第33話 湿地帯のボス!!

 湿地帯を進んだ先にいたボスは……その……かなりキモかった。


「あれがボス?」

「絶対に触りたくない……」

「二人とも、大丈夫?」


 私とソルは、あからさまにやる気が削がれていた。


「シエルは何で平気そうなの?」

「何でだろう? 私はあまり抵抗ないなぁ」


 シエルは、少し耐性があるのか、普通の顔をしている。私とソルがやる気を削がれるモンスター。それは、大きなガマガエルだった。


「あの小さいのは大丈夫だったじゃん」


 シエルが言っているのは、ここまで来る途中で出くわしていたマッドフロッグの事だ。


「あれは、まだ小さいしつるつるしていたからだよ。あれを見てよ」


 私は大きなガマガエルを指さす。


「ぶつぶつしているし、大きいしで、嫌だ!」


 私がそう言うと、ソルが無言で頷く。


「とにかく早く倒すよ!」

「賛成!」

「じゃあ、さっきまでと同じようにプティとルナを中心として戦おう!」


 私達は、湿地帯のボス、ジャイアント・トードと戦う。


「銃技『一斉射撃』」


 私は、マガジンの弾を全てジャイアント・トードの頭に向けて撃つ。


「嘘!?」


 私が放った銃弾は、ジャイアント・トードの体表にある粘液で絡め取られて、皮膚を突き破ることはなかった。


「あれじゃあ、ソルの刀も無理なんじゃ……」

「私もそう思ってたところだよ。刺突、斬撃無効って感じかな」


 私とソルがそう分析していると、ジャイアント・トードがこちらを向いた。


「『起きて』プティ! 行け!」


 シエルがプティを走らせ、その前脚を叩きつける。ジャイアント・トードは、その衝撃で身体を怯ませる。


「熊人形術『ベア・ナックル』!」


 ゲコッ!?


 赤く輝いたプティの手がジャイアント・トードに叩き込まれる。ジャイアント・トードは口を大きく開いて、上空に飛ばされる。


「ソル!」


 シエルの声と共に、ソルが駆ける。そして、プティの身体を踏み台にして飛び上がる。


「抜刀術『朏』!」


 ソルは、マッドフロッグと同じように口角を狙い、刀を抜き放つ。大きな弧を描いた刀は、ジャイアント・トードの口を斬り裂く。


 グゲッ!


「浅い……!!」


 完全に斬り裂いたと思ったソルの一撃は、浅い傷しか与えられなかった。


「銃技『精密射撃』」


 私は、エクスプローラー弾に入れ替えた黒闇天の引き金をジャイアント・トードの口の中に向かって引く。今度は粘液に邪魔されることなく命中する。


 ゲコッ!?


 口の中で小さな爆発が起きたことで、悶え苦しんでいる。


「熊人形術『ベア・タックル』!!」


 赤く輝くプティが地面に落ちてきたジャイアント・トードに突っ込む。ジャイアント・トードは、プティのタックルに耐えることも出来ずに、吹っ飛んでいき、近くに生えていた一本の木に叩きつけられる。


 グゲコッ!!


「くらえ!」


 エクスプローラー弾をジャイアント・トードの後ろの木に打ち込んだ。爆発によって、木の幹が抉れて倒れてきた。そして、ジャイアント・トードの真上に落ちてきた。


 グゲッ!


 身動きが取れなくなったジャイアント・トードの目の前に来たプティがジャイアント・トードをたこ殴りにする。プティが、しばらく殴り続けると、ジャイアント・トードがピクリとも動かなくなった。


