第28話 ルナ対エラ!

 ソルとシエルが、ジークを相手取っている時、私は敵の魔法使いエラとの戦い始めた。


「ジーク!!」


 加勢しようとするエラを銃撃する。走りながらの銃撃なので、少し狙いがズレてしまう。急所には当たらなかったが、肩や脚に命中させる事は出来た。


「うぐっ!」


 持っている長杖を取り落とし掛けたけど、踏ん張って堪えられた。


「銃!?」


 私の手元を見て、エラが眼を剥く。銃術は、ユニークスキルなので、私の他に使う人はいない。対処法が確立していないはずなので、少しアドバンテージがある。


「遠距離攻撃が売りのはずなのに、銃で突撃するなんてお馬鹿さんだね! 『氷槍よ 彼の者を穿て』!」


 エラが私に向けて氷の槍を放ってくる。しかも、かなり大きい。私一人分くらいはあると思う。私はその槍に対して、エクスプローラー弾を撃つ。さっき、撃ち尽くしたときにマガジンを交換しておいて良かった。氷槍は、私に当たる前に砕け散ってなくなる。


「嘘でしょ!?」


 エラは、渾身の一撃を防がれたので、次の動きが出遅れてしまった。そして、残ったエクスプローラー弾五発をエラの足下にある岩に放った。


「痛っ!」


 飛び散った破片がエラに突き刺さる。怯んだタイミングで、銃弾を入れ替える。


「ふっ……!」


 撃った弾は、動きを止めていたエラに命中する。


「うぐっ……!」


 私が撃った弾はホローポイント弾と呼ばれるもので、目標に与えるダメージが高いものだ。

 本当は十発全部を当てるつもりだったんだけど、最初の一発で倒れてしまったため、残りの九発は、外れてしまった。


「『乱立する氷壁よ』!」


 倒れたエラは、諦める事なく戦う意志を見せている。現に、今も何枚もの氷の壁を出して、私の射線を切っている。


「魔法は便利だね」


 私は、敢えて氷の壁を壊さずに走って近づいていく。この時、消音と潜伏を平行で使い、気配を出さずに移動していた。この氷の壁で私の正確な位置が分からないはず。


「『凍てつく爆破』!」


 さっきまで私がいた場所を、氷の爆発が襲っていた。爆発が起きた場所は氷で覆われている。


「氷属性の爆発。くらったら、氷結の状態異常ってところかな? 気を付けなきゃ」


 私はエラに見付からないように、氷の壁を利用して近づいていく。その間にも、エラによる無差別攻撃が行われていた。私がいないところをどんどん爆発させている。


「やったの!? むぅぅぅ! 壁立てたから分からないよ!」


 エラは私を倒す事が出来たのか分からずにイライラとしていた。自業自得だね。

 十分に近づいたと同時に、再びホローポイント弾を撃ち込む。


「銃技『精密射撃』」


 エラの頭に銃弾を撃ち込んだ。そのはずだったんだけど……


「止まった!?」


 私の放った銃弾はエラに届く事なく、道半ばの空中で止まっている。


「嘘!? そんなところにいたの!? 『氷槍よ 彼の者を穿て』!」


 私に気が付いたエラが氷槍を放ってくる。私は、左右に存在する氷壁を蹴って上に上がっていく。


「えっ!?」


 氷壁の上に登った私を見て、エラは目を丸くしていた。


「透明な氷……」


 私は、驚いているエラよりも銃弾を止めたトリックが気になっていた。上に登って、銃弾をジッと見ると、空間に少し罅が入っているのが見えた。実際に、空間にひびが入るとは思えないので、とても透明度が高い氷なんだと思う。


「普通の氷壁と透明度の高い氷壁を同時に使って、分かりにくくしているって感じかな」


 エラの戦術はかなり面倒くさい。この沢山の氷壁の中に透明の氷壁が混じっているとなると、迂闊にエラに近づく事は出来ない。


「なら……!」


 私はエクスプローラー弾を装填して、エラの周りにどんどん撃ち込んでいく。


「えっ!? えっ!?」


 何発かは地面に当たったけど、問題なく透明な氷壁と普通の氷壁を壊す事に成功した。


「でたらめすぎるでしょ!!」

「あなたもでたらめだと思うけど」


 私とエラは、互いに睨み合っていた。先に動いたのは私の方だ。


「銃技『一斉射撃』」


 引き金を引くと、銃口からマガジンに入っていた弾が一斉に射出された。その弾は全てエラに向かって飛んでいく。


「『重なり合う氷壁』!」


 今までの氷壁よりも格段に分厚い氷壁が現れた。さっきは、いろんな場所に出現させてた氷壁を、厚くなるように並べて出したんだと思う。


「銃技『精密射撃』……」


 フルメタルジャケット弾を撃つ。先に撃ち出していた十発のエクスプローラー弾が、分厚い氷壁に命中していく。炸裂する度に削れていって、氷壁の半分以上を掘り進めた。


「よし!」


 私の弾を防いだと思い込み、エラが拳を握る。その時、氷壁が砕け散る音と共に、エラの長杖が手元から飛んでいく。


「痛っ!」


 エラの手首に穴が開いている。


「外したけど、結果オーライ!」


 近くにあった氷壁を飛び移って、エラの真上まで飛んだ。


「そりゃあ!!」


 エラの真上で縦回転して、高所からかかと落としを決める。


「……!!」


 エラはその一撃で意識を失った。


「あれ? 倒しきれなかった?」


 私としては、今の一撃で完全に倒しきったと思ったんだけど。そんな事を考えていると、脚に少し違和感を感じた。


「うげっ! 少し凍ってる?」


 エラに叩き込んだ脚が少しだけ凍っていた。動かなくはないんだけど、少し違和感を感じる。


「溶けなくはないだろうけど、すぐには無理そう……」


 私は、エラの頭を見る。頭の周りには、砕けた薄い氷の膜が散らばっていた。私の攻撃の直前……もしくは、この戦闘の始まる前から仕掛けていたのかな。まぁ、そんな考察よりも、優先しないといけない事がある。


