第21話 修行開始!!
シルヴィアさんと一緒に街の外に出ていった私は、修行場所である南の平原の端にいた。
「では、始めましょうか。いつでも打ち込んできてください」
「へ?」
何かしらの型を教えてくれるのかと思ったら、まさかの地稽古だった。あのシルヴィアさん相手に地稽古って……
「さぁ、いつでもどうぞ」
シルヴィアさんが構える。私もどうやって打ち込むかを考える……隙が一切無いんだけど。でも打ち込まなきゃいけない。私は、シルヴィアさんに向かって、突っ込んでいく。
「やぁぁぁぁ!」
私のパンチは軽く受け流され、首に手刀を打ち込まれそうになる。私は、受け流された勢いのまま、地面に倒れ込んで避ける。そのまま、前転して距離をとった。
(今の手刀って、避けなかったら死んでたんじゃ……)
思いっきり冷や汗をかく。急いで、シルヴィアさんの方を振り返ったら、目の前にシルヴィアさんの脚が迫ってきていた。
「うぇ!?」
変な声とともに後ろに倒れ込む。目の前をシルヴィアさんのすらっとした脚が、鼻先をかすって通り過ぎる。通り過ぎたタイミングで、サマーソルトの要領で脚を跳ね上げさせてシルヴィアさんを蹴ろうとしたけど、すぐに避けられる。
跳ね上げた勢いを使って、宙返りしながら飛び起きる。ゲームの中ならではの動きだね。
私とシルヴィアさんは最初と同じ距離で向かい合う。
「回避は何とか出来ていますね」
「一応、回避術のスキルは、持っていますから」
私の今のスキルはこんな感じだ。
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ルナ[狩人]:『銃術Lv18』『銃弾精製Lv20』『リロード術LV12』『集中Lv19』『暗視Lv8』『潜伏Lv13』『聞き耳Lv12』『速度上昇Lv18』『器用さ上昇Lv13』『回避術Lv14』『軽業Lv10』『急所攻撃Lv9』『言語学LV16』
EXスキル:『解体術Lv12』
職業控え:[冒険者]
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戦闘系のスキルは、レベルが軒並み上がった。アダマン・タートルとの戦闘が大きいのだと思う。ただ、夜に行動をあまりしていないので、暗視だけは、少ししか上がっていない。それに、スキルレベルが上がったことで、職業の選択が出来るようになった。
手に入れた職業である狩人の効果は、遠距離武器での攻撃の強化と視力の強化だった。この視力の強化がよく分からなかったけど、実際に選択してみたら、違いはすぐに分かった。遠くがよく見えるし、人の動きもよく見えたから。
「では、私から行きます」
「え?」
シルヴィアさんの姿がかき消えて目の前に手のひらが現れた。そして次の瞬間、私の意識は消え去ってしまった。
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「う~ん……」
「目が覚めましたか?」
目を開けると、目の前にシルヴィアさんの顔があった。どうやら膝枕をされているらしい。
「はい……」
「では、続きを行いますよ」
「……はい」
にこっと微笑むシルヴィアさんに、私は苦笑いすることしか出来なかった。団員の皆さんが、笑顔が怖いって言っていたのは、これが原因だったんだね。
それから、何回もシルヴィアさんに挑んでは気絶させられた。そして、気絶から起きると、毎回膝枕をされていた。
地獄のような扱きから、天国のような目覚め。それを繰り返していた。その結果、
『『防御術Lv1』を修得』
『『痛覚耐性Lv1』を修得』
『『気絶耐性Lv1』を修得。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』
新たなスキルを手に入れることが出来た。
「それでは、今日はこれくらいにしましょう。体術のスキルは手に入れましたか?」
「いいえ、手に入れられませんでした。ごめんなさい……」
「大丈夫ですよ。体術のスキルは、所有者との組み手を行うことで手に入れることが出来ますが、その確率は、少し低めなのです。ルナ様が会得出来なくても、それは、ルナ様の責ではございません」
そう言って、シルヴィアさんはシュンとしてしまった私を優しく抱きしめてくれた。
「さぁ、今日は戻りましょう。出来れば、明日も行いたいのですが……」
「はい、大丈夫ですよ」
私は、シルヴィアさんの腕の中から返事をする。
