第26話 人形遣い!!

 私が高台に籠もってから、十分程が経過した。結局、めぼしい戦闘は、そこまでなかった。強いて言えば、ソルの戦いと人形遣いの戦闘くらいかな。

 ソルは、技や地形を使った戦いを、人形遣いは、人形を使った力の限りを尽くした戦いをしていた。


「人形遣いは、本体に攻撃を通せれば、勝てると思うけど。ソルの方は、下手したら弾丸を斬りそう……」


 今のところ見える範囲内にいる敵は、ソルと人形遣いと他三名になった。


「ここら辺にいる敵は減った。私も動こうかな」


 私が木の下に降りると同時に、そこに飛び込んでくる影があった。


「やあっ!」

「あぶなっ!!」


 振われた刀をギリギリのところで避ける。そのまま、後方に飛すさる。


「さっきまで、もうちょっと離れた所にいたはずじゃなかった!?」

「ルナちゃんが思っているよりも成長してるんだよ。本当は今の一撃で決めるつもりだったんだけどね」


 本当なら、もう少し後に相手をしようと思っていたソルが、目の前にいる。目論見は外れたけど、結局相手にしなくちゃいけない可能性は高かったんだから、予定が早まったと思おう。


「それは、残念だったね!」


 私は、黒闇天の引き金を連続して引く。マガジンの中に入っていた銃弾を全部吐き出す。つまり、ソルに十発の銃弾が連続して飛んでいくという事だ。


「刀術『繚乱りょうらん』」


 ソルは、私が銃を撃つ前に半身に構えて、自分の被弾確立を低くしつつ、刀の技を使った。私が見えた感じでは、高速の斬撃を五回繰り出しているようだった。そして、その斬撃は的確に私の銃弾を斬り裂いた。考えていた事が本当になって、


「嘘でしょ!?」


 私は、そう言いつつも、その場から走り去った。銃弾を撃たれた事によって初動が遅れるはずだと思ったからだ。実際、その通りになったのだけど……


「足速すぎ!!」


 ソルは、すぐに私の姿を捉えていた。途中で木の上に行くべきだったかもしれない。そんな事を考えても仕方ないので、ソルと戦うための作戦を考える。


「って、そんな時間もくれないわけ!?」

「当たり前でしょ!」


 もう少しでソルに追いつかれてしまう。一応色々考えてはいるんだけど、うまくいくかな……


 後ろで、ソルが刀に手を掛けるのが分かった。私は、後ろを見ずに黒闇天の引き金を引く。少しだけだけど、ソルとの距離が開いた。そして、その少しの距離が私の命を延命させた。


