第12話 森の奥のボス!!
家に帰った私は、お昼ご飯を食べてから、ユートピア・ワールドにログインした。ちなみに、お昼は蕎麦を食べた。
目を開けると、ログアウト場所の路地裏にいる。
「私、ログインすると、いつも路地裏にいる気がする」
まるで、路地裏に住んでいるみたいだ。
「ログアウトするときは、噴水にしようかな……」
そう言いながらも路地裏を進んで行く。ソルとの待ち合わせは噴水広場なので、そこに向かっている。
路地裏から出ると、通りを歩いている人がこちらを見てくる。
「夜隠れって、本当に効果があるんだ」
昨日の夜は誰にも見付からなかったのに、今は街ゆく人が見てくる感覚がある。昨日は、夜隠れのおかげで注目されなかっただけみたい。それでも、今までよりも見られる回数は減っている。これは、黒羽織の能力である認識阻害のおかげだと思われる。
「私だけ豪華な装備だし、目立つのは仕方ないのかな」
周りのプレイヤーを見ると、まだ初期装備か防具屋で売っている物ばかりだった。私のように、変わった装備をしている人いない。
(夜烏は、厄介だけど初心者でも、ギリギリ狩ることが出来るモンスターだったって事かな?)
他のプレイヤーが、ユニーク装備を着ているところを見た事が無い。つまり、ユニークモンスターを狩っている人はいないか、それを隠しているということだと思う。
そんなこんなで、噴水広場に着くと、既にソルが待っていた。
「ソル、待った?」
「ルナちゃん! 全然待ってないよ!」
ソルはそう言って、にこりと笑う。しかも、それに留まらずに目を輝かしている。
「それにしても! そのコートはどうしたの!? それに、そのタイツは!? どっちも似合ってる! 可愛さと妖艶さが増してるって感じ! 得に、そのコートが、軍服ワンピースとマッチしてる!」
ソルは、私の周りをくるくる周り、いろんな角度から私を見る。
「ソル、落ち着いて。それよりも、パーティー登録しておこ。この前は忘れてたけど」
「そうだね。何だか、ルナちゃんのこと見にくいし」
「多分、この黒羽織の効果かな。パーティー登録すれば、この効果は味方に反映されないはずだよ」
パーティー登録は、いくつかメリットがある。まず、自分以外の人に反映させる能力から、パーティーメンバーを除外出来るということ。例えば、私の黒羽織にある認識阻害は、私以外のプレイヤーからの認識を阻害することが出来る。街の中だとあまり効果が無いみたいだけど、私の姿がはっきりとは見えないらしい。
ソルは、私に声を掛けられたから、他の人よりもちゃんと見えたらしい。さっき、通りを歩いていたときに見てきた人達は、うまく見えないから、逆にじろじろと見ていたのかもしれない。
パーティーのメリットはこの他にも、支援のしやすさや、ボス戦を複数人で行うことが出来るということ。支援のしやすさは、回復魔法や支援の魔法のターゲットをしやすいということ。ボス戦は、基本一パーティーでしか挑めない。なので、パーティー登録をしていないと、一人ずつ挑んでいくことになる。
「本当だ。さっきよりも鮮明にルナちゃんが見える」
「よし、じゃあ、新しいエリアの開放の前に、図書館に行く?」
「ううん、実はもう行った後なんだ。予定よりも早くログイン出来たから」
「そうなんだ。じゃあ、ボーナスは付加された感じ?」
「うん、刀術と抜刀術にね」
昨日見つけておいた本を、ソルも読めたようだった。
「じゃあ、新しいエリアに行ってみよう」
「うん、南の森の奥だね」
