第8話 資金集め!!
ソルと一緒にキラーラビットの集団を狩った後、街には戻らずに平原を進んだ。
「換金しないの?」
歩きながら、ソルが首を傾げて訊いてくる。
「うん、この数だとまだお金が足りないし、私達ならまだ戦えるって分かったし」
私は、さっきの戦闘で、ソルと二人ならもっと戦えると確信した。
「森に行く?」
「ううん。それはまたにしよう。まずは、平原でもっと戦闘に慣れていこ!」
「そうだね!」
私達は、平原を歩き続ける。平原の中で現れるのは、キラーラビットばかりだった。というよりも、キラーラビットしか出てこなかった。どれだけ繁殖してるんだろうか……
私達は、何匹目かのキラーラビットを倒した後、少し休憩することにした。
「ルナちゃんの銃って結構強いよね」
「ううん、そんな事ないよ。急所を狙わなきゃちゃんと倒せないし、ここの敵が結構弱いからだよ」
私は、スピードローダーに弾をセットしながら話す。他にも、銃弾精製で弾を作り出す。
「確かに、弱いかもだけど。そもそも、急所を正確に狙える時点ですごいよ」
「集中の効果かな。あまり、ブレがないんだよね」
「私も持ってるから分かるよ。相手の攻撃がよく分かるし、こっちの攻撃も正確になって、いつもよりもちゃんと斬れるしね」
「いつもは、斬ってないでしょ……」
私は、思わず呆れてしまった。ソルが普段やっているのは、剣道なので斬るというよりも打つというのが正しい。
「でも、平原に出るのは、キラーラビットだけなんだね」
「そうでもないよ。夜は、狼が出たからね」
「じゃあ、昼と夜で出るモンスターは変わるんだ?」
「うん、どちらかといえば、夜の方が強いかな」
私は、昨日実際に戦って思ったことを伝える。キラーラビットと狼では、強さのレベルが違った。キラーラビットは、暴れるウサギって感じだったけど、狼はこちらを殺す気で来ているのが分かった。夜は、昼以上に警戒しないといけない。
「どうする? やっぱり森に行く?」
「そうだね。浅い所を少し行ってから、帰ろうか」
「分かった。じゃあ、行こ」
私達は、休憩をやめて森に向かった。森は、町の南に広がる平原の先を覆っている。木の高さは、約五メートルもあった。
「すごく高いね」
「上から来る可能性も考慮しなくちゃかな?」
「まぁ、そうだね。猿とかがいるかも」
私達は、ゆっくりと森を進んで行く。周辺の警戒は最大限にする。
「ソル! 右前と右にいる!」
私は、ソルに敵のいる場所を伝える。ソルは、すぐに刀を抜き、言われた場所を向く。私も、リボルバーを抜いて構える。
私達が構えると同時に、木々の隙間からイノシシが二匹顔を出す。名前はラッシュ・ボア。
「突進に気をつけて。名前になるくらいだから、かなり強い突進なのかも」
私はそう言いながら引き金を引く。銃弾は、吸い込まれるようにラッシュ・ボアの頭に命中する。銃弾を受けたはずのラッシュ・ボアは、少しノックバックするだけだった。頭を振ってから、こちらを睨んでくる。鼻息を荒くして、後ろ足で地面を蹴っている。
「頭、堅い!!」
「突進ばっかりしているからかな?」
私は、何回も頭に弾を撃ち込んでいく。キラーラビットよりも身体が大きく、必然的に頭も大きくなるので、狙いが付けやすい。全く同じ場所とはいかなかったけど、頭自体に当てることは出来た。でも、ラッシュ・ボアを倒すことは出来ない。やっぱり、強固な頭をいくら撃っても、たいしたダメージにならないみたいだ。それ自体は、私も予測していたことだったけど、万が一って事もあるから試さざるを得なかった。
ラッシュ・ボアは、さらに鼻息を荒くする。さらに、もう一匹のラッシュ・ボアも同様に鼻息を荒くさせ始めた。仲間が攻撃され続けたのだから当然かもしれない。
「来るよ!」
「うん!」
ラッシュ・ボアが、突撃してくる。それも同時にだった。私達は、左右に飛んで避ける。そして、ラッシュ・ボアは、曲がることも出来ずに二匹とも、私達の後ろにあった木にぶつかる。
「え?」
私は、少し驚いた。それは、ラッシュ・ボアが突っ込んだ木がビクともしなかったからだ。それどころか、ラッシュ・ボアの方が脳震盪を起こして横たわっている。
「…………」
私達はそれぞれ一匹ずつ心臓に攻撃を与え、命を絶った。
「このイノシシ、おっちょこちょいだね」
「そうだね。ここが縄張りなのに、木について知らないなんてあり得ないよね」
私達は、ラッシュ・ボアが木に激突してくれたおかげで倒すことが出来た。
「あと何回か、戦闘を試してみよう」
「激突させないで倒せるかどうかってことだね」
この後、ソルと二人で五回程、森での戦闘をこなした。結果、ラッシュ・ボアは、木に激突させないでも、避け際に急所に一撃与えれば倒せることが分かった。そして、ラッシュ・ボアの他に、剣を持った猿、ソード・モンキー、角が異常に堅い鹿、ホーンディアーと戦った。
