第29話 対ジーク戦!!
ジークの技によって、ソルがやられた。シエルは、一瞬頭の中が真っ白になってしまう。しかし、すぐに我に返った。
「プティ!」
ソルとは離れた場所に待機していたプティも、光の柱……『
そのプティを操り、ジークに突撃させる。
「熊人形術『ベア・タックル』!!」
赤い光を纏ったプティが、ジークを撥ねた。
「え?」
シエルは、先程も見せた技なので、避けられる可能性が高いと考えていた。でも、ジークは避られずに攻撃を受けた。
「技後硬直が長いんだ。普通の技なら、すぐに動けるようになるはず」
「なら、熊人形術『バイオレント』」
プティの眼が赤く光り、茶色かった体毛が黒く染まっていく。そして、目に留まったジークに向かって突っ込んでいく。そして、我武者羅に攻撃をしはじめた。
熊人形術『バイオレント』。使役する熊の人形を操れなくなる代わりに、攻撃力、防御力、スピードを何倍にもする技だ。さらに言えば、燃費も悪く、ぐんぐんMPを消費されていく。ジークの『天罰』同様に、強力な技の一つだ。そして、一つだけ操れなくなる事以上のデメリットが存在する。
それは……攻撃対象に使役者も含まれてしまうという事だ。
「この状態じゃ、私も近づけない。ここで、見守るしか……」
ジークは、プティの攻撃を捌ききれない事に気が付いたようだった。防ぐ事から、避ける事に変えたようだった。しかし、プティの動きはさっきまでと違う。攻撃モーションからの先読みも出来ずに何発か攻撃を食らっている。
「今の私じゃ、あれ以上の技を出す事は出来ない。これで決められないと……」
ジークは、だんだんプティの動きに対応してきていた。
「はああぁぁ!!」
ジークは、剣に光を纏わせた。
「!」
纏わせた本人であるジークが驚く。ルナの手によって、封じられた力が戻ってきてしまったのだ。
「これなら!」
プティの攻撃を避け、少しずつ攻撃を加えていく。プティとジーク、互いにダメージを負っていきながら、攻撃を続けていく。
「まずい………そろそろプティの耐久力が限界になりそう。ルナがいれば……」
噂をすれば影がさす。その言葉通りになるかのごとく、空から夜烏が降りてくる。
────────────────────────
光の柱を見た後、怪我が治るのを待つ事なく、光の柱が発生した方に向かって走り出した。感覚的に治りきっていないのは分かったが、急がないとソルかシエルが倒れている可能性が高い。あるいは、どちらも倒れているかも。どちらにせよ……
「消耗しているうちに倒す!」
移動していると、戦闘の音が聞こえてきた。そっちを見てみると、黒い熊とジークが戦っている。
「あれって、プティ……だよね?」
そんな疑問を口にした瞬間、ジークが剣に光を纏わせた。
「効果時間が過ぎたんだ。そういえば、あの時はシルヴィアさんがすぐに倒したから、どのくらい続くのか知らなかったや……」
私は、すぐに黒闇天を抜き、照準を合わせる。
「力を奪え『夜烏』!」
黒闇天に黒いオーラが巻き付き、銃弾となって撃ち出される。撃ち出された弾は、夜烏となってジークに向かって飛んでいく。
「…………これって、プティに当たらないよね?」
少し不安になったが、夜烏はまっすぐジークの元に飛んでいった。
少し遠くの方にシエルがいるのが見える。シエルも私に気が付いた様だ。心なしか、ホッとしたような顔をしている。しかし、ソルの姿が何処にも見えない。
「ソルは……やられたんだね。なら……!」
私は、夜烏の進路とは違う方に向かって走る。その間もジークから眼を離す事はしない。
夜烏を見たジークは、苦々しげな顔をしている。夜烏の効果に気が付いているんだと思う。
「さぁ、どうする?」
私の夜烏には、本来の機能であるホーミングがある。どれだけ避けても食らいついてくるはずだよ。
ジークは、やむを得ず夜烏を斬り捨てる。そして、剣に纏わせた光を失った。それと同時に、攻撃を加える。
「銃技『精密射撃』……『一斉射撃』!」
ちょっと思う事があってスキルを組み合わせて放ってみた。すると、私の狙った位置に、マガジン内全ての弾が放たれていった。成功だ!
