第36話 クラーケンとの戦い!!
切り立った崖を登った私達は、順調に高山を登っていた。
「ここら辺のモンスターは、あまり強くないね」
「湿地帯は足場が悪かったし、モンスターの相性も良くなかったからじゃない?」
「まぁ、ここはかなり戦いやすいもんね」
私とシエルは、モンスターを倒しながら、そんな事を話していた。
「二人とも余裕があるからって、油断しないよ!」
「ごめん、ごめん」
ソルに叱られた。実際、結構油断していたかも。反省、反省。モンスターを倒した後、私は地図を広げて現在地と目的地を確かめた。
「そろそろ目的地の湖だよ」
「よし! 準備は大丈夫?」
シエルは、プティを巨大化させたままそう訊いてきた。
「私は大丈夫だよ。ルナちゃんは?」
「私も大丈夫。作戦はどうする?」
「取りあえず、プティを盾役にして、ルナがアタッカーでいこう」
「私は?」
「ソルは遊撃で」
「了解」
作戦を決めた私達は、湖に近づいていった。そこはかなり綺麗な湖だった。濁っているわけではなさそうだけど、そこは見えない。
「こんな湖にイカがいるの?」
シエルは、湖を見て改めてここにイカがいるのか懐疑的になっていた。
「そのはずだよ」
私がそう言いながら湖を覗くと、大きな眼がこちらを覗いていた。
「……やばっ!」
一瞬だけ脳が停止したけど、すぐにまずい状況だと思い、反転して駆けだした。それと同時に、湖から八本の触手が飛び出してくる。
「ルナ! こっち! こっち!」
湖から離れた木の裏でシエルが手招きしている。私は全力疾走でそこまで走りきった。
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」
「何で、わざわざ湖を覗きに行ったの!?」
「だって、イカがどこにいるか分からないかったし……」
「危ないでしょ!!」
私はシエルに思いっきり叱られた。その間も触手は獲物を求めて辺りを探っている。
「質感はカエルに似てるね。私の刀でも大丈夫かな?」
「どうだろう? まずはやってみないと分からないね」
私は、シエルとソルから離れて、触手の一本に銃弾を撃ち込む。その弾は、弾かれること無く触手の皮を貫く。そして、触手からは、青い血が噴き出してきた。
「通常弾でも通る。でも、大したダメージじゃなさそう」
私が与えた傷は、次の瞬間消え去っていた。
「再生能力有りか……」
私が攻撃を加えたことで、私の位置がバレてしまった。八本の触手が私の近くをデタラメに叩きつけ始める。
「危なっ!」
私は自分に当たりそうな攻撃を避けていく。そして、避ける度に触手に銃弾を撃ち込んでいく。
「プティ! 行って!」
シエルは私が自分から離れたのを確認して、プティを走らせた。その背中にはソルが乗っている。シエル自身には、戦闘能力はないので、なるべく戦場から離れていた方がいい。
私に当たりそうな触手をプティが頭突きで軌道をずらす。その上、ソルの刀が深い切り傷を付けた。
「私の攻撃も通る!」
「でも、相手の再生能力の方が強いみたいだよ」
ソルの刀で付けた傷が、すぐに治っていった。
「完全に斬り落とした方が良いみたいだね」
「小さなダメージではすぐ再生されるからね。ちまちまとした攻撃よりも大きな攻撃を多用していこう」
私はマガジンを入れ替えて、エクスプローラー弾を装填した。
「銃技『一斉射撃』」
「抜刀術『朏』」
「熊人形術『ベア・ナックル』」
小規模の爆発が、大きな弧を描いた斬撃が、威力が増大された拳が、それぞれ別の触手を吹き飛ばした。
「よし!」
相手の触手を三本切断することに成功した。
「でも、放っておくと、また再生しそうだよ」
切断した触手を見ると、ソルの言うとおり、断面が少し盛り上がっていた。
「再生する前に触手を全部落とそう!」
「「了解!」」
私達は残り五本の触手を次々に切断していく。最後の一本をソルが斬り落とすと、全ての触手が湖に引っ込んだ。
「倒した?」
シエルが木の陰から湖の方を見てそう言った。
「いや、そんな事ないみたい……」
私達が湖を見ていると、その中央から気泡が上がってきていた。そして、大きな水しぶきを上げて、半透明で大きなイカが飛び出してきた。
「でかっ……」
思わず出てきた言葉それだけだった。というか、それ以外に感想を出せない。だって、本当にただでかいだけで、他には何の変哲もないイカだったんだから……
飛び出してきたイカは八本の触手に加えて、触手より長い触腕が二本を水面上に出してきた。
「ここからが本番だね」
「うん。油断しないでね、ルナちゃん、シエルちゃん!」
「任せて! プティ、ファイト!」
巨大イカ……レイク・クラーケンとの本当の戦いが始まる。
レイク・クラーケンは、触腕を頭上に掲げて、半ばから斬られている触手八本による薙ぎ払いをしてきた。レイク・クラーケンの触手は、周りの木々を倒していきながら、私達の迫ってくる。それも、左右から挟む形でだ。
「二人ともプティに乗って!!」
シエルの指示に従って、私達は、プティの背中に乗る。私達を乗せたプティは、四足歩行で走り出し、シエルの場所まで来た。
「よいしょっと。行くよ、プティ!」
私達を乗せたプティは、こちらに迫ってくる触手に真っ向から突っ込んでいく。
「何する気!?」
「大丈夫だから!」
私は心配になり、シエルの問いかけると、シエルはニコッと笑いながら大丈夫と言う。疑いはしないけど、少しはらはらする。
「熊人形術『ベア・タックル』!」
赤いオーラを纏ったプティが触手に突っ込むと、触手を押しのけてそのまま突き進んだ。
「すごい……」
ソルが呟く。正直、私もそう思った。
「前までのプティだったらダメだったと思うけど、修理に加えて少し強化したから、あのくらいだったら弾き飛ばせるよ!」
いつの間にか、プティを強化していたらしい。人形の強化って、綿とか布とかを強化するのかな? まぁ、そんな事はさておき、私達は、プティに乗ったまま、湖の反対側まで来た。
「さっきと同じで触手を千切れば良いのかな?」
「それよりも本体を攻撃する方がいいんじゃない?」
「分担しよう。私は本体を攻撃するから、二人は触手と触腕を頼める?」
「オッケー」
「分かったよ。気を付けてね、ルナちゃん」
「そっちもね」
私は、ソルとシエルから離れる。ソルとシエルは、私とは反対方向に移動していた。
「本体までの距離は十メートル以上あるけど、黒闇天なら大丈夫だね」
私は走りながらレイク・クラーケンの本体に向かって通常弾を放っていく。一応、傷を与えられてはいるんだけど、身体が大きいからか、大したダメージにはならなかったみたい。
「ダメっぽい……というか、イカの心臓とか脳ってどこにあるんだっけ? 確か、上の長い部分が胴で、脚と胴の間に頭があるんだよね」
レイク・クラーケンが現実のイカと同じ構造をしているのなら、胴と脚の間に頭があるのだから、そこに脳があるはず。
──ログアウトしたときに少し調べてみたけど、脳は私の予想通りにあったけど、心臓は3つもあったらしい。一つは、通常の心臓で残り二つは高速で移動するのに必要なものらしい。まぁ、この狭い湖じゃ必要なさそうだけど──
「表面を攻撃するよりも中をズタズタにする方が良いよね」
私は通常弾からホローポイント弾に入れ替えて、胴体部分に撃ち込んでいく。身体に比べたら小さい攻撃だけど、レイク・クラーケンは気に障ったみたい。攻撃対象をソル達から私に変えてきた。
「危ないかな……」
私は思わず、顔を引きつらせてしまう。レイク・クラーケンは、さっきまで頭上に掲げていた触腕を私に向かって振り下ろしてきた。
「げっ! リロード術『クイック・リロード』!」
私は異常なまでの速度でリロードを済ませる。
「銃技『一斉射撃』!!」
私が入れ替えたのはエクスプローラー弾だ。それを触腕の一本に向かって撃つ。小規模な爆発が連鎖して、振り下ろされる触腕が一時的に止まる。その隙に私は触腕の攻撃範囲外に避難した。
「もう! 面倒くさいな!」
私は次々にレイク・クラーケンの頭にエクスプローラー弾を撃ち込んでいく。その攻撃に苛ついたのか、触腕での攻撃が激しくなっていく。ちなみに、触手での攻撃が入ってこないのは、ソルとシエルの二人が絶え間なく攻撃しているからだ。
「銃技『精密射撃』!」
イカの目を狙って撃ち込む。銃弾は正確に目に命中した。片目を失ったイカは、叫びこそしないものののたうち回った。そして、怒りを募らせた片目で私を睨んできた。
「もう片方の目も……」
私はもう片方の目を狙おうとすると、レイク・クラーケンは、触腕を自分の身体に引きつけていた。
「?」
私は何がしたいのかよく分からず、首を傾げた。次の瞬間、レイク・クラーケンが引きつけていた触腕を、私に向かって勢いよく突いてきた。
「!?」
あまりの速さに避けることは出来ないと判断し、両腕をクロスさせて受ける。
