第10話 新装備!!
翌日、また一人で朝ご飯を食べて、最低限の家事をこなした後、学校へと向かった。通学路を少し進んだところに、一人の女の子が立っていた。明るい茶色の髪を背中まで伸ばし、その瞳は黒に近い茶色をしている。
「あっ、おはよう、さくちゃん!」
そう言って、女の子は私に抱きついてくる。
「むぐっ。日向、いつも抱きつかないでもいいじゃん」
私に抱きついている女の子は、幼馴染みの日向。ゲームでは、ソルというプレイヤーネームで一緒にプレイしている。
「だって、一昨日は会えなかったし、昨日はルナちゃんだったからね。生のさくちゃんは久しぶりだもん」
「そう言って、明日も抱きつくでしょ?」
「もちろん!」
日向は、私に抱きつきながら、どや顔を決めてくる。むかっとした私は、日向の頬を引っ張る。
「いひゃいよ、しゃくひゃん(痛いよ、さくちゃん)」
「全く、早く学校に行こ」
「そうだね」
解放された日向は、頬を抑えながら私についてくる。
「そういえば、さくちゃんは、今日もログインするの?」
「もちろん。装備を受け取りたいし、図書館にも行きたいからね。後は、そろそろ別エリアにも行きたいかな」
「確か、ダンジョンクリアかフィールドボスを倒せば、その先のエリアに行けるんだよね」
「うん、そうして、奥の方へ行くことでレアなアイテムとか、強いモンスターとかと戦えるらしいよ。チュートリアルに書いてあったし」
チュートリアルは、本当に色々な事が書かれていた。でも、所々意図的に抜けているような所もあった。そこら辺は、プレイヤーが自分達で発見しろということなんだろうけど。
「私は、今日部活があるから難しいかな」
「そうなの? もう引退したじゃん」
「少し呼び出されちゃって、多分、何かのサプライズとかかな?」
日向は、剣道部に所属していたが、少し前に引退している。卒業が近いから当たり前だけど……
「じゃあ、色々調べて教えてあげるよ。図書館は、情報収集が目的だからね」
「ありがとう! さくちゃん!」
「だから、いちいち抱きつかないでってば」
そんな風にじゃれ合いながら、学校までの道を進んでいく。
教室に着くと、中の話題は、ユートピア・ワールドの事でいっぱいだった。
「皆、やってるんだね」
「まぁ、話題のゲームだからね。従来のMMORPGよりも自由度が格段に高いし」
「二人もやってるの?」
クラスメイト兼友人の
「うん、やってるよ」
「大空ちゃんもやってるの?」
「うん、誕生日プレゼントで買ってもらったんだ。売り切れ直前で危なかったけど」
ユートピア・ワールドを起動するためのハードウェアは現在売り切れ中だ。今現在持つことの出来た人達は、かなり運がいいと言われている。
「クラスの皆で集まって、冒険しようって話してるんだけど、二人も来る?」
大空は、そう提案した。私は、少し考えてから、
「誘いは嬉しいけど、遠慮しておく」
と断った。
「私も、遠慮しておくね」
「分かった。じゃあ、今度一緒に冒険しよ」
「うん」
そう言うと大空は、他の皆の所に向かっていった。
「いいの? 皆と冒険しなくて」
「うん。大人数になるだろうし、私は私でやりたいことがあるからね」
「そうだね。しばらくはそれぞれの冒険になるだろうけど、互いに頑張ろうね」
「先に、他のエリアに行っちゃうかもね」
「じゃあ、競争してみる?」
「う~ん。多分私の方が不利だろうし、やめておく」
「そんな事無いと思うけどなぁ」
私達がそんな事を話していると、予鈴が鳴り始めた。そろそろ授業の時間だ。教科書を準備して、先生が来るのを待つ。
そして、今日の授業が終わると、日向は剣道場に向かい、私は帰宅した。
「ただいま、誰もいないか。今日は連絡無いって事は帰るって事だし、先にお風呂入ってからご飯作り始めようかな」
私は、お風呂にお湯を張っている間に、サラダだけでも作っておくことにした。サラダを作り、洗濯物を畳んでいると、お風呂が沸いた音がする。洗濯物が畳み終わったと同時に、お風呂場に急行する。
「よし、何の入浴剤にしようかな……、これにしよ」
私は、ゆずの入浴剤をお風呂に溶かしている間に身体を洗っていく。そして、洗い終わったと同時にお風呂に浸かる。
「ふぅ~、いい匂い」
お風呂でゆったりしていると、少し手持ち無沙汰になってしまう。
「お風呂場での暇つぶしが欲しくなるなぁ。携帯は持ち込んで水没したら嫌だし……う~ん、いつも考えるけどいいアイデアが浮かばないんだよね。水没しないケースでも買おうかな」
四十五分ほど浸かってから、お風呂から上がる。身体を拭いて、化粧水を付けて少ししてから、乳液を付ける。
「めんどくさいけど、肌のケアは忘れないようにしないと、日向が怒るからね。よし! ご飯作ろ」
今日のご飯は、生姜焼きだ。お肉を軽く焼いて、タレを混ぜて焼いたら出来上がり! 後は、ご飯と味噌汁を用意して、サラダも盛り付ければ夕飯の支度は終わり。
いつ帰ってくるか分からないお母さん達の分をどうしようかと考えていると、玄関が開く音がした。
「ただいまぁ」
「ただいま」
お母さんとお父さんが帰ってきたのだ。
「おかえり。ご飯出来てるよ」
「ありがとう! 朔夜~!」
お母さんが私を抱きしめる。なんか抱きしめられてばっかな気がする。
「早く手を洗って。ご飯冷めるよ」
「分かったわ」
お母さんは、手を洗ってきてからテーブルに着く。お父さんも同じだ。
『いただきます』
ご飯を食べ始めると、テレビの音と話す声がリビングに響く。
「そういえば、ゲームはどう? 楽しい?」
「うん、楽しいよ。日向とも合流出来たし。いつもと違う感じで楽しい。いい人達にも出会えたし」
「いい人?」
私は、お母さんにアイナちゃん、アーニャさん、シズクさん、メグさん、リリさんのことを話す。
「その人達は、人間なの?」
「どういうこと?」
お母さんの言っている意味がよく分からずに聞き返す。
「中に人が入っているの?」
「ううん。AIが搭載されたNPCだよ」
「じゃあ、ゲーム内のキャラクターなのね。でも、普通の人と同じように話せるなんて不思議ね」
「今のゲームは、ハイテクだな」
お父さんも興味を示したようだった。
「皆いい人達だよ。助けてもらったし」
「何か危険なことでもあったの!?」
「ちょっと絡まれただけ。あのままだと、私がぶち切れてたかも……」
「……朔夜、気を付けて行動するんだぞ」
「わかってるよ。多分大丈夫だと思う」
私の曖昧な返事でも、お父さんは何も言ってこない。私の事を信用しているのかいないのかよく分からない。
「ご馳走様」
私は、ご飯を食べ終わったので、食器を洗い場に持っていく。
「あ、今日は私が洗うから浸けとくだけでいいよ」
「わかった。ありがとう」
いつもは私が洗い物もするが、今日はお母さんがやるらしい。
「そうだ、明日から出張になっちゃって、土曜まで帰れなくなったから。お金は振り込んでおくね」
「わかった。私ゲームしてるから、しばらく返事とかは出来ないよ」
「わかった。楽しんでおいで。でも、明日も学校だからあまり遅くまではだめよ」
「うん」
私は、そう返事をして自分の部屋に戻る。いつものことなので、もう慣れっこだ。私は、ハードを頭に付けて、ユートピア・ワールドにログインする。
目を開けると、そこは暗くなった路地裏だった。やっぱり、ログアウトした場所にログインするらしい。私は、真っ先にヘルメスの館に入る。
「こんばんわ」
「いらっしゃいませ。あっ、ルナちゃん! いらっしゃい」
「お邪魔します。アイナちゃん、アーニャさんはいる?」
「いるよ。呼んでくるね。注文はある?」
「じゃあ、おすすめの紅茶で」
「はい、かしこまりました」
アイナちゃんは、笑顔でそう言いながら、店の奥に向かっていった。私は、いつも通される席に座って待つ。すると、一分もしない内にアーニャさんがやって来た。
「いらっしゃい、ルナちゃん。完成しているわよ。はい、これ」
「ありがとうございます。これは……」
私が貰ったものは、漆黒のコートだった。所々に、赤い刺繍がされている。その赤も、鮮やかなものでは無く、少し暗めの臙脂色(えんじいろ)だ。
「夜烏の羽を使って織ったコートよ。名前は『黒羽織』。効果は認識阻害、硬化、夜隠れの三つよ。素材を持ってきたら、もっと強く出来るわ」
「夜隠れ?」
認識阻害と硬化は、なんとなく分かるが、夜隠れだけはよく分からなかった。
「夜隠れは、夜に紛れることが出来るの。多分、夜烏にも付いてるんじゃない?」
(そういえば、確認してなかったかも)
そう言われて、夜烏の付属効果を確認する。
────────────────────────
夜烏:『夜隠れ』『硬化』『夜烏』
────────────────────────
「付いてますね。夜に行動してないから分からなかったのかな」
「そうね。色々確かめなきゃいけないかもしれないわね。それにしても、その『夜烏』ってスキルは、何なのかしらね?」
「カラスになるとかですかね?」
紅茶を持ってきたアイナちゃんも話に加わった。
「え? 私カラスになっちゃうの?」
「ふふ、それは面白いわね。見てみたいわ」
「ルナちゃんが、カラスになるって事は、白いカラスになるかな?」
アイナちゃんが目を輝かせてそう言った。白いカラスは、珍しいけど、目を輝かす程なのかな。でも、
「『夜烏』って位だから、夜烏になるんだと思うよ」
「出来そうかしら?」
アーニャさんに言われて、なんとなくやってみる。身体に力を込める。適当なポーズをとってみる。全く出来ない。というか、ポーズをとってたら二人に笑われた。納得いかない……
「う~ん、夜烏!」
叫んでみても何も起こらない。
「全然だめね。何か条件があるのかもしれないわね」
「そうですね。あっ! 図書館行こうと思っていたんでした」
「二十三時までだから、早く行ってきた方がいいわよ」
「はい! 行ってきます」
私は、アーニャさんに作って貰ったコートを羽織る。
「わぁ、ルナちゃん、似合ってる!」
「ありがとう、アイナちゃん! でも、黒黒のコーデってどうなんだろう?」
「合っていると思うわよ。とても可愛いわ。小さな軍人さんみたいね」
「このコート、結構暖かいですね」
「本当だ。生地も少し厚めになってる」
アイナちゃんがコートの裾掴んで厚さを確かめている。
「コートだからね。暖かさは必要かと思ったのよ。取りあえず、着ていておかしいところが無いか、何日か様子をみてみてくれる?」
「はい。じゃあ、図書館に行ってきますね」
「うん、いってらっしゃい」
「何かあったら、すぐに帰ってくるのよ。今はまだ、戦乙女騎士団が見回ってるから何も無いだろうけど」
「はい。気を付けます」
私は、そう言ってヘルメスの館を出て行った。そして、路地裏を進んで行き、大通りに出る。大通りには多くの人の姿があったけど、誰も私の事を見てこない。自分で言うのもなんだけど、真っ黒の服装に、真っ白の髪、赤い眼っていう凄く目立つ姿なんだけど、誰も見向きもしない。
「朝とか昼は、良く人に見られるんだけどなぁ。まさか、これが夜隠れの効力なのかな。夜は、問答無用で認識されづらくなるって感じかな」
私は誰にも見られなくなった事に感動しながら、北通りにある図書館を目指す。
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