第24話 対人イベント前!!

 イベントの始まる土曜日がやって来た。その間の一週間は、ほとんどスキルレベルを上げるために費やした。その結果、私のスキルはこんな感じに育った。


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 ルナ[狩人]:『銃術Lv24』『銃弾精製Lv25』『リロード術LV24』『体術Lv12』『暗視Lv17』『潜伏Lv22』『聞き耳Lv19』『速度上昇Lv23』『器用さ上昇Lv19』『防御術Lv14』『回避術Lv22』『軽業Lv18』『急所攻撃Lv15』『集中Lv23』『痛覚耐性Lv10』『気絶耐性Lv9』『言語学LV18』


   EXスキル:『解体術Lv17』

 職業控え:[冒険者]


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 新しいスキルは獲得出来なかったけど、戦闘系のスキルは軒並み育ってくれた。ただ、レベル20を過ぎてから、育ちが悪くなった。この事に気が付いて、すぐに図書館に向かい、色々と調べてようやく分かった。


 スキルを育てるための経験値は、行動によって得る事が出来るのだけど、20刻みで得られる経験値が減ってしまうらしい。生産系や補助系のスキルは、より難しい生産や過酷な環境下などで得る経験値が増えるとも書いてあった。


 そして、戦闘系スキルの経験値の量を増やすには、より強力なモンスターを倒すと良いとも書いてあった。


 つまり、レベルは20刻みで、より困難なものに挑戦しないとスキルの育ちが悪くなるという事だと思う。私の今のレベルでは、平原エリアではほとんど経験値を得られなくなって、荒れ地エリアでは、そこそこの経験値を得られるくらいになった。


 そろそろ新しいエリアに行く必要が出てきたんだと思う。このことに気付いたのは、イベントの前日だったから修行場所を変えるのは間に合わなかった。


 そして、私は今、イベントの前にシルヴィアさんとシャルに会いに来ている。


「久しぶり、シャル。少しやつれた?」

「久しぶり……色々と処理しないといけない書類が多くて……」


 もはや、シャルの執務室となっているギルドの応接室に入ると、すぐさまシャルが寄りかかってきた。


「よしよし、頑張ったね。ところで、シャルが処理しないといけない書類って何?」


 茸が生えそうになっているシャルの頭を撫でてあげながら、ふと疑問に思った事を訊いてみた。


「今回の侵攻の被害と消費したもの、周辺地域で何か変化があったかとか、全部侵攻関係のものだよ」

「へぇ~、お姫様なのにそんな事もしなくちゃいけないんだね」


 私がそう言うと、シャルは、明後日の方向を見始めた。


「?」


 私が首を傾げると、シルヴィアさんが口を開く。


「実は、姫様は国王陛下にご無理を言って、この国を条件付きで自由に動き回っているのです」

「条件?」

「ええ、その場で起きた事に関わった場合、後始末まで責任を持って関わっていく事だそうです」

「へぇ~、だから書類と格闘していたんですね」


 シャルが応接室で書類仕事をしていた理由がようやく分かった。というか、お姫様なのに自由奔放すぎるね。


「でも、その書類もさっき終わったんだ。だから、明後日に、一度王城に戻らないといけないの」

「えっ!? じゃあ、明日までしかユートリアにいないの?」

「そういうこと。今日は、これから寝ちゃうから、明日、街を一緒に回らない?」


 仕事を終えた安心感からか、シャルがうとうとし始めた。


「うん、いいよ。今日は、私も用事があるし」

「用事というと、異界人達で行われるバトルロワイヤルの事ですか?」


 NPCであるシルヴィアさんが今日行われるイベントについて言った。


「知っているんですか?」

「その情報は、姫様のところにも来ていましたから」

「あ~、そういえば書類が来てたね。正直なところ、危険そうだから中止にしたかったけど、父上から許可を得ているらしいから、許可したけどね」

「そうなんだ」


 ゲームの裏設定みたいなものなのかな。こうして、シャルと友人にならないと知る事が出来ないみたいだし。


「気を付けてね。空間術士が別空間を用意して行うって書いてあったけど、絶対に安全って訳じゃないからね。怪我はするだろうし、痛みもあるはずだから」

「うん、心配してくれてありがとう」

「うぅ……もう限界だ……私は寝るね。おやすみ……」


 シャルはそう言うと、応接室から出て行った。シルヴィアさんは、応接室に残っている。


「ルナ様もすぐに行かれますか?」

「いえ、後一時間程時間があるので」

「では、ここでお茶にしましょうか。本当は姫様もご一緒に飲むはずだったのですが、さすがに連日の徹夜が響いていらっしゃるようですからね」


 そう言いながら、シルヴィアさんはテキパキとお茶を用意してくれた。


「本当は外でご一緒に食事でも出来ると良かったのですが……」

「いえ、お仕事なのですから仕方が無いですよ」

「そう言ってもらえると助かります」

「そういえば、リリさんはいないんですか?」


 シャルやシルヴィアさんと同じく、リリさんとも最近は会っていない。


「リリウムは、現在王都の方に戻っています。元々は、定期的な警備としてきていただけですからね」

「そうなんですか。挨拶をしておきたかったのですが」

「伝言をお預かりしましょうか?」

「えっと、また会いましょうってお願い出来ますか?」

「ええ、分かりました」


 リリさんへの伝言も頼めたので、ここからは他愛のない世間話をした。その話の中で、少し気になっていた事を訊いてみる事にした。


「そういえば、シルヴィアさんは私に良くしてくれますけど、どうしてなんですか?」


 私がそう訊くと、シルヴィアさんは少し目を見張った。予想もしていなかった質問だったからだろうか。


「そうですね。ルナ様が、私の亡くなった妹に似ているからでしょうか」

「そうなんですか?」

「ええ、見た目は似ていなくもないのです。でも、一番似ているのは考え方ですかね」

「?」


 私は、よく分からずに首を傾げる。確かに、シルヴィアさんは、私と似ている銀髪に紫紺の眼をしているから、妹さんも同じような髪色と考えられる。だから、私に少し似ているというのは、合っているんだろうけど、考え方が似ているというのはどういうことなんだろう?


