第20話 始まりの終わり!!

 翌日、いつもの通学路で日向と合流して、昨日のイベントについて話していた。


「えぇ! 昨日の緊急イベントに参加出来たの!?」


 日向は、驚きながらそう言った。


「うん。ログインしてたときに起きたからね」


 私は、右肩を触りながらそう言った。


「いいなぁ。私が入った時は、もう終わってたからなぁ」

「すごく大変だったよ」


 私は、再度右肩を触りながら言った。


「そういえば、昨日のボスを倒した人が分かってないんだって」

「へぇ~」


 シルヴィアさんは、色々絡まれるだろうということを考慮して、ボスを倒したことについては黙っておこうと言っていた。私達は、それに同意して、名乗り出るということはしなかった。ギルドマスターも私達の事情を考慮して、発表しないという判断をしたみたい。


「でも、ボスの素材を受け取る人は決まってるらしいよ」

「そうなんだ?」


 私は、右肩を気にしながら返事をする。


「さすがは、さくちゃんだよね。ボスを倒すなんて」

「私は倒してないよ。トドメはシルヴィアさんだし……あっ」

「口を滑らしたね。やっぱり、さくちゃんが関わってた」


 日向は、にやりと笑っていた。こう言えば私が口を滑らすと思って鎌を掛けたのだと思う。やられた。


「私がしたのは、援護だけだよ。トドメはシルヴィアさん……えっと、姫様のメイドさんだから」

「メイドさんが?」

「そう、素材は私が受け取ったんだけどね」


 あの後も、話し合いは続いていた。


 ────────────────────────


「アダマン・タートルの素材で、ルナちゃんの装備を強化するから、一旦私に預けて貰っても良いかしら?」


 アーニャさんからそう言われた。確かに私の防具であの剣を防げれば、迷惑を掛けなかったかもしれないので、やって貰った方が良いかもしれない。


「分かりました」


 私は、一時的に初期装備に着替え直して、防具や武器を預けた。今の装備はリボルバーと初期防具だけだ。


「素材が余ったら、ソルの武器とかにも使ってください」

「いいの? 確かにあの量だったらあまるだろうけど、全部ルナちゃんの装備にしても良いのよ?」

「はい。多分、今日の討伐に参加出来てないと思いますし」

「分かったわ。じゃあ、使わせて貰うわね」


 アーニャさんに、私の装備の強化とソルの装備を任せた。せっかく強いモンスターの素材が手に入るから、ソルとも共有しておいた方が、ゲームを楽しめると思うから、ソルの分も頼んだ。


「装備はこれでいいとして、後は……」

「戦闘技術ですね」

「へ?」


 何か、話が変な方向に傾き始めているような気がする。


「そうね。今後も襲われる可能性を考えると必要になるわね」

「確かに、ルナちゃんはトラブルを引きつけやすそうですし」


 さりげなく、アイナちゃんにまでトラブルメ-カー言われる。


「これに関しては、私がやります」


 シルヴィアさんがそう言った。まぁ、多分そうなるだろうとは思っていたけど。この中で、戦闘技術を教えられそうなのは、シルヴィアさんかリリさんだと思うし。


「そうね。シルヴィアさんがやるのが一番だわ」

「シルヴィアなら安心だね」

「はい、強くなりそうです」

「ギルドに来る頻度が少なくなるのは悲しいですが、ルナさんのためですから」


 皆も納得している。まさか、ゲームの世界で修行を行うことになるとは思いもしなかった。


「えっと……」

「では、ルナ様。私の訓練を受けて頂くことになりますが、よろしいでしょうか?」

「あっ、はい」


 せっかく私のことを考えてくれているので、無下にはするわけにいかない。強くなれるのなら、それに越したこともないし。


「では、明日から行いましょうか。本当なら王城にて行いたいですが、それは追々としましょう」

「明日なら、お昼過ぎに来られます」

「分かりました。お昼過ぎに噴水広場に集合致しましょう」


 シルヴィアさんとの予定を立てると、不意に思い出した事があった。


「私、今は武器がこれしかないんですが……」

「大丈夫です。教えるのは体術ですから」


 それなら安心と思ったけど、そこでシルヴィアさんが騎士を殺したときのことを思い出した。


(シルヴィアさん、手刀で騎士を倒していたよね。私もそんな事が出来るようになるってことなのかな)


