第22話 新しいイベント?!!

 次の日は、お母さん達が帰ってきたけど、疲れているみたいだから家事は私がやった。その結果、ログインする時間は、昨日と同じ時間になった。ちょっと前にログインしてきたかったけど、仕方ないね。


 シルヴィアさんと落ち合って昨日よりも厳しい修行を行ったけど、体術のスキルは取れなかった……


 そして、修行三日目……


「シルヴィアさんは、まだ来てないかな?」


 噴水広場に降り立った私は、周りを見回したが、シルヴィアさんの姿は無かった。少し待とうと思って端っこにあるベンチに向かおうとすると、いきなり視界が暗くなった。


「ふぇ!?」


 突然のことに混乱してしまう。すると、耳元から声が聞こえた。


「だーれだ?」


 聞き覚えのある声……でもシルヴィアさんじゃない。もしかして……


「アーニャさん?」

「あら、正解よ。シルヴィアさんと勘違いすると思ったのに」

「さすがに、間違えませんよ。声の感じが違いますもん」

「そうかしら」


 私の目を覆っていた手をどかして、アーニャさんが前に回り込んでくる。


「こんにちわ、ルナちゃん」

「こんにちわ、アーニャさん。こんなところでどうしたんですか?」


 笑顔で私を見るアーニャさんの目の下には、前よりも濃い隈ができている。


「装備の強化が出来たから、持ってきたのよ」

「えっ! 店に行ったときで良かったのに」

「修行しているんだから、防具がないと大変でしょ?」


 私のためにわざわざ持ってきてくれたらしい。申し訳ないけど、ちょっと嬉しい。


「はい、これ」


 アーニャさんは、肩に提げていた鞄をそのまま渡す。


「全部入ってるから。強度も上げたけど、他にも色々作っておいたわ。黒闇天用のサプレッサーとかね。分からなかったら、店に来てくれれば教えるわ。じゃあ、私は失礼するわね。さすがに眠さが限界だわ」

「わかりました。ありがとうございます!」


 アーニャさんは、ふらふらとした足取りでヘルメスの館に帰っていった。ちゃんと寝れると良いけど……


「ルナ様、お待たせ致しました。そのお荷物は?」


 アーニャさんが去った直後、シルヴィアさんが噴水広場にやって来た。


「さっき、アーニャさんが持ってきてくれた私の装備です」

「では、この前と同じ場所に着いたら着替えましょうか」

「え?」

「さぁ、行きましょう」


 シルヴィアさんはそう言うと、先に歩き出してしまう。私の疑問には一切応えてくれそうにない。


「私、外で着替えるの……?」


 私の言葉はシルヴィアさんには届かなかった。


 ────────────────────────


 いつも修行場所に着くと、シルヴィアさんが、私の真正面に立つ。


「ここは人も来ませんので手早く着替えてしまいましょう」


 シルヴィアさんはそう言うと、私が提げていた鞄を受け取り、私の防具を取り出して着替えを手伝ってくれた。そのおかげでごく短い時間で着替えを終えることが出来た。いつもシャルの着替えとかを手伝っているから、効率よく着替えさせることが出来るんだと思う。


「見た目は変わってないですか?」


 私は、シルヴィアさんの前でくるくる回って見てもらった。


「そうですね。靴を新調されたと思います。他は、あまり変わってはいませんね」


 強化したことで見た目が変わるかもと思っていたけど、そんな事は無かったみたい。新しく作って貰った靴くらいしか変化は無かった。


「それでは、始めましょうか。武器を装備することは構いませんが、なるべく使わないようにお願いします」

「はい」


 私は腰のホルスターに黒闇天を仕舞う。さらに、腰に付いた小さなポーチに黒闇天用のサプレッサーを仕舞った。


 準備が終わったところで、シルヴィアさんと向き合う。そして、シルヴィアさんが構える前に動き出す。


(もらった!)


 そう確信した。しかし、シルヴィアさんは不意の攻撃にも素早く反応して、私を投げ飛ばした。


「わわわわわわ!!」


 私は空を舞っていった。なんとか、空中で姿勢を整えて両足から着地する。地面を削りながら勢いを殺すと、目の前にシルヴィアさんが現れる。一昨日と同じく、掌底を打ち込もうとしているのが見えたので、首を捻って避ける。


(昨日、一昨日よりも身体が動く。防具の有無は結構響いてくるね……)


 シルヴィアさんの攻撃を避けたことで、偶然シルヴィアさんの懐に潜り込むことができた。


(これなら……!!)


 私は拳を握って、シルヴィアさんに叩き込もうとする。しかし、その攻撃もシルヴィアさんに届くことはなかった。


 私の拳は、横から素早く掴み取られてしまい、気が付けば再び宙を舞っていた。手首を掴まれたままなので、体勢を整える事も出来ず、地面に叩きつけられる。昨日と違い、私は装備を夜烏と黒羽織に変えているので、一撃で気絶することはなかった。そう……一撃では……