私達は、南にある平原を少し行ったところにある、大きな森を目指す。そこは、一昨日入った森と同じ場所だ。その奥に、新しいエリアがあるらしい。
「予想以上に早く一緒に冒険出来るね」
「うん、今日は用事が無かったからね!」
時間が合わないと思いきや、すぐに一緒に冒険出来た。ソルは嬉しそうにしている。もちろん、私も嬉しい。
私達が、こんなに呑気に話ながら移動出来たのは、平原にいる間だけだった。
森に入った途端に、私達にスイッチが入ったからだ。
「ソル、左から猿、右からイノシシ!」
「左は任せて!」
自分達の苦手をカバーしつつ、モンスターを倒していく。
ラッシュ・ボアが、私目掛けて突撃してくるので、横に避けて銃弾を一発撃ち込む。運良く脚の筋を撃ち抜いたみたいで、途中で転がって木に激突した。ラッシュ・ボアはすぐに後ろを振り向いて、私を睨もうとしたが、キョロキョロと首を巡らせている。
今、私は、さっきの場所から少し離れたところ歩いている。潜伏と認識阻害のダブルコンボで、一瞬でも見失うと、また見つけるのが難しいようだ。
私は、ラッシュ・ボアの横まで移動して、前脚の付け根を狙って撃つ。それで、ラッシュ・ボアの体力が尽きる。
「前よりも戦いやすい。黒羽織の効果もあるんだろうけど、スキルとスキルの組み合わせが良いって事かな」
ラッシュ・ボアの死体を回収して、ソルが戦っている方を見ると、既にこっちに歩いてきていた。
「さすが、ソルだね。あの猿に苦戦しないなんて」
「相性の問題だよ。ルナちゃんだって、ラッシュ・ボアを簡単に倒してるじゃん。私だと、傷が多くなっちゃうし」
「相性関係無しに、あの猿はいずれ倒す……!」
森に入った時に、二回ほどソード・モンキーを相手にしたのだが、前と同じく避けられ、その後にお尻を叩いて煽ってきた。許すまじ……
「さぁ、奥に進もう。結構進んだけど、まだ奥があるの?」
「どうだろう? モンスターの音は奥でも聞こえてくるけど」
「その聞き耳って、便利だね」
「音をよく聞くことが出来るってだけだけどね」
私達は、森の奥を目指し進み続ける。先程までは、他のプレイヤーの姿もあったのだが、奥の方まで来ると、その姿もまばらになっていた。
「正面に新しいモンスター、これは……蛇?」
私がそう言った瞬間、前の方にある草むらから五メートルくらいの大蛇が姿を現した。
「スワロー・スネーク……ツバメヘビ?」
「絶対違うと思うよ、ルナちゃん」
ログアウトしてから調べたことだけど、ツバメと同じスペルで、呑み込むって意味があるらしい。つまり、呑み込む蛇だから、何でも呑み込むって意味だったのかも。
「ここのボスかな?」
「多分違うんじゃ無い?」
スワロー・スネークは、私達を見つけると、すぐさま突撃してくる。その場から飛び退くと、スワロー・スネークは私達の後ろにあった木に噛みつく。それどころか、噛みついた木の幹を噛みちぎり、呑み込む。
「あのイノシシですら気絶するくらい硬いのに……」
「強敵かな?」
私達は警戒を強めつつ、攻撃を仕掛ける。私がリボルバーで照準を合わせて、六発を一気に撃っていく。
現実世界の動画で見て、凄いと思って試しにやってみた。ファニングショットというらしい。引き金を引いたまま、撃鉄を何回も起こすことで出来る撃ち方らしい。達人になると一秒で全弾撃てるらしい。
さすがに私の腕では、そこまでの命中率はなく、三発当たるだけだった。でも、鱗に弾かれることも無く銃弾がスワロー・スネークにめり込んでいく。
キシャァァァァァァァ!!!
