第16話 姫との談笑と初イベント

 翌日、いつも通りに通学路で合流した日向に昨日の出来事を話していた。


「えっ!? さくちゃん、お姫様と知り合いになったの!?」


 日向は、私の話を聞いて驚いていた。あの後、森でクエストの素材を採取をした私は、ギルドに戻ってシズクさんに報告して、疲れてしまったのでそのままログアウトした。


「うん、私も驚いたけど、助けた人がお姫様だったんだよね。ただ、その護衛の騎士に睨まれちゃって、また、トラブルの種が出来ちゃったよ……」

「さくちゃんって本当にトラブルメーカーだよね」

「失礼な! 現実でトラブルを起こしたことなんて無いでしょ!」


 私は頬を膨らまして怒る。そんな私を、日向は半目になってみる。


「現実ではね。前にやったオンラインゲームでも、何かトラブルに巻き込まれてなかった?」

「あれは、私をギルドに所属させようとした人達が言い争ってただけじゃん。そもそも、私はギルドに所属はしないって言ったのに、あの人達が勝手に盛り上がっただけだもん」

「でも、トラブルでしょ。その後、さくちゃんを取り合ったギルドで戦争が勃発したんでしょ?」

「うん、ヤバいと思ってそのオンラインゲームはやめたけどね」


 そう考えてみると、日向の言うとおり、私はトラブルメーカーなのかもしれない。


「う~ん、気を付けて行動すれば大丈夫かな?」

「時既に遅しな感じがするけど、私は今日もログインは、夜になっちゃうから、同席出来ないよ」

「大丈夫だと思うけど。シャルは、いい人ぽかったし。騎士にだけ気を付ければ大丈夫な気がする」

「気を付けてよ? 騎士が何かしてきたら容赦しちゃだめだよ」

「分かった。心配してくれてありがとう、日向」

「当たり前だよ! 私のさくちゃんに危害を加えるなら、容赦しないよ!」


 日向は、真剣な顔でそう言った。


 (いつから私は日向のものになってしまったのだろう?)


 でも、日向のおかげで勇気づけられた。多分大丈夫だと思う。


 そして、学校が終わって自宅に帰ってきた。お昼は手抜きだけど、ファストフードを買ってきて食べた。時間よりもかなり早いけど、ログインしておくことにした。緊張解しも兼ねてね。


 ────────────────────────


 昨日も噴水広場でログアウトしたので、ログインした場所も噴水広場だ。


「さてと、時間まで狩りでもしようかな」


 私がそんな事を言った瞬間、私の手が握られた。


「つ~かまえた!」

「うひゃっ!」


 びっくりして変な声を上げてしまった。犯人は、やっぱりシャルだった。


「シャル! びっくりしたじゃん!」

「こんなに早く来ると思わなかったからついね」


 シャルは手を握ったまま詰め寄る。その後ろには、メイドさんが付いていた。ただ見守るだけで止めようとしない。


「シャル、近いよ」

「いいでしょ。私、ルナに興味があるの」

「??」


 シャルが、私に興味を示す理由が分からない。銃とかかな?


「姫様、注目を浴びておりますので、移動した方がよろしいかと」

「そうね。ルナ、人が来ない場所に心当たりがあるの。そこの人達も信用出来るから、早速行こう」


 シャルは、繋いだ手を離さずに、私を引っ張って行く。私も置いて行かれないように同じ速度で歩く。メイドさんも後ろから付いてくる。


「シャル、何処に向かってるの?」

「お楽しみだよ」


 シャルは、笑顔でそう言った。思っていたよりも、楽に話せている感じがする。シャル自身が、打ち解けやすい雰囲気を作ってくれているのかもしれない。


「そうなんだ。そういえば、メイドさんはなんて言うんですか?」


 私は、後ろを向いてメイドの方を見る。せっかく一緒にいるのに、名前を知らないっていうのもなんだからね。それに、あの時、シャルの傍で剣を持っていた人だったから、少し気になるっていうのもある。