「うぐっ!」


 地面に叩きつけられた私のお腹に、シルヴィアさんの掌底が突き刺さる。そこで、私の意識が途絶えた。


 ────────────────────────


「今回の修行は、これくらいにしましょうか」


 何回目かの気絶から目が覚めると、シルヴィアさんが覗き込みながらそう言った。


「はい……」


 若干意識が朦朧としながら、私は返事をした。


「気絶耐性と装備のおかげか、目が覚めるのが早くなりましたね」

「気絶させられる回数は減ってないですけどね……」

「気絶させられるまでの時間は延びていますし、フェイントにもあまり引っかかりませんでしたから、成長していますよ」


 シルヴィアさんは、私の頭を撫でながら褒めてくれる。少し恥ずかしい。


「でも、おかげで手に入れました」


 私のメニュー画面のログには、


『『体術Lv1』を習得。最初の習得者のため、ボーナスが付加されます』


 と書かれている。最後に気絶する寸前にそのウィンドウが出てきた。


「良かったです。まさか三日で習得するとは思いませんでしたが」

「修行は終わりですか?」


 少し寂しい感じもしながら、シルヴィアさんに訊いてみた。


「そうですね。後は、ルナ様一人でも大丈夫でしょう」

「そうですか……」


 寂しさが顔に出ていたのか、シルヴィアさんが苦笑いをする。


「今度は、修行ではなく、普通にお話ししましょうか」

「……いいんですか?」

「はい。仕事がないときであれば大丈夫ですよ」

「本当ですか!?」


 私は、シルヴィアさんの膝から起き上がって顔を近づけた。


「はい。約束です」

「やった!」


 私は思わずシルヴィアさんに抱きつく。少しして気が付いたけど、大胆なことをしてしまった。すぐに離れようと思ったけど、シルヴィアさんが抱き返してくれたので離れることは無かった。


 少しの間、抱き合ってからユートリアに戻っていった。シルヴィアさんは、やはり仕事をしているシャルの元に向かっていった。


 私は、ヘルメスの館に行くのはやめて、強化された武器の確認をするため森に向かうことにした。


「武器の確認はきちんとしなくちゃだしね」


 触った感じからは、黒闇天に変わった感じはない。唯一変わったことと言えば、サプレッサーが付けられることくらい。


「よし! いつも通り木の上から行こうかな」


 私は、近くの木に登って、次々と飛び移っていく。


「前よりも凄く動きやすい! それに曲芸じみた動きも簡単にできるようになってる!」


 強化された防具のおかげか、あるいはアダマン・タートルとの戦いやシルヴィアさんとの修行で成長したスキルのおかげか分からないけど、今までよりも木々を飛び移る行動が自然と出来る様になっている気がする。


 少しの間移動を続けていると、何体かモンスターを見つけた。その片っ端から狙い撃っていく。その結果、職業である狩人の効果である遠距離武器の攻撃力強化が実感出来た。


 急所である頭と心臓以外の部分を撃つと、一撃で部位破壊が出来るようになっていたのだ。もしかしたら、黒闇天を強化したからっていうのもあるかもしれない。


「通常弾でこれだから、フルメタルジャケット弾にしたら貫通力が凄いことになってるのかな?」


 疑問に思ったことはすぐに解決するに限る!


 私は、色々な弾で強化されている部分の違いがあるのかなどを確認する事にした。その結果、それぞれの弾の特徴が強化されている事が分かった。


「凄い便利になってる。これなら、戦いが少しは楽になりそう」


 森の中を移動しながら、モンスターを狩っていく。そして、グレート・ベアがいた場所までやって来た。木の上から様子を見る。すると、一つのパーティーが戦ってる最中だった。


「あ! あの時の人形使って戦ってた人だ」


 そのパーティーの一人は大規模侵攻の時に、人形を使って戦っていた人だった。


「女の子だったんだ。あの時は、急いでたからあまり見えなかったんだよね。それにしても、どこかで見た事がある気がするなぁ」


 私は、戦っているパ-ティーの人達の顔に見覚えがあるような感じがした。しかし、ゲーム内でプレイヤーと知り合ったことはないので、知らない人の筈なんだけど……



「いっけぇぇぇ!!」


 女の子が熊の人形をグレート・ベアにぶつけている。人形の大きさは、ちょうどグレート・ベアと同じくらい。自動で動いているように見えるけど、操ってるのかな?


 ガァァァァァァァ!!


 グレート・ベアと熊の人形は手四つの状態になる。そうして、グレート・ベアの動きを止めていると、パ-ティーメンバーが横からグレート・ベアを攻撃していく。グレート・ベアは藻掻くだけでその場から動くことが出来ない。


 ダメージが蓄積したグレート・ベアは、やっとの思いで熊の人形の拘束を解くと、最後の一撃として、熊の人形にタックルをしようとする。しかし、そのタックルはいとも簡単に受け止められ、尚且つ顔面に熊パンチ(人形)を受け、その場で沈黙した。


「やった~~~!!」

「よっしゃぁぁぁぁ!!」


 グレート・ベアを倒したパーティーは凄く喜んでいた。


「わぁ……あの熊の人形、戦闘力エグいなぁ。でも、多分持ち主は、紙装甲。攻撃力も無いんだろうなぁ」


 私がそう呟いていると、グレート・ベアの死体を回収したパーティーがその場を後にしようとしていた。


「話しかけようかな? でも、また絡まれるのは嫌だし、やめておこう」


 私は、そのパーティーがこの場を離れるまで待ち続けることにした。すると、不意に森の中に消えようとしていたパーティーの一人、人形を使っていた少女が振り返り、私のいる方を見てきた。


「!!」


 完全に眼が合った。でも、その女の子は、何も言わずにその場を後にした。


「気のせい? でも……」


 気のせいだと考えたけど、それにしては私の方を的確に見てきていた。


「…………」


 私はその場で首を振って、考えることをやめる。少しの間待ってから、地面に降り立つ。


「さて、私も行こうっと」


 荒れ地のエリアに向かおうとすると、目の前に急にウィンドウが出てきた。


『イベントのお知らせ

 来週土曜日にPVPイベントを開催します。特別エリアに移動後、バトルロイヤル形式で勝負を行います。参加希望者は、十四時に噴水広場にお越しください』


「PVPイベントかぁ。怖いけど、出てみようかな」


 来週に始まるPVPイベント。私は、それの出場を決め、スキルのレベル上げとプレイヤースキルの上昇を目指すために荒れ地のエリアに向かった。

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