第30話 イベント終了!!

 ジークに倒された後、しばらく暗闇が続いた。なんというか、水の中を沈んでいくような感じだ。考えもまとまらない。段々と身体の感覚が戻ってきたので、目を開けると、そこはユートリアの噴水広場だった。


「私は……そうだ、負けたんだった」


 死の影響なのか、起きた直後は少し意識がはっきりしなかったけど、少ししたら直前の記憶も戻ってきた。そして、キョロキョロと周りを見回した。ソルとシエルを見つけるためにしたことだったけど、そのおかげである事に気が付いた。


「皆、空を見上げてる。なんだろう?」


 私は、皆が見上げている方向を見た。そこには、半透明なウィンドウが浮いており、そこに私達がいた別エリアの映像が映っていた。


「まだ、数人残ってるんだ。まぁ、そんな事はいいや。ソルとシエルはどこだろう?」


 私はウィンドウを見上げるのをやめて、ソル達を探す。見回していると、噴水広場の端っこの方に二人がいるのが見えた。


「ソル! シエル!」

「ルナちゃん!」

「ルナ!」


 二人を呼び掛けながら、近寄った。


「ソル、大丈夫?」

「うん。あの光の柱に当たっちゃった」


 やっぱり『天罰カエルム・ポエナ』に当たったみたい。


「ソルの速さでもダメだったんだ」

「技を中断させようと思ったんだけど、硬すぎて無理だったよ」

「プティもボロボロだよ」


 シエルの腕の中には所々焦げたプティがいた。


「ここまで、戻ったんだ」

「うん。後は裁縫屋にいかなきゃ」


 裁縫屋の話が出てきて、自分の服を見下ろすと、所々破れているのが分かった。


「私とプティだけ、すごいボロボロじゃない?」

「確かに、私とシエルちゃんは、そこまで破れていないね」

「シエルは、直接戦わないし、ソルは、基本避けてたでしょ? 私は、最後殴り合いをしたから、こんなになっちゃったんだね」


 私の服がボロボロになった理由は、最後の接近戦が原因だ。あれがなければ、こんなになってないけど、もっと早く倒されてしまってた気がする。


「ジークとか言ったっけ? あの人強すぎない? ほとんどチートだよ」


 シエルが頬を膨らませながら憤っている。確かに、あの強さは異常だもんね。


「聖剣とか聖鎧とか言ってたよね」

「勇者が装備するような武器だよね。もしかして、初期武器であれ?」


 初期武器聖剣とか、ものすごく運が良いね。相対される側は勘弁して欲しいけど。


「あっ! いたいた!」


 私達の傍で私達以外の声がした。なんだろうと思いそっちを見ると、そこには、私が倒したエラの姿があった。


「こんにちは! あなた、私を倒した子でしょ? 私はエラ。よろしくね」


 そう言って、エラは、私に握手を求めた。


「私の名前はルナ。よろしく」


 私も自己紹介をしてから握手に応じた。その後にソルとシエルにも握手を求めていた。


「ソルです」

「シエルです」


 二人とも名前を言ってから、握手に応じていた。


「ルナちゃんは、本当に強いね。私、びっくりしちゃった」

「私もびっくりしたよ。エラさんの魔法は、かなり厄介だったもん」

「そう? その割にはあっさり破ったり利用されたりした気もするけど。あっ、呼び捨てで良いよ」

「私も呼び捨てで良いよ。透明の氷は、気づかなかったら、ぶつかってたし」


 私とエラは、すぐに意気投合した。昨日の敵は今日の友って感じかな。まぁ、戦ったのは今日だけど。


「それより、エラの仲間のジークって人、チート?」

「ああ……一応、チートじゃないんだけど。あのスキルは、確実にチート級だよね」

「あの光の柱は、反則だと思います!」


 実際に『天罰カエルム・ポエナ』を食らったソルが手を挙げて主張した。


「そうだよね。私もそう思う。あれでも奥義級の技だから連発は出来ないんだけどね。あっ、二人もため口で良いよ。どうせゲームだからね」

「じゃあ、お言葉に甘えて。今話にあったけど、奥義級って何?」


 ソルは、聞き覚えのない言葉に首を傾げる。私も知らない言葉だったので、同じく首を傾げることになった。


「あれ? 二人は、まだ持ってないの?」

「持ってないよ」


 これには、シエルも驚いていた。どうやら、一部のプレイヤーには常識となっているらしい。


「奥義級って言うのは、技の階級の事を言うの。まぁ、私達プレイヤーが言い始めた事だから、実際には違う言葉かもしれないけど。ちなみに、普通の技は、戦闘用を戦技、生産用を作技と呼んでいるよ。

