第34話 船探しだ!!

 ミリアとの邂逅から、ほんの少し後、カフェを出た私達は街の中を歩いていた。


「船の情報って、どこで手に入るんだろう?」


 シエルが顎に指を当てながらそう言った。


「そりゃあ、造船所とか、波止場のどこかじゃない? それか、酒場とか」


 私はRPGの鉄板を思い出して答えた。


「じゃあ、可能性の高い港の方に降りて行こうか」


 シエルの案に頷いて、私達は、港の方に向かっていく。


「ねぇ、ルナちゃん、シエルちゃん。ゲームの定番だとさ、船乗りの人って、すごい強面の人じゃない?」

「確かに……」

「私達で話を出来るかな……?」


 私達の中に不安が生じていく。まぁ、どうしようもないから、何も対策せずに、船乗りの人の元に行くんだけど……


 ────────────────────────


 港に着くと、沢山の船が停泊していた。大型船から小型船まで数多くの船がある。でも、目的の船が一隻も見当たらない。


「潜水艇がないね」


 ソルも同じ事を思ったのか、そう口に出した。


「潜水艇だから沈んでるんじゃない?」

「停泊中はさすがに海上に顔を出すでしょ」

「まぁ、そうか」


 シエルは、海の中を覗き込んでいた。私も、同じように海を見てみる。底まで透き通って見えるくらいに綺麗な海。日本の都会に住んでいると、あまり見かけないものだ。


「う~ん、全く見当たらない。本当にあるのかな?」

「どうなんだろう? もしかしたら、もう作ってないとかもあり得るよ」


 ミリアは、海路を少し外れると潜水艇が破壊されるって言っていた。それが、潜水艇限定のことなら、ここに潜水艇だけない事に説明がつく。それに、わざわざ壊れる可能性の高い潜水艇を作る意味もない。


「話を聞くだけ訊いてみようか」

「さっきから、何をしてるんだ、嬢ちゃん達」


 いきなり後ろから声を掛けられて、私達は後ろを振り向く。というか、私達後ろから声を掛けられすぎじゃない?


「えっと……」


 振り向いた先にいたのは、屈強な肉体をした強面の男性だった。


「船が欲しいなと思ったのですが、どこに行けばいいか分からずに、ここで立ち往生していました」


 私は後ろに隠れてしまった二人の代わりにそう答えた。嘘は言ってないし大丈夫なはず。


「船か? なら、ちょうど良かったな。俺は船大工だ。注文なら受け付けるぜ」


 驚いたことに、話しかけてきた彼がちょうど船大工の人だったらしい。探し人が向こうからやって来てくれた。でも、さすがに都合が良すぎる気がする。


「……もしかしたら、ミリアのクエストの一環なんじゃない? トントン拍子にクエストが進むように設定されているのかもしれないよ」


 ソルが後ろからこそこそと耳打ちした。確かに、クエストの進行の一環と言われれば、そんな感じがする。まぁ、あまり深く考えなくても良いことかな。


「どんな船を探しているんだ?」

「潜水艇です」

「何……?」


 潜水艇と答えたら、船大工さんの様子が変わった。何か警戒しているような印象を受ける。やっぱり、潜水艇は船乗りや船大工の間でも、良く思われていないみたい。


「…………話だけは聞こう。こっちに来てくれ」


 何か逡巡していた船大工さんは、首を振って迷いを振り払いそう言った。私達は、船大工さんの後を付いていく。すると、大きな造船所の中にある事務所のような場所に案内された。


「まぁ、座れ」


 私達は四人掛けソファに座る。向こうも一人用ソファに座った。


「それで、何故潜水艇が欲しいんだ?」

「アトランティスに行くためです」


 私は正直に答える。ここで嘘をつくメリットが存在しないからだ。嘘をつけば、それを補うために更なる嘘を重ねないといけなくなるだろうし。そうしたら、どこかで綻びが生まれるかもしれない。


「アトランティスだと……?」

「はい」


 船大工さんの顔が険しくなる。


「アトランティスがどういうところか知っているのか?」

「いえ、ですが、そこに向かうまでの道が険しいということは知っています」

「それを知っていて、尚、行こうと考えるのには理由があるんだよな?」

「まぁ、色々と」


 ここは一応、濁しておくことにした。ミリアの名前がどのくらい知れ渡っているのかは知らないけど、散々断られているからには、この人も名前を知っている可能性が高い。


「なるほどな……」


 船大工さんは何か納得したようだった。もしかしたら、ミリアが関わっていることがバレているのかもしれない。


「…………金はあるのか?」

「!!」


 思わぬ言葉に少し驚いてしまった。


「どうなんだ?」

「どのくらいですか?」

「ざっと、このくらいだな」


 船大工さんは紙に金額を書いて、私に渡してきた。それを左右からソルとシエルが覗き込む。ソルは顔を引きつらせて、シエルは首を傾げる。シエルは、言語学を持っていないっぽい。


「えっと、持ち合わせでは足りないですね」


 船大工さんが提示してきた金額は、ざっと一〇〇〇万ゴールド。ギルドで受けたクエストを報告しても、確実に足りない。手持ちも二〇〇〇〇と少ししかないし。


「これ、なんて書いてあるの?」

「一〇〇〇万」

「……」


 字が読めないので、書いてある金額を訊いてきたシエルは、ソルと同様に顔を引きつらせる。


「まぁ、そうだろうな。だが、これを半額にしてやってもいい」

「「本当!?」」


 船大工さんの提案に、私よりも先にソルとシエルが反応する。


「ああ、ただし、条件がある」

「条件?」

「潜水艇は、もはや誰も造っていない。俺のところも前までは造っていたんだがな。だから、材料がないんだ。それを集めて貰いたい」


 条件としては妥当なものだと思う。


「材料はこれだ」


 船大工さんは材料が書かれた紙を手渡してきた。再び、ソルとシエルが覗き込んでくる。今度は二人とも首を捻る。多分だけど、ソルは材料が分からず、シエルは文字が読めないからだと思う。