「私ですか? 私は、シルヴィアと申します」


 シルヴィアさんは、私がいきなりに名前を訊いたのでびっくりしている。


「シルヴィアさんですね。よろしくお願いします」

「はい、主共々よろしくお願い致します」


 シルヴィアさんは丁寧にお辞儀をする。私が、シルヴィアさんと話してから、シャルの方に向くと、シャルは、少しむくれていた。


「シャル?」

「私といるのだから、他の人に現を抜かさないで」

「何? 妬いてるの?」

「むき~~!」


 私がからかうと、シャルは、私に絡みついてくる。


「ちょっと、シャル、歩けないってば!」


 私は、注意をしながらも笑顔になっていた。そこには、姫という立場を忘れている一人の女の子がいた。シルヴィアさんも心なしか頬が緩んでいる。


「ルナは、意地悪だね」

「そんなことないよ。シャルが可愛いからいけないんだよ」


 私が何気なしにそう言うと、シャルの顔が一気に赤くなる。


「どうしたの? 顔が真っ赤だよ?」

「何でも無い! 意地悪ルナめ!」

「なんだと~!」


 今度は私からじゃれつく。すると、むくれていたシャルは、一気に笑顔になる。そこで、私はあることに気が付く。


「……シルヴィアさん」

「はい、私も気付いております。このまま進んでください。今回行く場所は、私達以外は入ることは出来ないので大丈夫です」


 私とシルヴィアさんが、小さな声で会話する。シャルは、何を話しているのか分からず、疑問符を浮かべている。


「どうしたの?」

「……付けられてる。後ろにいる。男の人かな? それ以上は分からないけど、今から行く場所は大丈夫なんでしょ?」

「うん、少し急ごうか」


 私達は、少し歩く速度を上げていく。東通りを歩いていたが、途中で路地裏に入った。そして、この道のりは、私も知っている。


「ちゃんと付いてきてね」


 シャルはそう言って、路地裏を歩き出していく。やっぱり、私の知っている道のりだ。そして、路地裏に入ってから付けてきていた人がいなくなっている。そういえば、前に追い掛けられたときも、路地裏ら辺でいなくなっていた気がする。


「今から行くところは、行ける人が限られてるの。ちゃんとした道順を知っていて、尚且つ、選ばれている人もしくは、その人の付き添いの人しか来れないの」

「へぇ、そうだったんだ」


 シャルは思っていたリアクションと違ったからか、首を傾げている。


「もしかして、ルナは知ってるの?」

「多分、ヘルメスの館でしょ?」


 この道のりの先には、ヘルメスの館しかない。


「え~、せっかくびっくりさせようと思ってたのに」


 私をびっくりさせようとしたのか、アーニャさん、アイナちゃんをびっくりさせようとしていたのか。どっちなのだろうか。サプライズが失敗したシャルは、軽く落ち込んでいたけど、シルヴィアさんは、少し驚いていた。多分、選ばれた人とかしか来られないヘルメスの館に私が行ったことがあるからだと思う。私も何で辿り着けたのか分からないけど。


 そして、ヘルメスの館に着いた。


「こんにちわ。アーニャ、アイナ」


 シャルがそう言いながら中に入っていく。


「いらっしゃいませ。シャルロッテ様」


 アイナちゃんが丁寧にお辞儀する。なんかアイナちゃんの珍しい姿を見た気がする。


「ただいま、アイナちゃん」


 私も挨拶をしておく。すると、


「へっ!? ルナちゃん!? なんでシャルロッテ様と!?」


 アイナちゃんは、あわあわと混乱していた。


「ア、アーニャ様! お客様です!」


 何か聞きたそうにしていたが、取りあえず、アーニャさんを呼びに行った。


「お客様? ルナちゃんかソルちゃんのこと?」


 アーニャさんは、店の奥から出てきた。そして、私と一緒にいるシャルとシルヴィアさんを見て首を傾げる。


「シャルロッテ様?」

「うん、久しぶりね、アーニャ」


 ────────────────────────


 私達は、いつもの席に皆で座った。アイナちゃんが淹れてくれた紅茶を飲んでいる。


「それで、何かご用ですか?」


 アーニャさんがそう切り出す。


「そうよ。アーニャにも用があったの。でも、一番の目的は、ルナと親睦を深めることだけどね」


 シャルはそう言いながら、私に向かってウィンクをする。


「相変わらずですね。それで、用とは?」

「この街の周辺でモンスターの大量発生の兆候を確認したの」


 アーニャさんとアイナちゃんの顔が強張る。


「それは、本当ですか?」

「ええ、王都の預言士が預言したの。あの的中率が低い人ね。念のために、それを確認しに来たら、本当にその兆候があったんだ。このことは、ギルドマスターの方にも伝えてる」


