第37話 予想外の収穫!!
レイク・クラーケンを討伐した私達は、素材の回収を行っていた。正確には、私を抜いたソルとシエルがだけど。
「はぁ、まさかゲームで溺れるとは思わなかったなぁ」
レイク・クラーケンに捕まって湖に引きずり込まれた時は、本当に死んだと思った。まぁ、シエルが人工呼吸してくれなかったら、本当に死んでたんだけど。
「それにしても、ゲームなのにかなり苦しかったなぁ」
私は溺れたときの苦しみが思い出され、少し身震いをしながら、なんとなくログを確かめてみる。もしかしたら、溺れたときに何かスキルを得ているかもしれないし。
『『潜水Lv1』を修得しました。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』
『『泳ぎLv1』を修得しました。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』
二つのスキルを修得していた。
「私、溺れただけなんだけどなぁ……」
ログの確認をしていたら、二人が戻ってきた。
「ようやく仕舞えたよ」
「大きすぎてアイテム欄に収まらないから、小分けにしちゃったけど、大丈夫なのかな?」
ソルとシエルはレイク・クラーケンを解体してアイテム欄に入れたらしい。大きすぎるとアイテム欄に入らなくなるのは、初めて知った。今まで、そんなに大きなものを入れようとしてなかったし、仕方ないかもだけど。
「よし。じゃあ、少しだけ潜ってくるね」
私は湖の底に何かあるかもしれないと思ったので、そう言って湖に行こうとすると、二人にガシッと肩を掴まれた。直接戦闘タイプのソルの方が、掴む力は強かった。
「何を言ってるの?」
「さっき溺れたのを覚えてないの?」
二人の顔は般若のように恐ろしかった。
「いや、何か新しく潜水と泳ぎのスキルが手に入ってたから、湖の底を調べてみようかなって。ほら、レイク・クラーケンがいない今なら、安全に調べられるでしょ? こういう場所って、ゲームの中だと隠しアイテムがあったりしそうだし」
私がそう言うと、二人は顔を見合わせて、少し会議をし始めた。
「どう思う?」
「う~ん、さっきはクラーケンに掴まれてたから溺れたけど、何も無ければ大丈夫なのかな? ルナちゃんはカナヅチって訳でもないし」
「だよね。水泳の授業で水泳部顔負けなくらい速く泳いでたし」
小さいときに習い事で水泳をやっていたのが功を奏した。
「じゃあ、三十分間だけね。それ以上はだめ」
「分かった! じゃあ、行ってくる!」
私は、二人の了承を得て、湖に向かっていく。
「私達も湖に入ったけど、スキル手に入った?」
「ううん。シエルちゃんより長く入ってたけど、手に入れてないよ」
「何でルナはあっさり手に入れられたんだろう?」
「さぁ?」
私が湖に向かった後、二人はそんな事を話していたらしい。その時点で二人から離れていた私には届かなかったけど。
湖の中に潜ると、やっぱりよく見えない状態だった。こんなところまで現実と同じにしなくても良いのに。そう思いつつも湖の底の方を目指して泳いでいく。
(そういえば、目の前に気泡を維持させられれば、ゴーグルの代わりに出来るんだっけ?)
私は瞼の上に手のひらを置いてそこに気泡を集中させる。
(少し安定しないけど、マシになったかも)
底に着く前に周りを確認していると、底はまだ先だった。
(深いなぁ)
底に着くまで、大体十メートルくらい潜ったかな。途中で耳抜きをして潜ってきたけど、まだ空気が保つ。多分だけど、潜水のスキルを持っているからだと思う。
底に脚を付けて、周りを見回す。綺麗な湖だけど、底の方の土はなんだか黒っぽい。その後、湖の中央であろう付近を目指して、泳いでいく。
(……何これ?)
私は中央に行くにつれて見えてきたあるものに驚いた。でも、そこで空気が足りなくなったので浮上する。
「……ぷはっ!」
「ルナ~! 大丈夫~!?」
水上に上がった私を見つけて、シエルが岸から声を掛けてくれた。
「うん! 大丈夫! ちょっと、気になるものがあるから! もう一回潜ってくる!」
「分かった~! 気を付けてね~!」
私は再び水の中に潜っていった。そして、改めて中央にあるものを見る。
(やっぱり、これって、遺跡だよね?)