「!!」
さすがに銃声がすれば気づかれるよね。ジークはこっちを見て、自分に迫ってくる十発の弾を見た。多分だけど……
「はぁ!」
なんと、私の弾を八発まで斬ってみせた。異常だ……。
でも、二発は当てる事が出来た。鎧に……
「かたっ!! 通常弾じゃだめだ」
私はフルメタルジャケット弾に変える。そもそも、鎧相手に通常弾を使うのが馬鹿だった。
「銃技『精密射撃』!」
私は敢えて、ジークの脚を狙う。それも、プティの攻撃と合わせての攻撃だ。
「聖鎧技『
光の膜が私の弾を防ぐ。フルメタルジャケット弾は、光の膜の表面を滑っていって、地面に吸い込まれていった。
「…………」
鎧技……剣と鎧で攻防の技が充実している。結構ずるい。私はマガジンを入れ替え、弾を変える。
「やるなら、接近戦……でも、あの状態のプティって絶対私にも攻撃してくるよね……少し気が引けるけど、やるしかない!」
私はジーク目掛けて駆け出す。ジークは接近してきた私を、警戒する。でも、プティの方を優先する事に決めたらしく、すぐにプティと向き合う。その選択は間違いだね。
私は、ジークの死角から引き金を引く。撃ち出された弾は、真っ直ぐジークに飛んでいく。銃声に気付いたジークは、自分に向かってくる銃弾に気が付いた。
「聖鎧技『
さっきと同じ事の焼き増し、ジークはそう思っているだろう。でも、同じ結果にはならない。
「!?」
私の撃った弾は、光の膜を打ち消して鎧に命中する。そして、小さな傷を付けた。
「なんだと!?」
私の撃った弾は、『抗魔弾』と呼ばれる弾だ。現実の世界には存在しない。この世界オリジナルの弾だ。その効果は、魔法の威力減衰。ジークの光の膜は魔力で作られているので、私の抗魔弾で消す事が出来た。
さっきのエラとの戦いで使えという話だけど、この弾は銃弾創造でも消費魔力が異常に多すぎて、おいそれとは作れない。これを量産するなら、他の弾を優先した方が良い。それもあって、弾数が少ない。氷相手なら、普通の弾でも対応出来ると思って、使わなかったけど正解だったね。
無防備になったジークの懐に潜り込む。
「体術『
私は、ジークの鎧の上から掌底を叩き込む。
「?」
叩き込まれたジークは、一瞬きょとんとした顔になった。硬い鎧に掌底を当てれば、「何をしてるんだこいつ」ってなるのは当たり前だけどね。でも、次の瞬間、鎧を越えてジークを衝撃が襲う。
「なんっ!?」
突然襲った衝撃によって、ジークの身体が一瞬浮いた。そこに、プティの拳が直撃する。
「ぐっ……!」
ジークは、地面に叩きつけられる。そこに、銃弾を撃ち込む。でも、その銃弾すらジークは防いで見せた。そして、身体をバネのように跳ねさせて、起き上がり私とプティから距離を取った。
その結果、プティの攻撃目標が私になってしまった。
「あぶなっ!」
私はプティの拳を腕の上に乗る形で避け、そのままプティの上に登る。そして、頭の上で飛び上がり、プティから距離を取る。
「君! 協力して、あの熊を倒す! そっちの方が君にとっても得策だろ!?」
プティから離れた私にジークがそう提案した。
「……断るよ。こっちが私の仲間だから『夜烏』」
至近距離で夜烏を使う。三回目の夜烏を放つと、身体の力が一気に抜けた。消費MPが大きい技を連発すれば、こうなるのも仕方ない。
(でも、まだ動ける!!)