特に厄介なのは、ソード・モンキーの方だった。両手に曲刀を持ちながら、脚で木にぶら下がり、トリッキーな動きで攻撃してくる。私が発砲しても、向こうは木を飛び移りながら避ける。結局、ソード・モンキーを倒すのはソル任せになった。
「あの猿、今度は一発ぶち込んでやる!」
「荒れてるね。流石にあの煽りを受けたら当たり前かもだけど」
私が、恨み言のように言うと、ソルが苦笑いをする。何故この様になったかというと、ソード・モンキーが私の銃弾を避けたからだ。ただ避けただけなら、ここまでの荒れようにはならなかったと思う。あいつらは、私の銃弾を避けた後、毎回のようにお尻を叩いていたのだ。許すまじソード・モンキー……
私達は一度、狩りを終えて街に戻っていく。
「まずは、解体屋?」
「うん。場所借りたいしね」
私達は、私がいつもお世話になっている解体屋に向かった。
「こんにちわ!」
「おう? 嬢ちゃんか。朝も来たのに、また来たんだな」
強面の店主さんであるアキラさんが、そう言った。
「沢山狩ってきたので、出来れば作業場を借りたいなと思いまして」
「ああ、今は仕事がないからいいぞ。そっちの嬢ちゃんは?」
アキラさんは、ソルの方を睨む。というより、強面の顔のせいで睨んでいるように感じる。
「え、えっと、ソルと言います。ルナちゃんの幼馴染みです」
ソルは狼狽えつつも自己紹介をする。だが、その際に思わず、目線を逸らしてしまった。
「嬢ちゃんほどでないにせよ、少しの覚悟はあったようだな。だが、まぁ、教える段階ではないか。嬢ちゃんは、見学してな」
「は、はい」
流石のソルでも、アキラさん相手にいつも通りでいる事は出来ないようだ。私は、今日狩ってきた獲物を全部取り出す。
「かなりの量を狩ってきたな。俺が見ていてやるから、どんどん解体しな。何か違いがあれば教えてやる」
「分かりました。頑張ります!」
私は、一匹ずつ丁寧に解体を進めていく。スキルのおかげか、最初のよりもすいすいと解体することが出来た。途中で躓いたのは、ソード・モンキーのみだった。
「こいつは、皮を剥ぐのと核を取るだけで終わりだな。肉は食えないし、内臓も使えないからな」
私が猿を目の前に固まっていると、すぐさまアキラさんが助言をくれた。丁寧に皮を剥いでから、身体の中の核を取り出す。
「いい感じに育ってきたな。嬢ちゃんには才能がある。惜しい人材だ……」
アキラさんは、余程私に働いて欲しいらしい。だけど、私はこの世界を見て回りたいから、アキラさんの願いには応えられない。
「そういえば、店主さんの名前ってアキラさんって言うんですね」
「おお、てか、なんで知っているんだ?」
「ギルドのシズクさんが言ってました」
「ああ、なるほどな。シズクは、俺とギルドとの仲介役を担っているんだ」
「仲介役?」
どうやら私の知らない事情があるらしい。アキラさんは、その内容を語ってくれた。
「時折大規模なモンスターの襲撃があるんだ。その時に狩ったモンスターを解体するのは、俺達解体屋の役目だ。シズクは、その橋渡し役って事だな。あいつが、こっちに獲物を渡して、俺が解体しギルドに返す。解体されたものの価値分の金額をこっちに渡すってな感じだ」
「へぇ、だから、アキラさんの仕事ぶりも知っていたんですね」
「まぁな、また、来いよ。解体場は、いつでも貸してやる」
「はい! また来ますね!」
「そっちの嬢ちゃんも、獲物があったらいつでも来いよ。特別に少し負けてやるから」
「はい!」
アキラさんは豪快に笑いながら私達を見送ってくれた。私達も手を振りながら解体屋を去った。
「じゃあ、ギルドに行こう。ソルの登録と核の換金をしなくちゃだから」
「うん!」
私達は、ギルドに向かった。その間、街を少し見てみると、昨日よりも大きく賑わっていた。プレイヤーが増えているという感じがする。
「賑わってるね」
「うん、治安が悪くならないといいけど」
私達のそんな考えはすぐに潰えた。ギルドに入ると思ったよりも行列が出来ていた。
「混んでるね」
「うん、でも大丈夫だよ」
私は、専用カウンターの方に向かう。ソルは、首を傾げながらもついてくる。
「シズクさ~ん」
「あら、意外と早くお戻りになりましたね」
シズクさんが奥にある机からこちらに歩いてくる。
「買い取りと、ギルド登録をお願いしたいのですが」
「かしこまりました。登録からやってしまいましょうか」
シズクさんは、書類を持ってくる。
「こちらの必須事項にご記入ください。その他は任意事項になりますので、ご記入は自由です」
「はい、分かりました」
ソルが書類にペンを走らせる。その間に、私とシズクさんは話をしていた。
「ルナさんの幼馴染みさん、ルナさんと同じく可愛いですね」
「そうでしょう。ソルは、すごく可愛いですからね!」
幼馴染みを褒められて嬉しくなり、胸を張ってそう言った。ソルの隣で堂々とそう言ったものだから、ソルの顔が真っ赤になっていた。
