第七十話 質問

「レイトさんはまだ職業が初期状態なのに、スキルを使用されていましたね。このゲームでは、現実に存在するスキルと同じものが多く実装されています。ですので、もし現実と同じイメージを入力することができたら、同じスキルがゲーム内でも使用できるんです」

「なるほど……でもそれは、チートってことになりませんか?」

「日常生活でもスキルを使いますから、そういった個性がプレイに反映されるのは、多様性につながるという考え方です。中にはとても有利にゲームを進められるスキルもあると思いますので、バランス調整は入るかもしれませんが」

「分かりました。じゃあ、ゲーム内で現実と同じスキルを使うこと自体は問題ないってことですね」

「勿論実装されていないスキルもありますから、何も起きないこともあるかと思います」


 固有スキルの『呪紋創生』が実装されていないとして、使ってみてエラーが起こらないか試す――そういうことは止めた方がよさそうだ。それこそチートということになりかねない。


 しかしこのゲームは、現実でのスキルの数が多いプレイヤーのことを想定しているんだろうか。おそらく現時点の俺ならバランスブレイカー的な行動を取れると思うが、他のプレイヤーもそれに追いついてくるのは間違いないし、先々を見据えれば問題はなさそうだ。

 

「『呪紋師』の適性があるプレイヤーの方は珍しいですし、現実リアルでも同じスキルが使えるなんて……レイトさんは、普段何をされてるんですか?」

「あ……え、ええと。それは何というか」

「あっ……ごめんなさい、プライベートに立ち入るようなことをおうかがいして。すみません、越権行為でした」


 エアが俺の方をチラチラと見ながら、何かウズウズしている――もしや、現実リアルの俺の強さとかを言いたいんだろうか。だがここは自重してもらうしかない。


「もし、レイトさんが……」

「……俺が、どうしました?」

「……いえ、何でもありません。すみません、随分お時間を頂いてしまって」


 そろそろ解散ということか――その前に、聞いておきたいことがある。


「リュシオンさんは、前回俺が参加したクローズドテストにも関わっていたんですか?」


 俺が意識を失った理由が『旧アストラルボーダー』によるものだというのは、妹にも話していない。話しても不安にさせるだけだからだ。


 そして俺がなぜ、このゲームのβテストに参加しているのか。かつての仲間たちを探すため、このゲームの中に存在するかもしれない手がかりを求めるためだ。


「はい、前回から参加しています。私もまだ学生なのですが……大学に通いながら、空いた時間にGMをさせてもらっているんです」


 リュシオンさんに聞けば、確かめられる。クローズドテストでゲーム内に閉じ込められ、俺のように入院したプレイヤーがいるのかどうか――。


 だが、彼女の表情を見ただけでも悟らざるを得なかった。


 この現実リアルで行われたクローズドテストで入院したプレイヤーは『いないことになっている』。


 そうでなければこんなに早くβテストが始まるはずもない。もしくは、俺のような状態になったプレイヤーがいることを運営側がまだ関知していないかだ。


「……答えてくれてありがとうございます。また、話をさせてもらえませんか」

「はい、ぜひ。私は当面、ネオシティ近辺にいますので」


 俺はデスゲームの生還者だ。まだあの世界には、残っている仲間がいる。


 そんなことを今リュシオンさんに言って何になるのか。尋ねるとしても、もっと信頼関係を築くことができてからだ――GMと懇意にすること自体が、プレイヤーの領分としてどうなのかと思いはするが。


 ◆◇◆


 カフェ『しろ熊』から出て、リュシオンさんと別れる。彼女はネオシティ周辺で週3日ほどGMをしており、休日は一般プレイヤーとしてログインすることもあるとのことだった。


「PCの外見は少し変わりますが、ベースになっているのは同じ人物わたしですので、一般PCでもあまり変わりないかと思います」


 リュシオンさんは別れ際に小声で言う。接近する必要があるからといって、かなり近くに寄られてしまった――猪頭でなければもっと緊張していたところだ。


「では、今日はありがとうございました。引き続きお楽しみください」

「こちらこそありがとうございました」

「お仕事頑張ってください、リュシオンさん」


 エアは最後にリュシオンさんと握手をして、彼女を見送る。すぐにリュシオンさんの姿は雑踏に紛れて見えなくなった。


「このゲームは、もう危ないものじゃないのかな。それをお兄ちゃんは聞こうとしてたんだよね」

「……ああ。ごめんな、心配させて」

「ううん。私は、このゲームしてて楽しいって思うから……でも、お兄ちゃんが嫌だったら、無理して続けなくても……」

「俺は、このゲームで探したいものがあるんだ。そのためには、攻略を進めないといけない……エアにも、良ければ協力してほしい」

「うん。私もまだ下手だけど頑張るね、お兄ちゃんくらい上手になれるように」


 そんな会話を交わしていた俺たちだが、なにげなく通り過ぎているように見えるプレイヤーたちに微妙に会話が聞こえていたりするというのを、その時はあまり深く考えていなかった。



 ~某掲示板 21:34~



 83:VR世界の名無しさん

 猪 即 斬


 88:VR世界の名無しさん

 >>83

 大丈夫?

 オーラドロップ飲む?


 102:VR世界の名無しさん

 こちらスネーク、ネオシティに潜入した

 大佐、アンカーをくれ

 

 106:VR世界の名無しさん

 >>102

 性欲を持て余す


 108:VR世界の名無しさん

 おい、猪頭が女アーチャーに声かけられてるんだけど?

 遠目に見ても結構美女なんだけど?


 113:VR世界の名無しさん

 早速狩りの時間か?

 ホイホイついていくんじゃねーぞ、猪くん


 118:VR世界の名無しさん

 先に猪頭ハントされた

 一緒に写真撮りたかったのに


 123:VR世界の名無しさん

 俺は猪装備なんていらない

 美女に声なんてかけられたくないしね

 本当だよ


 127:VR世界の名無しさん

 >>123

 じゃあ俺が猪になるよ

 みんなが嫌がるなら俺が犠牲になるよ


 132:VR世界の名無しさん

 >>127

 いやいやなんのなんの

 ここはモテたくないことに関しては右に出るもののいない俺が




 ~某掲示板 22:28~



 784:VR世界の名無しさん

 こちらスネーク2号

 変態猪装備さん発見したけど、衝撃の報告要る?


 792:VR世界の名無しさん

 >>784

 やめて心臓止まっちゃう


 797:スネーク2号

 なんか一緒にいる女の子、猪のことお兄ちゃんって言ってた


 802:VR世界の名無しさん

 え、マジ?

 そういうプレイ?


 807:VR世界の名無しさん

 猪の妹だからオークみたいな顔してそうだな!

 ガハハ!


 813:VR世界の名無しさん

 猪妹ちゃんも猪マスクかぶってんの?


 818:スネーク2号

 >>813

 かぶってない、銀髪 種族はレアのエルフ

 かわいい


 823:VR世界の名無しさん

 >>818

 世の中って不公平だよね


 828:VR世界の名無しさん

 銀髪エルフ妹と一緒にネトゲしてるとか

 羨ましくて禿げそう


 835:VR世界の名無しさん

 うちの妹と一緒にゲームしたの小学五年が最後だったかな


 842:VR世界の名無しさん

 >>835

 (´;ω;`)ブワッ

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