私は、地面を踏みしめる。決して倒れないように。
「くっ!」
ジークは、夜烏を斬り捨てる事はせずに、その場から飛び退く事で避ける。
「こいつは、君の技だったのか!」
「そうだけど、そっちに逃げて良かったの?」
私がそういったことで、ようやく自分が逃げた方向がプティがいる方向だと気付いたみたい。プティに殴られる私もジークもそう思っていた。でも、実際にはそうならなかった。攻撃の直前にプティの身体がいきなり萎んでしまったからだ。
「……時間切れ?」
恐らくシエルのMPが切れたんだと思う。つまり、ここからは、私一人で戦う事になるわけだ。
「ルナ! 逃げて!」
シエルの声がすると同時に、私はその場から離れた。周りの状況を確認するけど、ジークが攻撃しようとしているわけでも、他のプレイヤーが現れたわけでもなかった。
「熊人形術……『自爆』」
プティの身体が赤く光る。そして、プティを中心として大きな爆発が起きた。その範囲内には、ジークがいる。私はシエルの声かけのおかげで、衝撃波を少し受けるだけで済んだ。
「プティが……」
爆発により起こった大きな煙の中心には、プティがいるはず。でも、プティが爆発を起こしたのだから、無事ではないと思う。
「大丈夫。完全に消失する事はないから、私のMPを消費すれば、ある程度までは戻るから。その後は裁縫屋で直す事が出来るし」
少し遠くにいたシエルが私のところに来る。
「自爆したプティの近くにいたから、あの男は倒せてるはずだよ。あの自爆は、一番攻撃力が高いから」
プティを扱えなくなるのと引き換えの攻撃力みたい。
「それじゃあ、シエルの戦闘能力はもう皆無って事?」
「そうだね。私はここでリタイアす……」
シエルの声が途中で途切れた。その理由は、シエルの首が落とされてしまったからだった。
「シ……エ……?」
シエルが倒された。私は、一瞬頭の中が真っ白になってしまった。でも、すぐに我に返る。今は戦闘中なのだから、呆けている暇はない。
私は、敵がいる方向を見て構える。煙の中から、所々焦げ付いたジークが現れた。
「やられたよ。まさか、自爆までするとはね。だけど、もうその攻撃も使えない。君の攻撃も俺には効かない。これで俺の勝ちだね」
ジークはそう言いながら微笑んでくる。正直、キモい……何で微笑んでるんだろう? 怖いわ!
「攻撃が効かないわけじゃないでしょ。私の打撃は通ってたし、ソルとシエルのおかげで、かなり消耗しているはずだし……!」
私は、話の途中で黒闇天の引き金を引く。その弾はいともたやすく斬り捨てられる。てか、今思ったけど、この人なんで銃弾を斬れるの!? 化け物か!