「書けました」
ソルは、よく私に抱きついたり可愛いと言うが、自分が可愛いと言われることにはあまり慣れていない。特に、私から言われるとすぐに照れてしまう。そこが、可愛いところなのだけど、本人は認めない。
シズクさんが、ソルの書いた書類を確認していると、その後ろから、もう一人の職員が近づいてきた。
「シズクさん、書類の整理終わりました」
「お疲れ様、メグちゃん。次は……この書類の処理をお願いしようかな。ソルさん、よろしいですか?」
「はい、構いません」
シズクさんが、後ろにいる職員、メグさんに書類を渡す。メグさんは、赤茶色の髪の毛をボブカットにしている。瞳の色が緑色でエメラルドの宝石のようだった。シズクさんは、焦げ茶色の髪の毛を背中まで降ろしている。瞳の色は茶色だ。
「えっと、では、お隣にお越しください」
メグさんは、ソルを一緒に隣に移る。そして、辿々しい手際ではあったが少しずつ登録を進めていく。
「ごめんなさい。あの子、新人で、私が教育係なんです。ここで、登録を実際にやってみたら、いい経験になると思って」
「いえ、ソルも納得してますから。それよりも、核の換金をやってもらっていいですか?」
「ええ、構いません。こちらのトレイにどうぞ」
私は、核をアイテム欄から取り出してトレイに置いていく。
「……かなり狩りましたね。お金の分配はいかがされますか?」
「半分でお願いします」
シズクさんは、笑顔で頷いてトレイを後ろの机に持っていく。そして、その鑑定を始めた。ソルの方は、ちょうど登録が終わったようだ。
「ありがとうございます」
「は、はい。こちらがギルドカードです。紛失した場合、えっと、五〇〇ゴールドで再発行となりますので、お気を付けください」
「はい」
メグさんは、メモを見ながら説明をする。そして、説明が終わると同時に、ギルドカードをソルに差し出す。ソルは、ギルドカードを受け取って、こちらに来る。メグさんは、シズクさんの方に向かい、鑑定の手伝いをし始めた。
先程まで、オロオロとしていたのに、鑑定になるとしゃきっとなり、素早く作業を進めている。時折見ているシズクさんが何も言わないことから、正確に鑑定出来ているのだと思う。
「ルナちゃん……!」
「何?」
ソルが、私の耳元でこそこそと喋る。
「あの職員さん、とても可愛い! さっきまでの、オロオロしているときも可愛かったけど、今の凜々しい姿も可愛い!」
ソルは大興奮だった。さっきまで、顔を真っ赤にして可愛かったのはソルの方だったのに。
「凜々しいなら、普通かっこいいって言うと思うんだけど」
「何言ってるの!? 可愛い人は、何をしても可愛いに決まっているでしょ!」
ソルは、声は潜めながらも私に訴えかける。まぁ、その意見には同意なんだけども。圧が強すぎる。
「終わりました。ルナさんはこちらへ、ソルさんはお隣にお越しください」
私達はシズクさんに言われたように、カウンターに立つ。
「キラーラビット、ラッシュ・ボア、ソード・モンキー、ホーンディアーの核の換金で、全部で五〇〇〇〇、それをお二人で分けて二五〇〇〇ゴールドずつとなります」
「はい、ありがとうございます」
「ギルドカードの提示をお願いします」
私は、アイテム欄からギルドカードを取り出し、シズクさんに渡す。シズクさんはギルドカードを受け取ると、水晶にかざして何かをしている。
「何をしているんですか?」
「買い取りの記録をカードに転写しているんです。これで、いつ何を換金したかが分かるようになります。こちらでも、書体で管理していますが、より正確にするためにカードに転写しています」
「へぇ、便利ですね。このカード」
「そうですね。ところで、一つソルさんにお願いしたいことがあるのですが」
シズクさんがそう言ってソルの方を向く。
「はい、何でしょう?」
「メグちゃんを、専属受付嬢にして頂けませんか?」
「へ?」
ソルではなく、メグさんの方が驚いた声を上げる。
「専属って、ルナちゃんとシズクさんの関係って事ですか?」
「はい。メグちゃんは、まだ書類作業は遅いですが、鑑定の早さと正確さは抜群に高いです。なので、役に立たないということはありません。メグちゃんには、早く経験を積ませてあげたいのです。どうか、お願いします」
そう言って、シズクさんは、ソルに頭を下げる。
「はい、構いません。というより、こちらからお願いします」
ソルは、にこやかに笑ってそう言った。それから、私も書いた書類を書いて契約を交わした。その処理も、メグさんが行った。やっぱり、少し遅かったけど、正確にやろうとしているのは、私でも分かった。
それらの、契約などが終わった時、ギルド内に耳障りな声が響き渡る。
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