「うっ……!」
衝撃が身体を突き抜けて、私の身体が上空に舞い上がる。
「ルナちゃん!」
「ルナ!」
突き飛ばされた私を見た二人の声が聞こえてくる。かなり、痛い攻撃だったけど、何とか死なずに済んだ。とはいえ、空に浮遊している私は、身動きをとる事が出来ない。これが、レイク・クラーケンの狙いだった。
「うわっ!?」
レイク・クラーケンの触腕が私を捕まえる。私はこのまま地面に叩きつけられるのかと思ったけど……違った。レイク・クラーケンは、私を捕まえると、そのまま湖に引きずり込んできた。
「やばっ……! すぅ~~っ、んっ!」
私は大きく息を吸って水中に入った。水中の中は、現実と同様に見えにくい。辺り一帯に何があるのか、レイク・クラーケンの姿すらも全く見えない。
(やばい……水中じゃ、黒闇天も使えない……)
銃を使う私は、専用の銃がないと水中での攻撃手段がほとんど無くなる。
(何か方法は……)
私は触腕の締め付けから何とか逃れようと身体をねじってみるが、締め付けが強くなるだけで逃げ出すことが出来ない。
(まずい……息が……保たないかも……)
呼吸が出来ず苦しくなってくる。薄れていく意識の中、私の手に黒闇天とは違う硬い感触がした。
(これは……!)
────────────────────────
「ルナちゃん!」
「ルナ!」
軽い衝撃と一緒に、そんな声が聞こえてきた。
「げほっ! ごほっ! ごほっ!」
私は激しく咳き込み、身体を横に向ける。その辺りで意識がはっきりしてきた。
「げほっ! げほっ! はぁ……はぁ……」
「ルナちゃん! 大丈夫!?」
「ルナ!」
私は二人の声がする方を向く。二人の頬には涙が伝った跡が付いていた。
「ごめん。心配掛けた」
「本当だよ! シエルちゃんに感謝して!」
ソルは少し怒ったような顔でそう言った。どういうことか分からずにシエルの方を向くと、シエルは少し頬を赤くしている。
「シエルちゃんが人工呼吸をしてなかったら、死んでたかもしれないんだよ!」
「えっ!?」
どうやら私はレイク・クラーケンに湖に引きずり込まれた後、呼吸が止まって浮上してきたらしい。ソルは、焦りすぎてうまく行動出来なかったけど、シエルは冷静に人工呼吸をしてくれたようだった。
「ありがとう、シエル」
「ううん、無事で良かったよ。でも、ごめんね。ゲームの中でとはいえ、その……」
「いや、大丈夫。人命救助だからノーカンだよ」
私はシエルの言わんとしていることを察して、先手を打っておく。あまり、意識しすぎるのもあれだし。
「そうだね。それより、あれはどういうことなの?」
シエルも割り切ったみたい。その後に、湖の方向を指した。ソルも激しく頷いている。私がそっちを見ると……カチコチに凍り付いたレイク・クラーケンがいた。
「ああ、私がこの弾を撃ち込んだからだね」
私は二人に一つの弾を見せる。二人はそれを見て首を傾げている。
「『魔法弾』っていう弾の一種で、『氷結弾』って言うの。撃ち込んだ相手を氷付けにするんだけど……まさか、あんなことになるとは……」
あの時、薄れていく意識の中で、太腿に付けていたホルスターに入ってるリボルバーを取り出した。都合が良いことに、いつか使おうと思っていた氷結弾を装填しておいたままだったので、六発全部を撃ち込んだ。
魔法弾は、魔法の火薬を使っているもので、水に浸かった状態でも構わずに撃てる便利なものだ。『銃弾精製』での製造もコストが高いので、あまり数を調達することは出来なかった。だから、使いづらくて、今まで意識から抜けていたのだった。
「正直、一時的に氷付けにするくらいの能力だと思ってたんだけど」
「そうなんだ。でも、どう見ても凍死してるよね」
ソルはレイク・クラーケンの姿を見てそう言う。私もそう思う。
「トドメを刺しておく?」
「うん。そうだね」
私は黒闇天にフルメタルジャケット弾を装填して頭を重点的に撃つ。これで、多分脳を潰せたと思う。
「ふぅ、回収して戻ろうか」
「そうだね。ルナは大人しくしてて」
「そうだよ。ルナちゃんは溺れていたんだから、私達に任せて休憩してて」
二人は私を木の幹に寄っかからせて真横にプティを配置し、監視を任せてからレイク・クラーケンを回収しに向かった。
これで、材料の一つを回収することが出来た。色々大変だったけど……
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