第14話 相棒誕生!!
ヘルメスの館の中に入ると、アイナちゃんが出迎えてくれた。
「おかえり! ルナちゃん! ソルちゃん!」
「ただいま、アイナちゃん」
「ただいま!!」
ソルは、出迎えてくれたアイナちゃんを抱きしめる。アイナちゃんも、一切抵抗せず、むしろ迎え入れて抱きしめ返す。
「アイナちゃん、アーニャさんはいる?」
「いるよ。呼んでくるね」
「うん、ありがとう」
アイナちゃんは、ソルから離れて奥にいるアーニャさんを呼びに行った。私とソルはいつもの席に座る。少しすると、アイナちゃんがアーニャさんを連れてやって来た。
「おかえりなさい、二人とも」
「ただいまです、アーニャさん。お金を持ってきましたよ。足りるか分からないですけど」
「そうなの? 昨日の今日で、早いわね。一〇〇〇〇〇だけど、大丈夫?」
今回の探索でかなり稼げて助かった。
「はい。大丈夫です。これでお願いします」
私は、アーニャさんに一〇〇〇〇〇ゴールドを渡す。
「はい。ちょうど、もらったわ。じゃあ、持ってくるわね」
「え? もう作ってあるんですか!?」
てっきり、お金を受け取ってから作ってくれるものかと思っていた。奥に行ったアーニャさんが、布に包まれた何かを持ってくる。
「はい。これ」
私の前に置いて、包みを開く。そこにあったのは、一丁の大型拳銃だった。黒い、黒よりも黒い漆黒。黒羽織の何倍も黒い。
「自動式大型拳銃。その名も『黒闇天』よ」
私は、その銃に見入ってしまう。
「アーニャさん……その名前、凄く不吉そうなんですけど……」
ソルが、黒闇天を見ながらそう言った。確かに、名前の雰囲気は不吉そうだ。
「そうね。災厄とか破滅とか、そう言った事を意味するわね。でも、かっこいいでしょ?」
「そうですね!」
私は、アーニャさんに同意する。
「ああ、ルナちゃん、こういうの少し好きだったもんね」
「何? 悪い? かっこいいじゃん」
「ううん。こういうときのルナちゃんは可愛いからいいと思う!」
「私もそう思う! 今のルナちゃん本当に可愛いよ!」
ソルとアイナちゃんがそう言った。私は、私でも気付かないうちに笑みを浮かべていたみたい。
「さて、ルナちゃん。黒闇天を持てる?」
アーニャさんが、私に黒闇天を持ってみるように促す。私は、黒闇天のグリップを握る。そして、持ち上げると、ズシッとした重みが手に掛かる。
「わぁ……」
確かな重みを感じるけど、持ち上げられないということはない、尚且つ取り回しも、ちゃんと出来た。そのまま色々なところに構えて狙いを付けてみる。その時は、トリガーに指はかけない。
「重みはあるけど、きちんと取り回せます。それに、照準も安定させられます」
「よかった。筋力は足りてるようね」
アーニャさんがホッとしたように息を吐いた。
(筋力っていうのは、もしかしてステータスの事なのかな?)
どうやら、その筋力っていうのが足りないと、取り回しに影響してくるみたい。
「凄く良いです! グリップも吸い付くようですし。ただ、これのリロードになれないといけないのと、ホルスターが必要になりますね」
今の私のホルスターは、腰に付いているリボルバー用のものしかない。私の初期装備のリボルバーと黒闇天では、大きさがかなり違う。リボルバー用のものに入れようとすれば、絶対にはち切れる。
「ふふふ、そういうと思って……じゃ~ん! 作っておいたわ!」
「わぁ~! アーニャさん、大好き!」
「ふふ、今夜泊まってくれてもいいのよ」
「あっ、家に帰らなきゃなので遠慮しますね」
「……振られた」
笑顔で断ると、アーニャさんは、地面に膝を付けて打ちひしがれた。アイナちゃんが、その肩に手を置く。
「普通、無理です」
アイナちゃんが励ますのかと思いきや、まさかの追い打ちだった。
「ま、まぁ、いいわ。取りあえず、ルナちゃん、付けてみてくれる?」
「はい」
私は、腰のベルトをもらったものに変える。茶色いホルスター付きのベルトが、黒いワンピースに映える。
「うん、合ってるわ。じゃあ、黒闇天を納めてみて」
言われたとおりに黒闇天をホルスターに仕舞う。
「どう? 邪魔じゃない?」
「はい。動きに支障はないです」
私がそう言うと、アーニャさんは一つ頷いてから、私の方に来た。
「もう少し締めるわよ? 少し揺り動いてるから」
「はい」
ベルトの調整をして完璧になったところで、アーニャさんから、もう一つの提案がされる。
「さっきのベルトをリメイクしましょうか」
「リメイクですか?」
「ええ、腰じゃなくて、太腿に付けるの。腰に二つよりも良いかなって思ってね」
「太腿にですか? なんかスパイみたい。お願いします!」
私は今まで使っていたベルトをアーニャさんに渡す。
「任されました」
アーニャさんは、私からベルトを受け取って、状態などを確認している。
「そういえば、今回は何を狩ってきたの?」
アイナちゃんが訊いてくる。
「えっと、いつものキラーラビット、ラッシュ・ボア、ソード・モンキー、それと、新しく狩ったのは、スワロー・スネーク、グレート・ベア、レッド・スコーピオンかな」
ソルが指を折りながら答えていくと、アーニャさんとアイナちゃんの顔が段々驚愕に染まっていった。
「はぁ、良く生きていられたわね。レッド・スコーピオンはともかく、スワロー・スネークとグレート・ベアはかなりの強敵よ」
「シズクさんも言ってました」
「そうだね。メグさんも言ってた」
ギルドでも言われたけど、私達が戦ったのは珍しくて、尚且つ強いモンスターみたい。
「ルナちゃんも、ソルちゃんも、あまり無理しちゃだめだよ?」
「分かってるよ。危なそうだったら逃げるから大丈夫」
「私もだから大丈夫!」
私とソルはそう言って、アイナちゃんを安心させる。
「そうだ。二人ともご注文は?」
「フルーツケーキとおすすめの紅茶で」
「私は、ショートケーキと同じくおすすめの紅茶」
私はフルーツケーキ、ソルはショートケーキを注文すると、アイナちゃんは厨房があるカウンターの奥に向かった。
「二人とも、さっき言っていたモンスターの素材はある?」
「はい」
「あります」
アーニャさんは、その返事を聞いて少し考え込んだ。
「ルナちゃんはもう作るものが、ほぼ無いからあれだけど。ソルちゃんなら、装備を作れるわよ」
「本当ですか!? じゃあ、お願いします!」
そう言って、ソルは、スワロー・スネークとグレート・ベア、レッド・スコーピオンの素材を渡す。
「ルナちゃんはどうする?」
「う~ん、じゃあ、靴をお願いします」
私も一応注文しておくことにした。今の装備で靴だけが初期のものだからだ。
「了解。少し時間が必要だから、時間空けて取りに来てね」
「はい」
「後、ソルちゃんには悪いんだけど、刀は私に頼まない方がいいかな」
「どうしてですか?」
ソルは純粋に疑問に思い質問する。
「私は、結構何でも作れるんだけど、刀は専門の刀鍛冶の方が絶対にいいからね」
「刀鍛冶は何処にいるんですか?」
「腕のいい人はこの周辺にはいないわね。元々、ここから遙かに東にある黄金の国ジパングから伝わってきたものだから、東の方に行けばいい職人に出会えるかもしれないわ。その間の繋ぎなら作れるけど、いい刀にはならないと思うわよ」
「それでも、お願いします。アーニャさんなら信用出来ますから」
ソルは、アーニャさんに頭を下げてお願いする。
「分かったわ。ジパングら辺に行ったら、いい刀鍛冶に打ってもらってね」
「分かりました」
そこまで話したところで、アイナちゃんがケーキとお茶を持ってきた。
「さぁ、お茶会にしよ」
「やった!」
「わぁ、美味しそう!」
「アイナ、私の分は?」
「ありますよ。少し待ってください」
そこからは、商談を終え、皆で和気藹々とお茶会をする。
「え? 今日から、ルナちゃん一人で留守番なの!?」
「うん。お母さんとお父さんが出張になっちゃってね」
「そういうことは多いの?」
アーニャさんはそう訊いてきた。
「そうですね。結構多いですので、慣れていますよ」
「そうなんだ。……寂しくなったらいつでもここに来てね」
アイナちゃんが笑いながらそう言った。私は一瞬面食らってしまったけど、どうしようもなく嬉しくなった。
そういうことを言ってくれる人は、ソル……日向とその家族くらいしかいなかった。だから、例えゲームだとしてもそう言ってくれる人がいるだけで、嬉しいという気持ちが出てきた。
少し涙が出そうになったけど、それを押し止めて、
「うん、もしそうなったら来るね!」
と言った。本当にこれがゲームだなんて信じられないや。
私とソルは、お茶会が終わったところでゲームからログアウトした。
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現実で目を開けると、外は暗くなっていた。
「う~ん、少し濃厚な時間だったかな。それにしても、このゲームの痛覚システムってどうなってるんだろう? あの熊に攻撃されたとき、かなり痛かったけど、耐えられない程って訳でも無かった」
熊の攻撃を受け、地面を擦って転がった。なのに、身体が動かないだけで、そこまでの痛みはなかった。現実世界であんなことになれば、もだえ苦しんで、何も思考出来なかったに違いない。
「よいしょっと」
私はベッドから起き上がって、台所の方に向かう。
「何作ろうかな? ん?」
ピンポーンっとインターホンが鳴る。
「誰だろう? って、日向!?」
映っていたのは、日向の姿だった。私は急いで玄関に向かって扉を開ける。
「どうしたの!? 何でこんな時間に!?」
「お母さんにね、さくちゃんが今日から一人なんだってって言ったら、泊まってきなさいだって」
「おばさんは、本当に心配性なんだから……」
私は、そう言いながらも笑顔になる。日向も、同じく笑顔になる。
「そうだ。お母さんがね。泊まるんだから持っていきなさいって、これを持たされたんだ」
日向はそう言って、鞄の中を見せてきた。のぞき込むと、そこにあったのは、お肉と野菜だった。
「わぁ、これっていいお肉じゃない?」
「よく分かったね。懸賞で当たったやつ何だって。どうせなら、お鍋にして食べなさいって」
「だから、野菜も一緒に持ってきたんだ。じゃあ、早速作ろうか?」
「うん、手伝うよ!」
急遽泊まりに来た日向と一緒に、夕飯のお鍋を作って食べた。お肉は絶品でした!
「ふぅ。お腹一杯だよ」
「さくちゃん、本当に沢山食べたね」
満足している私に対して、日向は苦笑いだ。
「じゃあ、お風呂に入ろう。日向、先に入っていいよ」
「ええ!? 一緒に入ろうよ!」
「そんなに大きいお風呂じゃないのは知ってるでしょ?」
「私達なら、そこまで狭くならないでしょ?」
日向が上目遣いでこっちを見る。まったく……私がその目に弱いのを知っててやってるんだから、たちが悪い。
「仕方ないなぁ。じゃあ、後片付け手伝って」
「やった!」
私達は、二人で後片付けをしてから、二人でお風呂に入る。
「ふぅ、久しぶりにさくちゃんの身体を堪能したよ」
「ただ、洗いっこしただけでしょ」
「それにしても、少し大きくなった?」
「何処見ながら言ってんの!?」
私は、抱くように身体を隠しながら言う。
「う~ん、Bだ!」
そう言って、日向は私をじ~っと見る。
「教えるわけ無いでしょ!」
「いいじゃん!」
「よくない!」
私達はお風呂の中でもゲームと変わらずに大はしゃぎだった。そして、お風呂から出た私達は、私の部屋でゆっくりとする。
「『噴水広場に現れた謎の球体』だって」
私は、パソコンの情報サイトに載っていた情報を口に出す。私の膝の上でゴロゴロとしていた日向は、起き上がって同じ画面を見る。
「本当だ。私達以外に、別の街に辿り着いた人はいないみたいだね」
「グレート・ベアが難関なのかな? 私達も運良く倒せただけだしね」
「後は、スキルのレベル上げを重視しているとかじゃない?」
そのまま情報サイトの中の記事を、適当に流し見していると、気になるものがあった。
『鳴り響く銃声、ユニークスキルか!? 黒い軍服の少女』
「これって、絶対にさくちゃんだよね?」
「銃声って書いてあるしね……。はぁ、さすがに銃は目立つかぁ。絡まれないといいけど」
「そうだね。まだ、リリさんがいるかもだから、何かあったら頼りに出来ればいいね」
「まぁ、そうだね。いてくれるといいけど」
アーニャさんは、まだ見回りをしているって言ってたけど、もういなくなっている可能性もある。
「まぁ、後はそうなった時に考えればいいかな。ふぁ~~。早く寝よ? 布団敷くね」
「え!? 一緒のベッドじゃないの!?」
「えぇ~~!! もう、我が儘言いすぎ~~!」
私は、我が儘を言う口を引っ張る。
「はぁ、まぁいいよ。早く寝よ」
さすがに眠くなってしまったので、ベッドの端に詰める。一応、枕は二つ用意しておいた。
「やった!」
「騒がないの!」
私達は二人並んで意識を手放した。そこには、二人の規則正しい寝息だけが聞こえていた……と思う。
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