第17話 大規模侵攻!!

 戦場に出た私が見たのは、予想以上に酷いものだった。


「これは……」

「予想以上に、モンスターの数が多いですね。防衛ラインは、冒険者が抑えているようです。予定通り、奥へと向かいましょう」

「はい!」


 私達は、戦場の中を走り抜ける。冒険者達が多種多様の武器を持って戦っている。その中に人形を操って戦っている人もいた。ユニークスキルかな?


「うおおおおおおおおおお!」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 冒険者が気合いとともに、ラッシュ・ボアと戦っている。ラッシュ・ボア一体に対して、冒険者三人で戦っていた。服装から見るにプレイヤーだと思う。私達は、そんな冒険者の横を通っていき、奥を目指す。


「おい! あいつら奥に行くつもりだぞ!」

「俺達の獲物を奪うつもりか!」


 後ろからそんな声が聞こえた。


「呑気なものですね」

「ごめんなさい。恐らく、異界人です」

「ルナ様はお気になさらないでください。あの者達はあの者達、ルナ様はルナ様です」

「はい!」


 シルヴィアさんは、そう言って私を慰めてくれた。


「モンスターが来ます。戦闘準備を」

「分かりました!」


 私は黒闇天を、シルヴィアさんは剣を抜く。レイピア以上普通の剣以下の太さであるその剣は、綺麗な装飾などはないのに、とても美しい剣だった。


「私は正面を、ルナ様は側面をお願いします」


 シルヴィアさんはそれだけ言うと、走る速度を速め、正面から迫ってきたモンスター達を撫で斬りにする。


「すごい……」


 そう感嘆しつつ、私も自分の仕事をする。側面から来ていたモンスターを撃ち抜いていく。素早くリロードして、次々にモンスター達を蹴散らしていると、正面の方で、戦闘している人達が見える。リリさん達、戦乙女騎士団の人達だ。


「あそこですね。速さを上げます」

「分かりました!」


 シルヴィアさんのスピードが上がる。多分だけど、これでもトップスピードじゃないと思う。私は、何とかシルヴィアさんの後ろをついて行く。そうして走りながらも正面にいるモンスターは、シルヴィアさんが蹴散らしていく。


 剣撃のスピードが異常に速い。ソルの抜刀術すらも易々と止めてしまうのではないかと思えるほどだ。そして、戦乙女騎士団の団員に襲い掛かろうとしていたモンスターを斬り裂いた。


「!! ありがとうございます!」


 団員の人は目の前でモンスターが斬り裂かれたことに、一瞬驚いたが、シルヴィアさんを見て、すぐに我に返り、別のモンスターの所に向かう。


「師匠!?」


 聞き覚えのある声がした。そちらを向くとそこにいたのはリリさんだった。というか、凄く気になる発言をしたと思うんだけど、後で聞いてみよう。


「リリウムですか。戦況は?」

「芳しくありません。モンスターの量が多すぎて、これ以上先には進めず……」

「そうですか。私とルナ様が援軍です。取りあえず、ここら一帯のモンスターを蹴散らします」


 シルヴィアさんはそう言うと、周りにいるモンスター達に突っ込んでいく。シルヴィアさんが一閃する度に、複数のモンスターが真っ二つになる。

 そのシルヴィアさんに飛びかかろうとするモンスターがいたので、撃ち抜いた。シルヴィアさんは、振り向きもせずに次のモンスターを斬っている。私が撃つと信じてくれたのだろうか?


 取りあえず、私はシルヴィアさんのサポートに徹する。近くに来るモンスターに関しては、リリさんが対応してくれる。リリさんもシルヴィアさんと同じく、一振りで複数のモンスターを倒している。ただ、シルヴィアさんの方が、一回に倒す量が多かった。