「!!」


 ソルが急停止して後ろに飛ぶ。そして、ソルが通るはずだった場所に巨大な拳が振り下ろされた。その持ち主は人ではない。それは、大きな熊……の人形だ。


「嘘!? 今のを躱すの!?」


 熊の人形の後ろから、女の子が出てくる。


 そう、私に考えた事は、私とソルの戦いにもう一人を参戦させる事だった。その一人は、この人形遣いの女の子だ。やっぱり、どこかで見た事ある気がするんだよね。

 ソルは、私と人形遣いの女の子を同時に見られる場所で刀を抜く。私も黒闇天を持って、いつでも撃てるように用意する。私達は三竦みの様に、互いに互いを牽制していた。


 そんな時、不意に人形遣いの女の子が口を開く。


「……もしかして、朔夜と日向?」

「へ?」

「え?」


 いきなり名前を呼ばれた事で私とソルは一瞬呆けてしまった。


「もしかして、大空!?」


 私は、思い当たる人の名前を言う。


「やっぱり!」

「え!? 嘘!?」


 人形遣いの女の子は、自分の予想が合っていた事に驚きつつも喜び、ソルは、私の言葉に驚く。

 私達は、一時休戦する事になった。


「それじゃあ、改めて、私の名前はシエルだよ」


 シエルと名乗った人形遣いの正体は、私達のクラスメイトである金井大空だった。

 シエルは、初期装備の上から白地に金色の刺繍がされたローブを羽織っている。空色の髪をボブカットにしており、その瞳は金色だった。


「私はソルだよ」

「私はルナ。シエルは、すごい神々しい見た目をしているね」

「そう? ソルの方はラフだけど、ルナは……何かかっこいいね」


 シエルは、ソルと私の格好を見てそう言った。


「そうかな?」

「ルナちゃんのは軍服みたいだからね。私もかっこかわいいと思うもん」


 自分の服を見る私に、ソルが力説する。


「ところで、これからどうする?」


 私はソルとシエルの二人にそう問いかける。今の状況は、互いに武器を収めて、至近距離で話しているという状況だ。


「今の状況から戦うって言っても、ソルが一番有利だしね」

「う~ん、いっその事協力しちゃう?」


 ソルがそうやって提案する。私とシエルは、顔を見合わせる。


「どうする?」

「私はそれでもいいよ」


 シエルはソルの提案を呑んでも良いと言う。


「じゃあ、協力しようか」


 私がそう言った直後、森の外側、私達が行った事が無い場所で光の柱が現れた。


「「「………………」」」


 私達は、突然現れた光の柱を唖然としながら見ていた。光の柱が消えた後も、茫然自失としていた。


「あれって……、イベント関係だと思う?」


 いち早く我に返った私が二人にそう尋ねる。


「それはないんじゃないかな……」

「うん。多分、プレイヤーのスキルだと思う」


 ソルとシエルはそう答えた。正直、私も二人と同じようにプレイヤーによるものと考えていたので、あまり驚きはない。


「あれを倒すには、協力するしかないね。まず、それぞれの得物の確認をしておこう。私は見ての通り、銃を使うよ」

「私は刀だよ」

「私はさっきも見たとおり、この人形を使うよ」


 シエルは、そう言って抱えている熊の人形を見せる。熊の大きさは、今は五〇センチ程になっていた。さっきまでは、三メートル以上もあったのに、どうなってるんだろう。


「私のスキルは、人形を巨大化させて操って戦うんだ」

「へぇ~。何か、そうやって戦う人がいたような……」

「ルナちゃん、それ以上はだめだよ」


 私が思い出そうとしていると、ソルから止められてしまった。何で?


「よし、互いの得物も分かった事だし、あの光の柱の元まで行ってみる?」

「うん。結局は、倒さなきゃいけないんだし、行ってみるのはありだと思う」

「じゃあ、レッツゴー!」


 私達は、光の柱の元に向かうため、森の中を駆け出す。


「そういえば、この森の中に私達の他に三人くらいいるから、気を付けて」

「わかった。出会ったら、倒すって方向で良いよね」

「そうだね。私が先行するから、ルナちゃんとシエルちゃんは、後から付いてきて」


 そう言って、ソルが先頭を走る。間にシエルを挟んで、最後尾を私が走る。走っているときは、人形が邪魔になるからか、抱える事はせずに背負っていた。約五分程走っていると、先頭のソルが足を止めて、私達を静止させる。


「少し先に敵がいる」


 声を潜めてそう言うと、敵がいると思わしき場所を指さす。その方向に意識を集中させると、微かに人が歩くような音が聞こえた。


「本当だ。数は……三人かな? あの光を見て、協力する事を決めた感じだと思うけど」

「二人ともよく分かるね。私にはさっぱりだよ」


 敵の位置と数を見る事無く把握する私達に、シエルが目を丸くする。


「聞き耳のスキルを持ってないの?」

「何それ、現実であったらすごい怖いスキルだね」

「確かに、こういう世界だから役に立つけど、現実だとただの盗み聞きにしか使われない気がする……」

「そんな事はいいから、二人とも準備は良い?」


 私とシエルがそんな事を話していると、ソルに注意された。


「私が突っ込んで、一人をやっつけるから、二人は他をお願い」

「じゃあ、シエルの人形と一緒に突っ込んだ方が効果的かもね。その人形の耐久度は高いよね?」

「そうだけど、よく知ってるね?」

「戦ってるところ見た事あるからね」


 私がそう言うと、シエルは少し首を傾げてから、ハッとする。


「あの時、私達を見てたのルナか!」


 やっぱり、グレート・ベアと戦っているのを覗いていたのはバレていたみたい。


「まぁ、そうだね。この話は後にして、さっさとやっつけちゃお」

「そうだった。『起きて』」


 いきなり何を言っているのかと思ったら、シエルが背負っていた人形が巨大化し始めた。どうやら、さっきの言葉が、人形を操る合図みたいなものらしい。


「準備オッケー。いつでもいいよ」

「よし! じゃあ、行くよ!」


 ソルが駆けだして行く。その後ろを四足歩行の熊の人形が追い掛ける。そのやや後ろをバレないようにシエルが追い、私は木の上を飛んでいく。いきなり木を登ったから、シエルが驚いていた。

 ほんの少し走ったところで何かを話し合っていた三人のプレイヤーは、突然現れたソルに警戒する。そして、その後ろから現れた巨大な熊に呆気をとられてしまう。


「……やばい!」


 我に返った時にはもう遅かった。後衛を担う魔法使いと思われる女の子の首が刎ね飛ばされた。


「くそ!」


 敵の意識がソルに逸れた瞬間、前衛盾役を務めるであろう戦士の男の子が、熊の人形によって空に打ち上がった。それと同時に、アタッカーを担う軽装の男の子の頭に風穴が開く。


「終わったかな」


 私は、木の上から周りに敵が来ていないかを確認してから下に降りた。


「ソルの剣の速さ、益々上がってない?」

「あれからスキルレベルも上げているからね。私は、シエルちゃんの人形の腕力に驚きだよ」

「熊だからね。腕力は強いよ。私はそれより、ルナの銃の腕前の方が驚きだよ。木の上から簡単に当てられるものなの?」

「いろんなスキルが相乗効果を出しているからじゃないかな」


 私達は、互いに互いの戦闘能力の高さに驚いていた。頼もしいと思うと同時に、厄介な相手だとも思っていた。


「さて、さっきルナが見た敵は、これで全部だって事だよね?」

「うん。でも、新しく入ってきているかもだから、警戒は解かないでおこう」

「賛成。さっきと同じように、私が先頭を行くから、付いてきて」


 ソルの言葉に頷いて同意する。私達は、今度こそ、光の柱が発生した場所に向かうため、走り出した。

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