私が見つけたもの。それは、湖に沈んだ遺跡だった。元々あったものが沈んだのか。あるいは、水中に誰かが作ったのか。それらはよく分からないけど、取りあえず入ってみることにした。
「うわっ!」
泳いで入ってきた私は、地面に落ちてしまう。
「空気?」
この遺跡の中には空気が存在した。そのせいで、泳いできた私は、重力に引き寄せられて地面に落ちたのだ。
「ここが境界線になってるんだ。魔法の力なのかな?」
入口を境界線として、水が拒まれていた。現実ではあり得ない現象だ。改めて、ここがゲームの世界なんだと実感する。
「モンスターとかは、いないよね……?」
私は、念のため黒闇天を引き抜いて、用心しながら先を進んで行く。ここの遺跡はかなり暗いけど、暗視のスキルのおかげもあって、意外と視界を確保出来ている。
「松明か何かが欲しいところだけど」
私の見える範囲に明かりのようなものはない。松明を掛ける留め具のようなものはあるけど、そこに松明は一本も存在しない。
「何なんだろう、ここ」
壁から床、天上まで全部見てみるけど、怪しいものは一個もない。私は周りをくまなく見ながら先の方へと進んで行く。すると、いきなり大きく開けた場所に着いた。
「何だろう? ホールか何か?」
そこは、円形状になっている部屋で、天上はガラスみたいになっており、太陽の光が辛うじて入っている。
「あっ! あれって!」
私は天上に近い壁を見ていく。そこには、読めない文字が連なって、部屋を一周していた。
「読めないけど、何か見た事があるような……?」
私は書いてある文字を一通り見ていく。そこにある文字のいくつかをどこかで見た事があるような気がして、頭に引っかかる。
「…………あっ! これって、ヘルメスの館の看板と同じ文字だ!」
そう。壁に連なっている文字は、ヘルメスの館の看板に書かれていたものと一致していたのだ。
「まぁ、結局読めないんだけどね。カメラがあれば写真に撮るのに」
私はそんな事をぼやきながら、まだ奥にある通路に入っていく。
「この遺跡はどこまで続くのかな?」
見た時にも大きいと思ったけど中に入ってみると改めて、その大きさに驚く。
「また、部屋だ。でも、さっきと違って通路が続かない。ここで行き止まりみたいだね」
部屋の構造的にはさっきと同じなんだけど、壁の上の方には文字が書かれていない。そして、一番の違いは、中央にそびえ立つ祭壇だった。
「何だろう? 何かが置かれてる?」
私は最大限警戒しながら、祭壇の上に登っていく。私の背よりは小さいから全く大変じゃないけど。
「これは……本?」
祭壇の上に載っているのは、一冊の本だった。中身は何も読めない。今度は、ヘルメスの館の看板に書かれていたような文字ではなかった。
「何も読めん! よし! 持って帰ろ」
私が本を手に取って、アイテム欄に入れると、遺跡が揺れ始めた。
「うぇ!? まさか、崩れる!?」
私は遺跡が崩れるかと思ったけど、それは杞憂に終わった。
「あれ? ただ揺れただけ? 良かったぁ。昔の映画みたいに、遺跡が崩れたり、大きな球に追い掛けられるかと思った……」
私は今の揺れで遺跡に変わった部分がないか確認していった。
「う~ん、今のところ何も変化は無いみたい。ただの地震だったって考えるのが自然かな?」
入り口まで戻ってきたけど、変わったところは一つもなかった。
「何だったんだろう? まぁ、いいや。戻ろう」
私は、遺跡から出て水上へと向かった。
この時、私は知らなかった。この遺跡が持つ重要な役割を。そして、同時に私に課せられた役割を……
────────────────────────
「……ぷはっ!」
水上に出た私は、ソルとシエルがいる場所に向かって泳いでいく。
「ただいま」
「遅い!」
「約束の時間を五分過ぎてる」
シエルとソルは腕を組んで仁王立ちしていた。そして、まるでデートに遅れてきたかのように怒っている。
「ごめん、ごめん。ちょっと気になるものがあって」
「何かあったの?」
「うん。湖の中に遺跡があってね。この本が置いてあったんだ」
私は拾った本をソルに渡す。
「何これ? 全く読めないよ」
「うん。私も読めない。後、遺跡の壁にこれまた読めない文字が書いてあったんだ」
「ルナとソルが読めないって事は、何か特殊な文字なのかもね。私も言語学を取りたいな」
「じゃあ、地図に書いてある文字を読むところから始めると良いよ。私達はそこで手に入れられたから」
「そうなの? 分かった。やってみるよ。ありがとう」
私とシエルが話している間に、ソルが一通り本の中身を見ていた。
「これ、所々に図みたいのがあるけど、ルナちゃんはちゃんと読んだの?」
「…………読んでない」
「はい。多分、ルナちゃんが持っているのが良いと思うよ」
「うん」
私はソルから本を受け取って、アイテム欄にしまう。後で、アーニャさんに見てもらおう。
「じゃあ、街に戻る?」