「では、明日も同じ時間でいかがでしょうか?」
「はい。よろしくお願いします!」
シルヴィアさんを見上げて言うと、シルヴィアさんは微笑んでくれた。そして、私を抱きしめるのをやめると、手を握ってくれた。少しだけ頬が熱くなる。
そして、ユートリアまでの道を歩いて行く。
「ルナ様は、攻撃をよく見てはいますが、反応が遅れることがしばしばあります」
その間、今回の修行の振り返りをする。
「あまり見ることに集中しすぎないようにしましょう。相手の初動から、次の動作を予測するのです」
「先読みということですか?」
「はい。ですが、フェイントにも気を付けましょう。今回私は、フェイントは使いませんでしたが、次からは混ぜ込んでいきますので、お気を付けください」
「が、頑張ります」
「はい、頑張ってください」
修行の振り返りが終わると、世間話をしながらユートリアまでの道を歩いて行く。
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ユートリアに着くと、噴水広場でシルヴィアさんと別れた。シルヴィアさんは、ギルドで仕事をしているシャルの元に向かった。私は、すぐにヘルメスの館に向かっていった。疲れたときには、あそこが一番だからね。
「ただいま」
「おかえり! ルナちゃん! 修行はどうだった?」
「う~ん、気絶させられまくったかな」
「ふふふ、シルヴィアさんは、王国最強の騎士だもんね」
私が苦笑いすると、アイナちゃんは口に手を当てて笑う。
「む、笑い事じゃないよ。本当にキツかったんだから。一度もシルヴィアさんに攻撃を当てられなかったんだよ」
「最初から最強に手が届くことはないよ」
アイナちゃんは、いつもの席に案内してくれた。それから、少しだけ離れて、カウンターで紅茶を作って持ってきてくれる。
「今日は、もう外に出ないの?」
アイナちゃんは、そう訊きながら、カップに紅茶を注ぐ。
「一応、銃はあるけど、防具が違うと身体の動きが少し悪くってね。シルヴィアさんとの修行で、それがよく分かったから、やめておくことにした」
夜烏と黒羽織には、かなりのステータス強化があるらしい。身体の重さや攻撃力、防御力、敏捷力に影響している感じがした。言い訳じゃないけど、夜烏と黒羽織があれば、もっと食らいつけたと思う。言い訳じゃないけどね!
「へぇ、そんな違いがあるんだね」
「うん、スキルだけじゃなくて防具も重要だって分かったよ。それに、私自身のセンスも関係するかな」
「センス?」
私の発言にアイナちゃんが首を傾げる。
「うん、スキル頼りの動きだけじゃ、シルヴィアさんには追いつけないと思う」
「へぇ~、ルナちゃんってちゃんと考えてるんだね」
「何も考えずに修行したって意味ないもん!」
私は腰に手を当てて威張る。アイナちゃんは、棒読みで
「わー」
と言いながら私に拍手を送る。少しむなしくなる。
「そういえば、アイナちゃんって戦えるの?」
私は、紅茶で喉を潤してから、そう訊いた。昨日、アダマン・タートルの所に来ていたので、もしかしたら、戦えるかもと思ったのだ。
「少しだけ戦えるよ。アーニャ様に教えて貰ったから」
「へぇ~」
「何の話をしているのかしら?」
私の後ろでアーニャさんの声がした。私は振り向いてアーニャさんに挨拶をしようとした。
「アーニャさん、こんに……どうしたんですか!? 凄い隈ですよ!」
「あははは……あれから徹夜で仕上げていてね。ごめんね。まだ掛かりそうなのよ」
アーニャさんは、徹夜をしたせいなのか目の下に黒い隈が出来ていた。一日で、あんな隈になることなんてないだろうから、結構長い間徹夜だったんじゃ……
「い、いえ、そんなに急いでいないので、ゆっくりで良いですよ」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ。アイナ、悪いんだけどコーヒーを淹れてもらえる?」
「はい」
アイナちゃんが席を離れるのと反対にアーニャさんが席につく。
「少し、ルナちゃんに話があってね。ちょっと、思考がまとまるまでまってね」
「はい」
アーニャさんは身体を伸ばして、大きな欠伸をしてから私の方を向く。
「話っていうのは、黒闇天のことなの」
「黒闇天の?」
話の内容は私の武器に関することらしい。
「あの時、アダマン・タートルの防御力を、ルナちゃんの技である『夜烏』で下げたのよね?」
「はい、そうです」
「まず最初に、多分だけど技である『夜烏』にそんな効果は無いわ」