 この場に私がいて良いものか。少し疑問に思う。


「二人にも手伝ってもらうことになるかもしれない。だから、そのこと言いに来たんだ」

「そうですか。わかりました。それで、ルナちゃんとはどういう?」

「ああ、そのこと? それはね……」


 シャルは、私との出会いを話す。アーニャさんとアイナちゃんは、話を聞いて少し驚く。


「ルナちゃん、無事で良かったけど、あまり無理しちゃだめよ」

「はい。アーニャさんの黒闇天のおかげで楽に倒せました。ありがとうございます」

「早速使いこなせているようね。どう? 取り回しに不具合とかはなかった?」

「はい。問題なしです」


 アーニャさんは満足げに微笑んだ。そして、皆で一度紅茶を飲む。


「相変わらず美味しい。さすがは、アイナね」

「恐縮です」


 アイナちゃんは褒められて微笑んだが、少し緊張しているようにも見えた。


「さて、用事も終わらせたから、これで、ルナと親睦を深められるね」


 さっき、シャルが言っていた事は本気だったらしい。


「色々訊きたいんだけど、まず、その服って何?」

「どういうこと?」


 訊かれている意味が分からずに聞き返す。


「異界人は、ここ最近爆発的に増えたの。その全員が同じような服を着ている。今は、市販の鎧とかを着ている人も多いけど、ルナのそれは全く違う。だから、気になったんだよ」

