第25話 イベント開始!!

 イベント開始の合図と共に動き出した私は、目の前に広がる森の中に入っていく。そして、近くの木に登り、枝から枝へと渡る。


「いつもよりも静かに移動した方が良いかな」


 今回の相手は人なので、正面からぶつかるのは危険が大きいと思う。移動するときに音を立てすぎたら絶対だめだ。


「潜伏も利用出来れば大丈夫なはず……」


 私は、音が出ないように慎重に木々を飛び移っていく。最初は難しかったけど、何度か飛び移っている内に要領を掴んできた。すると、


『『消音Lv1』を修得しました。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』


 新しいスキルを修得した。この状況にうってつけのものだ。このスキルを修得した結果、より静かに移動出来るようになった。

 しばらく森の中を移動していると、戦闘をしている人達を発見した。


「くらえ!」

「防御だ!」


 三対三で戦っているようだった。互いに盾持ちと剣士と魔法使いの構成だった。先頭に立つ盾持ちが敵の攻撃を防ぐ。時折生じる隙に、軽装備の剣士が攻撃を仕掛ける。そして、戦況を大きく動かしているのは、後衛にいる魔法使いだった。相手の盾持ちの体勢を崩すのは魔法使いの役目みたいだ。


「オーソドックスな編成だね。漁夫の利を狙うのもありかな」


 私は戦況を見守る事にした。一進一退の戦いが続いていると、少し嫌な予感がした。


「……離れよう」


 私は、戦闘の範囲内から逃げる事を決めた。私が少し離れた瞬間、六人が戦っている場所で大きな爆発が起きた。


「うわっ!!」


 私は、爆風に煽られて空中に投げ出される。何とか体勢を整えて脚から着地する。そして、爆発の起きた後方を振り返る。


「……すごい範囲を爆発してる。これもユニークスキルなのかな」


 私の目の前には、大きなクレーターが出来上がっていた。


「こんな範囲を爆撃され続けたら、すぐに決着が付いちゃう。でも……」


 私はその場から急いで離れる。


「次の攻撃が来ない。あの爆発なら、音が響いてくるはず。それがないって事は連発が出来ない。つまり、燃費が悪いって事。それに、的確にあのパーティーに撃ってたから、あそこが見える位置にいるはず……」


 私は、木のてっぺん付近まで登り、周りを見まわす。そして、高台を見つけた。


「あそこだ……!」


 幸いな事に、高台の上の方にも木々が生えていた。それなら、バレないように近づく事も出来るはず。私は、木々の上を跳んでいき、高台に対して弧を描くように移動する。


 道中に敵がいるかもしれないと考えていたけど、そんな事は無く、安全に高台まで移動する事が出来た。


「いた。でも、やっぱり護衛は付いているね……」


 高台にいたのは、大きめの杖を持った魔法使いの女性と盾を持った二人の剣士の男性がいた。


「魔法使いを守るためかな。でも、全身鎧じゃない。兜にも隙間はあるようだし、なるようになるかな」


 私は黒闇天にサプレッサーを取り付けた。これで、発射音がかなり抑えられるのは、この一週間の内で確認済みだ。


「銃技『精密射撃』」


 魔法使いの頭に狙いを付けて引き金を引く。パシュッという音と共に発射された弾は寸分違わずに、魔法使いの頭に風穴を開けた。


「おい!」

「嘘だろ!」


 背後で頭を射貫かれて死亡した魔法使いを剣士の二人が唖然として見ていた。そのせいで次の動きまでラグが生まれた。


「あがっ!」

「ごあっ!」


 その隙を見逃さず、頭を撃ち抜いた。


「よし、これで優勝候補は潰せたかな」


 次の獲物を見つけるために移動を開始しようとすると、近場で爆発とは違う轟音が響いた。


「うわっ! 今度は何!?」


 音が響いた方向を見ると、驚く事が起きていた。


「嘘……木が薙ぎ倒されてる……」


 そう、森の一角で木がどんどん倒れているのだ。


「なんだろう?」


 私は、アイテム欄から単眼鏡を取り出して、その場所を見る。そこには、三メートルを超す人形が人を殴り飛ばしている光景があった。


「えぐっ!」


 恐らくだけど、あの人形遣いも優勝候補の一人だと思う。確か、大規模侵攻とグレート・ベアのところで見た人だ。


「……後回しにしよ。取りあえず、ここの木の上で待機して、戦況を見ていこう。適度に敵が減るのを待つのも作戦だからね」


 私は、高台に生えている木の中で一番大きな木を選んで上に登る。


「ここから見える戦闘は全部見ておこう。これから戦う事になるかもしれないし」


 私は単眼鏡を持って木の上から見える戦闘を覗いた。


 ────────────────────────


 ルナが高台から覗いている間に、ソルの方も動き始めていた。


「ルナちゃんは、なるべく遠くから敵を攻撃するはず。多分木の上を移動するかな。私は、そんな事は出来ないから戦闘回数が増えそうだなぁ」


 そう言いながら、森ではなく、その周りの平原を走っていた。そんなソルのスキルが以下の通りになっている。


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 ソル[剣士]:『刀術LV21』『抜刀術Lv17』『集中Lv19』『暗視Lv12』『聞き耳Lv15』『速度上昇Lv25』『器用さ上昇Lv16』『防御術Lv18』『回避術Lv18』『軽業Lv16』『弱点察知Lv19』『言語学Lv12』


