第百九話 伏兵
「やはりシミュレーターを使っておいたのは正解だったか……」
「いえ、そのままというわけじゃないわね。シミュレーターを使わないチームが不利になるほどでも無いと思うのだけど。幾島さん、周辺の地形は出せる?」
『配布されたデータを共有します』
《幾島十架が特殊スキル『セカンドサイト』を発動》
《神崎班、折倉班、伊那班とマップ情報を共有しました》
「いつもと同じ班分けで、今回は三手に分かれる。スタート時に俺の魔法でスピードを強化する……これは俺と離れすぎると効果がじきに切れる。離れてから持つ時間は十五分ってところだ」
《神崎玲人が強化魔法スキル『マルチプルルーン』を発動》
《神崎玲人が強化魔法スキル『スピードルーン』を発動》
《神崎玲人が強化魔法スキル『アクロスルーン』を発動》
「すでに身体が軽くなって……効果も思った以上に長いというか、それは時間制限になっていませんわね。流石ですわ、神崎君」
「確かに玲人は流石だけれど、それを言っていたら話が進まないわ」
「美由岐さんはすぐ先生を持ち上げちゃいますからね、自重しないとですよ……ふがっ」
「じゃれている場合ではありません、作戦についてですが、プランAということでよろしいですか?」
「プランBなんてありませんけどね。なんてお約束も済ませましたし、配置につきまーす」
「やれやれ……俺たちが抜かれたら戦犯だぞ」
「左、右、そして中央。中央を二人編成の神崎たちに任せるのはなかなか変則的にも思えるが……」
「だからこそ不意を突ける。それとも唐沢は、俺に頼るのは不安かな」
「……全く逆だ。神崎が一人で全てやってくれる、だからこそ必死で役割を見出さなければな」
唐沢はライフルに弾を装填し、セーフティを確認してから配置場所に向かう。
「黒栖さん、玲人のことをお願いね……いえ、玲人に頼んだ方がいいのかしら」
「は、はいっ……頑張ります!」
《神崎玲人が強化魔法スキル『マキシムルーン』を発動》
《黒栖恋詠が特殊スキル『オーバーライド』を発動》
《黒栖恋詠が魔装形態『ウィッチキャット』に変化》
黒栖さんが変身する姿を見て、雪理と坂下さんが音を出さずに拍手をする。そして二人も配置場所に向かう――折倉班は左側だ。
「いよいよですね、玲人さん」
「ああ。黒栖さんとバディを組んでから、色々なことを経験できてるよな」
「……はい。玲人さんといると、私が一人だったら、ずっとできなかったようなことばかりで……お友達も、いっぱいできました……っ」
「それは、黒栖さんが持ってた元々の良さがみんなに伝わってるんだよ」
「っ……そ、そんなことないです。私はその、恥ずかしがり屋も度が過ぎるって、お母さんや担任の先生にも注意されてたくらいなので……」
「でも、さっき仁村君って呼ばれてた人に言い返した黒栖さんは格好良かったよ」
「あ、あれは……玲人さんがくれた素材で作った装備を、馬鹿にする人は……絶対、駄目って思ったので……」
――そういう気持ちでいてくれたのか。全然気づくことができなくて、今になって感激している俺は、我ながら鈍いにも程がある。
「……ワイバーンレオタード、私は好きです。このセラミックリボンも」
「えーと……やっぱり目立つよな、でも。また装備を変えられるように、素材を集めておくよ」
「っ……そ、それは、私も連れて行ってください」
「え……」
「私は玲人さんと一緒に……いえ、玲人さんのバディとして恥ずかしくないように、強くなりたいんです……っ」
「……ありがとう。俺も皆に強くなってほしいし、黒栖さんと一緒だと心強いよ」
「あ……」
上辺だけの言葉のつもりはない。けれど本当は、今の黒栖さんのレベルでは危険があるような場所にさえ、一緒に行きたいと言ってくれていることも分かっている。
この
『選手の皆さん、間もなく試合を開始いたします。3、2、1――』
カウントがゼロになった瞬間、状況が動き始める。まず始めに俺が果たすべき役割は、狙撃手を引き付けること。
唐沢と木瀬君が二人で予測した、狙撃手の潜伏位置。千五百メートル離れた場所にあるビル――かなり度胸は要るが、そこに身を投げ出す。
《速川鳴衣の射程外からの攻撃 使用スキル不明》
《神崎玲人が強化魔法スキル『プロテクトルーン』を発動》
――発射から着弾まではほとんど一瞬。俺の右腕につけたスコアパネルを狙った魔力の弾丸が、展開した防壁の表面を削るようにして飛んでいく。
幾島さんが射線をマップに反映し、黒栖さんはすでに走り出している。音のない疾走――俺はもう一発を誘うためにその場に留まる。
二発目の狙撃は無い。タイミングをずらして撃たれることも考えたが、集中して待ってもその瞬間は訪れなかった。
(移動した……!)