「キリが無い……」


 私達が戦闘を始めて少し経ったけど、モンスターの量は減らない。


「モンスターを全滅させるか、ボスを倒さない限り止まることはないですね」


 戦闘の途中で私の背後に来たリリさんがそう言う。


「ボスですか?」

「はい、ここより奥にいるはずの大型モンスターです。かなり強力ですが、そのモンスターを倒すことが出来れば、この集団は瓦解します」

「じゃあ……」

「そうです。ここから奥に進まないと行けません」


 シルヴィアさんも私の所まで下がってきた。


「リリウム、これ以上先には行けないのですか?」

「モンスターが多すぎます。私一人では無理です」

「では、私とルナ様も行きます。よろしいですか?」

「私は構いません」


 私とシルヴィアさんがそう言うと、リリさんは少し考えた後、答えを出す。


「分かりました。行きましょう。アザレア!」

「はい!」


 アザレアと呼ばれた女性がこちらに来る。アザレアさんは、薄いピンクがかったゆるふわな髪を肩口まで伸ばしたピンクの眼をした人だった。


「ここ一帯のモンスターを頼みます。私達は、この先のボスを倒します」

「了解です。団長達もお気を付けて!」


 アザレアさんは、自信満々に微笑んで私達を送り出してくれた。


「私が先頭、ルナ様を挟んでリリウムが後ろを頼みます。ルナ様は、援護に徹してください。リリウムが敵を近づけさせませんから」

「任せてください」


 シルヴィアさんの言葉に、リリさんは微笑んだ。互いの信頼が厚い。


「分かりました」


 シルヴィアさんが正面にいるモンスターを次々に撫で斬りにしている。その中には、スワロー・スネークやグレート・ベアの姿もあった。私は、シルヴィアさんの攻撃の隙間を縫って現れるモンスターを撃ち抜いていく。その間に、私に側面から近づいてくるモンスターをリリさんが斬り伏せる。


「いました。正面、あれは……」

「アダマン・タートル!? 何でこんな所に!?」


 シルヴィアさんが顔をしかめ、リリさんが驚愕している。正面にいたのは、巨大な亀だった。学校の敷地くらい大きい。高さに至っては、五階建てのマンションレベルだ。


「強敵ですか?」

「そうですね。速度はそんなでもありませんが、その装甲はアダマンチウムと呼ばれる硬い鉱石で出来ています。そのため、防御力が桁外れに高いのです」

「どちらかと言えば、難敵という方が合ってますね。どうしますか、師匠」

「…………ルナ様、あの装甲を撃ち抜けますか?」


 シルヴィアさんが近づいてくるモンスターを斬り捨てながら訊いてくる。


「どうでしょう。あの装甲となると厳しいかもしれません。もう少し柔らかい部分があれば……」

「なら、脚と首の付け根が他の部分に比べて柔らかいはずです。アダマン・タートルを倒すときには、そこを狙うことが多いようですので」


 アダマン・タートルを見ると、手足と首の付け根は、装甲がなかった。


「あそこを狙えば倒せるということですか?」

「それでも、持久戦になりますね。ですが、やるしかありません」

「そう……ですね」


 私も覚悟を決める。私自身は、死んだとしても一時間のステータス低下で済む。でも、戦力が低下してしまうし、二人に負担を増やすわけにもいかない。だから、死ぬわけにはいかない。


「行きましょう『銃弾精製・黒闇天・ホローポイント弾・十発・マガジン』」


 私は、メモした弾の一つを創り出す。そして、マガジンを入れ替える。


「それは?」


 シルヴィアさんが不思議そうに見る。その間も片手間でモンスターを屠っている。シルヴィアさん一人でもなんとかなるんじゃ……。


「相手の体内をズタズタにするような弾です。怪我を押し広げる感じですかね。取りあえず、出血させるのが良いかと思ったんです」

「なるほど、私とリリウムもなるべく攻撃しますが、剣が保たなくなるかもしれません。その場合、ルナ様が頼りです」

「はい!」


 シルヴィアさんは私の返事で微笑むと、アダマン・タートルまでの道を斬り開いていく。


 そして、アダマン・タートルの目の前まで来た。


「で、でかい……」

「気をつけてください。あの体重で踏み潰されれば、ただでは済みません」

「分かりました。行きます!」


 私は、アダマン・タートルに突っ込む。シルヴィアさんとリリさんも後に続く。アダマン・タートルは、私達の接近に気付き、脚を振り上げて地面に叩きつける。その結果、大きな地震が起きる。


「わっと!」


 地面が揺れたせいで、脚がもつれてしまう。しかし、すぐにシルヴィアさんが支えてくれた。


「ありがとうございます」

「すぐに次の攻撃が来ます」


 アダマン・タートルを見ると、口を開けてこちらを見ていた。ドラゴンがブレスを吐くみたいに……


「失礼します」


 シルヴィアさんが私を抱えて走り出す。自分で走るよりもかなり速く移動している。私は、シルヴィアさんの腕の中で丸くなっているしかなかった。


「リリウム行きます」

「分かりました!」


 シルヴィアさんとリリさんは、そのままのスピードでアダマン・タートルの脚を駆け登っていく。


「うぇぇぇぇぇ!!」


 予想外の出来事に驚きの声を上げてしまった。アダマン・タートルはさっきまで、私達がいた場所に火を吐き出した。そこ周辺にいたモンスターが焼き尽くされていく。


「ルナ様、今です」

「あ、はい!」


 私は、駆け登った先の脚の付け根に撃ち込む。五発ほど撃ち込むと、深めの傷を負わせることが出来た。


 モアアアアアァァァァァァ!!!