「そういうことね。これは、アーニャさんに作ってもらったのと、ユニーク装備だよ」


 私がそう言うと、シャルは眼を剥いた。


「来て早々、ユニークモンスターを倒したの?」

「運が良かっただけだよ」

「それでも凄い。王都の騎士団でも倒した人は少ないのに」

「え? そうなの?」


 ユニークモンスターは、やはり倒したものが少ないようだ。私は、運良く倒せたけど。もしかしたら、数自体少ないのかもしれない。


「やっぱりすごいね。ルナ、私達友達になろう?」


 シャルは、私の手を取って、そう言った。


「え? もう友達だと思ってたんだけど」


 正直、さっき会ったときにどう考えても友達になった後の感じだったので、既に友達なのだと思っていた。シャルは、私の言葉を聞いて、眼をキラキラさせている。


「そうだね! そうだよ! 私達は友達!」


 シャルが、はしゃいでいると、外から大きな音がした。


「何!?」


 その場にいる皆が一気に警戒する。アイナちゃんがすぐに動き、外を確認する。


「街の外に、微かですが砂埃が見えます」

「まさか! 予測よりも早い!!」


 シャル達の顔が強張っていく。


「姫様、急ぎギルドに向かうべきかと」


 シルヴィアさんが、シャルに提案する。そして、私の目の前にウィンドウが現れる。そこには、


『緊急イベント

 ユートリアにモンスターの大群が押し寄せてきます。ギルドにて、特別クエストを受けて、モンスターを退けてください。倒したモンスターの数だけ報酬が発生します』


 と書かれていた。シズクさんが言っていた特別依頼のことだろう。これを受けて、モンスターを倒した分だけ何かしらの報酬がもらえるらしい。


「うん、分かってる。ルナ、一緒に来て!」

「分かった」


 この街の危機かもしれない。シャルについて行くのが一番だと思う。


「ルナちゃん、気を付けて」

「はい」

「無理しちゃだめだよ。私とアーニャ様も行くから」

「うん!」


 アイナちゃんは、私の手を握ってそう言った。だから、私も手を握り返して、返事をする。


「ルナちゃん、これを」


 アーニャさんは、そう言って、この前渡したベルトを返してくれる。


「太腿に合うように調整したから」

「はい! ありがとうございます!」


 私は、すぐに左の太腿にホルスター付きのベルトを巻き付ける。そして、そこに最初に使っていたリボルバーを仕舞う。


「ルナ、急ぐよ!」

「分かった!」


 外に出たシャルとシルヴィアさんに急いでついて行く。そのまま、路地裏の外まで出ると、いきなり誰かに腕を掴まれた。内心、またか! と思った。


「痛っ! 誰! 急いでるんだけど!」

「ようやく捕まえたぞ! 異界人!」


 腕を掴んでいたのは、この前の騎士だった。


「姫様! ご無事ですか!」


 シャルとシルヴィアさんは、私が付いてこないのに気が付いて戻ってきていた。そして、現状を見て驚く。その後に怒りの表情になる。


「マルコス、私は王都への帰還命令を出したはず。何故ここにいるの!?」

「姫様! 姫様を誘拐しようとした異界人を捕まえたのです!」


 マルコスと呼ばれた騎士は、シャルの話を全く聞いていない。妄執に捕らえられているような感じがする。


「マルコス、ルナを離しなさい! これは命令よ!」

「姫様! こいつは俺の故郷を滅ぼしかけた奴らと同じです! いずれ姫様にも牙を剥きます!」

「いいから、離しなさい! こんなことをしている暇はないの!」


 シャルとマルコスが言い争う。私は、いい加減に撃ち抜いてやろうかと思い始めた。


「姫様! 私はあなたを想って言っているのです! こいつは、異界人です! 信用してはいけません!」

「いい加減にしなさい!! 貴方の私情で、この街を滅ぼすわけにはいかないの! ルナを離しなさい!」

「……!」


 マルコスは、シャルの剣幕にたじろぐ。そして、私を掴む力が緩んだと同時に、私は腕を振りほどく。


「今一度、貴方に王都への帰還命令を出す。今の貴方は信用出来ないから。今すぐ、この街を立ち去って!」

「…………わかりました。ですが、姫様はいつか後悔されるでしょう。そいつを殺さなかったことに」


 それだけ言って、マルコスは私を睨み付けてから、この場を去って行った。シャルは、もう少しで血管がぶち切れそうなほどに怒っていた。


「シルヴィア、あれは後で牢にぶち込んで」

「かしこまりました」


 マルコスの未来は暗い。


「はぁ、それよりも早くギルドに行こう!」


 シャルは私の手を取り走り出す。ギルドに着くまでに多くの人とすれ違った。皆プレイヤーのようだけど、その顔は笑顔だった。初めてのイベントで興奮しているのだろうか? シャルやアーニャさん達の顔を見ていたら、私はそんな気分になれないんだけど……


「マスター! いる!?」

「姫様!」


 ギルドの中央に大きな机を置いて話し合っていたおじさんが返事をした。


「状況は?」

「まずいですな。冒険者が食い止めてはいますが、時間の問題でしょう。奥にいる強力なモンスターは、戦乙女騎士団がどうにかしています」

「リリさんが!?」


 私が思わず声を上げると、ギルドマスターがこちらを見る。


「この者は?」

「ルナさん!」


 シャルが返事をする前に、シズクさんが私を見つける。


「シャルロッテ様とご関係が?」

「色々ありまして」

「そうですか。ルナさんも特別依頼を受けて頂けますか?」

「はい。よろしくお願いします!」


 ルナさんは、その場で書類を作っていく。


「これにサインを」

「はい」


 私は、書類にサインする。


「受理いたしました。もう行かれますか?」

「はい! 行ってきます!」

「気を付けてください。大規模な侵攻ですから、かなりの危険を伴います」

「はい! 絶対帰ってきます!」


 私がそう言うと、シズクさんは嬉しそうに微笑んでくれる。


「じゃあ、シャル、私は行ってくるね」

「うん、気を付けて。私も行きたい所なんだけど……」

「さすがにだめです」


 シルヴィアさんが、シャルの言葉にそう言う。


「その代わり、私も行きます。マスター殿。姫様をお頼みしてもよろしいですか?」

「おう、任せろ」


 なんとシルヴィアさんが、一緒に来てくれることになった。シャルのメイドなのに良いのかな?


「シルヴィア、ルナを頼むね」

「はい。ルナ様、少々お待ちを」


 シルヴィアさんはそう言うと、ギルドの一室に行き、三十秒ほどで出てくる。出てきたシルヴィアさんは、スカート姿からズボンに変わっていた。そして、その腰には、細めの剣がぶら下がっている。


「ルナ様、行きましょう」

「はい!」


 私とシルヴィアさんは、大規模侵攻が起こっている場所に向かって走り出す。初のイベントに楽しみなどはなかった。私達が失敗すれば、この街が滅んでしまうかもしれない。その恐怖が勝っている。


「ルナ様、あまり気負わないようにしてください。私達が最後の砦ではありますが、冷静さを失ってしまえば簡単に瓦解します」

「はい、わかりました」


 そうだ。きちんと落ち着いて行動をしないと。こういうときこそ冷静を心がけないと。


「私達は、どうするんですか?」

「ルナ様さえ、よろしければ、奥にいる強力な敵を相手取ろうかと」

「リリさん達に助力するということですね」

「そうです。急ぎましょう。あの者のせいで出遅れていますから」

「はい!」


 私達は、戦場に向かう。この街を守るために。

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