第31話 シャルとの街デート!!

 イベントを行った翌日、私は噴水広場の真ん中に立っていた。


「そろそろ、約束の時間だけど、シャルはどこにいるのかな?」


 今来たばっかなので、シャルがどこかにいる可能性を考えて、周りをキョロキョロしていた。


「まだいないみたい。取りあえずここにいとこうかな」


 私は、噴水の前で立って待つことにした。現実でやったら、少し脚が疲れてしまうけど、ゲームの中だからか、いつまでも立ったまま待てる気がする。

 実際には、そこまで待つことは無かった。


「ルナ!」


 昨日と同じように、ギルドがある方からシャルが走ってきた。


「シャル! おはよ!」

「おはよう! ごめんね。待った?」

「ううん、今来たところ」


 今日のシャルの装いは、かなり可愛い。いつも着ているような綺麗で華やかなドレスではない。動きやすく、装飾も少ないワンピースを着ている。それに、肩掛けポシェットを掛けている。


「何か、私の格好は場違いって感じだね」


 今の私は、黒羽織を脱いだだけで、夜烏を着ている状態だ。可愛いワンピースのシャルと比べて、黒くて重いワンピースだ。


「じゃあ、まずは服を買いに行こ!」


 シャルは、私の手を握って歩き出す。


「でも、私の持ち合わせそんなに無いよ?」


 昨日の手袋と装備の修理でかなりお金を減らしちゃったし、そこまで稼いでもいないから、シャルみたいな王族が通うような服屋だと苦しいと思う。そんな心配をしていた。


「大丈夫。私の奢りだよ。前に助けてくれたお礼とか、諸々含めたね」

「でも、悪いよ」

「いいの! これから、あまり会えないかもしれないんだもん。このくらいさせて!」


 シャルは、そう言って私の目を真っ直ぐ見てきた。確かに、シャルが王都に帰った後だと、私と会うことが少なくなる可能性が高くなると思う。そう考えたら、シャルの厚意に甘えた方が良いのかもしれない。


「う~ん、分かった。じゃあ、可愛いのでお願い」

「任せて! ルナに似合う奴を選んであげるから!」


 私達は、東通りを歩いて行く。そういえば、シャルの傍にシルヴィアさんがいない。二人きりにするために気を遣ってくれたのかな?


「あった! ここだよ!」


 シャルが案内してくれたのは、東通りの中にある決して大きくはない服屋だった。それに、こう言っちゃなんだけど、お店の外壁が結構汚れている。


「ここ?」

「うん。ここ」


 少し意外だった。王族だから、服屋とかは豪華なブランド店みたいなものだと思っていたから。


「さっ! 入ろう!」


 シャルに連れられて中に入る。店の見た目と違って、中はすごく綺麗な場所だった。それに、派手な服と言うよりも綺麗で清楚な服が多い。


「こんにちは!」

「いらっしゃいませ、シャルロッテ殿下。本日はどのようなものをお探しですか?」


 店の奥の方から店員さんがやって来た。ここの服だろうか、白い服を着ている綺麗な女性だ。


「彼女に合う服を買いに来たの。動きやすくて、あまり派手じゃないものでいいのあるかな?」

「そうですね……少々お待ち下さい」


 店員さんは、私を上から下までじっくり見てから店の中を歩き始めた。私とシャルは、奥にある試着室に向かっていく。


「いいのかな? 店員さんに任せちゃって……」


 現実の服屋では、自分で探して店員さんにはあまり頼らない。なので、こうして店員さんに任せるということに、少し不安を覚える。


「大丈夫だよ。コーディネートに関しては、この街で一番だからね」


 私達が待ってると、店員さんが複数の服を持ってきた。


「一応、複数の組み合わせが出来るように、選ばせて頂きました」

「ありがとう。さぁ! ルナ、試着してみて!」

「うん」


 私は、渡される服にどんどん着替えていく。真っ白のワンピースと水色のサンダル、麦わら帽子の清楚の定番服から、黒いけど夜烏よりも軽いワンピース、青いシャツとジーパンのようなものでクールな感じなど、様々な服を着ていった。というか、現実世界とほぼ変わらないくらいのラインナップがある。ゲームだから不思議では無いかな。