 職業控え:[冒険者]


 ────────────────────────


 ルナのスキルと同じものも多い。弱点察知は、相手の弱点を見抜く事が出来るというスキルだ。また、ルナと違い、地上を走る事が多いためか、速度上昇のスキルレベルが高くなっている。

 職業の剣士は、剣の攻撃力を上昇させるというものだ。剣を使う人のほとんどは、この職業を手に入れている。


 ソルが平原の中を走っていると、右斜め前方から矢が放たれてきた。狙いが甘かったらしく、顔の真横を抜けていく。


「敵……!」


 ソルは、矢が放たれた方向を見る。そこには、四人組のパーティーがいた。


「優勝出来るのは一人だけなのに、パーティーを組むのはどうなんだろう」


 数的不利を悟ったソルは、平原から森に飛び込む。


「森の中は走りにくいから好きじゃないんだよね」


 森の中に入ったソルは、後ろから誰かが追ってくる音を聞いた。


「この状況で積極的に攻撃をしてくるんだ。なら……」


 ソルは、走りながら周りを見回す。そして、探していた場所を見つけてそこに向かった。


「何処行きやがった!?」

「この付近にいるはずだ! 先に見つければ、弓持ちがいるこっちが有利だろ!」

「でも、姿も形もないよ」


 ソルを追ってきた四人組は、的確にソルが逃げた道のりを追ってきた。


「こっちで間違いないんだろ!?」

「うん、痕跡はここにあるから、こっちで間違いないよ」


(ふ~ん、何かしらのスキルで人、もしくは動物や魔物を追えるのかな。でも、完全に追えるわけではないみたい。所々に痕跡が残るって形なんだ)


 ソルは、追ってきた四人を見下ろしながら心の中で呟いた。そう、ソルは今、ルナと同じように木の上に陣取っている。


(ルナちゃんと同じように木に登ってみたけど、意外と気付かれないものだね)


 敵が四人だけという事を確認したソルは、木の上から飛び降りる。弓を持った少女の真上に落ちていく。


「抜刀術『みかづき』」


 鞘から抜かれた刀は、大きな弧を描き弓を持った少女の両腕を斬り落とした。


「え……?」


 自分の腕を斬り落とされた少女は、一瞬呆けた顔をする。ソルは、動きがない少女の首を一振りで斬り落とす。


「な……!?」

「へ……!?」

「……!?」


 残った三人は、いきなり現れたソルといきなり倒された少女……がいた場所を呆然と見ていた。

 それを見過ごすソルではなかった。瞬時に三人の内の盾を持っている男の前に移動し、盾を持っている腕を斬る。盾持ちという事もあり、身体が丈夫なのか盾を落とさせるだけで斬り落とす事は出来なかった。


「硬い……」


 その攻撃で我を取り戻したのか、三人が臨戦態勢をとる。盾を落とした鎧の男は、急いで盾を拾おうとする。その男の鎧の隙間を狙って、ソルは刀を突き刺した。


「くそっ!」


 男は、盾を拾うのを諦めて避けようとするが、ソルの刀を突き出す速度の方が速く、致命傷を負い死亡する。


「二人もやられたぞ!」

「一斉に掛かるぞ! 二人同時なら対応出来ないはずだ!」


 男達は、ソルに向かって一斉に突っ込む。それに対して、ソルも同様に突っ込む。切っ先を正面に向けたまま、刀を後ろに引いていく。


「刀術『一角(いっかく)』」


 常人の出せる速度以上の速さで撃ち出される。


「なっ!!」


 そして、これまた常人以上の速度で突き出された刀が男の一人の革鎧を突き破り、心臓を貫いた。


「くそ野郎が!!」


 真横で仲間を殺された男が剣でソルを薙ぎ払おうとしてくる。ソルは、その薙ぎ払いに合わせて上体を逸らして避ける。


「私は、女だよ!」


 ソルは、身体を起こす勢いも使って逆袈裟に男を斬り上げる。それだけでは、倒しきれないと判断し、真一文字に斬り付ける。


「そこは……問題じゃないだろ……」


 男の最後の言葉はそれだけだった。


「私的には、大問題だよ」


 ソルは、周りの様子を確認しつつ、刀を鞘に仕舞う。誰もいない事を確認し、そのまま森の中を駆け抜ける事を決めた。


 ソルが駆ける先には、小高い高台があった……

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