

「どんなクエストですか?」


 私が質問すると、シズクさんはファイルを取り出して件のクエスト用紙を見せてくれた。


「シャングリラ付近にある洞窟の中にある鉱石を採掘して集める依頼です。掘った距離と取れた鉱石によって、報酬に変化があるので、必ずしも大金を稼げるというわけではないですが、うまくいけば、一度の依頼で数百万稼ぐこと出来たという報告もあります」

「へぇ~」


 運頼みになるけど、このクエストが一番儲けることが出来そうかも。


「この報酬を取れた鉱石にしてもらう事も出来るんですよ」

「そうなんですか!?」


 潜水艇の材料には鉱石も含まれている。うまくいけば、お金と鉱石を同時に集められるかも。


「これって、夜中でも大丈夫ですか?」

「ランタンが焚いてあるの大丈夫ですよ。それでも薄暗いらしいですが」

「夕食を食べてから受けに来ますね」


 私は一度ログアウトしてご飯を食べてから、再びログインした。


「シズクさ~ん!」

「早いですね。では、早速受理しますね」

「はい!」


 私はクエストを受けてからギルドを出て、シャングリラを目指していった。


「久しぶりのシャングリラだ。えっと、近くにある洞窟に向かえば良いみたいだね」


 私は近くにある洞窟を探しに外に出る。


「シャングリラの地図も買っておいて良かった。えっと、付近の洞窟で、この依頼書にある洞窟は……ここだ!」


 私は地図を見て目的地を確認する。でも、地図は必要なかったみたい。シャングリラを出て少し行ったところに、そこだけ異常に明るい洞窟があった。


「こんばんは」

「こんばんは」


 洞窟の入り口に立っている炭鉱夫に、クエストの用紙を見せる。


「嬢ちゃんが採掘するのか。少し重いが大丈夫か?」

「大丈夫……だと思います」

「そうか。迷子にならないような」

「はい! あっ! 後、報酬の話なんですが、この鉱石とこの鉱石を頂く事って出来ますか?」


 私は、潜水艇に必要な鉄鉱石と重力鉱石を報酬に変えられるかを訊いてみる。


「ああ、報酬の金額が減ってしまうが良いのか?」

「はい。お願いします」

「分かった。じゃあ、これを持って行きな」


 炭鉱夫からツルハシと荷車を受け取って、洞窟を進んで行く。ツルハシは予想以上に軽かった。適当に道を選んで歩いていると、突き当たりに差し掛かった。


「ここだね」


 荷車を近くに置いて、ツルハシを担ぐ。


「よいっっっしょ!!」


 ツルハシを壁に叩きつけて、どんどん掘っていく。正直、このやり方で合っているかは分からないけど、本来のやり方とかは分からないので、どんどん進めていくことにした。そして、何度目かの採掘で


『EX《エクストラ》スキル『採掘Lv1』を修得しました』


 何故かEXスキルを手に入れることが出来た。


「何で? 教えられたものじゃないけど。こういうのでも、会得出来るって事かな? それとも場所とかが関係あるのかな?」


 少し考えてみたけど、思いつくことがなかったので、考えることをやめて、採掘を続けていった。ほとんど無心で採掘を続けていくこと、約二時間……


「薄暗い……」


 掘り進めた結果、ランタンの光があまり届かなくなっていた。


「梁とか必要になりそうだし、今日はこれで帰ろう」


 ツルハシを荷台に載せて、引こうとすると、あることに気が付いた。


「重い……どうしよう……」


 全力で引いてもほんの一、二センチしか移動させる事が出来ない。


「体力が保たない……どうすれば……」


 私がどうすれば良いか悩んでいると、


「おっ! ここにいたか」


 入り口にいた炭鉱夫がやって来た。


「いつまでも帰ってこないから、少し心配したぞ。大分掘ったな。これじゃあ、持って帰れないだろう。引いてやる」

「あ、ありがとうございます」


 炭鉱夫に引っ張ってもらって、洞窟から出ていく。


「確か、鉄鉱石と重力鉱石が必要なんだよな?」

「はい」

「鉱石の量が多いからな。少し仕分けに時間が掛かる。十分くらい待ってくれ」

「分かりました」


 きっかり十分で、炭鉱夫は鉱石の仕分けを終えてくれた。


「ほとんどが鉄鉱石だったな。重力鉱石はこんなもんだけだ。嬢ちゃんが掘った距離と鉱石から、これらの値段を引くと……報酬は大体こんなもんだ」


 炭鉱夫は紙に報酬金額を書いて手渡してくれる。報酬は、意外と高く、八〇〇〇〇ゴールドになっていた。普通のクエストの報酬よりも高い気がする。


「嬢ちゃんは、良く掘ってくれたからな。本来ならもっと多くの報酬なんだが、鉱石分を引いたからこんなもんだ」

「へぇ~、そうなんですね。この紙をギルドに持っていけば良いんですね?」

「ああ、またよろしくな」

「はい!」


 私は、鉱石をアイテム欄に入れて、ユートリアに戻った。


「ギルドに行きたいけど、さすがにこんな時間じゃ迷惑だよね」

「そうね。さすがに、この時間だと職員もほとんどいないわね」

「わっ!?」


 ギルドに行こうか迷っていると、いきなり後ろから声を掛けられてびっくりした。


「アーニャさんかぁ。びっくりしましたよ」

「そりゃあ、驚かせようと思ったからね」


 アーニャさんは悪い笑みをした。


「そういえば、こんな夜中に何をしているんですか?」

「少し用があって外に出ていただけよ。ヘルメスの館に行く?」

「はい。行きます」


 私とアーニャさんは並んでヘルメスの館に向かっていく。


「最近、ここら辺で見ないわよね。どこかに行っているの?」

「はい。今はアトランティス港に行っています。色々、やることがあって」

「アトランティス港に? あそこって何かあったかしら? アトランティスへと続く海流とか海の幸くらいしかなかったと思うのだけど」


 私はここでミリアの話をするか迷った。でも、アーニャさんに隠し事をするよりも、話して助言をもらった方が良いかも。


「実は……」


 私が話し終える頃に、ヘルメスの館に着いた。


「アトランティスにね……」


 アーニャさんは難しい顔をしていた。話しちゃまずかったかな?