 傷を負ったアダマン・タートルが咆哮した。


「攻撃は通りますね。ルナ様、ここからは」

「はい! 一人で頑張ります!」

「お願いします、リリウム、私達も攻撃します」

「分かりました!」


 私達はそれぞれに別れて攻撃を開始する。私もアダマン・タートルの上を駆けていく。そして、脚の付け根にホローポイント弾を撃ち込んでいく。傷は増えていくのだが、あまり、出血が多くならない。


「もっと、強い弾……『銃弾精製・黒闇天・エクスプローラー弾・十発・マガジン』」


 私は別の弾を精製する。この弾は、当たった衝撃で爆薬が炸裂するというもの。


「少し離れつつ、撃たないと爆発の威力が小さいとはいえ、危険なことには変わりないもんね」


 私は、アダマン・タートルの甲羅を駆け上がりつつ、後ろを振り向いて脚の付け根に弾を撃ち込む。撃ち込んだ弾は、アダマン・タートルの脚の付け根で小さな爆発が起きる。


 グァァァァァァァァ!!!!


 アダマン・タートルに負わせた傷が大きくなる。他の脚を見ると、シルヴィアさんが滅多斬りにして付け根から斬り落としに掛かっている。でも、三分の一程斬ったところで止まっている。


 シルヴィアさんの顔は苦々しげだった。よく見ると、シルヴィアさんの剣がぼろぼろになっている。あまりの硬さに剣の刃が欠けてしまったのかもしれない。


 私がどうにかしないといけない。


「食らえ!!」


 そう思い、エクスプローラー弾を撃ち込み続ける。小さな爆発が、アダマン・タートルの脚の付け根で連発する。元々傷付いている部分に撃ち込んだため、傷の内側から弾けていく。その攻撃で、内部も破壊できたからか、脚の一本が千切れ落ちる。


 ガァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!


 アダマン・タートルの野太い悲鳴が響き渡る。私は、すぐに甲羅の上を伝って、シルヴィアさんの方に向かう。


「シルヴィアさん!!」

「ルナ様、お見事です。こちらもお願い致します」

「はい!」


 シルヴィアさんが、ほとんど斬っていたので、さっきよりも少ない弾数で千切り落とすことが出来た。


「これで、二本の脚を落とせましたね」

「はい。ルナ様、私に掴まってください」


 私は、シルヴィアさんの指示に従ってガシッと掴まる。すると、シルヴィアさんは、私を素早く抱きかかえて飛んだ。それと同時に、アダマン・タートルが右側に倒れていく。


 ズシンッ!


 音を立てて倒れたアダマン・タートルは、どうにか立とうと藻掻いている。


 そして、シルヴィアさんは、地面に着地する。


「リリウム、どうですか?」


 いつの間にか近くにいたリリさんにシルヴィアさんが訊く。


「まだ、生きてます。もう片方もある程度は傷つけましたが……」

「生命力まで化け物ですね」

「……ルナ様、残弾は大丈夫ですか?」

「はい、銃弾は精製出来ますから」

「ご無理はなさらないように」

「はい」


 私達は、アダマン・タートルを倒すために攻撃を続ける。私は、弾丸をフルメタルジャケット弾に変えて、アダマン・タートルの中をめちゃくちゃにすべく撃っていく。


「千切れた断面なら弾は弾かれることがない!」


 アダマン・タートルは、低い声で唸っている。シルヴィアさんとリリさんもアダマン・タートルの断面に対して、攻撃をしている。ただ、出血の量が増えていっているのに、全く死に絶える様子がない。


「これだけ攻撃しても、まだ生きてるなんて……」


 私がそう呟くと同時に、横から狼が襲い掛かってきた。素早く左手でリボルバーを抜いて、迎撃する。


「ふぅ、アーニャさんのおかげで助かった」


 リボルバーは仕舞って、黒闇天のリロードをする。


「止まったまま撃ってたから、認識阻害の効力が減ってたのかな?」


 私は、周りの様子を確認する。一応、他にモンスターの姿は無かった。


「私は、他の脚を攻撃して見た方がよさそうかな」


 そうと決めると、すぐに行動に移す。反対側まで回ってアダマン・タートルの脚を登っていく。この前手に入れた『軽業』のおかげで、結構簡単に登ることができた。

 黒闇天の弾をエクスプローラー弾に変えて付け根を狙い撃つ。そこで、気付いたことがあった。


「さっきよりも硬くなってる?」


 エクスプローラー弾の効き目が悪くなっているのだ。


「何で? 何か嫌な予感がする……」


 当たって欲しく無かった私の予感は、最悪な形で当たってしまう……

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