「ルナ様は、誰かのために全力を出して戦える方です。この前の大侵攻で、それが分かりました」


 シルヴィアさんにそう言われて、少し思い当たる点があった。


「私の妹も同じように誰かのために何かを為そうとしてました。それこそ、病に冒されてもその考えを貫いていました」


 シルヴィアさんの妹さんは、病で亡くなったっぽい。


「私よりも、妹さんの方がすごい方だと思いますけど」

「いえ、ルナ様もすごいと思います。知り合って間もない人達のために、命がけになれるのですから」

「そうですかね」


 シルヴィアさんにそこまで褒められると少し照れてしまう。それにしても、シルヴィアさんが私を気に掛けてくれるのは、妹さんに似ているからなのかぁ。少しだけショックかもしれない。


「それを抜きにしても、私はルナ様をお慕いしていますが」


 私はその言葉を聞いて、ばっと顔を上げた。シルヴィアさんは、私を見ながらニコッと笑いかける。


「私も姫様の事を言えないですね。それはそうとルナ様、お時間は大丈夫ですか?」

「あっ!」


 シルヴィアさんとの話に夢中になっていたけど、開始時間の十四時まで後三十分になっていた。


「そろそろ行かなくちゃでした。お茶ご馳走様でした。明日のお昼にまた来ますね!」

「はい。頑張ってきてください」


 私とシルヴィアさんは手を振り合って別れた。そういえば、シャルの事を言えないってどういう意味だったんだろう。今度訊いてみようかな。


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 ギルドから出て行って、噴水広場に向かった。イベント開始まで二十五分という事もあって、噴水広場には沢山の人が集まっていた。


「全部で何人くらい集まるんだろう?」


 そんな事を呟きながら、私は噴水広場を歩いて行く。すると、広場の端にソルがいるのを見つけた。


「ソル」


 私は一直線にソルの元に向かう。


「あっ、ルナちゃん。全然姿がないから来ないのかと思ったよ」

「ちょっとギルドの方に行ってたから。それにしても、一気に様変わりしたね」


 私は、ソルの身体を上から下に見ていってそう言った。


「一昨日完成したんだ! 似合ってるでしょ!」


 そう言いながら、ソルはその場でくるりと回る。ソルの装備は、全て変わっていた。私と同じように金属の防具は無しで、布と皮の装備だ。白いブラウスと黒いショートパンツ、その上から黒地に白い刺繍をつけたロングコートを着ている。そして、ソルの武器である刀を腰に差している。


「うん。私と似てる感じなんだね」


 私の場合は、下に着ているのは軍服ワンピースだけど、上に着ている黒羽織は、どことなくソルのコートの色違いに見えなくもない。


「そうなの! アーニャさんが、ルナちゃんのコートに似せたって言ってたよ」

「やっぱり。その格好で刀は振るえるの?」

「問題なかったよ。私もロングコートだから邪魔になるかもって思ったけど杞憂だったよ」

「ゲームだから、そんなものなのかな?」


 私もコートを着ているけど動きにくいとか、攻撃の邪魔になるとかは思った事は一度も無い。


「まぁ、気にしたらだめなんじゃない?」

「それもそっか」


 私達がそんな事を話していると、いきなり目の前にウィンドウが現れた。


『十四時になりました。イベント専用エリアに転移します』


 そんなメッセージが流れると、いきなり私達プレイヤーを白い光が包んでいった。あまりの眩しさに眼を細めてしまう。そして、光が収まると、私は見た事が無い場所に立っていた。傍にいたはずのソルの姿や周りに沢山いたプレイヤーの姿も無い。


 私が、周りを観察していると、いきなり大きな声が響き渡った。


『プレイヤーの諸君、イベントへの参加に感謝する』


 声が響く空に視線を向けると、ホログラムで出来た熊の着ぐるみがいた。中身は、前と同じゲーム開発者の近衛洸陽かな。


『今回のイベントはPVP戦となっている。このフィールドには、プレイヤーのみが存在する。それ以外のMOBは存在しない。

 この中で、最後の一人になるまで戦ってもらう。今回はいかに生き残るかを競ってもらう。そのため、何人倒したかは考慮しない。

 常に隠れているも良し。積極的に戦うも良し。ただし、最低でも一人を倒さなければ、優勝する事は出来ない。そのことは覚えておいて欲しい。

 以上がルールだ。ログアウトさえしなければ、禁止事項などは特にない。では、始める』


 そう言った直後、熊の着ぐるみが消えてウィンドウにカウントダウンが十から表示された。


「準備は万端。作戦は……いつもと同じで木の上から行く感じがいいかな」


 そして、カウントがゼロになると同時に駆けだした。

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