「!?」
アーニャさんは、いきなりよく分からないことを言い出した。
「でも、『夜烏』を使って防御力が下がりましたよ?」
「そうね。私がそう考えたのにはちゃんと理由があるのよ」
このタイミングで、アイナちゃんがアーニャさんのコーヒーを持ってくる。
「ありがとう、アイナ」
アイナちゃんも席に着いた。アーニャさんは、コーヒーを一口飲んでから続きを話す。
「まず、モンスターである夜烏自体に、防御力を下げる技があるなんて聞いたことがないのよ。ユニーク装備に付随している名前を冠する技は、元になったモンスターとかの特性を帯びているのよ。私の知る限りこの法則に反したものはないわ」
「じゃあ、別の要素が関係しているということですか?」
私の疑問にアーニャさんが頷く。
「時に、ルナちゃん。名は体を表すって言葉を知っているかしら?」
「はい。物や人の名前が、それらの中身を表しているということですよね」
「そうよ。ルナちゃんに作った黒闇天は破壊や殺戮、つまりは災いを表しているの」
「へぇ~、でも、それが何か?」
今回の話と関係が無いように思える話だから、何でアーニャさんが話したのかが気になる。
「私は、『夜烏』の効果はホーミング機能だと考えているわ。それも、夜烏としての意志を持ったね」
「はい」
「じゃあ、何がアダマン・タートルの防御力を下げたのかだけど、それは黒闇天だと思うの」
「え? でも、黒闇天で普通に撃っても防御力の低下なんて起こりませんでしたよ?」
「それがもう一つの能力。武器の真価を発揮するということよ。黒闇天の真価は、さっきも言った破壊や殺戮といった事だと思うの。今回は、アダマン・タートルの長所である防御力を破壊したんだと思うのよ」
簡単にまとめると、『夜烏』は、意志を持ったホーミング機能と武器の真価を発揮させることらしい。
「だから、黒闇天で使う『夜烏』は、直接的な破壊ではなくって、相手の長所を低下させるみたいな感じなんだと思うわ」
「へぇ~」
私は、アーニャさんの考察にただただ感心してしまう。
「ごめんなさいね。ちょっと分かりにくかったかしら?」
「いえ、ちゃんと理解していますよ。少し驚いていますけど」
「驚く?」
「はい。アーニャさんが、そこまで考えてくれたことがびっくりです」
私がそう言うと、アーニャさんはニコッと笑った。
「こればかりは、私の性分かしらね。最初に見たときに少し疑問に思ってね。作業をしながら考えていたのよ」
「へぇ~、凄いです。アーニャさんって頭が良いですよね」
「そうかしら?」
私がそう言うと、アーニャさんは、少しだけ照れたように笑う。
「アーニャ様は、この世のほとんどの知識に精通しているんだよ!」
アーニャさんではなく、アイナちゃんが胸を張ってそう言った。
「大げさよ。若い頃に図書館とかに通い詰めただけだもの」
「若い頃……?」
私から見れば、アーニャさんは十分に若い、大体二〇代くらいに見える。つまり、一〇代の頃に通っていたって事なのかな。
「さて、私は作業に戻るわね。アイナ、ご馳走様」
「はい。頑張ってください」
アーニャさんは、アイナちゃんの額にキスをしてから作業場に戻っていった。何故、キス? 私が、アイナちゃんをじーっと見ると、それに気付いたアイナちゃんが少し固まった。
「えっと……」
アイナちゃんは視線をキョロキョロさせている。そして、慌てたように、
「スキンシップだよ! スキンシップ!」
と言った。
「う~ん、前にアイナちゃん可愛い女の子が好きって言っていたけど、まさかアーニャさんだったとは……」
「うぅ」
アイナちゃんが顔を赤くする。
「ねぇねぇ、どっちから告白したの?」
「教えない! 教えて欲しかったら、ルナちゃんの好きな人を教えて!」
「じゃあ、また今度だね」
あっさり引き下がった私を、アイナちゃんは怪しそうに見る。
「ルナちゃん、好きな人が出来たでしょ!?」
「そんな事無いよ。別に好きな人なんていないよ」
「嘘でしょ! 教えて!」
「嫌だ!」
「嫌って言うことは、好きな人がいるって事でしょ!?」
「考えすぎだよ!」
私とアイナちゃんは言い争いながらも、段々笑いはじめて最終的にじゃれ合って終わった。有耶無耶に出来たので、良かった。
今日は、修行だけで疲れてしまったので、ヘルメスの館を出た後に、ユートピア・ワールドをログアウトした。
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