「終わったかな?」


 ソルが恐る恐る覗き込んでいる。私は、そこら辺に落ちている枝を手に取ってジャイアント・トードをツンツンとつついてみた。


「何にも反応がないし、大丈夫そう」

「じゃあ、死体を仕舞っちゃおう」


 シエルがジャイアント・トードを仕舞う。私とソルは極力触りたくないと思っていたから本当にありがたい。


「じゃあ、これで湿地帯クリアだね!」


 ジャイアント・トードを仕舞い、プティを小さくしたシエルが私達の方に振り返る。そして、手を高く上げた。私達もそれに倣って手を高く上げる。


「「「いえーい!!」」」


 私達は勢いよくハイタッチをする。乾いた音が湿地帯に響き渡った。


 ────────────────────────


 湿地帯のボスを倒して先に進んで行くと、私達は自然と歩みを止めた。


「……すごい」


 その光景を見たとき、私の口からはそれしか出なかった。ソルとシエルは声すら出なかった。

 私達が見た光景は、大きな港町と大海原だった。海には、沢山の船が停泊している。

 私達がいる場所は少し小高い丘のようで、港町の全貌が見える。その全貌がすごい綺麗だった。イタリアにあるアマルフィ海岸のような感じ。


「早く行ってみよ!」

「うん!」


 私達は、港町まで走って行く。


 思ってたよりも遠かったけど、港町まで辿り着くことが出来た。


「シャングリラには、図書館とか鍛冶屋とか沢山あったけど、ここには何があるんだろう?」

「港だし……魚屋?」

「出来れば、私達に関係のあるものがいいな……」


 ソルの疑問に思ったことを言ってしまうと、シエルが苦笑いしながらそう言った。


「私達に関係あるものか……やっぱり、船とか?」

「船?」


 今度は真面目に考えて答えてみると、ソルもシエルも首を捻った。


「私達に関係あることでしょ? ここに海があるっていうことは、ここから先の冒険は海ってことなんじゃないかなって」

「なるほど!」


 シエルが手を叩いて納得する。


「でも、船を買うか、運んで貰うかで、色々と変わりそうだよね」

「買うってなったら、お金が掛かりそう」


 私達がそんな事を話しながら歩いていると、港町の中央まで来れた。

 ここまでの道のりの中にあったのは、普通の民家ばかりだった。ここには私達が利用するような施設は少ないのかもしれない。


「やっぱり中央にあるのは噴水広場なんだね」

「これが、ゲームの中の街に共通したものだね」

「そうなると、多分シャングリラ同様に……」


 私がそう呟くと、


『アトランティス港に着きました。都市間ポータルを起動します。飛びたい都市を思い浮かべながらポータルに入ってください』


 シャングリラの時と同様のアナウンスが流れてきた。そして、そのアナウンスの中に気になる事があった。


「ここアトランティスなの!?」

「でも、沈んでるはずなんじゃ?」

「このゲームでは、沈む前なのかもしれないね」


 私が驚いていると、ソルも同じように驚いていた。シエルの方はちゃんとした分析をしていた。その意見に納得していると、私達の後ろから声がした。


「いいえ、ここはアトランティスではないですよ」

「わっ!?」


 私達は素早く後ろを振り返った。そこにいたのは、青みがかった白色の長髪と同じく白い眼をした美少女だった。


「えっと、あなたは?」


 三人を代表して私が質問してみた。


「失礼しました。私は、ミリアリア・アトランシアと言います。ミリアとお呼びください」

「私はルナです」

「ソルです」

「シエルです」


 私達は互いに自己紹介を済ませた。そして、気になっていた事を訊いてみる。


「それで、さっきのはどういうことですか?」

「はい。あちらでお話ししましょうか」


 ミリアが、噴水広場の向こうの方に見えるお店を指さす。


「分かりました」

「では、行きましょうか。あっ、後、私に対しては敬語いりませんよ」

「なら、私達も敬語はいらないよ」

「すみません。癖みたいなものですので」


 ミリアの方は敬語を続けるみたい。癖なら仕方ないかな。

 私達は、ミリアに案内されて、カフェに向かった。それぞれで、お茶やケーキを頼んで席についた。


「では、お話の続きをしますね」

「うん。お願い」

「ここはアトランティスではなくて、アトランティス港と言って、港でしかないんです。名前にアトランティスって入っていますが、厳密にはアトランティスではありません。アトランティスへと続く港という感じです」


 ミリアの話を考えると、ここからしかアトランティスに行けない感じがする。


「じゃあ、アトランティスは何処にあるの?」


 ソルが、ド直球にミリアに訊く。


「海の底です。ここからそう遠くない場所に島として存在していたのですが、大昔に島の底が崩れて、海の底に沈んでしまいました」


 やっぱり、アトランティスは海の底に沈んでしまっているみたい。でも……


「アトランティスの場所は特定出来ているの?」

「はい、出来ています。何度も潜水艇を使用して、場所を確かめました。その結果、この港を出発点としたいくつかのルートでしかいけないということが判明しました」


 私の疑問にミリアは、懇切丁寧に説明してくれた。というか、詳しすぎる説明だった。


「そんなに教えてくれて良かったの?」

「はい。よろしければ、少しお願い事をさせて頂きたいのですが……」


 恐らく、ここからがミリアの本題なんだと思う。


「どんなこと?」

「私をアトランティスに連れて行って欲しいのです」

「この街の人達に頼めばいいんじゃないの?」


 シエルは、至極まともなことを言った。聞きようによっては、少し冷たいとも取れるような発言だけど、これは私も言おうと思ったことだった。私達みたいな旅人のような人に頼むより、その道に詳しいこの街の人に頼むのが一番だと思う。


「既にお頼みしたのですが、全員から断られてしまいました」

「何で?」

「アトランティスまでの道のりが大変危険なんです。海流がでたらめなようです。少しでもルートから逸れてしまうと、呑み込まれて船を壊されてしまうらしいんです。それに、その海流には、大きな海のモンスターが多いとも言っていました」


 ミリアは、少し顔色を曇らせてそう言った。


「確かに、それだと断られるかもね。そもそも、ミリアは、何でアトランティスに行きたいの?」

「行かないといけないんです。アトランティスに行かないと、色々と不味いことになってしまいます」

「不味いこと?」

「はい。最悪、この街が沈んでしまう可能性が……」


 ミリアは声を抑えてそう言った。


「それ本当なの?」

「はい。最悪の場合ですが……」


 かなり重要な問題になった。この街が沈むと、恐らくユートリアとかにも影響が出てくる気がする。


「分かった」

「「えっ!?」」


 私が返事をすると、ソルとシエルが驚いたように私を見る。


「私は引き受けるけど、二人はどうする?」

「う~ん、私も引き受けようかな。ミリアちゃん、困ってるみたいだし」

「じゃあ、私も引き受けるよ」


 二人も引き受けることに決めたみたい。


『クエスト『アトランティスの巫女』を受注しました』


 私達が引き受けること決めると、目の前にウィンドウが現れた。


「引き受けてくださるのですね! ありがとうございます!」

「うん。だけど、私達は船を持ってないから、少し……というか、かなり待ってもらうかもだけど」

「いえ、引き受けてくださるのなら、文句など言いません。ただ、なるべく早くお願いします。どのくらい時間が残っているか分かりませんので」

「うん」

「では、ここで失礼させて頂きます。私はこの街の一番高いところに住んでいますので、何かご用がありましたら、お越しください」


 そう言うと、ミリアはカフェから去って行った。


「すごいことになったね」

「うん。この街を守るためにも頑張らないと」

「まずは、この街で船に関する情報収集だね。ルナ、ソル、行こう!」


 私達は情報収集のために街に繰り出した。

 私達は、これから大きな冒険に身を投じて行く事になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る