スワロー・スネークは、私に対して怒りの威嚇をする。そして、口を大きく開けて私に飛びかかる。スワロー・スネークは、怒りのあまり、単調な攻撃をしてしまった。スワロー・スネークが飛びかかる直前に、私はリロードを終えている。でも、まだ私は撃たない。
私の視線には、ソルの姿がある。ソルは、飛びかかるスワロー・スネークの下に滑り込み、納刀状態にあった刀を素早く抜き、その勢いのまま首を切断する。ソルの抜刀術だ。
「意外と、あっけなかったね」
刀を鞘に納めながら、ソルがそう言った。
「そうだね。かなり強い分類かと思ったんだけどなぁ」
私は、そう言いながら、スワロー・スネークの死体を回収する。
「よし、行こうか。ここでも、戦えるって分かったし」
「そうだね。奥に行くにつれて、敵も強くなってるから気を付けよ」
私達は、そのまま森の中を進んで行く。モンスターを倒しながら進んで行くと、森の奥に開けた場所があった。
「ルナちゃん、あれって……」
「うん。多分、ここのボスかな。森と言えばって感じがする」
私達の視線の先には、かなりの巨体があった。巨体は、私達を見つけると、身体を起こす。その背丈は、三メートルほどあるだろうか。
「あの巨体で落とし物を拾ってくれるかな?」
「いや、追い掛けられた時点で全力疾走での逃走、間違いなしだよ」
私達は、それぞれの得物を構える。そして、私達を見つけたボスが、立ち上がったまま両手を空に掲げ威嚇してくる。
そして、この森のボス、グレート・ベアと私達の戦いが始まる。
先手を打ったのは、私達だ。
まず、私が、相手の身体、胸の中心付近を狙ってリボルバーの引き金を引く。撃ち出された銃弾は、グレートベアに命中したけど、意にも介さない。
ガァァァア!!
グレート・ベアは、雄叫びを上げながら私目掛けて突進してくる。
「危ない……!」
何とか、横っ跳びで避けられたけど、巨体のわりに速い。
「はぁぁ!」
ソルが跳躍して、グレート・ベアの上から斬りつける。グレート・ベアの首付近を斬り裂いたけど、傷は浅い。グレート・ベアの標的が、私からソルに移る。ソルは、着地と同時に駆けだしているので、グレート・ベアから、離れた位置にいる。
「ふぅぅぅぅ…………」
ソルは納刀し、身体を前傾姿勢にして、息を吐いている。そして、ソル目掛けて突撃してきたグレート・ベアと激突するその寸前に、ソルが動き出す。緩やかな、でも速くという矛盾した動きを見せながら、グレート・ベアの横をすり抜けつつ、身体を逆袈裟に斬る。
「凄い……」
あまりの美しい動きに思わずそう呟く。でも、見惚れてばかりもいられない。これまでの戦闘で、銃術のレベルが10を超えた。その結果、一つ技を覚えた。
「銃技『精密射撃』」
私がそう言うと、リボルバーを持つ手の震えが一切無くなり、照準が安定する。そして、グレート・ベアの頭を正確に狙い撃つ。
グレート・ベアは、当たる寸前に銃弾に気付いたようだけど、既に遅い。頭に直撃を食らうが、それでもグレート・ベアは生きていた。
「硬い……」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
よろけたグレート・ベアに対して、ソルが真一文字に斬る。確実に傷が増え、血が流れているのに、全く倒れない。グレート・ベアが、腕を横に振り、着地寸前のソルを吹き飛ばす。
「げほっ!」
木に叩きつけられたソルは、肺の中の空気が吐き出される。
「ソル!! こっちを向け!」
ファニングショットで、グレート・ベアの身体に銃弾を撃っていく。すぐにリロードし、次の銃弾を撃っていく。
何発も撃たれたグレート・ベアは、さすがに無視することが出来ず、私の方に向かってくる。その突撃は、横に跳ぶことで逃げる。そうして、避けている間にも銃弾を撃ち込んでいく。
この攻防で、スピードローダーにセットしておいた銃弾が無くなってしまったので、一発ずつの装填に変わってしまった。攻撃の密度は落ちるけど、仕方ない。
視界の端では、ソルがポーションを飲んでいる所だった。まだ、回復には時間が掛かりそう。なら、時間稼ぎをしないと。
「こっちだよ!」
私は、わざと声を上げてグレート・ベアの気を引きつける。私が普通に戦うと、どこかの段階で、私の事を見失ってしまう可能性がある。だからこそ、わざと目立つように動かないと、ソルにヘイトが向く可能性がある。
そして、グレート・ベアの気を引こうと攻撃をしていたら、いつの間にか接近戦に変わっていた。
グレート・ベアが右腕を振りかぶり、私目掛けて薙ぎ払ってくる。その薙ぎ払いに対して向かっていき、その腕に乗り駆け上がる。グレート・ベアの太くしっかりとした腕だから出来ることだった。
そのまま頭付近まで行き、そこでジャンプ。グレート・ベアの頭上をとると、脳天に銃弾を二発撃ち込む。両方とも直撃するけど、まだ倒れることは無い。グレート・ベアの背後に着地すると、すぐに死角に入って、見失わせる。そして、ゼロ距離で背後から、心臓があるだろうと思われる場所に四発撃ち込む。
グレート・ベアは、振り向きざまに私を引き裂こうとして来るが、それを背面跳びで避ける。そんな事をしていたからか、
『『軽業Lv1』を修得しました。最初の修得者のため、ボーナスが付加されます』
新しいスキルを修得出来た。
(ウィンドウが邪魔!!)
スキルが増えたおかげで、グレート・ベアの攻撃を曲芸で避けることが出来るようになった。遊んでいるようにも見えるかもだけど、こっちは至って真剣なんだから!
そうして、何発撃ち込んだかな。グレート・ベアが血まみれの状態になっていた。それでも、グレート・ベアは、立ち続けている。
「しぶとい……」
さすがに、身体に疲れが出てきた。ゲームの中でも、疲れの状態異常があるのかもしれない。そのせいか、動きが若干鈍ってしまった。でたらめに振られたグレート・ベアの攻撃をまともに受けてしまう。
「ぐぅ!」
左腕を盾にしたけど、衝撃は殺せずに、そのまま飛んでいく。地面を水切りのように跳ねながら飛び、地面を擦ってから、ようやく止まる。
「うぅぅ……」
身体が動かない。かなりのダメージを食らってしまった。
グレート・ベアは、鼻息を荒くしながら私の方に近づいてくる。身体が動かないので、逃げることが出来ない。このままだと殺される。認識阻害もずっと見られていると、効果が出ない。
「く……」
這いずろうとしても力が入らない。こんなにリアルなゲームだったのかと、改めて思う。
(ここで終わりだとしても、絶対に倒してやる)
そう思い、グレート・ベアを睨み付ける。
そのおかげで気付いた。グレート・ベアの後ろに、こちらに向かって走っているソルの姿に。
「はぁぁぁぁ!!!!」
ソルが、グレート・ベアの首までジャンプし、抜刀し、納刀した。そのまま着地して、私の方に駆け寄ってくる。
「ルナちゃん!」
私を抱き起こして、口にポーションを流し込んでいく。
「んぐっ、んぐっ…………はぁ。ありがとう、ソル。でも、まだ……」
私がそう言った瞬間、グレート・ベアの首が落ちる。
「へ?」
「もう倒してるよ。ルナちゃんが頑張ったおかげで」
ソルはそう言って、私を抱きしめる。
私は、まだ、倒したという実感がわかなかった。
「どうやって?」
「スキルだよ。抜刀術の技の一つで、『
「ソルは、すごいね。私はくたくただよ」
ポーションのおかげで回復した私は、少しふらつきながら立ち上がる。すると、すぐにソルが身体を支えてくれた。
「はぁ、早く回収して、新しいエリアに行ってみよ
「うん、そうだね」
私達は、グレート・ベアの死体を回収して、さらに奥に向かう。その時には、支えてもらわなくても大丈夫なくらい回復した。
奥に進んで行くと、森が途切れ、そこには……
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