第百七話 VR演習・2
《敵チームDからの射程外からの攻撃》
《神崎玲人が強化魔法スキル『プロテクトルーン』を発動》
「くっ……!!」
視認できたわけではない、だが魔力眼を使わなくてもギリギリで反応できた。かざした手のひらの先に展開したルーン文字が盾を形成し、
もう一発の牽制射撃を防ぐ。幾島さんのスキルで共有されたマップに表示された位置は木瀬君の読み通り――しかしこの距離でこの精度、唐沢の狙撃手としての能力は相当なものだ。
位置が知られればすぐに移動する。それが狙撃手のセオリーだと思うが、俺は肌にヒリつくような感覚を覚える。
――狙撃の一発目を外しても、二発目を撃つチャンスはある。
――それでも私は一発を外したら必ず位置を変える。狙撃手は防御力が低いから。
「――そこっ!」
《敵チームDからの射程外からの攻撃》
《神崎玲人が攻撃魔法スキル『フォースレイクロス』を発動》
攻撃魔法レベル8『フォースレイクロス』――片手の指を交差させる、ただそれだけで図形を完成させる発動速度に優れた魔法。
その速度、そして直線距離の射程は、使用者の
《神崎玲人の攻撃が敵チームDにヒット 敵チームDが戦闘不能》
《神崎玲人のスコア プラス50ポイント》
当てられた――この距離で。防ぐだけでも十分ではあるが、唐沢は二発目をすかさず狙ってきていた。
二発目の狙撃は、俺が魔法を発動する
《伊那美由岐、黒栖恋詠が敵チームA、Bと交戦開始》
「まったく……狙撃手を超える射程とは、恐れ入るよ神崎……!」
走っていく木瀬君の後を追いかけ、俺は伊那さんたちの支援に向かう。すると俺の前に、双剣を構えた社さんが走り込んでくる。
「――はぁぁぁっ!」
「くっ……!」
《敵チームCの攻撃がヒット 敵チームプラス5ポイント》
《木瀬忍が射撃スキル『アキュレートショット』を発動》
《木瀬忍の攻撃が敵チームCにヒット クリーンヒット スコアプラス10ポイント》
「ひぇぇっ……これでも当ててくるんだもんなぁ、木瀬君……!」
《敵チームCの攻撃》
《神崎玲人が弱体魔法スキル『スロウルーン』を発動》
「……な……に、こ、れ……す、ん、ご、い、ゆっ……くり、に……」
なんとか社さんの攻撃に割り込めた――彼女の額に呪紋が現れ、攻撃は空を切る。
「いや……その魔法は決まればほぼ必殺に近いな。交流戦でも使えるなら無敵じゃないか?」
「あぁー……わた、し、これ、って、えっ、ちな……てん、かいに……」
「余裕がありそうだが社、スコアはもらっておくぞ。神崎、頼む」
「あ、ああ……悪く思わないでくれ、社さん」
「や、ら、れ、た、ぁー……」
《神崎玲人のスコア プラス45ポイント》
社さんに取られたポイントを取り返し、これで敵チーム二人撃破で100ポイントになった。
「――やぁぁっ!」
「くぅっ……容赦ありませんわね……っ!」
「黒栖さん、潜伏から出てきてしまうなんて、人が良い方ですね……っ」
「す、すみません、ついっ……きゃぁぁっ!」
《敵チームAが剣術スキル『雪花剣』を発動》
《敵チームAの攻撃が伊那美由岐にクリーンヒット スコアマイナス10ポイント》
《敵チームBが格闘術スキル『双撞掌』を発動》
《敵チームBの攻撃が黒栖恋詠にヒット スコアマイナス5ポイント》
「流石だな……木瀬君、急ぐぞ!」
「ああっ……しかし神崎……」
「ん……?」
「このVRというやつ、走るのが普通に難しいぞ……その適応力はなんなんだ、神崎は新人類か何かか?」
宇宙人を見るような目で見られる――俺は木瀬君にVRMMOで操作には慣れている、と改めて説明するのだった。
◆◇◆
雪理と坂下さんの猛攻でポイントを奪われたが、俺たちが駆けつけたことで拮抗状態になり、ポイントの奪い合いになった――そこまでで1セット目の訓練を終えた。
2セット目は唐沢が狙撃ではなく援護に回ってきたが、その方がこちらとしてはやりにくかった。木瀬君との撃ち合いになったが、白熱している彼らに水を差すのもなんなので、俺は伊那さん、黒栖さんと共に他の三人を相手に立ち回った。
「お疲れ様でした。シミュレーションのデータについては、後で見られるようまとめておきます」
「ありがとう、幾島さん」
「そこの大きい画面で見てたよー、実際の試合もこんな感じなのかな? もー、見てるだけでもテンション上がっちゃった」
姉崎さんが身振り手振りを交えて興奮を伝えてくる。交流戦には世間も関心を持っているというが、特異領域で試合が行われるとなると、観戦は中継か後日配信ということになるか――それでも見たい人が多いというのは、実際に試合をしてみると分からないでもない。
「いや、狙撃手の役割を果たすつもりだったが完封されたな」
「唐沢の狙撃の精度は凄かったよ。敵もあの距離で当ててくるとしたら、良い予行演習になった」
「そうか……敵チームにしてみれば神崎がいるのは相当に厳しいだろうな。狙撃に反応して反撃できる魔法使いなんて、そういるものじゃない」
「玲人がいればチームが大崩れすることはないと思うから、あとは自分たちが役割を果たすだけね。明日は試合前の調整程度にしておきましょうか」
「かしこまりました、お嬢様」
「折倉さんほどのアタッカーは相手にいないと思いますが、一対一では負けられませんわね」
「狙撃手を私たちが倒しちゃうっていうのはどうです? 懐に入っちゃえばこっちのものですし」
「唐沢が2セット目でそうしたように、移動しながら撃ってくるガンナーもいるからな。遠距離が強いとはいえ、近距離で射撃を受けるのは得策じゃない。おそらくクリーンヒットすれば戦闘不能扱いになるだろう」
「相手の人が遠くに潜伏しているときは、私がなんとかします。今回は見つかってしまいましたけど、次こそは……」
黒栖さんが坂下さんに発見されたのは、実戦と違って『転身』が使えなかったからというのが大きい。
水曜日の試合では、黒栖さんが能力を活かす場面もあるといいが――何よりも、初試合で勝利を収めることが大切だ。
※大変申し訳ありません、
先日投稿しました際に「第百一話 生命付与」を飛ばして
投稿してしまっておりましたので、お手数をおかけいたしますが
宜しければチェックをいただけましたら幸いです。
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