「う~ん、素材が良すぎて、どの服も似合っちゃって迷う……」

「そうですね。個人的には最初の清楚な感じがお似合いだと思いますが」

「よし! 取りあえず全部買うとして、着て帰るのは最初の服にしようか」

「えっ! いや、それだけで良いよ! さすがに、全部買って貰うのは……」


 まさかの大人買いに全力で遠慮する私だったけど、シャルはお構いなしに会計を済ませてしまった。


「いいから。常に武装しておかなきゃいけないわけじゃないでしょ? それに、私服が一着だけよりも複数あった方が気分で変えられるし」

「まぁ、その通りだけど」

「じゃあ、買わせてよ。私は、ルナにしてあげられることをしてあげたいんだ。ルナには、助けられたことしかないから」


 シャルはそう言って笑う。シャルにそこまで言われてしまうと、何にも言えなくなってしまう。


「分かった。じゃあ、貰うね」

「よし! じゃあ、行こう! また、来るね!」

「洋服ありがとうございました!」

「また、お越しください」


 シャルに引っ張られて、店を後にする。


「次はどこに行くの?」

「ルナは、いつもヘルメスの館にしか行ってないでしょ?」

「確かに……」


 私はゲームに初めて入ってから、ヘルメスの館以外の飲食店に入っていない気がする。


「だから、美味しいお店を紹介しようと思って」

「結構ここら辺の店に詳しいの?」

「まぁ、抜け出して食べに来てるからね」


 本当に自由な姫様だなぁ。


「それって、シルヴィアさんは知ってるの?」

「そりゃあ、相手は王国最強の騎士だからね。どんなにこそこそ出て行こうとしても、絶対にバレちゃうよ。だから、一緒に抜け出してきて貰うんだ」

「それもそれでどうなんだろう……」


 そんな事を話しながら、歩いて行くと、一軒の店の前で止まった。


「ここ!」

「おぉ……」


 止まった目の前にあった店は、とても豪華なお店だった。どう考えても、私の手が届くところのようには見えない。


「この服で大丈夫?」

「ドレスコードはないよ。というか、そこまでの高級店じゃないしね」


 シャルは、扉を開けて中に入っていく。私も後に続いた。


「いらっしゃいませ!! お好きな席にどうぞ!!」


 店員さんが大声でそう言った。シャルは慣れたように空いている席に座った。


「さて、今日は何にしようかなぁ」

「どんなメニューがあるんだろう……」


 メニューを開いてみる。正直、よく分からないものばかりかと思っていたんだけど……


「ハンバーガーがある……というか、ほとんどファストフードばかり」

「決まった?」

「うん、ハンバーガーのセット」

「すみませ~ん!」


 シャルが店員さんを呼ぶ。すると、直ぐさま店員さんがやって来た。


「えっと、ピザのセットとハンバーガーのセットを一つずつ」

「かしこまりました」


 ササッとメモを取って、厨房の方に向かっていった。


「シャルはよく来るの?」

「うん。美味しいからね」

「何で外見をあんなに豪華にしているんだろう? 気後れしてしまうんじゃないの?」


 ファストフード店なのに、その外見は高級レストランそのものだった。


「何だっけ、確か、注目を集めたいみたいな話だった気がする」

「私は、逆に気が引けるけどね。でも、一度入ったらまた来ちゃうかも」


 私がそう言った直後、店員さんが私とシャルのご飯を持ってきた。


「わぁ……美味しそう!」

「でしょ! さっ! 食べよ! いただきます!」

「いただきます」


 私の頼んだハンバーガーのセットは、アメリカにあるようなハンバーガーとフライドポテトだった。ナイフとフォークで切り分けながら食べる。


「美味しい!!」


 本当に美味しかった。正直びっくりした。ヘルメスの館で食べたアイナちゃんのケーキも美味しかったけど、このハンバーガーも負けず劣らずで美味しい。


「ルナ、こっちも食べてみて」


 シャルがピザの一切れをくれる。


「ありがとう。こっちもどうぞ」


 私もハンバーガーの一切れを渡す。互いのメインを交換して食べる。


「このピザも美味しい!」

「でしょ! ここのご飯はどれも美味しいんだよ!」


 美味しいご飯を舌鼓した私達は、長居することなく店を後にした。


「後は、そこら辺の店をひやかしに行こ」

「ウィンドウショッピングってやつだね」


 それから私達は空が暗くなるまでいろんな店を見て回った。何件かは、ちょっとしたものを買ったりした。その内の一つは、私とシャルのペアリングだった。


「意外と安くて良いのが買えたね」

「結構装飾もしっかりしてるしね」


 買い物を終えた私達は、噴水広場に向かっていた。


「明日、王都に帰っちゃうんだっけ?」

「うん。お昼前にね」

「そっか……」


 明日は、学校がある。というか、卒業式だ。なので、早く帰ってくると言うことも結構厳しい。


「ごめんね。見送り出来なくて」

「全然良いよ。互いに用事があれば仕方ないよ」


 シャルはそう言ってくれるけど、私としては見送りはしておきたかった。そうこう言っている内に、噴水広場に着いた。


「そうだ! この前渡した指輪は持っているよね?」

「うん。大規模侵攻の時にくれたやつでしょ?」


 シャルから貰った指輪は、今も指に付けている。


「それ王家の紋章が付いているから、本当に融通が利くから。王城にも入れるようになると思うから」

「えっ!? そんなものだったの!? さすがに貰えないよ!」

「貰って。私達を繋いでくれるはずだから」


 シャルは真剣な顔でそう言った。多分だけど、シャルは私との縁を切りたくないって事なんだと思う。そして、それは私も同じだ。


「……分かった。じゃあ、預かっておくね」

「むっ……まぁ、それでいいや。有効活用してね」

「うん……ん? これって、シャングリラの図書館でも……」

「うん。それがあれば、許可証なしに中には入れるよ」


 やっぱり、これってかなり重要なものなんだ。大事にしなくちゃ。でも、有効活用はさせて貰おう。シャルもそう言っていたし。


「じゃあ、もう行くね」


 そう言って、シャルは歩き出す。でも、すぐに振り向く。


「ルナ! また、会おうね!」


 シャルはそう言って手を振る。


「うん! また、会おう!」


 私も手を振り返す。私は、シャルが見えなくなるまで手を振り続けた。


「また……」


 出会いがあれば別れもある。でも、また出会う事だって出来る。私達は、再開を約束して別れた。

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