一発撃った後に移動する。イオリも同じタイプの狙撃手だった――名字と行動まで一致していて、無関係とは思えない。
《神崎玲人が未登録のスキルを発動》
ひとまず思考を切り替える。今俺がするべきことは何か、本拠地の防衛だ。
《折倉班が敵チーム2名と遭遇 交戦開始》
《伊那班が敵チーム2名と遭遇 交戦開始》
《谷渕舞の攻撃が社奏にヒット クリーンヒット スコアマイナス10ポイント》
《折倉雪理の攻撃が岡崎章吾にヒット クリーンヒット スコアプラス10ポイント》
《伊那美由岐の攻撃が谷渕舞にヒット クリーンヒット スコアプラス10ポイント》
折倉班、伊那班の接敵人数が少ない――速川鳴衣を除いてあと二人。彼らが何を狙っているかにはすぐに気付かされた。
《神崎玲人が敵チーム3名と遭遇 交戦開始》
《岩井霧絵がスモークグレネードを使用》
目の前に投擲されたのは
「――がら空きなんだよ、お前らっ……! おらぁっ!」
《仁村数馬が槍術スキル『疾風片手突き』を発動》
打ち込んで来たのは仁村――もう一人も仕掛けてきている、しかし。
(通すわけにはいかない……使わせてもらうか……!)
《神崎玲人が『魔力眼』を発動》
《神崎玲人が攻撃魔法スキル『ウィンドルーン』を発動 即時発動》
《神崎玲人の攻撃魔法が遠藤秀長にヒット スコアプラス5ポイント》
《神崎玲人が仁村数馬の攻撃を防御 ブロック成功》
左手で風を巻き起こし、煙幕を吹き飛ばしつつ一人を吹き飛ばす。そして右手でロッドを振るい、仁村の繰り出した槍を受け流した。
「うぉぉぁぁっ……!!」
「――魔法使いが、なんで俺の……攻撃を受けられてんだぁぁっ……!!」
《仁村数馬が特殊スキル『バーサーク』を発動》
(バーサーク……防御力が下がる代わりに筋力と速さが大幅に増す。こんなスキルを持ってるやつがいるとはな…!)
ソウマもバーサーク使いだったが、後になって完全上位互換のスキルが出てきたために使わなくなっていた。懐かしいなんて思っている場合じゃないが、思わず顔がほころぶ。
「笑ってんじゃねえぇっ!!」
《仁村数馬が槍術スキル『急所突き』を発動》
《神崎玲人が強化魔法スキル『ウェポンルーン』を発動》
《神崎玲人が仁村数馬の攻撃を防御 ブロック成功》
「がぁぁっ……な、なんだてめえっ、本当に後衛職か? どんな馬鹿力してやがる……!」
「――仁村、下がって!」
グレネードを投げてきた女子の声がする――もう一人の男子はウィンドルーンでかなりの距離を吹き飛ばされ、まだ戦線復帰できていない。
リミッターリングでダメージは抑制されているとはいえ、速度は変わらないのだから目まぐるしいやりとりだ――だが三人相手でも見切れないということはない。訓練所で五人を相手に立ち回ったことが、ここにきて生きてくる。
(済まないが、動きを止めさせてもらう……!)
《神崎玲人が強化魔法スキル『マルチプルルーン』を発動》
《神崎玲人が弱体魔法スキル『バインドサークル』を発動 即時遠隔発動》
「な、何っ……発動が、速すぎっ……!?」
「ぐぁっ……う、動けねえ……ギブ……ッ」
《岩井霧絵が戦闘不能 スコアプラス50ポイント》
《遠藤秀長が戦闘不能 スコアプラス45ポイント》
「うちの二人が瞬殺だと……こんな選手が無名? 中学時代、通り名の一つもないやつが……っ」
「あんたの通り名を当ててやろうか。『バーサーカー』だろ?」
仁村が槍を構えたままで固まる――どうやら図星らしい。
「……『西中のバーサーカー』だぁぁぁっ!」
まだ戦意を失っていない仁村が突きかかってくる――折倉班と伊那班の戦闘も佳境を迎える中、俺は仁村の突きを回避しながら、黒栖さんの状況を幾島さんに聞いて確認していた。
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