「すぐに援護にいかないと。その前に……」


 私は黒闇天をエラに向けて引き金を引く。心臓を狙った一撃は、邪魔される事なく命中した。確実に大ダメージのはず、これで倒れる。実際にそうなった。でも、ただでは倒れなかった。


「!!」


 エラの身体の下から勢いよく太い氷柱が伸びてきた。予想外の攻撃に反応しきれず、肩を深々と貫かれてしまった。


「条件で起動する魔法なのかな? 痛いな。痛覚耐性があるからこんなもんで済んでるのかな」


 ポーションを飲んで回復しているけど、傷の治りが悪い。


「重傷だ。もう少し治ってからじゃないと足手まといになっちゃう。ソル、シエル……頑張って」


 私は強敵の一人を倒したけど、ソルとシエルは、もっと強い敵と戦っているんだ。早く行かないと。

 私は早く怪我が治って欲しいと思いながら、空を仰いだ。


 ────────────────────────


 ルナがエラと戦っている最中、ソルとシエルは、ジークとの戦いに苦戦していた。善戦出来ていたのは、最初だけだった。


「ソル!」

「くっ!」


 シエルの叫びで、ソルは自分の首に迫っている剣に気が付き、刀で受け流した。ジークの後ろからプティが右腕を振りかぶる。


「聖鎧技『光膜ルークス・アメット』!」


 光の膜でプティの攻撃が減速した。しかし、威力が殺しきれるわけではないので、多少のダメージをくらう。そして、よろけたジークにソルが突っ込んでいく。


「刀術『繚乱りょうらん』!」


 プティの一撃を受けたジークの光膜は、ソルの五連撃に耐える事が出来ず、最初の三撃で砕かれる。


(後二連撃で……)


 ソルは、残りの二連撃を正確に急所に叩き込もうとした。しかし……


「……やっぱり届かない」


 その二連撃に対して、ジークも華麗な剣捌きで弾く。


「熊人形術『ベア・ナックル』!」


 ジークに近づいたプティの手が赤く輝き、ジークに叩き込まれる。


「聖鎧技『光爆ルークス・フラルゴ』!」


 プティの一撃が届く直前に、ジークの鎧から光の爆発が起き、一瞬の隙が生まれる。その隙に、ジークはプティの攻撃から逃れる。その結果、プティの技は地面に打ち込まれる。すると、当たった場所が大きく陥没する。


「刀術『一角』!」


 プティの一撃を避けたところに、異常な速度で突っ込んできたソルの突きが襲い掛かる。


「くそっ!」


 狙いは鎧の継ぎ目だったが、それをずらされてしまう。しかし、攻撃をジークに当てる事は出来た。


(この鎧、思っていた以上に硬い……防御を抜くには、やっぱり連撃しか)


 ソルの一撃は、ジークに対してダメージを与える事は出来なかった。


「抜刀術『双葉ふたば』!」


 高速で抜かれたソルの刀は、ジークの鎧を薙ぎ払い、全く同じ軌道を返す刀が通る。ジークの鎧に小さな傷が付く。


「刀術『繚乱』!」


 ソルは、双葉で傷を付けた場所を正確に狙って五連撃を叩き込む。四撃程ジークの剣で弾かれたが、最後の一撃は同じ場所に当てる事は出来た。


(このままやれば……!)


 ソルは、また一歩ジークに迫っていく。



「とうじゅ……!!」


 手応えを感じたソルは同じように、技を使おうとするが、その直前で頭に痛みを感じる。


(技を使い過ぎた! 少し待たないと使えない……!)


 技を連発し過ぎてしまったソルは、MP切れを起こしていた。無理矢理に技を使ってしまえば、命を削ることになる。


「ソル! 下がって! 熊人形術『ベア・タックル』!!」


 赤い光を纏ったプティが、ソルを攻撃しようとしていたジークに突っ込む。攻撃の途中だったジークは、避けきる事が出来ずにプティに撥ねられた。


「やった!?」

「それフラグ……」


 喜ぶシエルに、苦笑いをしながらソルがツッコむ。そして、ソルの懸念通り、撥ねられたジークは、受け身を取って綺麗に着地した。


「君達、中々やるね。さすがに、二対一だと俺もきつい」


 立ち上がったジークはいきなりしゃべり出した。怪訝に思うソルとシエルは、少し離れた所で構える。


「でも、これで終わりだ」


 その一言で、ジークが意図している事を察したソルは、すぐに動き出す。


「シエル! もっと離れて!」

「え?」


 現時点でもソルとシエルは、ジークと少し距離が離れている。ソルは、それを込みで、もっと離れろと言っていた。


「聖剣技……」


 急いでジークに向かって走り出すソルだったが、ジークの元に辿り着く前に、ジークの技が発動してしまう。


「『天罰カエルム・ポエナ』!!」


 天から大きな光の柱が、ソルに向かって降り注ぐ。


「ソル!!」


 シエルは、ここに来るまでに二度見た技が、ソルに向かって降り注ぐのを見た。

 そして、そこから離れた場所では、ルナも光の柱を目撃した。


「ソル……シエル……」

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