 ここからが本筋なんだけど、奥義は、この戦技や作技の上位に当たる技だよ。基本的に、今までの技よりも遙かに強い技を使えるんだ。まぁ、その分のデメリットも存在するんだけどね」


 エラが軽く説明をしてくれた。この説明からするに、シエルが使ったプティの暴走が奥義級に値するんだと思う。


「大体、スキルが30レベルくらいになると覚えるかな」

「これを覚えているといないでは、かなり違いが出てくるよ」


 シエルとエラは、既に持っているため、より深く実感しているんだと思う。


「でも、仲間の事をそんなに話しても良いの?」

「良いの良いの。あいつは、こんな事を言っても強いからね」


 エラは笑いながらそう言った。意外と気楽な人みたい。


「ルナ~!」


 少し遠くから私を呼ぶ声がする。皆でそっちを向いてみると、広場の向こうからシャルとシルヴィアさんが走ってきていた。


「シャル、シルヴィアさん。どうしたの?」


 シャルは、走ってきた勢いで私に抱きついた。疲労していた私は、少しふらついたけど、何とか耐えた。


「大丈夫!? すごいボロボロだし、いっぱい傷つけられてたけど!?」


 シャルは、空にあるウィンドウを見て、ここまで走ってきたみたい。


「大丈夫だよ。一回死んだけど、この通りピンピンだよ!」


 私は、シャルとシルヴィアさんの事を安心させるために、身体を軽く動かして見せる。


「本当に大丈夫そうですね」


 シルヴィアさんは、私の事を見てそう言った。安心してくれたのかなっと思ったけど、私の身体をあちこち触ったり、目で見ていったりと確認をしていた。


「はぁ、こんなんになるなら、許可しなければ良かったかな?」

「そうでもないよ。私も自分の実力を試す良い機会だったもん」

「そう? ルナがそう言うなら、良かった」


 そこまで話して、ようやく二人とも安心してくれた。


「ねぇ、ルナ。この人達は?」


 シエルが、私の後ろから頭を出して、訊いてきた。そういえば、シャルとシルヴィアさんの事は知らないか。


「こっちが、シャルロッテ・ファラ・ユートピア。この国の……第二だっけ?」

「第二だよ」

「第二王女だよ。こちらは、シルヴィアさん。シャルのメイドをしている方だよ」

「扱いに差を感じる!」


 シャルの肩書きを忘れちゃって、少しシャルが怒っていたけど、まぁそれは大丈夫! そもそも一回しか聞いた事無いし。


「王女様!?」

「嘘!?」

「ああ……そういえば、ルナちゃん知り合ったって言ってたね」


 シエルとエラは驚いていたけど、ソルは私に事前に聞いていたから、あまり驚いてなかった。でも、シルヴィアさんの事をそれとなく見ている……気になるのかな?


「シャル、シルヴィアさん。こちら、右から幼馴染みのソル、友達のシエルとエラです」

「よろしく! シャルで良いよ!」

「姫様共々よろしくお願いします」


 シャルは、気軽にそう言い、シルヴィアさんの方は少し固めに言った。


「そんな恐れ多くて無理です!」

「あまり堅苦しいのって好きじゃないんだ。だめ?」


 遠慮するシエルに、シャルは、上目遣いでお願いしていた。シエルはそれから少しの間遠慮し続けたが、根気よく言い続けたシャルに押し負け、呼び捨てにすることに落ち着いた。

 それから、私とシャル、シエル、エラで話して、ソルとシルヴィアさんは二人で何かを話していた。いったい何を話しているのやら、すごい気になる。


 まぁ、そんなこんなで、PVPイベントの優勝者が決まった。うん、私達は話に夢中で、何も見てなかったけど。


「優勝者は……ジークか……まぁ、そんなもんだよね」


 エラは、あまり驚いていなかった。


「あの人って、ルナに勝った人?」

「そうだね」

「死刑?」

「やり過ぎだね」


 シャルが、光の灯らない眼でそんな事を言い出すから、すぐに止めておいた。危うく、ジークが死刑になるところだった。


「ジークは勇者だからね。普通の人よりは強いよ。はっはっはっ」


 何でエラの方が威張ってるのだろうか。というか、すごい重要な情報があった気がする。


「勇者?」

「うん。言わなかったっけ? ジークの職業は勇者だよ」

「それって、結構秘密にしないといけない情報じゃないの?」


 思わず、シエルがツッコミを入れる。エラは、意外と口が軽いみたい。伝える情報には気を付けよう。


「勇者か……それは強いわけだね。普通の職業じゃなくて、上位職だし」


 シャルが言うには、勇者は上位職らしい。ステータス上昇も高い感じかな。そんな風に話していると、空中に熊の着ぐるみが現れた。


『プレイヤー諸君。まずは、PVPイベントへの参加を感謝する。楽しんで頂けただろうか。さて、優勝者が決まった。優勝者には、商品として特典武器を進呈する。優勝者の職、スキルに合わせたものを用意させて貰った。活用して貰えると嬉しい。これにて、PVPイベントを終了する。次のイベントは未定だが、また参加して欲しい。では、これにて失礼する』


 突然、空中に現れた熊の着ぐるみは、それだけ伝えると、すぐに消えた。


「終わったぁ! 私はヘルメスの館に行ってくるよ。防具の修復をしたいし」

「私は、少し修行してくる。奥義を会得したいから」

「私は、裁縫屋に行ってくる。プティいないと何も出来ないし」

「私はジークの所に行ってくるから、ここで解散だね」


 私達は、手を振って、それぞれの行き先に向かう。私は、皆を見送ってから行く事にしていたので、広場に残っていた。


「じゃあ、私も行くね」

「うん。私も今のイベントで処理する書類があるかもだから、ギルドに戻るね。また、明日ね」

「私も失礼します。明日は、十三時くらいに噴水広場に集合でよろしいですか?」

「はい。問題ありません。では、また明日」


 私は、二人に手を振って別れ、ヘルメスの館に向かった。いつも通りの道を歩いて、ヘルメスの館に着くと、アーニャさんとアイナちゃんが出迎えてくれた……心配そうな顔をして。


「ルナちゃん! 大丈夫!?」

「大丈夫だよ。服はボロボロになっちゃったけど」

「あの映像は見てたわよ。かなりの無茶をしたわね」


 アーニャさんは私の無事を確認すると、途端にお叱りモードになっていた。


「えっと、ごめんなさい……」

「銃のアドバンテージを捨ててでも、接近戦で戦った理由は分かるわ。銃弾の効果がないのだから仕方がないわ。でも、ルナちゃんの身体は、鎧より弱いんだから、無茶したら自分が傷付くのは当たり前でしょ?」

「はい。でも、これからどうすれば……?」


 アーニャさんの言っていることはごもっともだ。私の手では鎧を貫くなんて出来ないし、自分の拳を傷つけて、ダメージを負ってしまったし。でも、具体的な解決法が思いつかない。


「っというわけで」


 アーニャさんは、店の奥から何かを持ってきた。


「はい、これ。プロテクターっていうと、大仰だけど、丈夫な手袋ね。きちんと、銃を撃つのに邪魔にならないようにはしているけど、防御力は高いから安心して」


 アーニャさんが手渡してくれたのは、黒い革手袋だった。私、黒ずくめになってきてる気がする。最初からか?


「ルナちゃんが持ってきてくれた素材で作ったものだから、お代は負けとくわね」

「はい」


 さすがに、お代が掛かると思っていたけど、まさか負けてくれるとは思わなかった。


「じゃあ、服脱いで。ちゃっちゃと直しちゃうから」

「あ、はい」


 私は黒羽織と夜烏を脱いで、アーニャさんに渡す。装備が直るまでは、初期装備を着ておく。私の装備を受け取ったアーニャさんは、そのまま店の奥に消えていった。


「じゃあ、装備が直るまで、お茶にしようか」

「うん。アイナちゃんのおすすめで」

「わかった!」


 私は、装備が直るまでの間、アイナちゃんとお茶を飲んで過ごした。やっぱり、ここでアイナちゃんとお茶を飲むのは楽しい。

 今日は、アーニャさんに装備を直して貰って、ログアウトした。明日は、シャルと街に遊びに行く。楽しみだなぁ。

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