第35話 材料集めへ!!
次の日、私は一通りの家事を終わらせて、お昼ご飯を食べながら、ユートピア・ワールドの情報集めをしていた。
「ミリアについての情報があると思ったんだけど、どこにもない。私達が何か条件をクリアしていたのかな?」
一番知りたかったミリアについての情報は一つも存在しなかった。そもそも、アトランティス港にいっている人がいなのかと思ったけど、アトランティス港のクエストの情報は沢山載ってるから、そんなわけはない。
「条件……噴水エリアでアトランティスについて話すこと? でも、そのくらいだったら、他の人達もやってるよね。それこそ、私達よりも早く……」
いくら考えても答えは出ない。
「あっ!! ラーメンが伸びた……」
うんうん唸りながら考えていたら、お昼ご飯のラーメンが完璧に伸びてしまっていた。ぶよぶよになった麺は、あまり美味しくなかった……
「はぁ、洗い物してログインしよ」
お昼を食べ終わった私はユートピア・ワールドにログインした。
────────────────────────
ユートリアの噴水広場にログインした私は、すぐにポータルでアトランティス港に移動した。
「待ち合わせ時間より早いけどいるかな?」
アトランティス港の噴水広場を見回してみたけど、二人の姿は見当たらなかった。
「ベンチで待ってよっと」
どこの噴水広場にも必ず端っこの方にあるベンチに座って、今から行く場所の確認を行う。潜水艇の材料は、モンスターから剥取るようなものから、その辺で採取出来るものまで幅広い。
「ルナちゃ~ん!」
「ごめん、遅れた?」
私が地図で場所を確かめていると、ソルとシエルがほぼ同時にログインしてきた。
「ううん、私が早く来ただけだよ」
「まずは、どうしようか?」
シエルがそう言ったのを聞いて、私は手に持っていたから、地図とマイルズさんから貰ったメモを皆に見えるように広げた。
「これが、ここら辺の地図ね。メモによると、港の近くにあるビーチで海藻とかの採取とそのビーチの奥にいる蟹の甲羅、後は、ビーチとは違う方向にある高山にいるイカとシャングリラから鉱石を取ってくることだね」
「ん? ちょっと待って」
私が取りに行かないといけないものについての説明をしていると、シエルが頭に手を当てて難しい顔をしていた。
「高山にいるイカって何!?」
シエルの疑問はごもっともだった。確かに、高山にいるイカって意味分からない。
「あっ、でも、地図に湖があるよ」
地図を見ていたソルが、高山に一ヶ所だけある湖を見つけた。
「……淡水で生きるイカか」
「私達の常識は通じないね」
私とソルは、腕を組んでうんうん頷いていた。
「ところで、どこから行こうか?」
話が逸れてしまったけど、シエルが引き戻してくれた。
「高山から行こう。イカが一番未知数の敵だもん。倒せないにしても、一戦交えておく方が良いと思うから」
「よし! じゃあ、準備しようか」
「消耗品の補充だね」
二人は私の意見に反論することなく、やるべき事を話し合い始めた。
「えっと、二人ともいいの? 何か意見があったら言っていいんだよ?」
すんなりと決まったことに少し不安を覚えてそう言った。
「ルナの案に賛成だよ。意見を聞いたら、確かにって思えたもの」
「私もだよ。それに、ビーチは個人的に反対なんだ」
「何で?」
ソルも少し考えがあるみたい。何だろう?
「だって、海藻を採るって事は、海の中に入るって事でしょ? だったら! 必要でしょ!!」
ソルは輝いた眼で、そう力説した。それだけで、何が言いたいのか察することが出来た。
「ああ、そういうこと。でも、水着がなくても動けるんじゃない?」
「そんな! せっかくなんだから、皆で海水浴もしたいよ!!」
ソルは潤んだ目でこちらを見てくる。
「う~ん、まぁ、そうだね。じゃあ、ビーチは水着を探してからにしようか」
「ここになら、売ってそうだしね」
「やった!!」
皆で海水浴をする約束が出来た事で、ソルは両手を挙げて喜んだ。
「じゃあ、ポーションを買ってから、高山に向かおう。装備の消耗とかは大丈夫だよね」
「うん!」
「大丈夫だよ」
私達は、アトランティス港でポーションを買ってから、街から少し離れた所にそびえ立つ高山に向かった。
────────────────────────
アトランティス港の北門から伸びている高山への道は、湿地帯ではなく平原の中に整備された道だった。
「ここは整備されているんだね」
ソルは、均されている道を見ながらそう言った。
「ユートリアは、ずっと草が生い茂っていたもんね」
「まさかだけど、ユートリアって実は田舎?」
シエルの言葉に私達は、顔を見合わせた。ゲーム最初の街が田舎なのは良くある事だけど、あんなに栄えている場所が田舎とは考えにくかった。
「いや、偶々だと考えよ。それより、このまま道なりに歩いて行けばいいの?」
ソルは、首を振りながらそう言った。私は、アイテム欄から地図を取り出して現在地と高山までの道のりを確認する。
「えっと、あっちに森が見えて、こっちに湿地帯も見えるから、大体ここら辺かな。うん、まだ道なりに行って平気。もう少ししたら、道から外れて西に向かうんだ。そろそろ見えてくるはずだよ」
私は地図をしまって、二人を先導する形で歩いて行く。そして、二十分程歩くと、高山の姿が見えた。
「あれが目的地……」
「何で今まで見えなかったんだろう?」
高山の大きさに、ソルが圧倒され、シエルが今まで見えなかったことを不思議に思っていた。
「えっとね。アトランティス港は少し低い位置にあって、私達が今いるここは、丘の頂上なの。だから、今まではこの頂上のせいで見えにくくなっていたんだよ」
私は地図から軽く読めることを話した。二人は理解しているのかいないのかわからない表情で、私を見ていた。
「でも、坂だって感じなかったよ?」
二人が疑問に思っていたのは、ここまでの道が坂だったということだ。
「多分だけど、私達のステータスが関係しているんじゃないかな? 現実の身体よりも、こっちの身体の方が強いでしょ? だから、この程度の坂道じゃ全く疲れないんだと思うよ」
私は、今考えられることを答えた。実際、いろんなモンスターを倒したとき、かなり動き回っていたけど、現実だったら一、二分で息切れしていたと思う。それを考えれば、私達の身体はこの程度の坂じゃびくともしないはず。
「なるほどね。それにしもルナは、良くそんな風に物事を考えられるね」
「確かに、ルナちゃんは昔からゲームの考察をする事が好きだったよね」
「それは、いいでしょ。それよりも早く高山に行こう。時間は有限なんだから」
少し恥ずかしくなった私は、先にずかずかと歩いて行く。後ろから、二人が付いてきているのを感じた。なんとなくだけど、笑っている感じもする。
────────────────────────
高山の麓に着いたのは、アトランティス港を出て一時間程した頃だった。何回か戦闘もしたから、本当ならもう少し早く着けたのかもしれない。そして、私達は、麓に立ち止まって上を見上げていた。
「ねぇ、この山って大体どのくらいあるのかな?」
「う~ん、千メートルくらいかな」
「じゃあ、高尾山二個分くらい?」
「多分」
高尾山を徒歩で登ろうとすると、一時間くらい掛かるんだっけ。だから、大体二時間くらい登れば、頂上に着く計算になるのかな。
「これを登り切るのか……」
「いや、頂上までは行かないよ。この湖は、山の中腹にあるみたいだから」
湖は、山の中腹にぽつんと存在する。本当に山の半分くらいだから、一時間くらい登れば良いという感じだ。
「よし! じゃあ、行こう!」
シエルが張り切ってそう言った。
「うん! でも、どうやって?」
私達が麓で立ち止まった理由。山を見上げているからというのもあるけど、一番の理由は、目の前に切り立つ崖だ。その崖は見える限りまで続いている。
「ロッククライミングって言うんだっけ? 崖の凸凹を使って登るやつ。あれでいけるんじゃない?」
シエルがそう言いながら崖に手を掛けた。
「意外と頑丈だよ。体重預けて登れそう」
シエルはそう言うと、するすると登っていった。
「ソルもそうだけど、シエルも異常なまでの運動神経を持っているよね」
「そんな事言ってないで、私達も登っていこ」
そう言うと、ソルも崖をするすると登っていく。
「う~ん、えっと、ここを掴んで、こっちに脚を掛けて」
私は、掴める場所、脚を掛けられる場所を探しながら、ゆっくり登っていった。時々危うく滑り落ちそうになったけど、崖上付近まで登ることが出来た。
「ほら、ルナ」
シエルが手を伸ばしていた。私はシエルの手を掴む。そして、そのまま引き上げられる。
「ありがとう」
引き上げられたところには、木を掴んでいるプティとプティの手を掴んだソルとソルの手を掴んだシエルがいた。万が一のことを考えて、命綱代わりにしていたんだと思う。そして、
『『登山Lv1』を修得しました』
この崖登りで、登山スキルを手に入れることが出来た。もっと早く手に入れられれば、崖登りも楽になったんじゃないかな。そして、ある疑問が思い浮かんだ。
「二人はスキルを持ってたの?」
正直、このロッククライミングは、かなり難しかった。手を掛ける場所、脚を掛ける場所をきちんと判断して、登っていかないといけない、でも、二人はするすると登っていった。
「いや、今手に入れたよ」
「私も」
シエルとソルも、今のロッククライミングでスキルを手に入れたらしい。
「えぇ……何で私だけこんなに苦労する事になったんだろう?」
今までの事から考えられること。それは、単純なプレイヤースキルによるものだということだ。ユートピア・ワールドは、そのスキルにあった行動を取るとスキルを得ることが出来る。だから、そのスキルを得るまでは、スキル無しに行動するしかない。
今までの経験から、スキルが無くても一応その行動はする事が出来る。だから、スキルを持っていない時の行動は、完全にプレイヤースキルに依存するんだと思う。いや、それだけじゃないはず。
「スキルを持っていない場合は、プレイヤースキルに依存するって事?」
ソルも私とほとんど同じ発想に至ったみたい。
「ううん、それだけじゃない。スキルを持てば平等になるわけじゃないからね。スキルは、プレイヤースキルに上乗せされる形になるんだと思う。だから、人によって使いづらいスキルと使いやすいスキルが変わるはず」
つまり、このゲームは……
「このゲームは、プレイヤースキルがものをいうゲームだね」
「スキルの数がじゃなくて?」
シエルがそう言う。私も最近までスキルを多く持っている方が有利なんじゃないかって思ってたんだけど今は違う考えだった。
「スキルの数も重要だけど、それを使いこなすためのプレイヤースキルが一番重要になるはず。だから、プレイヤースキルがものをいうゲームって事だよ」
「なるほどね。じゃあ、私達は、偶々自分にあったスキルを手に入れられたって事なのかな」
「それは、それで複雑な気持ちかも。私がメインに使うスキル銃だよ?」
「銃に必要なのは、集中力でしょ? ルナは物事に没入する事が多いし、それがあってるんだと思うよ」
シエルはそうやって私を褒めてくれた。多分だけど。
「二人とも! お話も良いけど! モンスターが来たよ!」
ソルのいうとおり、山の上の方から蜂型のモンスターが飛んできていた。
私達は話を切り上げて、それぞれの武器を構える。潜水艇の材料集めは、まだ始まったばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます