第13話 新しいエリア!!

 森の向こうには、これまでに見た事の無いような光景があった。


「うわぁ、凄く綺麗……!」


 私は、思わずそう呟いていた。


「うん、本当に綺麗な花畑だね」


 ソルも私と同じように見惚れている。目の前には、色々な色の花が咲き乱れていた。風が吹くと、その花びらが舞っていく。


「本当に凄い……」


 私達は、花畑の中を歩いて行く。でも、周りの景色が綺麗すぎて、足下に注意が向いていなかった。


「あわっ!」


 地面に出ていた少し大きめの石に躓いてしまった。


「ルナちゃん!」


 ソルが手を伸ばす。私は、伸ばされた手を掴む。その結果、ソルも一緒に転んでしまう。


「きゃあ!」


 私達は、もつれながら花畑の上に倒れた。私は、ソルの上に覆い被さってしまう。そのまま、私達は見つめ合っていた。


「ごめん、ソル」

「全然いいよ」


 ソルは、顔を赤らめている。というか、何で赤らめてるんだろう?


「はぁ~、やっぱり、ルナちゃんは可愛い!」


 (いや、ソルはいつも通りかな……)


 私は、ソルの上からどいて手を差し伸べる。今度は、どちらも倒れずに立ち上がることが出来た。


「よし、じゃあ、行こうか」

「うん、あの山の麓の街までだね!」


 私達は、歩き出す。しばらく歩いて行くと、花畑が終わって、荒れ地が目立ち始めた。


「さっきまでと打って変わった景色だね」


 ソルが周りをキョロキョロしながら言う。私も周りの景色を見回す。


「うん、さっきまでは綺麗な花畑だったのに、ここは荒れている。土の感じも全然違うね。さっきまでは柔らかくてふわふわだったのに、ここはひび割れてる」


 突然の景色の急変に、少し戸惑ってしまう。


「何があったんだろう?」

「どっちかだよね。荒れ地に花が咲き乱れたのか。花畑が荒れていってしまったのか」


 私達は、フィールドの状態からいろんな考察をする。近くの山が実は火山だとか、魔法で花が咲いているだとか、そんな感じで楽しく話していると、モンスターの姿が見え始めた。


 草原にいた魔物とも森にいた魔物とも違う魔物だった。


「アルマジロ?」

「後は、サソリとか、岩の巨人とかだね。私の刀が欠けないか心配だなぁ」


 私達が、周りにいる魔物の種類を見ていると、最初に見つけたアルマジロに見付かった。身体を丸めてこちらに転がってくる。


「ソル!」

「うん!」


 私達は左右に分かれる。どちらに来るかと思ったら、私達の間をゴロゴロと転がってどんどんと進んで行った。


「…………」

「…………」


 そのまま、花畑の方まで転がっていく。もうすでに、アルマジロの姿は見えなくなってしまった。


「えっと……」

「うん、ラッシュ・ボアと同じ残念系のモンスターなんだね……」


 ラッシュ・ボアは、木に激突して気絶していたけど、あのアルマジロは、ぶつかるまで転がり続けるんだと思う。


「でも、どう戦う?」


 ソルが、顎に手を当てながら訊く。ソルの言うとおり、あの硬そうな鎧をどうにかしないといけない。


「アルマジロは、お腹から攻撃かな? サソリと岩の巨人はどうしよう……あっ!」


 私は、本で読んだ事を思い出して、メモ帳を取り出す。


「えっと、『銃弾精製・拳銃・フルメタルジャケット弾・6発』」


 私の手のひらに、今までと違った弾が精製される。鉛がむき出しだった弾が、銅のような金属の被膜に覆われている。


「うっ、魔力の消費が多いみたい……一気に力が抜けた……」

「大丈夫!?」


 ソルは、少しふらついた私を、支えてくれる。


「ありがとう。さっきから、私ふらついてばっかりだね」

「どういたしまして。私としては、役得だから全然ふらついても良いけどね!」


 そう言って、私にぎゅっと抱きつく。


「それにしても、その銃弾で解決するの?」

「うん、貫通力が高い弾なんだって。だから、サソリの鎧とかを砕けるかなって」

「へぇ。あっ、FPSのFMJか。あれも弾が貫通するもんね」

「ああ、あれってフルメタルジャケットでFMJなんだっけ。全然気にしてなかった」


 私は、ソルとそう話しながら、弾を入れ替える。


「よし、試してみようか」


 私達は、サソリと対峙する。サソリは、赤黒い鎧を纏っている。その名前は、レッド・スコーピオンだ。こちらを認識すると、警戒しつつ近づいてきた。


 私は、有効射程距離に入ってきた瞬間、リボルバーの引き金を引く。リボルバーから発射されたフルメタルジャケット弾は、レッド・スコーピオンの鎧に突き刺さる。そして、一瞬ビクンっと震えたかと思うと、すぐに動かなくなった。


「倒した?」

「どうだろう……? 警戒しながら進んで行こう」


 私達は、レッド・スコーピオンの尻尾に警戒しながら、近づいていく。幸いなことに、私達の考えは杞憂に終わった。レッド・スコーピオンは、すでに息絶えていたのだ。


「あっ! これ貫通してるよ!」

「えっ!? 本当だ。貫通力に優れているって書いてあったけど、こんなとは思わなかったなぁ」


 私達は、レッド・スコーピオンを回収して、街の方に向かうことにした。道すがら、何体かのレッド・スコーピオンを倒したけど、最初の時の様に一撃で仕留めることは出来なかった。


「最初は、重要な器官を運良く破壊出来たのかな?」

「そんな感じかな。私も鎧の隙間から倒せるのは分かったしね」


 ソルは、レッド・スコーピオンの攻撃の間を縫って、鎧と鎧の隙間を抜刀術で斬り裂いていた。その斬撃が正確すぎて逆にびっくりしたよ。本当に……


「これが、新しい街かぁ」


 まっすぐ進んでいって、私達は、山の麓にある街に辿り着いた。


「名前は、シャングリラだって」

「へぇ~、見た感じ鉱山の街って感じだね」


 街の中には、鍛冶屋や鉱石を扱ったお店が並んでいた。


「ここで、刀を打ってくれるかな?」

「確かに、刀鍛冶の人もいそうだね。でも、アーニャさんにお願いしたら作ってくれそうだよね」

「ああ……確かに。まぁ、それは最終手段かな。日本みたいな土地があれば良いんだけどね」


 私達は、街並みを見ながら街の中心を目指す。すると、街並みが変わってきた。


「あれ? 鍛冶場がなくなって、カフェが増えたね」

「うん、それに伴って服屋も出てきたかも。街の入口に、鍛冶場を集中させたって感じかな。それに、あの奥にある建物、凄く大きいね」

「うん、神殿みたいだけど、なんなんだろう?」


 街並みに、鍛冶場が全く無くなった。そして、カフェや服屋などおしゃれなお店が増えていた。そのままおしゃれなエリアが続いて、見慣れた噴水の広場に出た。


「ユートリアと同じ噴水広場だ」


 そう呟いた瞬間、


『シャングリラに着きました。都市間ポータルを起動します。飛びたい都市を思い浮かべながらポータルに入ってください』


 そう書かれたウィンドウが出てきたと思うと、噴水の前に大きな光の球体が浮かび上がる。


「これが、ポータル」

「ユートリアを思い浮かべたら、ユートリアに行けるんだ」

「取りあえず街を探索してから、ユートリアに帰ろうか」

「うん!」


 私とソルは、噴水広場にある地図を見に行く。


「えっと、ここは十字路じゃなくて、T字路なんだね」

「真南に位置しているのが、あの神殿だね」


 私達は、神殿の方を同時に見た。


「あそこはなんなんだろう?」


 私はそう言って、地図の神殿を見る。そこには、神殿の位置に文字が書いてある。


「うぇ!?」


 私はその文字を読んで驚きの声を上げる。横にいたソルがビクッと震える。


「どうしたの!?」

「ソルは、これ読めない?」

「えっと……えっ? 図書館?」

「うん、あの神殿、図書館らしいよ」


 私達が神殿と呼んでいた建築物は、この街を代表する大図書館だった。


「あれは、後で行ってみなきゃだね」

「うん、他の通路は……」


 ログイン時と違って地図の文字のほとんどは読めるようになった。書いてあることから、東通りは牧場になっており、西通りはギルド支部や解体屋などがある事、北はカフェや服屋、鍛冶屋などの店が多い事が分かった。


「う~ん、ギルド支部かぁ。あまり行かなきゃいけないところもないし、図書館に行ってみよ」

「そうだね。使える本があると良いんだけど」


 私達は、図書館に向かうために広場の南側に来たのだけど、


「これを上るの?」

「何段あるんだろう……?」


 私達の目の前には、大量の階段があった。図書館は、街の中でも結構高い丘に建てられていた。だから、そこに向かうには、目の前にある異常なまでに大量の階段を歩かなきゃ行けない。


「行くしかない!」

「そうだね!」


 私達は、図書館への一歩を踏み出す。地獄の階段上りが始まった……


 図書館である神殿まで、約三十分間掛かった。休憩も込みだけど。本当にきつい。なんでこんなに急な階段にしたんだろうか? 設計者をぶん殴ってやりたい!!


「ルナ……ちゃん……だい……じょう……ぶ?」

「だい……じょう……ぶ……」


 私達は、頂上に着いた後、膝に手をついて呼吸を整えていた。ステータスで強化されているであろう私達のスタミナを容赦なく削っていくこの階段には、絶対に何かしらの秘密があると思う。


「はぁ、はぁ、そろそろ行こうか?」

「うん、そうだね」


 私達は、図書館の中に入っていく。正面に見えたのは、受付カウンターだった。


「あの、図書館を利用したいのですが」

「かしこまりました。許可証はお持ちですか?」

「許可証?」

「はい。ここは国立図書館で、禁書庫も兼ねておりますので、国王陛下の許可証が必要になります」


 私とソルの魂が抜けるような錯覚を得た。いや、もしかしたら、一瞬だけ本当に抜けていたかもしれない。私は、なんとか正気を保って、返事をする。


「そうなんですか。すみません、持っていないので、手に入れてからまた来ます」


 そう言って、ソルと一緒に図書館を出て行く。


「はぁ、無駄足だったね……」

「そうだね。許可証……それも、国王の許可証って……」

「本当、どうやって手に入れるんだろう? まぁ、それは置いておいて、これを降らないといけないんだよね」


 私達は、再び長い階段を見てため息をつく。そして、長い階段を下り始めた。


「だから、この階段に人が全くいないんだね」

「確かに、上ってる最中も中も誰もいなかったね」


 私達がこうして降っている今も、この階段には誰もいない。


「はぁ、じゃあ、ユートリアに戻って、モンスター達を解体して換金してからヘルメスの館に行こうか?」

「そうだね。解体は、頼むことになっちゃうけど」

「全然良いよ。さぁ、早く行こ!」

「えっ? この階段を走るの!?」


 ソルが、驚いて私を見る。


「いや、さすがにそれはやらないよ!」


 私は慌てて否定する。それから少し見つめ合ってから、二人で同時に吹き出す。私達は、笑いながら階段を降りて行き、ポータルからユートリアに戻った。


 私達が、ポータルから出ると、そこは見慣れたユートリアの景色だった。シャングリラの荒野の感じから、ユートリアののんびりとした雰囲気にいきなり変わると、ギャップに少しついていけなくなる。


「ふぅ……よし、アキラさんのところに行こ」

「うん」


 私達は、アキラさんの解体屋に向かって歩き出した。ポータルから出てきたことで、周りから注目されていることに気付かずに……


 解体屋に着くと、後ろの解体場の方にアキラさんがいた。


「アキラさん、解体場借りて良いですか?」

「ん? ああ、少し待ってくれ。というか、早く使いたければ手伝え」

「え、あ、はい、分かりました」


 解体屋に来て、解体場を借りようかと思ったら、手伝うことになってしまった。まぁ、いつも使わせてもらっているから、構わないんだけど。アキラさんの仕事の分の解体が終わると、いよいよ私の解体になる。


「ん? スワロー・スネーク、グレート・ベア、レッド・スコーピオンじゃねぇか!? あの森を抜けたのか!! すげぇな!! よし、解体の仕方を教えてやる!! しっかり、ついてこい!」

「ありがとうございます!」


 私は、アキラさんに教わりながら、モンスター達を解体した。今回は、レッド・スコーピオンの解体が一番手強かった。あの鎧を引き剥がすのは良いけど、隙間に刃を入れるのが本当に難しかった。ソルの凄さを改めて思い知った。


「相変わらずの腕だな。これからも、何でも持ってこい! 解体の仕方を教えてやるからな!」

「本当に何から何までありがとうございます! これからもよろしくお願いします!」


 私達は、アキラさんの解体屋を後にする。そして、ギルドまで行き、専属カウンターに向かう。


「シズクさん」

「あら、ルナさん。換金ですか?」

「はい。これをよろしくお願いします」


 私は、トレイに今回の探索で得た核を取り出して置く。


「えっ!? これは、スワロー・スネーク、グレート・ベア、レッド・スコーピオン!? よく狩ることが出来ましたね! 初心者の方々には、かなり強敵となるモンスターだと思うのですが……」

「結構、苦戦しました。でも、ソルもいましたから」

「そうですか、良き相棒に出会えてよかったですね」

「はい!」


 シズクさんは、メグさんと鑑定に向かった。その間に、ソルと今回のモンスターの素材を取り分ける。


「今回の戦闘はソルが頑張ったから、取り分は多くしておくね」


 今回の戦闘では、ソルの活躍が目立っていた。だから、ソルの方が、多めに報酬を受け取るべきと判断した。


「えっ、だめだよ。ルナちゃんだって頑張ったんだから半分半分でいいよ!」

「だめ! せめて、グレート・ベアとスワロー・スネークの素材は、そっちの取り分を多くする!」

「……はぁ、ルナちゃんがそんな眼をする時は、絶対に譲らないときだね……分かった。それでいいよ」


 私は満足して笑う。素材の取り分けを終えると同時に、シズクさん達の鑑定が終わった。私達は、シズクさんとメグさんのところに分かれる。


「こちらが、今回の鑑定結果です。全部で、一八五〇〇〇ゴールドになります」

「わっ、多いですね」

「はい、これでもソルさんと半分半分にしていますけどね」

「へぇ~、さすが、エリアボスですね」

「グレート・ベアもそうですけど、スワロー・スネークもかなりレアなモンスターなんですよ。なので、高めに設定されているんです」

「そうなんですか。じゃあ、そろそろ行きますね。鑑定してくれてありがとうございました」

「はい、またお越しください」


 私は、シズクさんに手を振ってカウンターを離れる。ソルもメグさんに手を振る。


「メグさん! また、来ますね!」

「は、はい! お待ちしております!」


 メグさんは、何度もお辞儀していた。シズクさんは朗らかに微笑んで手を振る。


「じゃあ、ヘルメスの館に向かおう!」

「おぉ~!」


 私達は、ヘルメスの館に向かって歩き出した。

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