 少し考えている私を見て、シルヴィアさんが微笑む。


「修行を積めば出来るかもしれませんね」


 驚くべき事に、心が読まれていた。日向に心を読まれることはあるけど、出会って間もないシルヴィアさんに読まれるとは思わなかった。これが歴戦の騎士か……


「じゃ、今日の所は解散にしよ。ルナも疲れているだろうし」

「そうですね。ルナちゃん、ゆっくり休んでね」


 シャルとアイナちゃんが、私を気遣ってそう言ってくれた。実際疲れていたから、とても助かる。


「うん、わかった。休むことにするよ。今日はありがとうございました」


 私はそう言って一礼してから、その場を後にしてログアウトした。


 ────────────────────────


 一応、日向の装備を任せた話もした。


「私の装備に素材を使うなんて良かったの?」

「どうせ余るなら、ちゃんと使った方が良いと思うから」

「う~ん、ちゃんとお礼はするね。何かあれば良いんだけど」

「別にあまり気にしないでも良いよ。いつものお礼とかも含めてるし」

「そういうわけにもいかないでしょ!」


 日向はこういうとき意地でも譲らないから、私の方が折れて日向からのお礼を貰うことになった。でも、今は、何も持っていないので、その時が来たら渡すと言うことで落ち着いた。


「はぁ、私は今日も夜にしかログイン出来ないんだよね。さくちゃん、修行頑張って!」

「うん、ありがと」

「ところで、さっきから右肩を気にしてるのは、件の騎士のせい?」


 日向が怖いくらいの真顔で私に訊いてくる。これは、素直に言わないと、いつまでも訊かれてしまう。


「えっと、そうだね。そいつが投げた剣が右肩に刺さったんだ。やっぱり、始めたばかりの私と違って、ずっと戦っていた騎士の方がステータスが上なんだろうね。黒羽織と夜烏を貫通したから。その時の感覚が時々蘇ってくるんだ」


 完全に治癒されたため、傷も何も残っていないのに、ふとした瞬間に右肩に刺さったあの感覚が蘇ってくる。それだけ、衝撃的な出来事だったからかもしれない。


「…………そのクズ、殺す!!」


 日向の眼が殺意に染まっていく。


「いや、もうシルヴィアさんが倒してくれたから」


 私がそう言うと、日向は殺意を引っ込め、かわりにジト眼になった。


「さくちゃん、そのシルヴィアさん? の事になると、何か顔が赤くなるけど?」

「ふえ!?」


 日向にそう言われて、両手で頬を押さえる。


「…………好きなの?」

「そんな事ないよ! 確かに、シルヴィアさんは綺麗だし、見惚れちゃうことも多いけど、そんな好きだなんて……」


 私は、身体を振りながら否定する。そんな、私がシルヴィアさんのことを好きだなんて……


「シルヴィアさん……危険人物だね……」


 日向はぼそぼそと何かを言った。顔を真っ赤にしてショートしていた私は、何を言っていたか分からなかった。そんなこんなで、学校に着いた私達は、午前だけ授業を受けて帰ってきた。


「さてと、ご飯を食べてログインしよっと」


 私は、軽い昼食の後にユートピア・ワールドにログインした。噴水広場に降り立った私は、周りを見回す。シルヴィアさんの姿を探したが、見付からない。まだ、来ていないようだ。


「なんか、初期装備だと結構不安が残るなぁ。弾は、十分あるだろうから大丈夫だとして、回復薬もある。うん、準備は万端って感じかな」


 私は、シルヴィアさんを待つ間、自分の装備の確認を行った。初期装備という不安は残るけど、それ以外は大丈夫そうだった。


「ここで待ち続けるか、少しふらつくか……うん、待つ方にしとこ」


 私は、待ち続けることにした。ベンチで五分程待っていると、北通りからシルヴィアさんが歩いてきた。


「申し訳ありません。待たせてしまいましたね」

「いえ、さっき来たばっかりですから、全然待ってないですよ」

「そうですか? 良かったです」


 シルヴィアさんが微笑む。そこで、少し気になったことがあった。


「何でシルヴィアさんは、皆さんの前では笑わないんですか?」


 シルヴィアさんの顔が固まる。


「そ、そうでしょうか?」


 シルヴィアさんは、頬を揉みながらそう言った。心なしか顔も赤い気がする。


「私に微笑んでくれた時、皆が驚いていましたよ」

「確かに、私は表情が硬いと言われますが、笑わないわけではないですよ。それに、前に、にこにこ笑っていたら、団員の皆に怖いと言われてしまいまして」

「そうですか? 私は、笑ってるシルヴィアさん大好きですよ」


 私がそう言うと、シルヴィアさんは顔を赤くさせてそっぽを向いた。


「それでは、行きましょうか」


 ちょっとして、こちらを向いたシルヴィアさんは、にこっと微笑んでいた。


「はい!」


 だから、私も微笑んで答える。私とシルヴィアさんは、ユートリアの街を歩いて行く。私達が守った街。皆が笑顔で歩いている。やっぱり、この世界は私にとっての理想郷なんだ。


 ただ、一つ言いたい。


 私の知り合った人が全員女性なんだけど、もしかして、これも私の理想なの!?


 そんな心の奥底の声は、誰にも聞かれること無く自分の中にだけ木霊していった。


 私の理想郷での生活は、まだまだ続いていく……この世界に隠されたものを知らないまま……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る