「取りあえず、中に入って。続きはお茶を飲みながら話しましょう」

「わかりました」


 中に入ると、奥の方からアイナちゃんが出てきた。


「あれ? ルナちゃん? どうしたの、こんな夜中に」

「噴水広場でアーニャさんと会ったんだ」

「そういうこと。じゃあ、お茶だね。すぐに淹れるよ」


 アイナちゃんは、そう言うとカウンターの方に向かっていった。


「私達は、そこに座りましょうか」

「はい」


 私達はいつもの席に座る。


「ミリアリア・アトランシアね。アトランシアは、アトランティス港を治めている領主の名字よ。あそこで一番偉い人ね」

「やっぱり……」


 正直、少し疑っていたので、あまり驚きはしなかった。街で一番高いところに住んでいるというと、偉い家系だと考えていた。


「アトランティスに行かないと不味いことになるということは、その子が巫女なのね。でも、それならもっと早くアトランティスに行かせるはずよね」

「????」


 アーニャさんが何を言っているのかあまり分からず、首を傾げることになった。クエスト名が『アトランティスの巫女』の時点でミリアが巫女だとは分かっていたんだけど。


「う~ん、上層部が馬鹿ばかりの可能性が高いわね。確かに、巫女なんてここ数百年生まれた記録がないもの。取扱に困るのは分かるけど」

「どういうことですか?」


 私がそう言うのと、アイナちゃんがお茶を並べるのは同時だった。アイナちゃんは席に座ることなく、そのままカウンターで洗い物をしている。


「アトランティスの巫女は、アトランティスが目覚める時に生まれる存在よ。大体生まれてから十年ぐらい経った頃に、役目を知るらしいわ」

「役目?」

「アトランティスを鎮めることよ。アトランティスが目覚めた状態だと、本当に危険なのよ」

「港が沈むということですか?」


 私は、ミリアから聞いていたことを口に出す。


「そうね。まずは港が沈むわ。でも、一番最悪な状況は、大陸そのものが沈む事よ」

「!?」

「アトランティスは……古代兵器の一つよ」

「古代……兵器……?」


 初耳の話で少し戸惑う。


「アトランティスの能力は、海面の上昇。今の海面は、アトランティスによって上がった状態にされていると言われているわ」

「じゃあ、アトランティスが沈んだ理由は……」

「そう。アトランティス自身の能力によって沈んだのよ」


 ミリアに、聞いた話と違う。ミリアは、アトランティスがあった島の底が崩れて沈んだと言っていた。


「ミリアが嘘をついた?」

「その可能性は高いわね。今まで、信用出来る人に出会うことが出来なかったのかもしれないわ。アトランティスが古代兵器だと知れば、悪用しようと考える人がいても不思議ではないし」


 確かに、アーニャさんの言う通りかも。いろんな漫画やアニメ、ラノベでも兵器を悪用するために騙す人はいたし。


「でも、なんでアーニャさんはそんな事を知っているんですか?」


 アーニャさんは、ミリアやその家族くらいしか知らないであろうアトランティスの話をこんなに詳しく知っている。その理由が分からない。


「そうね……」


 アーニャさんは、もったいぶったように目を伏せる。その後、私の目をジッと見た。


「ひ・み・つ」


 アーニャさんは、ウィンクをしながらそう言った。私ががっかりした顔をすると、アーニャさんは苦笑いをする。


「ごめんなさい。まだ、話せないのよ。時が来たら、ルナちゃんにも話してあげるわ」

「約束ですよ?」

「ええ、約束よ」


 私達はお茶を飲みながら、約束をした。


「そういえば、アーニャさんは、これを読めますか?」


 私は、アトランティスの話で、今日手に入れた本のことを思い出し、アーニャさんに手渡した。


「これは……」


 アーニャさんは、遺跡で見つけた本をジッと見つめる。


「これをどこで見つけたの?」

「えっと、アトランティス港近くの高山にある湖の中にある遺跡です」


 我ながら分かりづらい説明だ。


「えっと……多分レイク・クラーケンがいる場所かしら?」

「はい。そうです。よく分かりましたね?」

「あそこら辺にある高山で湖があるのはそこくらいのものよ」


 アーニャさんは頤に手を当てて少し考えている。


「分かりますか?」

「いいえ。申し訳ないけど、私にも読めないわ。これは、古代言語の中でもかなり特別な言語の一つよ。恐らく『天界言語』ね」

「天界言語……」

「そうよ。失われた言語。これを読める人はほんの一握りだわ」


 アーニャさんでも読めないとなると、完全に手詰まりになってしまった。まぁ、今はこの本はどうでもいいか。


「似たような言語を見たいなら、王都の図書館かシャングリラの図書館に行ってみるといいわよ」

「なるほど。ありがとうございます。今日はここで失礼しますね」


 時間を確認すると、もうすぐ日付が変わりそうになっていた。もう寝ないと明日に響く。


「ええ、またいらっしゃいね」

「またね、ルナちゃん」

「またね、アイナちゃん、アーニャさん」


 私はヘルメスの館から出て、噴水広場でログアウトした。

 意外なところでアトランティスについての話を聞けた。今度、ミリアにも話を聞いた方が良いかもしれない。

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