第七十八話 専用防具
「古都先輩、一つずつ素材が何に使えそうか教えてもらってもいいですか?」
「そうですね、用途が分かったら加工を進められるものもあると思いますし」
古都先輩はタブレットを操作してから、テーブルの上に置く。俺の素材リストを解析して、加工先のリストを出してくれていた。
神崎玲人の素材加工先リスト:
疾風のエメラルド ランクD
・装備品、アクセサリーに風属性の補正付与
オークロードの魔石 ランクD
・装備品、アクセサリーに装着することで『オークロード』の固有スキルを付与
錬魔石 ランクF
・装備作成用素材として使用可能
炎熱のルビー ランクC
・装備品、アクセサリーに炎属性の補正付与
翼竜のひげ ランクC
・装備作成用素材として使用可能 重量:軽
翼竜のエキス ランクD
・装備作成用、調合用素材として使用可能
龍骨石中 ランクD
・装備作成用素材として使用可能 重量:中
ランスワイバーンの魔石 ランクC
・装備品、アクセサリーの装着することで『ワンスワイバーン』の固有スキルを付与
魔像の魂石 ランクE
・無生物系の魔物から取得できる素材 詳細不明
名称不明のデーモンの封魔石 ランクB(暫定)
・詳細不明
魔植物の蔦 ランクF
・装備作成用素材として使用可能 重量:軽
魔石の欠片 ランクF
・集めて合成することで魔石を生成可能
レッドジェム、イエロージェム、ブルージェム ランクF
・合成することで、新たな色のジェムを生成できる 単体では効果を発揮しない
「竜骨石はDランク素材とのことですが、これではおそらく『超級』の装備にはできないですよね」
「はい、超級はBランク素材を使用して作るものですから。このファクトリーに入荷するのは、一年に一度あるかないかです。それも研究用に、討伐隊から提供してもらえる場合になりますね」
Bランク――そういえば、俺が倒した牛頭のデーモンの素材を回収するのを忘れていた。
悪魔の素材は倒した本人にしか見えないので、まだ中学校の敷地内にあるだろう。認識されない以上危険はないと思うが。
「龍骨石のみを素材にすると、上級になりますね。Cランク素材の場合も上級の範囲です」
「学園で手に入るのは中級装備まで……上級のロッドを作ったあと、後からさらに強化することは可能ですか?」
「可能な場合と、そうでない場合があります。事前に素材の性質を調べてシミュレーションをしますが、実際に合成する時に壊れてしまうこともありますので」
《旧AB》の装備強化も、貴重な素材とベース武器を使って、失敗すると素材が
「この重量の項目は、重いと装備できる人に制限があるってことですか」
「はい、女性は『軽』のものを用いることが多いです。中には好んで『中』までは使用される方もいますが」
「無理をして重い装備を使って、動きを阻害するのは避けた方がいいわね。守りを固くできれば、それに越したことはないけど……」
「それなら、こういう手もある。竜骨で防具を作って『疾風のエメラルド』を着ければ、重さを緩和できるはずだ」
「おっしゃるとおりです。『風属性の補正』というのは、スピードを速くすることも含まれていますので」
「そうなのね……私が持っている『マジックシルバー』も使えば、軽いプロテクターのようなものは作れますか?」
マジックシルバー――
――イオリさんは鎧も装備できてかっこいいです。
――マジックシルバーの鎧は軽いから、ミアも着けられると思う。試してみる?
――あ、あの、すみません、サイズがちょっと、大きいというか……。
――っ……今、何か考えた? レイト、今日の夜はご飯抜き。
ミアにとっては、イオリの鎧の一部分がぶかぶかだった。女性用の鎧は胸周りの寸法もきちんと測って作らなければならないし、一度作ったものはほぼ専用品だ。サイズが近くて共用できる場合も無くはないが。
「玲人、いいの? 竜骨石を一つと、疾風のエメラルドを使ってしまって」
「雪理は前衛だし、いい防具を使った方がいいと思う。それに、雪理とはオークロードと戦ったときの素材を山分けしようって思ってたからさ」
「あの時は、私は全然……あなたが一人で倒してくれたのに……」
「雪理が駆けつけてくれたから間に合ったんだよ。そういう形でも、協力したって言えると俺は思う」
「……そ、そんなふうに……甘やかすのは、良くないと思うのだけど……」
甘やかしている、と受け取られても、俺は仲間には甘いほうだ。それも、雪理のように自分に厳しい人に対しては。
「マジックシルバーも貴重だから、鎧を作るのは保留にしようか。とりあえず疾風のエメラルドを武器につけておくといい、それでも素早くなると思うから」
「ええ、そうさせてもらうわね。古都先輩、魔石は着脱可能でしょうか?」
「はい、魔石と装備品を魔力的に接続する必要はありますが、それは素材なしで費用のみいただければ可能です」
「では、装着をお願いします」
『竜骨のロッド』を作り、『疾風のエメラルド』を雪理の剣に装着する。そして『翼竜のひげ』を使って、黒栖さんの装備を作りたい。
「黒栖さん、『セラミックリボン』を出してみてくれるかな」
黒栖さんは頷き、スクールバッグにしまっていた『セラミックリボン』を取り出すと、テーブルの上に置いた。
「古都先輩、『翼竜のひげ』でこういったタイプの武器は作れますか?」
「えっ……そ、そんな貴重なものを、私の武器に使ったりするのは……っ」
「素材の性質上、可能ではないかと思います。圧延加工をしても強度が保たれますし、強力なものになるはずです」
「それは期待できそうですね。じゃあ、早速お願いします」
『竜骨石中』から『竜骨石小』を3つ作り、それを柄の材料にする。俺と黒栖さんの装備は『ランスワイバーン』の素材で揃いになったわけだ。
「あと、軽量の防具を作りたいんですが……」
「少々お待ち下さい……あっ、『翼竜のエキス』を生地の加工に使うことで、強度が高くてよく伸びる素材が作れますね。『ワイバーンクロース』というものです」
「黒栖さん、防具を作ろうと思うんだけど、この素材でいいかな?」
「っ……す、すみません、私の職業だと、着けられる装備が限られていて……」
「黒栖さんの職業をお教えいただいても良いですか?」
「はい、『
黒栖さんの話を聞いて、古都先輩がタブレットを操作する。すると、魔装師が装備できるタイプの装備がリストアップされた――しかし、黒栖さんが言う通りに種類が少ない。
指定素材:ワイバーンクロース
装備者:黒栖恋詠 女性
職業:魔装師
該当装備種:2点
ワイバーンスーツ
・柔軟性のある生地で作った全身スーツタイプの防具。
ワイバーンレオタード
・新体操に用いるレオタードに似た形状の防具。
「スーツと、レオタード……あ、あの、この二択なんでしょうか?」
「は、はい、そうですね。この二つが一番、黒栖さんに適している装備になる……と思います」
古都先輩も珍しく歯切れが悪い――全身スーツとレオタードの二択を提示するというのは、確かに気が引ける部分もあるだろう。
「『魔装師』という職業も特殊ですが、どちらかというと黒栖さん自身の適性に合わせて装備が限られているようですね」
「この二択では、あまり変わりがないような……いや、僕がとやかく言うことではないか。決めるのは神崎、そして黒栖さんだ」
「黒栖さん、どうする?」
「ワイバーンクロースは炎などに耐性がつきますし、魔法攻撃にも強くなります。翼竜の皮膚を再現したようなものですが、翼竜の鱗のようにごつごつしたりはしていませんし、滑らかな素材になります」
現時点で手に入る中では、かなり強力な装備であるのは疑う余地はない。あとは、黒栖さんが踏み切れるかだ。
スーツとレオタード、タブレットに表示されたその二つの上で黒栖さんの指は迷っていたが――彼女が選んだのは、レオタードの方だった。
「中学の時、部活でレオタードは着慣れているので、これにします」
「かしこまりました。翼竜のエキスを一つ使わせていただきますね。ベースにする特殊ファイバーの布はこちらでご用意があります」
これで黒栖さんは武器・防具ともに強化される――と、安心していると。
「……坂下さん?」
「っ……す、すみません。その、スーツというのはどういうものかと……」
「例えば、戦隊物に出てくるヒーローの人たちが着ているようなものですね。もちろん、派手な装飾などはありませんが」
坂下さんが興味を示しているというのは、つまり着てみたいということか。全身ピッチリのスーツではあるが、戦隊ヒーローが着ているようなものと言われると、確かに多少気になりはする。
しかし言ってはなんだが、堅物というイメージのある坂下さんがまさか戦隊スーツに興味を示すとは――彼女自身もかなり葛藤しているようだ。
「……坂下は、そういったものに影響を受けて格闘技を身につけたのよ」
「お、お嬢様、そのようなことは……っ」
「え、えーと。それなら、坂下さんもワイバーンスーツを作りますか?」
坂下さんは迷いに迷い、両手で頬を押さえる――そして、耳を澄まさないと聞こえないくらいの小さな声で言った。
「……お願いします、神崎様」
「分かりました。『ワイバーンスーツ』を一つと、彼女のグローブに『炎熱のルビー』をお願いできますか」
「っ……い、いえ、貴重な魔石を、私などに……っ」
「これを使いこなせると、坂下さんも戦術の幅が広がりますから。唐沢はどうする?」
「いくつか手持ちの素材で特殊弾を作ってもらうことにした。今のところは、それで問題はないよ。特殊弾の内訳についてはデータを送っておこう」
これで俺と黒栖さん、そして折倉班の装備更新については目処がついた。伊那班は訓練中とのことなので、後で装備の打ち合わせをすることになるだろう。
「玲人、交流戦のメンバー候補に待機してもらっているから、これから会いに行ってもいいかしら」
「ああ。あとメンバー候補は何人いるんだ?」
「二人だけど戦闘要員ではなくて、サポート要員ということで参加してもらうわ」
交流戦のサポートとは、具体的に何をするのか。それを含めて、移動しながら教えてもらうことにする。
古都先輩にお礼を言ってファクトリーを出たあと、俺たちは残り二人のメンバー候補が待つ討伐科校舎に向かった。
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