第八十二話 空白
《マップ完成率85% 90% 95%》
――イズミのカウントアップが、そこで終わる。しかし、マップ上のどこにも
「あと5%は、玲人の明かりが及ばない範囲ということ?」
「マップを見ながら、隅々まで光球で照らしたつもりだが……幾島さん、地形情報は上下方向も取得されるのかな」
『はい、範囲内の全方向が取得できます。障害物があったとしても関係はありません』
「障害物があっても……幾島さんの力は、壁の向こうのことまで分かってしまうんですね」
「壁の、向こう……」
黒栖さんの言葉が何か引っかかる――俺は改めて、95%まで完成したマップを視界に映し、隅々まで目を走らせていく。
「っ……これは……」
「玲人、どうしたの?」
「ここから北東の方角……マップ上に、不自然な空白ができてる。そして『壁の向こう』のマップが少し表示されてるように見えないか?」
「他のところにいらっしゃらないということは、この壁の向こうに……?」
黒栖さんが心配するのも無理はない。この状況で脱出するために『オートリジェクト』を使わなければならないとしたら、発動にはリスクが伴うからだ。
「壁の向こうに魔物がいたら逃げ場も限られる。急ごう」
「ええ……この壁の向こうに行くために、方法を探さないと」
転移の罠を発動させて、隔離された空間に飛んだ――ならば、通常の方法では行き来ができない。普通ならそう考えるところだろう。
――イオリさんはどうやって隠し通路を見つけてるんですか?
――『探査感覚』のスキルがある。抜けられる壁は音の反響が違う。
――その壁を壊すために、玲人のスキルが役に立つ。よく噛み合ってるな。
あの時ソウマが言った通り、俺たちのスキルは互いに無い部分を補い合っていた。
イオリがいなければ見つけられなかった隠し扉。それを、今は幾島さんのサポートで見つけている――この世界においても、スキルの組み合わせに解が一つということはない。
「この洞窟の壁なら、俺のスキルで対処できると思う」
「「…………」」
サラッと言ったつもりだったが、雪理も黒栖さんもぽかんとしてしまっている――一体どうやって? と思うのは当然だろう。
「え、なになに? それってどういうこと?」
「っ……姉崎さん、来てしまったの?」
「あーしも神崎班の一員だし、置いてくなんてひどくない? って言ったら、揺子ちゃんと唐沢くんが行ってきていいって」
どや、と言わんばかりに胸を張る姉崎さん――俺を見られても何とも言いがたいが、こうなると同行してもらうしかない。
「分かった、気をつけてついて来てくれ。まず、移動の前に速度を強化しよう」
「うん、分かった。強化魔法でしょ、あーしもかけてもらったことあるし」
「彼の魔法を他の人と同じとは思わない方がいいわ」
「そ、そうですっ、玲人さんの魔法は……その、凄いので……」
「ふーん……? レイ君ってもしかして、意外に肉食系だったりする?」
「いや、言ってる意味が……何食とかは考えたことないな」
急ぎということで話を切り上げ、一気に全員の『スピードルーン』を発動させる。
《レイトが強化魔法スキル『スピードルーン』を発動》
「んっ……」
「え、な、何……?」
「この感覚……い、いえ、何でもないわ。急ぎましょう、玲人」
「あっ、ちょっ……は、速っ……あーしの足にロケットついてる!」
「ふふっ……す、すみません、緊張感を持たないと駄目ですよね、こんなときにっ……」
爆速で洞窟内を走り抜け、目的の位置にたどり着く――マップがあると魔物を回避して最短コースを選ぶのも容易で助かる。
目的の壁を見つけたところで、俺たちは加速を緩めて止まる。こんな壁をどうすればいいのか、と三人とも戸惑っている様子だ。
「こういった岩壁にも耐久性はある。それなら、防御力を下げてやれば破壊しやすくなる……こんなふうに」
《神崎玲人が弱体魔法スキル『Dレジストルーン』を発動》
岩壁などの無生物には、そのままでは魔法の効果が現れない場合が多い。そんなときは魔法抵抗を下げてやるのが有効だ。
「壁にオーラの模様が……」
「壁に魔法って効くんだ……何か裏ワザっぽくない?」
姉崎さんの言う通り、《旧AB》においては無生物オブジェクトや壁に魔法をかけるのは裏技に類するもので、俺以外にやっている人を見たことがない。見せないだけでやっている人はいたのかもしれないが。
そして相手の防御力を下げる呪紋を使おうとして、弱体魔法スキルレベルが足りないことに気づく。必要なレベルは2なので即決で取得してもいいが、他にも手段があるので、まずそれを試してみることにした。
《神崎玲人が特殊魔法スキル『リバーサルルーン』を発動》
《神崎玲人が強化魔法スキル『プロテクトルーン』を発動》
効果を反転させた、防御力を上げる呪紋。それが浮かび上がったところで、次は全員の武器を強化する。
《神崎玲人が強化魔法スキル『ウェポンルーン』を発動》
「えっ……魔法系のスキルみたいなのに、詠唱とかないの? こんな立て続けに使って、全然疲れてないみたいって……ええ……っ?」
「これくらいなら何てことはない。それより、この岩壁の防御力を下げて、みんなの攻撃力を上げたから、一斉に攻撃して壁を崩そう」
「ええ……玲人も参加してくれるの?」
「ああ、もちろん。行くぞ、3・2・1……!」
「「「っ……!!」」」
《折倉雪理が剣術スキル『雪花剣』を発動》
《黒栖恋詠が格闘スキル『キャットパンチ』を発動》
《姉崎優が投擲スキル『スパイラルシュート』を発動》
まず雪理が凍気をまとった斬撃を繰り出す――『疾風のエメラルド』の効果で剣速が上がり、さらに凍てつく風が巻き起こる。
次に黒栖さんが猫の手のような形状の魔力で手を多い、パンチを繰り出す。さらに姉崎さんがボールを投げつけ、振動が岩壁を揺るがす。
「もう一息……っ!」
岩壁に攻撃を通すには、岩のような肌を持つガーゴイルのときと同じ方法が使える――右手に
(――開けっ!)
左手から放たれた衝撃は岩壁に衝突し、一気に螺旋状の陥没が生じる。そして、轟音と共に岩壁は崩れ去った。
《隠しエリアを発見しました パーティメンバーが300EXPを獲得しました》
《姉崎優の恒常スキル『経験促進』によって獲得EXPが15増加しました》
「こういった行為も経験として評価されるのね……」
「それに、経験がちょっと増えてます。姉崎さんのおかげですね」
「一緒にいるだけなんだけど、スキルが効いてると嬉しいよね」
おそらく姉崎さんの『経験促進』はレベル1だが、スキルレベルを上げるとさらに多くボーナスが得られる可能性がある。
EXP自体はレベルを上げるために使うものじゃないが、おそらくレベルを上げるための経験を積む上でも、姉崎さんがいた方が成長は早くなるだろう。
「……待って、みんな。何か聞こえて……」
雪理がそう言った瞬間、壁を壊した先から声が聞こえてくる――間違いない、人の声だ。
「――グォォォォォッ……!!」
しかし次に聞こえてきたのは、地を揺るがすような咆哮。この洞窟で今まで遭遇しなかったような、魔物の吠え声だった。
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