「これらは、どこで取れますか?」

「ん? ああ、すまん。それも書いておこう」


 私が紙を返すとさらさらっと取れる場所とモンスターを書いていく。


「……結局分からないなぁ。あの、ここに地図がある場所はありますか?」

「ああ、商街区の雑貨屋にここらの地図が売っていると思うぞ」

「ありがとうございます。では、その方向でお願いします」

「おお、金と材料が集まったら持ってきてくれ。すぐに造り始める」


 交渉を終えた私達は、船大工さん──マイルズさんというらしい──と別れ、街に戻る。


「ごめんね。交渉を全部任せちゃって」


 街に戻るや否や、シエルが頭を下げる。少し遅れてソルも頭を下げる。マイルズさんとの交渉を全部私がやった事に少し罪悪感を抱いているようだ。


「全然良いよ。適材適所でしょ」


 まぁ、正直、私達の中で誰が一番適任かって言われたら、全員どっこいどっこいなんだけどね。


「じゃあ、今日はここで解散する?」

「そうだね。夜ご飯も食べないといけないし」

「ルナ、ソル、明日は時間ある?」

「あるよ」

「私も大丈夫だよ」

「じゃあ、この材料集めを明日やろうよ」


 私達は、明日の集合時間を決めて、解散した。二人はログアウトしたけど、私はそのまま残った。明日の材料集めに備えて、雑貨屋に行こうと思ったからだ。


「えっと、街の地図は……噴水広場にあるかな」


 私はここの地図を見るために噴水広場に向かった。今までの街と同じで、噴水広場に地図が貼ってあった。


「これが商街区か。こっちの入口側は住人区、さっきの造船所の方は職人区ってなってるんだ。こっちは、食糧区? 畑とか牧場があるって感じかな。魚を食べてる場所かと思ったけど、他のものも食べてるんだ。まぁ、それはいいや」


 私は場所の確認を済ませたので、雑貨屋に向かう。雑貨屋に入ると、本当に様々なものがあった。皿、スプーン、フォーク、ナイフ、コップ、小物入れ、ケース、本当に様々なものがある。私は、その中で地図がある場所に向かう。


「えっと……どれかな?」


 てっきりこの街の周辺の地図だけ売ってるんだと思っていたんだけど、沢山の地図が並んでいた。


「これは、違うし。こっちはユートリア周辺。これは……どこだ?」


 私は沢山並んでいる地図を一つ一つ確認していく。そして、五分間掛けて、ようやくこの周辺の地図を見つけられることが出来た。


「あった……あっ! ユートリア周辺の地図も買っておこう……どこだ?」


 私は再び地図探しに移行した。結局、地図を買いに来た雑貨屋に三十分近く滞在することになった。


「はぁ、ようやく買えた。ユートリアに行って、今日倒したモンスターを解体しよう」


 私は、噴水広場のポータルからユートリアに飛んだ。そして、アキラさんの解体屋に向かう。


「こんにちは」

「おう! 嬢ちゃんじゃねぇか!」

「解体場借りても良いですか?」

「いいぞ。何か手伝うか?」

「あっ、解体が分からないモンスターがいるので、少し教えてください」


 私はアキラさんから、カエルやミミズの解体方法を学んだ。そして、二度とやりたくないと思いました。吐かなかった私を褒めて欲しいくらい。


「大丈夫か? 嬢ちゃん」

「はい……これから、この解体だけは、アキラさんに頼もうかと思います」

「まぁ、それが仕事だから受けるけどな。少しは、慣れた方が良いと思うぞ」

「うっ……まぁ、善処します」


 私は、アキラさんの解体屋から出て行き、ギルド方に向かった。クエストの報告をするためだ。


「シズクさ~ん」

「はい。依頼の報告ですね」


 シズクさんに、モンスターの素材を渡して、確認が取れたところで、クエストは完了だ。


「後、これをお願いします」


 私はモンスターの核を渡した。これらを換金して貰うために。


「はい。承りました。少し量が多いので少し待ってくださいね。メグちゃん、手伝って」

「は、はい!」


 メグさんも手伝って核の確認を行ってくれる。私は、十分くらい待っていると、二人の作業が終了した。


「金額はこのくらいになりますね」

「むむむ、いや、かなり稼げたけど、足りないなぁ」

「? 何か買うのですか?」

「はい。船を」

「船!?」


 シズクさんが眼を剥く。メグさんも同じだ。


「はい。おかしいですか?」

「そうですね。運んで貰うならまだしも、購入となると、珍しいと思います」


 普通は船を買うなんて事をしないらしい。まぁ、確かに、RPGも船を買うより譲って貰っている方が多い気がする。


「少し、やることがあって買うことになったんです」

「そうなんですね。でも、危ないことはしないようにお願いします」

「はい。分かってます! じゃあ、私はそろそろ行きますね!」

「はい、またお越しください」


 私はギルドから出て、噴水広場でログアウトする。


 ────────────────────────


 現実世界に戻ってきた私は、息を吐きながら身体を伸ばしていく。


「ふぅ、明日は昼からと夜から冒険だから、そのつもりいないと。ご飯食べて、早く寝ちゃおう」


 私は手早くご飯を作ってから、お風呂に入り、布団に入った。

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