そう思いつつもジークに接近する。
「接近戦は望むところだ!」
ジークもこっちに向かって駆けてきた。私達の距離はみるみるうちに縮まっていく。
「ふっ……!」
ジークは、自分の間合いに入った私を上段から振り下ろしてくる。かなり速度で私目掛けて降ろされる剣の側面に、銃弾を当てて、無理矢理軌道を逸らさせる。そして、剣の軌道の逆側に踏み込む。
「体術『衝波』!」
「ぐっ……」
ジークの脇腹に掌底を叩き込む。やっぱり衝波なら、鎧相手にも多少のダメージを与えられるみたい。シルヴィアさんに体術を教えてもらえて良かった……
「はっ!」
ジークは、逸らされた剣を水平にし、私目掛けて薙ぎ払う。その攻撃をバク宙で避けて、鎧の隙間に銃弾を撃ち込む。
「……!」
声には出してないけど、ダメージが入ったんだと思う。隙間への攻撃と体術の技で、少しずつ削っていくしかない。
そこからは、地道な戦いが続いた。といっても、派手な技がないだけで、動き自体はかなり……その……おかしかったと思う。うん、他の人から見たらおかしいと思う。
剣の攻撃を銃弾で逸らしたり、バク宙みたいな曲芸に近い動きをして避けてるからね。
「く……でたらめな動きを……!」
「失礼な! 真面目にやってるよ!」
MPの関係で、技を使うのは控えめにしないといけなくて、隙間を狙った銃撃をしかしてないからか、あまり体力を削る事は出来てないみたい。
「君の防御力は見た目に反して高いみたいだね」
「そうかもね」
私の攻撃がジークに当たるように、ジークの攻撃も何回か私に当たっている。それでも私が生きている理由は、黒羽織と夜烏に付いているスキル『硬化』のおかげ。硬化は、そのまま黒羽織と夜烏の表面を硬くするもの。常時発動しているものだけど、意識して発動すれば、より硬くなる。だから、ジークの剣が貫きづらくなる。
でも、このままじゃ、絶対に負ける。どう足掻いても、勝てる見込みがない。
私はジークの攻撃を避けつつ、マガジンを入れ替える。マガジンの数もかなり減ってきた。今入れたのは、エクスプローラー弾。これで、ダメージが与えられないと、ほぼ詰み状態だよ。
「よっ」
また、剣を避けて、ジークに向かって引き金を引く。鎧に命中すると、そこで小規模の爆発が起きた。
「くっ……爆発物か……」
……ノックバック効果だけしかない。ダメージもあまり入ってないから、今まで通りの地道な作業になる。と思ったけど、ちょっと試してみたい事が出来た。
「銃技『一斉射撃』」
私にもダメージが入る前提で、超至近距離で技を使用する。合計九発のエクスプローラー弾が、ジークの鎧に命中する。連続する爆発にジークが後方にノックバックしていく。
「…………どう?」
煙が晴れると、ジークの姿が現れる。
「倒しきれないか……」
「いや、かなり危なかったよ」
ジークの鎧は、かなりへこんでいた。しかし、ジーク自身には大したダメージは入ってなさそう。
「チートめ……」
もう残弾が少ない。でも、諦めたくはない。だから、攻撃は止めない!
「やああぁぁ!」
私はジークの頭目掛けて回し蹴りをする。ジークは、それを腕の籠手で受け止めた。
「痛っ……」
蹴った脚が痛む。ダメージ反射もあるんかい! いや、鎧を勢いよく蹴れば、怪我をするのは普通私の方か。
でも、攻撃の手を緩めない。銃撃、殴打、蹴り、自分の出来る攻撃を組み合わせて、連続で攻撃していく。ジークの攻撃は、黒羽織と夜烏を頼りにして、致命傷以外を無視する。
「はあああ!!」
なるべく鎧がない関節を狙うが、どうしても鎧に当たる事が多くなる。その結果、反射ダメージで、段々手や脚が動かしにくくなるのを感じた。だけど、それも無視。
『『防御貫通Lv1』を修得しました。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』
『『弱点察知Lv1』を修得しました』
『『防御上昇Lv1』を修得しました』
少しダメージを入れられるようになったけど、それでもまだ倒せない。そのまま十分間くらい、この攻防を続けていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
身体がいう事を聞かなくなった。その場に膝を付く。
「はぁ、はぁ、限界のようだね」
「…………」
私は無言でジークの頭目掛けて引き金を引く。
「……!」
その攻撃も、ジークの剣によって防がれてしまう。
「本当に……強すぎ……」
「君もね。それに、君の仲間も本当に強かったよ」
私もジークも、互いに装備はぼろぼろの状態になっていた。
「それじゃあ、これで終わりだよ」
ジークが処刑人のごとく剣を掲げる。私は、もう反撃する余力がなく、それをただ見ていた。
振り下ろされた剣は、私を斬り裂いて、絶命させた。
初めての対人イベントは、少し苦い思い出になってしまった。
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