「あっ、さっきシエルちゃんと話してたんだけど、せっかくだから頂上まで登らない?」
二人は私が潜っている間にこれからの事について話していたみたい。
「良いよ。行ってみよう。何があるか分からないけど」
私達は、高山の頂上に向かって登っていくことにした。その間は、何も起こらなかったので割愛! まぁ、モンスターと戦いはしたけど。
でも、一つだけ問題点があった。泳いだ後は、服が濡れて気持ち悪い! ソルの言うとおり、水着があった方がいいや。
────────────────────────
しばらく歩いて、ようやく頂上に辿り着くことが出来た。そこは一本の大樹が生えているだけで、他には何も無かった。
「何にもないね」
シエルも同じ事を思ったのか、言葉に出していた。
「う~ん。ちょっと、登ってみようか」
私は大樹の幹に脚を掛けて、木の上に登っていく。
「……ルナって、色々なところに行けるよね?」
「好奇心旺盛で行けるところに行きたくなる性分みたいだからね。小さい頃からそうだよ」
「そうなんだ。まぁ、一つだけ私にも分かることがあるよ」
「何?」
「自分の姿を客観的に見れない」
「ああ……」
なんだか下で失礼なことを言っている気がする。
「ここからだと、ルナのパンツが見えそうだよね」
「タイツを履いているから見えにくいけどね」
私は思わずスカートを押さえる。パンツが見えにくいように、タイツを履いているけど改めて他人に言われると意識してしまう。でも、私は、木の上に登っていかないといけないから何とか意識しないようにして登っていく。
「ルナ~! 何かあった~!?」
私が大分上の方に登ったのを見て、シエルが下から声を掛けてくる。
「今のところ、何も無いよ!」
私は大樹の真ん中くらいの位置まで登ったけど、めぼしいものは何も無い。そして、大樹の一番上まで登ってきた。
「結局何も無いね。でも……」
私は木の一番上からの景色を見る。
「すごい……ここからだとアトランティス港まで見えるんだ……」
私は他に何も無いことを確認して、下に降りて行く。
「どうだった?」
「何も無いよ。アトランティス港が見えるくらい。他は山とか平原とか森とかしか見えなかったよ」
「じゃあ、本当に何も無いのかな?」
「どうだろう? この木に何も無くても周りには何かあるかもしれないよ?」
「そうだね。少し探してみようか」
私達は、高山の頂上をくまなく捜索していく。
「ねぇ! 皆来て!」
私は何も見つけられなかったけど、シエルが何かを見つけた。まぁ、正確にはプティがだったけど。
「プティがここに何かあるって!」
私とソルがシエルのところに来ると、プティが地面をクンクン嗅いで、前脚で少し掘っていた。場所は、大樹から二、三メートル離れた所だった。
「どうやって掘るの?」
ソルが冷静にそうツッコんだ。私とシエルは互いに顔を見合わせる。
「……爆破なら出来るけど」
「……中身壊れない?」
もし地面に埋まっているものが壊れやすいものだったら、爆発で絶対に壊れる。
「プティで掘る?」
「出来るならそれが良いかも」
「よし! プティ、ここを掘って!」
シエルの指示でプティが地面を掘っていく。少しずつ掘られていくと、何か銀色のものが出てきた。
「何これ?」
「箱?」
私とソルが、プティが掘ったものを覗いてみると、それは銀色の箱だった。シエルがその箱を手に取る。そして、何のためらいもなく蓋に手を掛ける。
「ん? んんん!! ふんんんん!!!」
顔が真っ赤になる程、力を込めて、蓋を開けようとしていたけど、蓋はピクリとも動かない。
「貸して」
「うん。でも、すごい硬いよ」
シエルから箱を貰って、蓋を開ける。うん。あっさり開いた。
「何で!?」
シエルが涙目で訴える。
「シエルのステータスが低いからじゃない? 私達と違って、直接戦闘職じゃないし」
「うぅ……ルナのゴリラ……」
「誰がゴリラじゃあああああ!」
私はシエルに食って掛かる。
「二人とも、まずは箱の中身を確認しよ」
じゃれ合おうとしている私達に、ソルがそう言った。
「そうだった。後で、覚えておいてね」
「やだ」
私とシエルの間で火花が散るけど、それはひとまず置いておくことにした。
「これは、ナイフ?」
そこに入っていたのは、刃も柄も真っ黒なサバイバルナイフが一本入っていた。
「……これどうする?」
「私は、刀があるからいらないや」
「じゃあ、私かシエルだね。直接戦闘のためにシエルが持つ?」
「う~ん。私もいいや。直接戦闘してもたかがしれているし」
「じゃあ、私が貰うね」
真っ黒なサバイバルナイフは私のものになった。接近戦になった時にでも使おう。
「じゃあ、帰ろうか」
「そうだね」
私達はアトランティス港に向けて高山を下りていった。予想外のことだけど、潜水艇の材料以外にも収穫があったのは良いことだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます