第9話 揉め事は嫌だ!!

「おい! お前!!」


 なんかギルド内で、急に大声を上げている人がいる。呼ばれている人が可愛そうだね。私は、人事だと思って、シズクさんと話を続けようとした。


「そこの白髪の女! お前だよ!!」


(私の他にも白髪にしている人がいるのかな。私が、街を歩いているときは見た事無いけど。もしかして、私以外に白髪っていない!? 私って意外と目立っていたのかも……)


 そんな風に私が考えていると、いきなり肩を掴まれた。


「お前だよ!」


 そして、無理矢理後ろを振り向かせられる。そこにいたのは、見た事の無い男だった。


「やっぱり、あの時の女だ」

「誰?」


 流石に上機嫌になるわけなく、睨み付けながらそう言ってやった。


「お前、俺の仲間になれ」

「嫌だ」


 横暴に言うものだから、即答で断った。


「早速これを解体しろ」

「お断りします」


 全く話を聞かない男。再び即答で断ると、いきなり私の腕を掴んで引っ張り出した。


「いいから来い! お前は役に立ちそうだから使ってやるって言ってんだよ!」

「ふざけないで! 離せ!」

「離してください! いきなり何なのですか!」


 ソルも怒り心頭のようで、私を掴んでいる手を離させようとしている。


「お前も仲間なのか。なら、お前も使ってやるよ」

「いい加減にしてください! ギルド内での横暴は許しませんよ!」


 シズクさんがカウンターから出てきてそう言う。


「黙れ! NPCの分際でプレイヤーに口答えすんじゃねぇ!」


 男が怒鳴る。周りの人達が遠巻きに注目しているのが分かる。見てないで助けて欲しいのだけど。


 男は相も変わらずに、私を無理矢理連れて行こうとする。いい加減頭にきたので、銃弾を撃ち込んでやろうかと思っていると、


「ぎゃあっ!」


 男の腕が半ばから断ち斬られていた。いきなりの惨状に頭が真っ白になった。


「ぎゃああああ! 俺の腕がぁぁぁぁぁ!」


 現実で斬られるよりは、痛みが少ないはずだが、かなり痛いと思う。というか、見ている方が痛く感じてくる。

 私は、男の腕を斬った人の方を見る。その人は、純白の鎧を着た綺麗な女性だった。金色に輝く髪をポニーテールにして背中に流している。そして、眼はサファイアを埋め込んだかのような綺麗な碧眼だった。


「大丈夫ですか? この下手人を牢にぶち込んでおいてください」

「はっ!」


 女性は、私に声を掛けながら、後ろにいる部下みたいな人達に、男を連れて行かせた。男は尚も喚いていたが、部下の方々に気絶させられて大人しくなった。


「はい、大丈夫です。助けて頂きありがとうございます」

「いえ、こちらも間に合ってよかったです。偶々、ギルドの様子を確認しに来た事が、功を奏しましたね」

「助かりました。あの者の処罰は?」

「私達に任せて頂いて大丈夫です。出来ればギルドからの除名とブラックリスト行きをお願いしたいのですが」

「かしこまりました。そちらの処理はお任せください」


 シズクさんと女性が、男の処理について話し合っている。その様子から、どうも女性の方が立場が上の感じがする。


「一応、あなた達の聴取もしたいのですけど、今からお時間大丈夫ですか?」

「はい。聴取って何をするんですか?」

「事件の経緯を訊くだけですよ。ギルドの一室をお借りしてもよろしいですか?」

「かしこまりました。応接室にご案内します」


 私とソル、そしてその女性は、シズクさんの案内で、ギルドの奥にある応接室に通された。


「まずは、自己紹介からですね。戦乙女騎士団ヴァルキリーナイツのリリウム・ダイアンサスと申します。リリとお呼びください」

「初めまして、ルナです」

「ソルです。よろしくお願いします」


 互いの自己紹介を済ませ、聴取に移った。


「なるほど、では、あちらから絡んできたと言うことですね。何故、絡んできたのかは分かっていますか?」

「私を仲間にしたかったそうですが……」

「それで、無理矢理連れて行こうとしていたのですね」


 そう話していると、シズクさんがお茶を持って来てから、下に戻っていった。私達は、一息入れると続きを話していく。


「となると、あの下手人は、異界人なのですね」

「はい、そうだと思います」


 リリさんは、それを聞くと顎に手を当てて少し考える。


「恐らくですが、牢に入れられるのは、最大で一ヶ月間ほどになりますね。罪自体が重いものではないので、死罪にも出来ませんし、異界人となると、そもそも死罪自体に意味が無くなってしまいますので」


 リリさんが言っているのは、異界人は復活してしまうからという意味だろう。私達プレイヤーは、デスペナルティを負うだけで、実際に死ぬことは無い。だから、死罪が意味をなさない。


「でも、一ヶ月間も拘束出来るんですね」

「ええ、異界人用の特殊な牢屋が用意されるので」


 犯罪者用のフィールドみたいなものがあるのだろう。ゲーム制作者が何をするのも自由と言っていたけど、罪に問われないとまでは言っていなかった。そういう処理があっても不思議じゃない。


「一応聞きたいことは、これで全てです」


 聴取が終わった。元々大きな事件というわけでは無いから、聞くこと自体が少ないのだろう。


「そういえば、リリさんは騎士団なのに、こんな仕事までするんですね」


 私の中の騎士団といえばモンスターを倒したりするイメージがあるんだけど、今やっていることは警察みたいだ。


「普段はしませんよ。今日は偶々です。私達戦乙女騎士団は、モンスターとの戦闘や都市防衛が主な仕事ですから」

「防衛?」

「はい。モンスターが、大量発生すると街を襲ってくるので、それらからの防衛や戦争時には街を守ります」


 一部は、アキラさんから聞いた話だった。その防衛を担うのが、こんな綺麗な人だとは驚きだけど。


「そうなんですね。でも、なんでギルドに?」


 戦乙女騎士団の仕事を聞くと、なんでギルドに来たのかという疑問が生まれてくる。ギルドの様子を見に来たと言っていたけど、どういうことなのだろうか。


「ギルドには、防衛の際に応援を要請するので、その関係上、定期的に様子を見に来ているのです。今日は、それとは別に、街の視察という面もありましたが」

「へぇ、ところで、戦乙女騎士団って女性は何人くらいいるんですか?」


 ソルが、眼を輝かせながら訊いている。本当に女の子が好きなんだから……


「戦乙女騎士団は、団員全員女性ですよ。大体百人前後でしょうか」

「なんで女性だけなんですか? 女性しか募集していないのですか?」


 気になったので、訊いてみた。


「いえ、男性も募集していたことはあるんですよ? でも、その時には女性だけの騎士団になっていて、入ろうとしてくる男は全員下心が丸出しだったんです……」


 リリさんは伏し目がちにそう言った。それに関しては、同情せざるを得ない。


「それは、残念でしたね」

「そうなんですよ。だから、女性だけの騎士団になってしまって。不満は無いんですが、その……婚期が……」

「ああ……」


 私達はなんともいえない顔になってしまう。確かに、女性だけの騎士団では出会い自体が無いのかもしれない。


「えっと、頑張ってください」

「はい。まだ、大丈夫です。まだ、一九ですし! 異例の出世で少し敬遠されてますけど。きっと出会いはありますよね!」


 リリさんは必死のようだった。目の端には涙が溜まっているようにも見える。


「そうですよ。もうだめだと思ったら、女性と結婚してしまえばいいんですよ」


 ソルがとんでもないことを言う。リリさんは、男の人を探しているのに、女性と結婚すればいいだなんて。


「なるほど、その手がありましたか」


 リリさんは乗り気だった。驚いて目を剥いてしまった。私のゲーム内での知り合いのほとんどが女性好きな気がする。まぁ、別にいいんだけど。


「そうですね。そう考えれば、今の状況は選り取り見取りになりますね! やる気が出てきました!」


 リリさんの眼は燃えていた。仕事になのか、恋愛になのかは分からないけど。


「リリさんは、それでいいんですか?」


 一応確認のために訊いてみた。その場のノリで言っているだけの可能性もあるし。


「そうですね。男性に恋することはありませんでしたし、ありだと思います。もしかしたら、最初から女性の方が好きだったのかもしれないですね」


 リリさんはいい笑顔になっていた。すると、目の前にいきなりウィンドウが出現する。


『クエスト『苦悩の気持ち』をクリアしました。報酬として、二万ゴールドを取得。さらに、特別報酬として『戦乙女騎士団団長とのつながり』を手に入れました』


 受けた覚えのないクエストをクリアしてしまった。どういう経緯なのだろうか。


「すみません、愚痴を聞かせてしまって。あなた方とは凄く仲良くなれそうです。愚痴のお詫びとお近づきの印に、こちらをお持ちください」


 そう言って、リリさんは、何かの紋章がぶら下がったネックレスを渡してくれる。


「これは、私達、戦乙女騎士団の紋章です。これを身につけていれば、衛兵達も便宜を図ってくれると思いますよ。私からの気持ちです。また、機会があればお話ししましょう。その時も少し愚痴を聞いてくれると嬉しいです」

「はい。また、お話ししましょう! 愚痴でも何でも聞きますよ!」

「何か、進展があったら教えてくださいね! たくさん恋バナしましょ!」


 そう言って、私達は笑顔で手を振って別れた。先に、リリさんが帰っていった。私達が降りていくと、カウンターで待っていたシズクさんは、羨ましそうに私達が付けているネックレスを見ていた。


「いいですね。戦乙女騎士団の紋章なんて、誰も貰ったこと無いですよ。そもそもお近づきになれる人自体少ないですし」

「そうなんですか? リリさん、とても気さくでいい人でしたけど」

「お話しする機会なんてそうそう無いですよ」

「私達、またお話しする約束しましたよ」

「羨ましい……」


 シズクさんは本当に羨ましそうに言う。その後ろで、メグさんも羨ましそうにしている。


「そんなになんですか?」


 シズクさんにそう訊いてみた。すると、今まで以上の勢いで話し始めた。


「当たり前ですよ! 若くして騎士団長まで昇格した秀才! 誰にも劣らないどころか、誰も至ることの出来ない美しさ! 全女性の憧れです!」


 シズクさんは眼を輝かして語った。確かに、リリさんには私も憧れてしまうような何かを持っていた。あれがカリスマというものだろうか。


「じゃあ、私達は運が良かったのかも」

「そうだね。この紋章もかっこいいし」


 私達が首に掛けている紋章は、二本の剣を白い羽が包んでいるような紋章だった。この紋章が団長とのつながりなんだと思う。


「じゃあ、私達はここで失礼しますね」

「メグさん、また、来ますね」


 私達が手を振ると、シズクさんは笑顔で、メグさんは少し緊張気味に手を振って別れた。ギルドを出ると、ソルは身体を伸ばし始めた。


「う~ん。ルナちゃん、次は何処に行く?」

「ヘルメスの館に行こうかな。お金は早く渡しておきたいし。あそこのケーキとお茶も飲みたいしね」

「よし、じゃあ、早く行こ! 私もケーキ食べたいし!」


 ソルは私の手を取って歩き出す。私も、置いて行かれないように同じ速度で歩く。すると、ソルは私の腕に抱きつく。


「歩きにくいよ、ソル」

「いいじゃん。可愛いルナちゃんに触れ合えるのは、ここだけなんだよ? なら、思う存分堪能しなきゃ!」

「こっちに来てから、ずっといるんだから堪能してるでしょ」


 そうは言いながらも、振りほどこうとしない私も私だけど。


「着いたね。お邪魔しま~す」


 そういいながら、扉を開ける。


「いらっしゃいませ。って、ルナちゃんとソルちゃんか。席に案内するね」


 言葉では素っ気なく聞こえるけど、アイナちゃんは私達を見るや否や、満面の笑みになっていた。私達もつられて笑顔になる。


「今度は注文もするよ。この前と同じ紅茶とチョコレートケーキをお願い」

「私も同じものをお願い」

「うん、わかった。アーニャ様も呼んできますね」

「ありがとう」


 私達は、席に着いてアイナちゃんとアーニャさんを待つ。ほんの少し待つだけで、アーニャさんがやって来た。アイナちゃんは、今、紅茶とケーキの用意をしている。


「いらっしゃい、二人とも」

「アーニャさん、こんにちわ。お金を持ってきましたよ」


 私はそう言って、お金を一〇〇〇〇ゴールド分実体化させて渡す。


「うん、ぴったり一〇〇〇〇ゴールドね。お疲れ様。明日には出来るから、取りに来てね」

「はい、ありがとうございます」


 私達はそこから他愛の無い話をする。そして、五分ほどするとアイナちゃんが紅茶とケーキを持ってきた。


「どうぞ。アーニャ様の分も持ってきましたよ」

「ありがとう、アイナ」

「わぁ、美味しそう!」


 ソルは、出てきたケーキを見て眼を輝かしている。


「いただきます」


 私もそう言ってから、ケーキにフォークを入れる。そして、味わって食べていく。時折、紅茶で喉を潤すことも忘れない。


「やっぱり美味しいね。ここのケーキ」

「本当!? 良かった。練習したかいがあったよ!」

「うん! 本当に美味しいよ!」


 ソルも絶賛する。本当に、現実の店よりも美味しいかもしれない。そこからは、アイナちゃんも交えた他愛の無い話になっていった。その日は、ヘルメスの館の前でログアウトした。


 現実に戻った私は、夕飯を作る。今日の夕飯は、簡単にラーメンと炒飯にする事にした。


「冷凍のご飯があるし、丁度いいね」


 パパッと作って、テレビを見ながらご飯を食べる。


「今日も楽しかったなぁ。皆、優しい人達ばっかだし。あの男の人さえいなければだけど」


 今日は嫌なこともあったけど、それ以上に楽しいことに満ちあふれていた。新しくシズクさんとメグさん、リリさんと知り合うことが出来た。それだけで、あの嫌なことがどうでも良くなってくる。


 私は上機嫌でお風呂に入り、自室に戻って就寝する。明日は学校があるので、今日ほどゲームが出来ないけど、やっぱり楽しみだ!

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